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『居酒屋の失敗』第五章「学んだ事・営業時のエピソードなど」1.「モンスター家主」に気を付けろ!


1.「モンスター家主」に気を付けろ!

(1)物件の概要

 では、ここからは失敗を通して学んだ事、営業時のエピソードなどを紹介してみたい。短い間ではあったが、かなり濃密な時間だったので、色んな事があった。
 まずは、物件の家主について書いてみたい。それも相当にクセの強い、かなりおかしなモンスター家主についてである。

 物件の物理的な条件は前述した通りだが、ここでは込み入った事情についてざっと紹介すると、建物は6階建てのビルで、1~4階がテナント用物件でその部分の家主は別の建物に住み、4階は貸さずに自らある教室を営んでいた。そして5,6階部分は住居となっており、1~4階の家主の姉一家がその部分の家主として住んでいるという状況だった。つまり建物全体は住居兼テナントビルで、家主が2人いたという状況である。

元はスペインバルの居抜き店舗だが…

 そしてテナントビルとは言っても典型的な「田舎の地主が不動産屋に乗せられて勢いでビル建てちゃいました」状態で、テナントリーシングは不動産屋にほぼ丸投げ状態なのだが、困ったのは、とにかく物件に対して「自分のもの」という意識が非常に強く、「借りてもらっている」よりも「貸してやっている」といった態度で、なんやかやとやたら制約が多かったのである。

(2)2人の家主

 2人の家主は、どちらもビル建築当初飲食店は入れたくなかったらしいのだが、前のテナントに強引に説得されたらしく、そもそも「飲食店自体にあまり良い印象を持っていなかった」というのがかなりのマイナスポイントであった。

 そしてテナント部分の家主は、店舗デザイン計画時に外装にやたらと口出しをしてきて、図面を見せると「私はこっちの方が良い」とか「娘は洋風の方が良いと言っている」など言い出したのだが、盲目的にその物件が良いと思ってしまっていた自分は、とにかく借りたい一心で、渋々ながらも極力従ったのであった。
 しかし、その事以外はそれほどうるさくなく、自らが商売をやっているだけに商売の大変さも分かっており、社交的な方で概ね友好的な関係だった。

 ところが、どうにも始末が悪いのが住居部分の家主一家だったのである。
リタイアして久しいと思しき旦那さんとテナント家主の姉とアラフォーの娘の3人家族で、旦那さんは酒好きとの事で、店のレセプションにご招待したら快く来てくれたし、かなり温厚そうで全く問題無い人だった。
 しかし、タチが悪いのは女性2人で、なんでも2人とも生まれてから一度も勤めに出た事が無いらしく、外出するのは月に数回のまとめての買い物と毎日の犬の散歩のみ。基本的に常に家に引きこもっている状態で、社会的常識とか人付き合いとかが全く身に付いていない感じだった。

 そしてこちらの家主からも外装に注文が付き、店舗前面に50cmほどせり出して計画した木製の門型の造作について「通行時に危ないから」という、全く理解不能な理由でNGとなった。こちらとしても工事費がかなり減となるのですんなり受け入れたが、どうにも釈然としないものがあった。

(3)「モンスター家主」のはじまり

 そんな住居の家主にまず言われたのが店舗工事について、「土用の期間は地面をさわる工事はするな」という事だった。何でも非常に縁起の悪い事だと言うのだ(土用:立夏・立秋・立冬・立春の直前約18日間ずつ)。
 過去にかなりの工事に関わってきた自分も、内装業者も今まで一度もそんな話は聞いた事が無かったのだが、とにかく必ず守るようにとの事だったので、一応内装工事中も床のハツリは、その期間にはやらなかった。

 しかし、店の裏手にグリストラップ的な役割のコンクリート製の排水槽が地面に埋設されていて、それが全く清掃されておらず、油カスなどがビッチリ溜まった状態だったため、オープン前に業者に依頼してバキュームで吸い取る作業をしたのだが、それが土用中だったと言うことで、なんとそれにクレームが付いたのだった。
 もちろんこちらとしては、別に地面をさわった訳じゃないので抗議したが当然全く聞く耳持たず。「あれほど言ったのに!」とかなりご立腹だというのだ。

何かと言い掛かりを付けられた内装工事

 この時点でイヤだなとは思ったが、その後もいやがらせのような事が延々続くとは、この時は予想していなかったのである。

(4)まるでストーカーのような家主

 先に書いた通り、住居家主一家は基本的に引きこもりで、常に上から監視されているような状態で、いわば一種のストーカー状態だった。グリストラップの清掃もそうだったが、何かちょっと変わった動きがあると必ず翌日、テナント家主から「昨日○○してたでしょ?」と言われる始末で本当にそれがウザかった。
 そしてこの住居家主の悪いところは、直接だと何も言わないところ。言わないどころか犬の散歩時に会うとにっこりと挨拶までしてくる。しかし、その一方で間接的にテナント家主にクレームを言うのである。これが相当なストレスとなった。

(5)音と換気への異常なまでのクレーム

 その物件は、建物の奥側が欠けたL型の形状なのだが、周囲の建物も高さがあった関係で、掛けた空間部分が上部までの煙突状となっており、店から外に出た音がそこを伝わって上階までかなり響くという欠点もあった。そして少しでも音が大きいと翌日すぐにテナント家主からクレームが入る。
営業時間が0時までという制約が当初からあり、それ以降ならまだ分かるが、それ以前の時間でもお客の声がうるさいとクレームがつく。極めつけは「昨夜、店が終わってから皿洗いしながらしゃべってたでしょ?」なんてクレームを言われるのだ。それぐらい我慢しろと心底思ったが、結局、音が響く要因となる店の奥側の窓を吸排気の吸気口として網戸にしていたのを夜間は閉めっぱなしにせざるを得なくなってしまった。

 また、以前の店舗は換気扇が家庭レベルのものしか付いていなかったため、内装業者が換気量を計算してかなり大きな換気扇に取り換えたのだが、それについても「音が大きい」と即クレームが付いた。仕方なく追加投資して能力を細かくコントロール出来る装置を付けて対応し、普通の人が聞けば問題ないレベルにまでなったのだが、それでもまだうるさいと言われた。

旧内装はほぼ全撤去

 換気能力が上がった事で「匂いもひどくなった」と言われ、結局家主の昼食時間との兼ね合いで「13時以前に換気扇を回すな」となってしまった。実質的にランチ営業は不可という事である。
 更に夜間は店が23時までの営業だったにも関わらず「換気扇を回すのは22時半まで」ともなってしまい、営業にまで影響が出るような始末であった。

 そして更に追い打ちを掛けるように「昨夜魚焼いてたでしょ?匂うって言ってたよ」などとテナント家主から言われるのである。和風の居酒屋で魚を焼くのにいちいち小言をいう家主がどこにいるというのか。
 結局この換気扇問題は解決せず、内装業者も巻き込まれて最後まで苦労させられたのであった。

(6)「和風居酒屋」嫌い

 前項で和風の居酒屋で魚を焼くのに小言を言われると書いたが、実は、オープン少し後からずっとオーナーに言われていたのが「和風居酒屋は嫌い」という事だった。
 テナント部分のオーナーは、前述の通り概ね友好的だったのだが、実は「和風居酒屋」は行った事が無く、どういうものかを全く知らなかったという。それ故、自分に賃貸するのが見切り発車的な部分もあったらしい。
 そしていざ営業してみたら匂いはするわ、お客は下品でうるさいわで、懸念していた部分が見事悪い方に当たってしまい、すっかり「和風居酒屋嫌い」になったというのだ。
 もちろん直接被害を受ける住居家主も同様なのだが、これが後々尾を引く問題になっていくのであった。

この内装をして和風居酒屋嫌いと言われても…

(7)モンスター家主のまとめ

 以上が「モンスター家主」についてだが、今思い出しても納得のいかない事だらけだったとつくづく思う。ただでさえ思うような売上が無くメンタル的にもかなり参っていた中、連日こんな仕打ちを受けていたかと思うと、我ながらホントに良く我慢したと思う。

 物件を借りる際は、「制約の多い物件は避けるべし」という心得があるが、それをイヤというほど身をもって体感してしまった。これを読んでいる方にも、本当にこういう物件は絶対に避けた方が良いと強くアドバイスさせて頂く。そして次に居酒屋を再開業する際には、もっと普通の家主の物件を借りようと強く心に誓う次第である。

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