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週3回、漸増負荷試験(ランニングテスト)をやり続けると、体力は高まるのか?

ランナーを対象とした漸増負荷試験(余裕のある低強度から高強度でオールアウトに至るまで少しずつ負荷を高めていくランニングテスト)は、生理学的プロフィールの把握、適切なトレーニング強度の設定、トレーニング効果の評価などに役立ちます。
最近では、呼気ガス測定を伴う漸増負荷試験を提供する民間のサービスも登場し、研究の被験者以外でもランナーが漸増負荷試験を受けられるようになってきました。

漸増負荷試験は、運動時間こそ長くありませんが、最大酸素摂取量が得られるまで追い込むため、それ自体が高強度のトレーニング刺激とも言えます。
昨年発表された論文では、若年成人を対象に、週3回の漸増負荷試験を9週間続けた場合、トレーニング効果が生じるか報告されています。

Zinner, C., Gerspitzer, A., Düking, P., Boone, J., Schiffer, T., Holmberg, H. C., & Sperlich, B. (2023). The magnitude and time-course of physiological responses to 9 weeks of incremental ramp testing. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 33(7), 1146–1156. https://doi.org/10.1111/sms.14347

この研究における漸増負荷試験は次の4段階で構成されていました。
1.最大下強度固定負荷試験
 5分間@8.5km/h(傾斜1%)
2.ランプ最大負荷試験
 9km/hからスタートし、1分間あたりの速度増加率1km/hで14km/hまで増加。その後、1分間あたりの傾斜増加率1%でオールアウトに至るまで実施
3.ウォーキング
 3分間
4.確認テスト
 ランプ最大負荷試験のオールアウト時よりも1km/h高い強度でオールアウトに至るまで実施

各対象者が27回(週3回×9週)漸増負荷試験を受けた結果、最大酸素摂取量は平均4.7%増加し、ランプ最大負荷試験のオールアウトまでの時間は平均17.9%も延びました。
また、最大下強度固定負荷試験における心拍数は3.2%減少しました。
これらの結果は、漸増負荷試験を受け続けることでフィットネスが向上したことを示しています。
論文によると、統計的には、最大酸素摂取量は21回目、オールアウトまでの時間は12回目、最大下強度固定負荷試験における心拍数は9回目のテストで有意に改善が見られたとされています。

また、トレーニング強度配分(心拍数を基にしたTime in Zone法)も分析されており、低強度が約21%、中強度が約36%、高強度が約43%という通常のトレーニングでは珍しい高強度型の結果が得られました。

さらに、この論文ではトレーニング効果とは別に、週3回の測定結果の変動係数(CV)を基に各データのばらつきも評価されています。
心拍数、酸素摂取量、血中乳酸濃度の3つの指標を比較した結果、心拍数のばらつきが最も小さく(≒再現性が高い)、次いで酸素摂取量、最後に血中乳酸濃度のばらつきが最も大きいという結果でした。
スポーツ現場では心拍数が当てにならないと言われることもありますが、私は、心拍数ほど簡便かつ妥当で信頼性のある指標はないと考えています。
今回の研究結果も、私の見解をサポートするものと言えるでしょう。

最後に、呼気ガス測定は出来なくても、漸増負荷試験自体はトレッドミルさえあれば多くのランナーが実施可能です。
そのため、この論文で示されたような週3回の漸増負荷試験トレーニングも不可能ではありません。
ただ、トレッドミルでオールアウトに至るまで頑張ることには転倒のリスクがあります(通常、実験ではハーネスなどによる安全対策が講じられます)し、1回のトレーニングで2回オールアウトするというのは過酷すぎるため、実際に試みるランナーは少ないでしょう。

それはそれとして、テストも受け続けると、それ自体がトレーニングになり得ることを証明した今回の研究、個人的にはユニークで面白く感じました。


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髙山 史徳/Fuminori Takayama
執筆家としての活動費に使わせていただきます。