【事実発掘!FACT JAPAN 47 NO.31 】岩手県
密じゃない日本一のスーパー球児輩出県・岩手
どうも、甲子園のお膝元で生まれ育ったトラトラタイガー・佐伯です。
記憶に新しい今夏、その甲子園で宮城県代表の仙台育英高校が春夏を通じて初の東北勢優勝。都会からの距離・雪国ならではの気候的ハンデが東北エリア全体の問題でしたが、高校野球史上はじめて真紅の優勝旗がついにいわゆるみちのく越えを果たしました。
「青春って密」という名文句でも有名になった育英の須江監督の優勝スピーチも本当に素晴らしく感動的でしたが、現在、日本一有名な高校球児の輩出県といえば当の宮城ではなくそのお隣、日本で2番目に密じゃない県・”岩手”だと断言できます。異論は許しません。いや、たぶん出ません。
なんせ岩手には今や世界のSHO-HEIこと大谷翔平がいます。昨年はメジャーでMVP、今年はベーブルース以来104年ぶりの二桁勝利二桁本塁打の快挙、そして来季の推定年棒は43億の男。もうONE PIECEに出て、四皇に混じっていてもなんら違和感ありません。 同じ高校出身にはあの菊池雄星投手もいてこちらもメジャーリーガー。そして日本のプロ野球界の至宝、今年若干二十歳の若さで完全試合を達成した佐々木朗希選手も岩手です。
じぇじぇ!!どういうこと? 一体、岩手の何がそのポテンシャルを生み出しているのでしょう。
岩手ってそんなに野球が盛んなんですか?!球児が密なんですか?!!
密じゃない岩手の密な教育熱!
いえ、調べてみると日本高等学校野球連盟統計情報によると岩手県の高校球児の数は首位・東京の5分の1の数で約2,500人で都道府県別ランキングでも平均以下の25位。
そもそも人口減少も含めた東北の悩みやハンデを体現していると言われているのが岩手。2000年代以降、県全体の人口減少が深刻なほど顕著で、人口は今はピーク時より25万人も減って、さいたま市より少ない119万人。人口密度はあの巨大な北海道しか下にしかいないワースト2位。
・・やっぱ全然、密じゃねぇ。
しかし、その一方で最新の総務省による統計調査において、1人当たりにかける学校教育費(小学校)が全国平均を大きく上回る年間1,327,029円で、なんと堂々たる全国1位ということもわかりました!人口が減っているからこそひとりひとりに手厚い教育ができるという、人口減少がもたらした賜物とすら言えます。
人口減少に悩める密じゃない岩手の初等教育は、実に密なものだったのです。
その岩手の教育費が右肩上がりになったのは2007年から(同調査)。その年、岩手県では世界のトップアスリートとなる人材育成を目指した「いわてスーパーキッズ発掘・育成事業」が始まっています。
この岩手らしからぬポップな名前の事業対象は小学5年生から中学3年生まで、応募のあった児童の中から体力測定などの結果をもとにスーパーキッズを認定の上、様々なスポーツで通用するよう運動能力を向上させるトレーニングなどを行うというものですが、なんと今年そこから五輪金メダリストを生み出しています。
夏の高校野球からさらに遡ること今年はじめの冬、日本勢24年ぶりのスキージャンプ金メダルを獲得した小林陵侑選手。この小林選手こそが、「いわてスーパーキッズ」の第1期生なのです。小林選手がスーパーキッズに選ばれたのは小学5年生の時。そこから15年の歳月を経てしっかり金メダリストを生むとは恐るべし岩手の忍耐と先見の明・・!
一刀流/忍耐が武器
以前のコラムでも挙げた東北人の気質―「我慢強い」「遠慮しがち」「謙虚」・・岩手の人は中でも典型的な東北人気質と言われるそうで、詩人・高村光太郎(思いっきり東京の人w)も自作の詩『岩手の人』の中で、岩手県民を指して、「岩手の人、牛のごとし-」と詠んでいます。やはりそれほど我慢強さが特徴のようですが、そもそもこれって皮肉のようでいて、凄いポジティブなことを詠っていると思うんです。
牛のように真面目で寡黙。言うなれば、思慮深くて冷静、世間の流行や雑音に惑わされず、強い意志を持って自身の夢や目標達成に向けて努力を積み重ねられるー。そんな岩手県民の気質が未来への先行投資とも言える若者への熱い、そして篤い教育に一役買っているにちがいありません。
大谷選手が高校時代に目標達成シートとして作ったマンダラシートは有名です。意志が強いからこそこんな目標を立てても、目標すら超える成果につながる努力を続けられるのでしょう。
この我慢強さの裏返し、忍耐の塊のような意志の強さがまずひとつめの岩手の武器。
二刀流/ゆとりも武器
しかし努力の人・大谷選手も決してストイック一辺倒の人ではありません。いやむしろ日本では息子にしたい有名人No.1(たぶん)、アメリカではチームや国籍を超えてトップクラスに愛されるメジャーリーガーですが、その理由に大きく買っているのが礼儀正しさ、そしていつでも笑みを絶やさない心の余裕・ゆとりであることは想像に難くありません。
カラダもココロもでっかい大谷選手ですが、岩手も相当にでかい。岩手県の面積の広さはあの北海道に次ぐ日本第2位。シンプルに広大です。あまりの広さに県内転勤でも普通に単身赴任、あるらしいです(県南⇆県北の移動に最大6時間とか!)
広すぎる県土は同じ県内でも全く異なる環境や気候で、海の幸も山の幸も豊か。人々の気質や性格も同じくで、それぞれの地域に住む人々の嗜好は同じ県民同士でも多様性に富んでいるようですが、それらを全部丸っと受け入れる懐の広さが、その広さゆえに岩手の人たちには備わっているのでしょう。
少年野球の指導者も目先の勝ち負けには拘らずに、子どもたちには野球の楽しさや、面白さ、礼儀やチームワークをまず教えているのではないでしょうか。何せ気長に、未来のことを考えることのできる人たちなのです。
この洋々たる大地の広さがもたらす心のゆとりが二つ目の岩手の武器でしょう。
「Less is More」な岩手―
余談ですが、今年記録づくめの完全試合を成し遂げた佐々木朗希投手の高校三年生時最後の夏―甲子園出場を賭けた決勝戦でチームの監督さんが、本人の将来のことを考え、非難は承知で登板をさせなかったのは有名な話です。チームは結局敗れて涙をのみましたが、佐々木選手は今や日本を代表する投手になりました。
良くも悪くもテクノロジーの進化や世の中の変化に伴いチャレンジコストやハードルが下がった現代では、スピード感あるチャレンジやサクセスが求められがちです。
一方で人生はいまや100年時代。延び続ける寿命により、いくつになっても夢や目標を持って、挑戦ができる時代でもあります。一見、ネガティブ/アゲインストな環境からでも、強い意志とゆとりある広い心持ちとを兼ね備えた挑戦が未来につながり、芽吹くことが必ずあります。
「Less is More(レス イズ モア)」―ドイツの建築家、ミース・ファン・デル・ローエが残した、「少ないほうが豊かである」という意味の言葉ですが日本全体が抱える人口減少、出生率の低下は必ずしもポテンシャルの衰退ではありません。
一に”忍耐”、二に”ゆとり”。ここ数年、密に苦しめられた日本ですが、密じゃない岩手にあったヒントが、この国全体の課題解決にも結びつく明るい光になると信じて、FACT随一の心の広さの持ち主・松原さんにボールをつなぎます!
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