昨年の8月、外国人の音楽家や演・・・
昨年の8月、外国人の音楽家や演劇人が日本で講演をしたり、外国人のプロスポーツ選手が日本で試合に参加したりするための在留資格「興行」の要件が大幅に緩和されました。
その頃のあるネット記事に目を通して見れば、「日本市場、K-POPを念頭に完全開放・・・興行ビザ取得要件を大幅緩和」の見出しが躍っています。
かつて、「興行」の在留資格は、社会問題化したことがありました。フィリピンをはじめアジア各国からこの資格で来日したにも関わらず、実態はホステスとして不法就労するケースが後を絶たなかったためです。
そのため政府は、申請手続きの運用を厳格化しました。結果、手続きは煩雑となり審査期間も長期に及ぶこととなって、これによって外国人の日本での一般的な興行活動もやりづらい状況になってしまいました。
昨年の改正はこうした状況の見直しを図ったものです。
在留資格「興行」とは、出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)別表一に「演劇、演芸、演奏、スポーツ等の興行に係る活動又はその他の芸能活動(入管法別表第一の二の表の経営・管理の項に掲げる活動を除く。)」と定められています。
在留期間は、3年、1年、6カ月、3カ月、30日の5つ。
主な例として俳優、歌手、ダンサー、プロスポーツ選手などが挙げられますが、入管法第七条第一項第二号の基準を定める省令(以下、基準省令)では、外国人が日本で行おうとする活動に応じて次の3つのカテゴリーに分類されることになりました。
基準省令1号:演劇、演芸、歌謡、舞踊又は演奏の興行に係る活動を行おうとする場合
基準省令2号:プロスポーツなどに係る活動を行おうとする場合
基準省令3号:映画製作や宣伝の撮影等の芸能活動を行おうとする場合
このうち、改正により要件が大幅に緩和され、再編され、新設されたのが基準省令1号です。
その基準省令1号は、さらに次の(イ)(ロ)(ハ)の3つに分類されています。
(イ)風営法第2条第1項第1号から第3号の規定する営業を営む施設以外の施設において行われる場合
(ロ)下記の(1)~(5)のいずれかに該当するもの
(1)国・地方公共団体等が主催するもの又は学校教育法に規定する学校等において行われるものであること
(2)国、地方公共団体等の資金援助を受けて設立された本邦の公私の機関が主催するものであること
(3)外国を題材にしたテーマパークで敷地面積10万㎡以上の施設で行われるものであること
(4)客席における飲食物の有償提供がなく、客の接待を行わないものであって、客席部分の収容人員100人以上又は非営利の施設で行われるものであること
(5)報酬1日50万円以上であって、30日を超えない期間本邦に在留して行われるものであること
(ハ)上記の(イ)(ロ)に該当しないもの
(イ)は、前提として風俗営業1号~3号許可を受けている店舗で行われるもので”なければ”、その申請人(外国人アーティストなど)の契約する機関が、興行に関する業務を適正に実施する能力があり、かつ、それまでに確かな過去実績があれば、ほぼほぼ問題なく該当することとなりました。
これにより、小規模なライブハウスで比較的知名度の低いアーティストなどでも招聘し易くなり、当時は、日本での活動を広げたい駆け出しの韓流アイドルなどの後押しになるのではといった見方が囁かれていました。
(ロ)は、新たに外国人を受け入れようとする場合でも問題が生じる恐れが少ない場合には要件を緩和することとし、たとえば、国や地方公共団体あるいは学校が主催するものであったり、あるいは、客席における飲食物の有償提供がなく、客の接待を行わないものであって、客席部分の”収容”人員100人以上又は非営利の施設で行われるものであったりすれば、招聘することも可能となりました。
それまでは、大規模施設で演劇や歌謡などの興行を行おうとする場合には100席以上という席数要件があったのですが、今後はライブハウスなど立見席で100人以上収容できる施設でも可能というわけです。
また会場内に設置されたバーカウンターなどで飲食物を提供しても、お客様がセルフで持ち運び飲食する分には問題なしということにもなっています。
加えて在留期限が最低15日だったものが30日に延長されたことで、比較的長期のツアーも組みやすくなって大物タレントも呼び易くなったと巷間いわれています。
このように「興行」の在留資格は、以前よりずっと要件が緩和されました。
はてさて、その後、「興行」の許可者数は一体どのよう推移しているのでしょうか?
現在、確認できる出入国管理庁「在留資格別在留外国人数の推移」の最新データは令和5年6月末で2,438名。基準省令の改正は同年8月からですから、その効果はこの数字には反映されていません。この数値がその後どのように推移しているのかを早く知りたいところですね。
最後に残りの(ハ)は、(イ)と(ロ)に該当しないそれ以外ということ。(イ)と(ロ)の要件が緩和された分、今まで以上に厳格に審査されるということになっています。
話は変わりますが、「興行」に関してよくある質問に、「出演者以外の補助者として同行する関係者の在留資格はどうなるのか」というのがあります。
俳優さんに付き添うマネージャーや、プロゴルファーに同行するキャディなどの在留資格の取り扱いです。
これについては、出演者と補助者の関係にあるそうした方たちの間に必要性と一体性が認められれば、その方たちの資格も「興行」となります。
なお必要性とは補助者の活動がなくては出演者の活動が困難であり、補助者の代替が困難または代替可能でもその代償が大きいかどうか、補助者の活動が出演者の活動に大きく貢献するかどうかを考慮して判断されます。
また一体性については出演者の活動と補助者の活動との時間的、地理的な近接性を考慮して判断されます(なお時間的、地理的な近接性については社会通念上想定される範囲内で認められれば問題ありません)。
とはいえ在留資格に関する申請の場合、こうした証明についてはすべて申請者本人の責任においてしなければなりません。
在留資格が期限内に取得できないことで、ステージに穴が開くことはあってはならないこと。初めて申請に臨む場合には、やはり行政書士等の専門家に確認するのがよいでしょう。
以上
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?