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厚底カーボンシューズによるランニングエコノミー向上効果を得るにはそのシューズに慣れておく必要があるのか?

先日、「厚底シューズによるランニングエコノミーの向上と利益相反~サイエンスとビジネスの影~」という記事をアップしました。

この記事では、厚底カーボンシューズをはじめとする最近のフットウェア技術(Advanced Footwear Technology)を活用したシューズ(AFTシューズ)を履くことでランニングエコノミーの向上効果が得られるのか、各研究の結果と利益相反との関係に迫っています。
具体的には、この時点で発表されていた論文(正確には、発表され私自身が読んだことのある論文)21本をレビュー対象としています。
厚底カーボンシューズ(正確には、Advanced Footwear Technology: AFT)に関する研究は依然として盛んで、最近では論文の発表ペースが増加している傾向があり、日頃から論文を読み続ける私も追いつくのが容易ではありません。

今回は、その記事を書いた後に発表されたある研究を軽く見ていきます。
Schwalm, L. C., Fohrmann, D., Schaffarczyk, M., Gronwald, T., Willwacher, S., & Hollander, K. (2024). Habituation Does Not Change Running Economy in Advanced Footwear Technology. International journal of sports physiology and performance, 1–6. Advance online publication.


この論文は、タイトルから結論がわかるタイプで、「AFTシューズにおける慣れがランニングエコノミーに与える影響は変わらない」ことを示しています。

研究では、サブエリートクラスのランナー(マラソン換算で、男性が平均2時間34分、女性が平均3時間7分)16名を分析対象に、ナイキ社、アシックス社、プーマ社などのAFTシューズを装着した際のランニングエコノミーを調査しています。
検証の妥当性を確保するために、シューズの質量やそのシューズで走った距離を共変量として考慮しています。

その結果、履きなれたシューズ(Habituated)と履きなれていないシューズ(Nonhabituated)での酸素コストやエネルギーコストに有意差は見られませんでした。

この結果に基づき、論文の著者らは次のような結論を述べています。

私たちの研究結果は、AFT に慣れることで AFT の使用におけるより大きなメリットが得られるわけではないことを示唆しています。
つまり、現段階では筋骨格系の適応など、慣れによるその他のメリットを否定できないとしても、トレーニングでの実装は必要ない可能性があるということです。

Schwalm, L. C., Fohrmann, D., Schaffarczyk, M., Gronwald, T., Willwacher, S., & Hollander, K. (2024). Habituation Does Not Change Running Economy in Advanced Footwear Technology. International journal of sports physiology and performance, 1–6. Advance online publication.


私自身も厚底カーボンシューズは、履いた瞬間から恩恵を受けられると考えており、普段のトレーニングでそのシューズを履き慣らす必要はないと思っています。
今回の結果は、自分の見解をサポートするもので、「やっぱり」と思いました。

最後に、この論文の結論は原文(英語)では「suggest」や「may not be needed」といったやや弱めの表現が用いられています。
これは研究の結論においてよく見られる現象で、研究は基本的に表現が保守的です。
しかし、それが一般に伝わる過程で、表現が拡大解釈されたり、元のニュアンスが消えてしまうことが多々あります。
これは、英語から日本語へと翻訳する際の難しさ、人が情報を記憶する際に認知が歪みやすい、情報が人から人に伝達する際に拡大解釈された表現が用いられやすい、といったことが関係していると思います。

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髙山 史徳/Fuminori Takayama
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