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海外HRTechサービスから日本での機会を考える - Lattice(The People Management Platform)

欧米のHRTechサービスを研究し、日本での可能性についても示唆を得ようという本企画。第三回はタレントマネジメントサービスのLatticeをチェックしていきます。タレントマネジメントサービスは社内の目標管理・個々人のパフォーマンス管理・1on1の管理等、組織戦略全体をマネジメントするためのサービスです。Latticeはリモート環境でもスムーズな組織戦略を実行できるというメリットを訴求しコロナ禍において利用企業を拡大しています。日本においてもメジャーなサービスとなってきており、活用している会社も多いのではと思います。

今回で三回目になりますが、どのサービスも簡潔にコンセプトを説明した動画を作っていることが共通します。調べる側としてもとてもわかりやすく、サービス提供事業者としても見習うべきポイントだなと感じています。Latticeの動画は以下からどうぞ。

<想定している読者(こんな方に読んで欲しい)>
・HRTechサービスに興味がある
・HRTechサービスの提供をしている会社で働いている、働きたいと思っている
・いつかHRTech領域で起業したい
<アジェンダ(今後同じアジェンダを想定)>
・サービス概要(機能概要・時価総額等)
・日本のタレントマネジメントサービスの状況
・日本で展開する上でのポイント

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サービス概要

1. どのようなサービスなのか(簡単に)

Latticeは、以下のLPの文言にある通り、組織戦略の最適化をパフォーマンス観点、エンゲージメント観点、そして社員教育を通じて実現することを意図したソフトウェアです。チームおよび個人の目標とその進捗を詳細に管理し、フィードバックを与えあったり、称賛しあったりすることができます。またそのプロセスにおけるミーティングを効率的に進めるための機能だったり、個人の成長目標を管理する機能もあります。そして目標に対してのレビューを色々な形で実施できる機能も備わっています。事業に紐づいた組織戦略を全てこのサービスで管理できると言えると思います。

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Latticeの素晴らしいところは、その柔軟性がとても高いところ。目標管理は組織の成長やそれに伴う変化のスピードが早ければ早いほど適切に行うことが難しくなります。この目標が第一だったが優先順位が変わった、とか、期中だけど組織再編をせざるを得なくなった、とか、スタートアップにはよくあることだと思います。そのような変化にも柔軟に対応できるよう多様なフォーマットが準備されています。

2. どのようなサービスなのか(機能詳細)

Latticeについて詳しく見ていきます。海外のHRTechサービスはどれも機能が本当に豊富で、このLatticeも例に漏れずたくさんの機能がありますので、重要なものを紹介していきます。それでもめちゃくちゃ多いです。

Latticeの機能は大きく4つに分けられます。Perfomance/Engagement/Grow/Analyticsの四つです。Perfomance・Analyticsが基本機能となっており、Engagement・Growthはアップセル機能となります。

<Perfomance>

目標管理とそれに対するレビュー、フィードバックサイクルを管理する機能群です。

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①目標管理

会社・チーム・個人の目標を設定し管理することができます。目標はOKR管理も、MBO管理も、会社独自のフォーマットでも自由に設定できます。

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目標は、Cascading/Non-Cascadingを選択できるようになっており、全目標をアラインするかしないかを選択できます。Cascadingを選択すると、目標の従属関係と達成の変数関係を設定でき、子目標の達成度合いに応じて親目標の達成度合いも自動で変化するようになります。

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マネージャーはチームおよびメンバーの目標を設定できます。全ての目標それぞれに対して、公開範囲、目標のタイプ(数値・パーセンテージ・売り上げ等・期間・オーナーを設定します。

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②レビュー・評価

レビューは幾つでも作ることができ、上記の目標と紐づけることももちろん可能です。レビュー対象者・レビュワー・最終的な成果のアウトプットとその閲覧権限・頻度(繰返し期間)を設定できます。

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ここで特筆すべきと感じたポイントは最終的にどのレビューに対して誰が何を閲覧できるのかがかなり細かく設定できることです。

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設定したタイミングで社員にメール・Slack等でレビュー記入の依頼が届きます。各個人は期限内に入力を完了させます。

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そしてここも細かくは記載しませんが、Latticeが評価の集計および、実施の確からしさを担保してくれます。依頼されたメンバーはレビューは書き終えているか、書くべきメンバーが書いていないことはないか等、チェックをしてくれます。すごい。

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③フィードバック・称賛

目標達成のプロセスにおいて、従業員同士でのFBはとても大切です。それもLatticeを活用して実施できます。フィードバックは、リアルタイム性が重要であるため、PCからだけでなくスマホアプリ・Slackからも投稿できるようになっています。また、社外にも依頼ができるようになっており、プロジェクトベースでクライアントからフィードバックをもらうことも可能です。定期評価での360FBはもちろん、日常的にも簡単に実施できるように設計できる点が素晴らしいところです。

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フィードバックは、テキストと会社のバリューを紐づけて行うこともできるようになっており、行動指針の浸透にも役立ちます。この機能を使って、特定の仕事に対して社員同士が称賛し合うことも可能です。Publicに投稿されたFBおよび称賛は、Lattice・Slackにて全員が確認できるように設定することが可能です。余談ですが弊社ではホメルくんノビルくんっていう社内称賛用のSlackBotを導入していますが、そろそろサービスが終了してしまうとのことなので、Slackのreacji-channelerを使って特定のemoji reactionを集約するチャンネルを作るようにしています。何かいいサービスあれば教えて欲しい。

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⑤1on1

1on1のアジェンダ・議事録・そしてネクストアクションをLatticeで管理できます。Adminは会社全体としての1on1の頻度・基本アジェンダを設定することができ、マネージャーはチーム内で同様の設定ができます。個別で参加者が自由にアジェンダを追加することもできます。

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⑥定例報告

よくSlackだったりメール?でおこなわる日報・週報をLatticeを使って行うことができます。アップデートすべき項目・頻度を自由に設定できます。また、投稿に関しても公開・非公開(マネージャーにのみ共有)を選ぶことができます。

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投稿する際に、以下のような今週の気持ちを投稿できるようになっており、マネージャーはチームのコンディションをチェックできるようにもなっています。

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<Engagement>

こちらは文字通り、従業員のエンゲージメント向上のための機能。エンゲージメントサーベイ・eNPS取得・取得したアンケートをもとに組織コンディションを確認する機能の三つに分かれています。サーベイのテンプレートも豊富で、社員の満足度だけでなくマネージャーへの満足度調査・会社のダイバーシティ推進レベル・危機管理意識の調査等もできるようになっています。

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パレスサーベイも可能です。特定の質問を細かい頻度で取得し続けることで以下のようにリアルタイムに従業員の状態を可視化することができます。

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<Grow>
こちらは、会社内での当該職種・グループのコンピテンシーを可視化しLattice内で公開することで従業員一人一人の成長のプランニングを効率化するための機能です。マネージャーとともに成長のステップを計画したり、次に注力して向上させるコンピテンシーの合意形成と進捗確認をすることができます。内容は1on1にもアラインすることができ、1on1の定期アジェンダで成長計画についての進捗を確認したり、ネクストアクションを議事録として残すことも可能です。

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以下の図のように職種ごとのコンピテンシーを管理することができます。

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個人ごとにも成長目標を設定することができます。そしてこれももちろん社内に公開する・非公開にマネージャーにのみ共有するが選べます。

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コンピテンシーを意識したり、成長について考える機会が定期面談に集中しているケースが多いのではと感じています(弊社もその傾向がある)。Latticeを活用すれば事業戦略を進める中で成長に対しても意識をするタイミングを作り、プロダクトを通じて成長を促すことができます。

<Analytics>
Lattice上で収集したデータを可視化する機能です。契約しているサービス(Performance/Engagement/Grow)のデータに応じて、各種の分析を行えます。

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目標に対する達成率から会社・チーム・個人のパフォーマンスを可視化したり、

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サーベイ結果からエンゲージメントコンディションの可視化をしたりすることができます。

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そのほかにも、ダイバーシティの可視化や、マネジメントレイヤー向けのチームマネジメント状況の可視化(1on1がどれほど機能しているか等)なども行うことができます。

<その他>
⑩組織運営の参考になるテンプレート集

Latticeを使った組織運営のための手法をPDFの形でたくさん公開しています。これを参考にしてLatticeをさらに有効活用できるようになっています。導入事例という形ではなくダイレクトに目的に沿ったプロダクトの活用法を公開するのは面白いし、日本ではあまり見ないものだなと思いました。

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また、BeameryもCheckrも同様でしたが、FAQの充実度が半端じゃないです。1on1のガイダンス・140ものビデオレッスン・オンボーディングプログラム、どれだけの時間がかかってるのかと思うほどにCS関連の情報がたくさん整理されています。Latticeをうまく活用するための取り組みをUniversityと呼ぶのも欧米らしさですね。

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3. プライシング

Latticeはプライシングがオープンになっていました。Slack同様に従業員一人あたりの月額コストがプランによって異なる形。Latticeには大きく4つのサービスがあり、そのどれを利用するかによってプライシングが異なってきます。全てを利用すると月に一人当たり$15というプライシングになります。

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また、はっきりとStarting annual ageeement is $4,000と記載があり、年間4000ドル以上を利用する必要があるので、最低限のプランでも40名ほどの組織からの利用になるようです。最低利用金額の記載があるのも面白い。

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エンタープライズプランがどの人数からかは記載がなかったので大企業には個別の見積もりを出している模様。

4. ファイナンス状況

今年シリーズEを実施してユニコーンになっています。コロナ禍にあって成長が加速している模様。シリーズEにはFUNDERS FUND,Tiger Global,Khosla Ventures等、超有名VCが数多く参加しており、成長は間違いないもののようです。ナスダック上場を考えるとあと1,2回のファイナンスがありそう。

<時価総額>
$1B
<累計調達額>
$154M
<投資家の顔ぶれ>
FUNDERS FUND,Tiger Global,Khosla Ventures,Frontline Ventures,Thrive Capital,Fuel Capital等

日本のタレントマネジメントサービスの概況

<国内で展開する同様のサービス>
- カオナビ
- HRbrain
- TalentPalette
- jinjer

タレントマネジメントサービスはまだまだ浸透率の低いHRTechサービスの中でも、日本でも幅広く普及している分野だと思います。敢えて欧米との差分を上げると、日本では評価管理をメインの目的としてサービス導入検討をしている企業様が多い印象があるのに対して、欧米では全社のパフォーマンス最大化を意図して導入検討をしている印象があります。今回Lattice以外のタレントマネジメントサービスも調べてみましたがどれも管理が目的ではなく、事業戦略と組織戦略を紐づけることで事業成果を最大化することを意図しているように感じました。そしてLatticeの機能能豊富さを見るにあながち嘘ではない、実現できることを言っているなぁとも感じています。

その差分を生むのは、経営スタイルの差分と、サービスレベルの差分が原因であると捉えています。日本は、画一的なマネジメント、画一的な育成を好み、歴史的に社員一人ひとりにフォーカスをした柔軟な組織戦略を実践してこなかったのに対し、流動性も高くビジネスの形の変化スピードも速いアメリカにおいては、いかに柔軟な組織戦略を立案・実践し成果を生み出していくかが重要視されているのではなかろうかと思います。ニーズがなければサービスは生まれないからこそ、それがサービスとしてできうることの差分にもつながるのではないでしょうか。

ただ、日本においてもLatticeと同様のサービスは既に多く存在していいますし、意図しているところは同じである可能性が高いこと、複数のプロダクト(OKR管理サービス・1on1専用サービス・エンゲージメント可視化サービス・成長促進サービス等)を組み合わせることで同様の便益を得ることも可能かと思います。

日本で展開する上でのポイント

Latticeのリサーチを進める中で感じの学びとして最も大きなものは柔軟なニーズに応えることの重要性です。SaaSは1つのアプリケーションを全ての企業に提供し、全ての顧客に新たな価値を作っていくことを目指しますし、半ば我々の考える業務フロー・ワークフォースをお客様に受け入れていただくというスタンスが必要だと思います。ですがHRTechの難しさは、企業ごとの色だったり性格・考え方に大きく差分があることに起因して統一的な仕組みにしづらいところにあると思います。なんせ数字を扱うのではなく人を扱うので多様性があって当然です。だからこそ、統一的なコンセプト・提供価値の軸はぶらさずに多様な考え方をできるだけ許容する設計が求められます。
上記の機能詳細で紹介をしたようにLatticeは自分たちの思う組織パフォーマンスの最大化手法を、考え方とセットで提供しつつ、同時に細かい部分での柔軟性・カスタマイザビリティを持っています。多様なニーズに応え続けようと努力してきたことが感じられます。
一方で、機能が豊富かつできることが多すぎるうえに、企業ごとにやりたいことが多様であるからこそ、オンボーディングにおそらく結構なコストがかかっているかと思います。日本のプロダクトと欧米のHRTechサービスを比べると機能数では段違いに欧米の方が多いですが、一方でオンボーディングコストはそれに比例して増える。そして、利用する側のリテラシーをとても求めるものになるので、活用できるユーザーが一定いることも複雑なプロダクトを提供するマーケットの要件になってきます。

日本で多機能なタレントマネジメントサービスを展開するにも、そのマーケットの要件をそろえることがまずは重要になってくると言えると思います。そのためにできうることを具体的に好き勝手に列挙してみます。

<獲得すべきケーパビリティ>

日本では、組織のパフォーマンス最大化を多くのデータを日常的に収集しながら実践していくことに取り組んできていない会社も多いと思います。だからこそ、その重要性を理解してもらう(商談フェーズ)とその実践をハイタッチで支援していくことが求められると思います。

①チェンジマネジメントへの合意形成
ここは上記の重要性を理解してもらうポイントにあたります。これまでの定期評価に大きく依存した評価形態を変更していくことを求めます。それには経営陣の組織戦略に対するスタンスを変えていく必要があります。特に大企業では相当のコミットメントがなければ組織戦略のアプローチを変えることは難しいでしょう。商談においていかにトップの合意を得る化が重要になります。
LatticeのLPだったりFAQにはたくさんの頻度でCadence(ケイデンス)という言葉が出てきます。これはいわゆる定期サイクルを意味しており、評価であれ1on1であれ定期的な頻度で実施し続けることが重要であることを表しています。インターネット系の企業では毎月1on1を行ったり、マネジメントとのよもやまを定期的にやったりということが一般的になってきていますが、日本の多くの会社はまだまだそういうカルチャーがない会社が多いのではないでしょうか。考え方を変えるというのはとてもパワーのいることなので、このフェーズを科学することが重要になると思います。マーケティングコミュニケーションからフィールドセールスの商談の組み立ての部分でいかに合意形成ができるかが勝負になると思います。

②オンボーディングコンサルティング(ハイタッチカスタマーサクセス)
日本全体のHR担当者のリテラシーは欧米に比べてまだまだ低い状況だと思います。欧米と比較してマーケットの進化が遅いので当然といえば当然ですが、サービス提供事業者からは致命的な問題です。だからこそ、事業者側から働きかけ、理想の組織像を描くところからサポートすべきだと思います。
狙って得たい成果を言語化し、それを前提に各種のセットアップを完了させ、人事だけでなく現場へもその必要性・価値を理解してもらうことを事業者が主体となって実践する覚悟が必要でしょう。

<マーケットへのアプローチ>

①コロナを意識した機能開発とマーケティング
コロナ禍において顕在化している課題に対する解決策を用意することも一つの戦略です。コロナ禍においてスムーズな組織戦略の弊害・ハードルとなっているものは多くあると思いますが、一番は物理的な距離だと思います。Latticeがグロースしているのもこの状況下でさらに価値を発揮するからであり、そういった要素を優先的に盗むこともマーケティング視点では有効です。具体的には現場のコミュニケーションを促進する機能(1on1関連・Slack連携機能・オンラインmtgツールとのインテグレーション)の実装は導入のフックになり得ると思います。
加えて、物理的な距離が現場の課題への認知を遅らせたり、メンバーのコンディション把握が難しくなったりとマネージャーが抱えている課題も同様に大きなものです。これもLattice同様ですが、目標への進捗が現場の負荷をあまりかけずに可視化されたり、メンバーのコンディション把握が行えるような機能も同様にフックになると思います。結局Latticeと同様の機能を実装しようという話になってしまいましたが、優先順位の付け方のロジックに取り入れるべきかと思います。以下のようにLatticeもめちゃくちゃアピールしてます。

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②フラッグシップカンパニー事例の創出
マーケットを作る・大きくする視点で欠かせないのが事例です。誰もが気づいているような課題解決のための手法を提供しているわけではない場合にはその課題に気付いてもらうきっかけが必要です。その一役を担うのが事例です。日本でも有名な企業様への導入をなんとしてもこぎつけ、全力で支援する中で成果を創出する。そしてその事例を一つのコンテンツとしてニーズを喚起していく。事例はマーケットメイクだけでなく商談やカスタマーサクセスの補助にもなるので投資対効果抜群です。大企業への導入や、行政への導入なんかも、直近だと目を引く事例になるのではないでしょうか。

以上、今回は日本で同様のサービスが既に存在しているのでかなり一般的な議論になってしまいました。次回は日本にまだないサービスをもう一度探して見ます。

※出典・参考記事一覧
- サービスLP
- シリーズE調達関連記事
- CrunchBase
- Capterra

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