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100マイルトレイルとフルマラソンのレースパフォーマンスの大部分を説明する要因は同じなのか?

はじめに


フルマラソンのレースパフォーマンスは、
・最大酸素摂取量(Maximal Oxygen Consumption: VO2max)
・ランニングエコノミー(Running Economy: RE)
・酸素摂取水準(Percentage of VO2max: %VO2max)
の3つで70%以上が説明できると言われています。
本記事では、研究でよく使われる表現を参考に、この3つをClassic Modelの3要因と呼びます。

これに対して、トレイルランニングでは、超長時間山岳耐久レース、距離にして100マイル以上、時間にして約1日以上を要する場合、Classic Modelの3要因以外でパフォーマンスが決まる(限定される)場合が多いと言われることがあります。
実際、私自身も専門家として、そういうニュアンスの記述をした過去があり、その主張を広めてきた立場の人間です。
例えば、国立登山研修所の定期刊行物に寄稿した原稿では、次の記述をしています。

マラソンをはじめとする数時間以内で完走できる長距離走のパフォーマンスは、エネルギーの産生能力を表す最大酸素摂取量(Maximal oxygen uptake: VO2max)、エネルギーの節約能力を表す走の経済性(Running Economy: RE)、漸増負荷試験における最高走速度といった有酸素性能力によってある程度説明できる。これは、完走時間が大よそ半日までの山岳耐久系レースにも当てはまり・・・(中略)。
一方、超長時間山岳耐久レースでは、有酸素性能力以外の様々な要因によってパフォーマンスが制限されやすい。

髙山史徳,超長時間山岳耐久レースにおけるパフォーマンス向上戦略


この見解は、当時までに発表されていた研究をもとに考えると間違いではない一方、その後に発表された近年の研究を踏まえると、ニュアンスを変える必要があると考えています。
具体的には、今の私は、フルマラソンと100マイルとでは、Classic Modelの3要因が同じくらいレースパフォーマンスを決めている(限定している)と考えています。

本記事では、トレイルランニングのレースパフォーマンスの限定要因を調べた近年の研究とフルマラソンのパフォーマンスを調べた数十年前の研究に鑑みながら、私の見解を記します。


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