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トランプ政権発足、SUBARUの勝ち筋が見えてきた
SUBARU(以下スバル)がトヨタのハイブリッドシステムの提供を受けて、水平対向4気筒のストロングハイブリッドを開発し、「クロストレック」に搭載して発売したことはすでにご存じのことと思う(関連記事「スバルの未来を開くクロストレックS:HEV」)。
ただし、これが、スバルが2025年以降を生き残っていくためにどれだけ意味のある技術なのか、ということはどうもまだまだ伝わっていないように思える。そこで、スバルの来し方とマーケットの状況を時間軸で辿りながら、改めてその意味を考えてみたい。
まずはスバルのマーケットについてだが、この連載をお読みの皆様ならすでにご承知の通り、よくも悪くも米国一本足打法(「SUBARU『北米一本足打法』で大ホームラン」)。もちろん世界のマーケットをまんべんなく押さえることができれば言うことなしなのだが、そんなことができるのは生産力、資金量、ともに巨大なトヨタだけである。もはや本当の意味でフルラインメーカーかつ、グローバルマーケット全てにリーチしている自動車メーカーは、世界でトヨタだけ、と言ってもいい。
そもそも日本の自動車メーカーはなぜたくさんあるのか?
閑話休題、単純な話、今、乗用車のマーケットは大きい順に、以下のようなことになっている。
1位:3100万台の中国
2位:1600万台の米国
3位:1000万台の欧州
4位:500万台のインド
5位:480万台の日本
6位:340万台ASEAN(タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピンの主要5カ国)
7位:230万台のブラジル
8位:230万台の英国
9位:180万台のカナダ
10位:170万台の韓国
10位まで全部で一定のシェアを持っているのは先述通りトヨタだけ、フォルクスワーゲンなど欧州系ブランドは2位の米国でシェアが取れていない。よく「日本だけなんでこんなに自動車メーカーがたくさんあるのだ?」と言われるが、答えは簡単で、母国日本がそれなりの規模のマーケットを持ち、それに加えてどのメーカーもそれ以外に独自に海外に強いマーケットを持っているから。つまり「2つ以上の大きな市場がある」ことが理由である。
トヨタは全市場に強いし、ホンダは米中ASEANに強い。日産は米中、スズキはインドと欧州、マツダは米欧豪、スバルは米、三菱とダイハツはASEAN、という具合だ。
世界一のマーケットである中国は、もちろん魅力的なマーケットではあるが、カントリーリスクが異様に高い。トランプ政権で国務長官に指名されたマルコ・ルビオ氏は、この指名の承認を巡る公聴会の冒頭で、中国について「われわれは中国共産党を国際秩序の中に迎え入れた。彼らはあらゆる利益を享受しながら、義務や責任はすべて無視した。それどころか、うそをつき、ハッキングし、ごまかし、盗みを働きながら、世界の超大国の地位を手に入れた」と強い言葉で批判した(ソースはこちら)。
そして、例えばもし台湾危機が起きたら、米国はSwift(国際銀行間通信協会:Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)の取引対象から中国を排除する可能性が高い。ロシアがキーウに軍事侵攻した際には、実際に経済制裁の発動としてSwiftが止まった。Swiftとは銀行など金融機関同士の国際的な送金インフラであり、これが止まったら、売り上げを本国に送金することもできなければ、部品や原材料を国外から調達して代金を支払うこともできなくなる。だから全ての西側メーカーは選択の余地もなくロシアから撤退したのだ。
日本の自動車メーカーとしては、リスクが高いけれども大きなマーケットである中国とどう付き合うのかは非常に難しい問題である。そしてその中国を除外して考えるのであれば、おのずと米国が実質的1位に格上げされる。
トヨタが全地域ビジネスを展開し、ホンダと日産が米中バランス戦略を取る中で、第3勢力のマツダとスバルは、重心を米国に置く戦術で戦っている。中国のカントリーリスクに耐えられないという自覚があったらそうするより他ない。
ということで本題のスバルの話に戻れば、日本の同盟国である米国が主な市場なので、そもそものリスクは比較的低い。ただし、今時はどこの国にもリスクはある。その最たるものが、米国では連邦基準である環境保護庁(EPA)の規制と17州が掲げるカリフォルニア基準規制の“規制の二重化”、ダブスタが起きていることだろう。
カリフォルニア州大気資源委員会(CARB)が定めるゼロエミッションビークル(ZEV)規制は、先行きが混迷の中にある。……何の話が始まったのかと思うかもしれないが、ここを理解しないとスバルが今、何を考えているかがわからない。
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