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過去は変えられる。予測と自由。主観(ミクロ)と客観(マクロ)


 今あなたが、全くの等確率で表か裏が出るコインを投げるとする。表と裏どちらが出るだろうか。それは予測不可能である。表と裏がそれぞれ1/2の確率で出るとしか言いようがない。逆に言えばあなたは、1/2の確率で自由とも言える。

1.因果はマクロに宿る。

 次に、あなたが、一度に100枚のコインを投げるとする。あるいは、1枚のコインを100回連続で投げるとする。すると、その結果は、経験上、概ね、表:裏=50:50となる。つまり、全くの等確率で表か裏が出るコインならば、その結果は、概ね50:50という法則に縛られているとも言える。
 1回ならば1/2の確率で自由であったものが、100回投げるとこのような縛りが生じる。この縛りは、系の大きさを変えることによって生じたものだ。上記の例では、1枚を1回という系を、枚数を100枚に増やす(空間の拡張)あるいは、回数を100回に増やす(時間の拡張)ことによって生じている。つまり、ミクロな系では自由であったものが、マクロな系で見ると法則性が現れるのである。

2.主観(ミクロ)は自由、客観は不自由(マクロ)

 ここで、ミクロな系として個々のエージェントを考え、マクロな系として世界を考える。つまり、ミクロは主観でマクロは客観である。すると上記1.の論理から、「あなたがコインを投げる際、次に何が出るかはミクロに見れば自由で予測不能(わからない)だが、マクロに見れば、(例えばあなたを含む100人が同じコイン投げをすれば、)その結果は、概ね予測可能である。」という経験とは非常によく合致するもののある種のパラドックスとも言える事態が生じる。我々は未来に対して、自由なのか、不自由(決定されている)なのかは、主観と客観で反対の答えが出るようである。

3.過去からの学習、未来の予測

 次に、過去を振り返ってみよう、あなたは既に100回のコイン投げを行なっていたとする。その結果が、概ね50:50であった場合、そのコインは、概ね等確率で表か裏が出るコインと考えられるので、これから投げる次の1回には1/2の確率の自由がある(エントロピーで言うと、-((1/2)*ln(1/2)+(1/2)*ln(1/2))=0.69)。
 ところが、過去の100回のコイン投げの結果が、表か裏に偏っていた場合、解釈は2つに分かれる。1つ目の解釈は、あくまでも2.の立場に立ち、過去がどうであれ、次の1回の確率は半々であるとする立場である。実際、全くの等確率で表か裏が出るコインであることが保証されていれば、この立場は正しい。確率の授業ではこのように教わる。なぜなら、そこで考えるのは表裏半々の理想のコインと定義しているからである。
 2つ目の解釈は、そのコインはいかさまコインであると言う解釈である。これは我々の経験からきた考え方である。こう考えると、これから投げる次の1回の確率の自由は減る。例えば過去の結果が70:30であった場合、エントロピーで言うと、-((7/10)*ln(7/10)+(3/10)*ln(3/10))=0.61と減少する。さらに、結果が99:1であった場合、次の1回の確率の自由はほとんどなくなる(ほぼ表が出ると予想される)。エントロピーで言うと、-((99/100)*ln(99/100)+(1/100)*ln(1/100))=0.06と大きく減少する。
 しかし、全くの等確率で表か裏が出るコインなどというものは、現実世界にはない。現実世界にあるのは大なり小なりいかさまなコインである。さらに言えば、全くの等確率で表か裏が出るコインは演繹的に定義できない。何回やっても等確率であるからという帰納的定義に頼る他はない。つまり経験から定義されている。すると、最初の解釈は現実世界に接地していない数学の世界でのみ成り立つ解釈で、我々の住む現実世界では、2つ目の解釈が適当であると考えられる。そして単に適当というだけでなく、我々はそのいかさま性を法則性として学習し、未来を予測していることになる。

4.過去は変えられる

 では、我々はやはり、客観的には(マクロで見れば)いかさまコインの制約から逃れられず、未来は運命付けられているのだろうか。たしかに、客観的には(過去の経験からは)99:1で表が出るコインを投げる時、主観的に次の1回で表が出る確率が1/2だからと言って、表に賭けるのは無謀な気がする。
 ここで、過去を変えることの重要性が浮かび上がる。今、直面している問題について、過去の学習結果のどれを使えば良いかを取捨選択するのである。あるいはどの結果も使うべきでないということもあるだろう。この決断には賭けの部分も残るが、全くの賭けではない。跳躍であるが、足場のある跳躍である。我々にはいかさまコインを使わない自由、胴元に新しいコインを要求する権利がある。


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