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フォームを派手に変えたらランニングエコノミーは変わるのか?

以前、記事の締めくくりとして、以下の文章を記しました。

ランニングエコノミーと聞くと、外から見えるランニングフォーム(バイオメカニクス)との関連に目が行きがちですが、実際にはランニングエコノミーの優劣は、外からは見えない体の中(生理学)で決まっている部分が大きいのかもしれません。

https://note.com/f_takayama/n/nb7fc38d391c3

この「決まっている部分が大きい」という言葉通り、ランニングフォームがランニングエコノミーと全く関係していないと思っているわけではありません。
実際、ランニングフォームがランニングエコノミーに関係することを示した研究も多く存在します(例えば、ステップ頻度を変えることによる影響)。

今回は、女性ランナーを対象とした研究をもとに、意図的にランニングフォームを大袈裟に変えることで、ランニングエコノミーがどれだけ変わるのかを見ていきます。

Wayland Tseh, Jennifer L. Caputo, Don W. Morgan. (2008) Influence of Gait Manipulation on Running Economy in Female Distance Runners. Journal of Sports Science and Medicine (07), 91 - 95.

対象者は、9名の女性一般ランナー(年齢:平均23.3歳、最高酸素摂取量:平均54.9 ml/kg/min)でした。

ランニングエコノミーの評価は秒速3.35m(1km当たり約5分)のスピードで傾斜0%のトレッドミル走によって行われています。
評価対象となったランニングフォームは次の4条件です。
通常走り:普段通りに走る
手後ろ走り:手を腰の後ろに組んで走る
手頭上走り:手を頭の上に組んで走る
上下動誇張走り:事前に測定された通常走りの上下動データの標準偏差の4倍を加えた位置にあるフォームパッドに軽く触れながら走る

結果は次の通りでした(数値は酸素摂取量の平均値±標準偏差)。
通常走り: 43.4±2.6 ml/kg/min
手後ろ走り: 43.9±2.4 ml/kg/min
手頭上走り: 46.1±2.0 ml/kg/min
上下動誇張走り: 51.0±2.5 ml/kg/min

統計学的に見ると、酸素摂取量は上下動誇張走りで最も高くなり、通常走りと手後ろ走りがほぼ同じという結果でした。
すなわち、普段のランニングフォームから派手に変えた走り方の中でも、上下動を誇張した場合にランニングエコノミーが著しく悪化することが示されました。
(ただし、上下動を減少させた場合にランニングエコノミーが改善されることは示していない点に注意)

手の位置を変えた2条件については、手を後ろに組んだ場合はランニングエコノミーはほぼ変わらず、頭の上に組んだ場合には悪化しました。
論文の著者によると、手を後ろに組んでも上下動は変わらず、頭の上に組んだ際には上下動が増加した点が結果に影響を与えている可能性があるそうです。
また、手を頭の上に置くことで体の重心が高くなり、バランスを保つためにより大きな筋肉を使用する必要があり、これがランニングエコノミーの悪化につながった可能性もあるそうです。

この論文がランニングの現場にどれだけ示唆を与えるのかはさておき(レース中に、走りながら一息つく際には、手を後ろに組むのがランニングエコノミー的には無難?)、実験自体はユニークで、初めて読んだ際には少し笑ってしまった記憶があります。


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髙山 史徳/Fuminori Takayama
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