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インターバルの刺激の強さと長期的なトレーニング効果
最近、インターバルトレーニング中に高い酸素摂取水準(%VO2max)を保つことが持久系パフォーマンス向上に繋がることを示した論文が発表され、主にXを中心とするSNS界隈でも国内外で関心を集めています。
Odden, I., Nymoen, L., Urianstad, T., Kristoffersen, M., Hammarström, D., Hansen, J., Mølmen, K. S., & Rønnestad, B. R. (2024). The higher the fraction of maximal oxygen uptake is during interval training, the greater is the cycling performance gain. European journal of sport science, 24(11), 1583–1596. https://doi.org/10.1002/ejsc.12202
一般に、最大酸素摂取量(VO2max)を高めるには、インターバルトレーニング中に呼吸循環系へ強い刺激を与えることが有効とされています。
この刺激の強弱を評価する指標として、研究では「セッション中の90%VO2max以上(レッドゾーン)の暴露時間」がよく活用されています。
実際、いくつかのインターバルトレーニング方法のレッドゾーンの暴露時間の大小を比べた研究は数多く存在します。
ただし、一過性の刺激の大小から長期的なトレーニング効果を予測することは難しく、この点を追い求めた今回の研究は極めて貴重です。
そんな研究で得られた今回の結果とは、インターバルセッション中の%VO2maxが高いほど、VO2max、漸増負荷試験中のピークパワー、血中乳酸濃度が4mmol/Lのパワーなどの改善が著しいというものです。
ただ、この結果を現場に活かすのは注意が必要で、セッションにおける%VO2maxを高めるために、
緩走(漕)期の時間を短縮する(回復を短くし、高い酸素摂取量の状態で次の本数を開始することを狙う)
緩走(漕)期を完全休息ではなく低強度で繋ぐ(なるべく高い酸素消費量を維持し、急激な酸素摂取量の減少を防ぐことを狙う)
急走(漕)期の時間を延長する(酸素摂取量がVO2maxに近づく時間を長くすることを狙う)
といった、一般的に思いつくアプローチを推奨する結果とは言えません。
なぜならば、この研究の分析対象対象のサイクリスト(計22名)のインターバルトレーニングの方法は次の通り一緒だからです。
On an average, each participant performed 20.6 (0.8) interval sessions with 5 × 8-min work intervals separated by 3-min active recovery periods between work intervals. The mean PO for each participant during the 8-min work intervals corresponded to their highest sustainable PO during a 40-min cycling trial (PO40min) performed at test day 2 before the intervention. For training variation purposes, the 8-min work intervals varied slightly in each of the three 3-week training periods: 1) alternating between 30-s at 118% of PO40min and 15-s at 60% of PO40min, 2) alternating between 60-s at 110% and 90% of PO40min, and 3) constant at 100% of PO40min. The PO during the 3-min active recovery periods corresponded to 35% of PO40min. The participants were assigned to perform the three training periods with different 5 × 8-min interval protocols in six different orders using stratified randomization.
つまり、今回の結果は、同じインターバルトレーニングを採用した中で個々人がどれだけ高い%VO2maxを維持できたかが、トレーニング効果に影響を与えているという結果です。
また、セッション中のレッドゾーンの暴露時間の長さはトレーニング効果との間に密接な関連性が認められた一方、セッション中の%最大心拍数や90%最大心拍数以上の暴露時間の長さは、トレーニング効果とは関係していませんでした。
研究機関に所属しない限り、酸素摂取量を測定しながらトレーニングを行うことは現実的ではありません。
また、この研究が示す通り、心拍数は酸素摂取量を代替できる指標ではありません。
そのため、持久系スポーツの現場において、トレーニング効果に密接に関わる刺激の大小を簡便かつ妥当に評価することは極めて困難です。
実際、論文の著者らも、現場への示唆で次のように述べています。
Moreover, as % of V̇O2max showed slightly better repeatability across sessions and was related to slightly more outcome variables than time ≥90% of V̇O2max in the present study, we suggest that % of V̇O2max is the best available adaptive potential measure. HR measurements are often used as a surrogate measure for V̇O2, but based on the presented findings we argue that these measures should not be used interchangeably.
というわけで、この論文を直ちに持久系スポーツの現場に活用するのは簡単ではありませんが、現場に直接結びつかなかったとしても、研究の価値が下がるわけではありません。
少なくとも私自身は、この論文が非常に面白く、自分の知的好奇心をくすぐる素晴らしい研究だと感じています。
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