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計量書誌学から振り返る過去15年間のマラソンパフォーマンス研究:自身の研究成果を添えて

今回は最近発表されたある論文をもとに、ここ15年のマラソンのパフォーマンスに関する研究の動向を見ていきます。

計量統計学(Bibliometrics)という学問があります。
Wikipediaによると、計量統計学の研究手法は次の通りに説明されています。

研究手法は定性的方法より定量的方法が一般的で、統計学を用いる場合が多い。
計量の対象となる主な要素は、著者(や共著者)、著者所属機関、国、タイトル、抄録、内容(全文)、参考文献(参照文献、引用文献)、雑誌名、出版社、分野など文献や資料のあらゆる構成要素が対象となる。計量化は膨大な書誌から膨大なデータを作成するため、手計算では規模に限界があった。近年、書誌の構成要素がデータベース化され、大量のデータをコンピュータで扱えるようになり、急速に普及した分野である。

Wikipedia contributors. (2023, June 2). 計量書誌学. In Wikipedia. Retrieved 08:16, June 21, 2024, from https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E8%A8%88%E9%87%8F%E6%9B%B8%E8%AA%8C%E5%AD%A6&oldid=95452539


この論文は、過去15年間(2009年-2023年)にわたるマラソンのパフォーマンスに関する研究を計量書誌学の分野からアプローチしたものです。
分析対象は、Web of Science Core Collectionというデータベースに収録されていた英語論文です。
したがって、英語以外で発表された研究は対象外です。
詳しい検索条件は次の通りです。
検索期間:2009年1月1日から2023年11月30日
検索ワード:TS=(marathon) AND (TS=(performance) OR TS=(pace) OR TS=(finish time) OR TS=(speed) OR TS=(velocity))
検索した論文の種類:article、review
検索言語:英語

検索の結果、1566の研究機関、3947人の研究者、63の国・地域から発表された1057本の論文がヒットしました。

まず論文の出された本数に関する結果を見ていきます。
国別でみると、アメリカが最も多く、次いで、スイス、スペインの順です。
下記は国別の論文数ランキングを5位まで示したものです。
※国・地域、論文数、引用された数の順

  1. アメリカ、652本、5133本

  2. スイス、423本、3122本

  3. スペイン、335本、1208本

  4. イギリス、309本、1780本

  5. フランス、275本、1693本

また論文数の多い著者ランキングは次の通りです。
※著者名、論文数、引用された数の順

  1. Knechtle B、171本、2956本

  2. Rosemann T、117本、2036本

  3. Nikolaidis PT、85本、1261本

  4. Rüst CA、53本、735本

  5. Lepers R、31本、1060本

このうち、上位4名の研究者は連名で論文が出ているのをよく見かけます(Nikolaidis PT氏はギリシャ、残りの3名はスイス)。
一方、5位のLepers R氏はフランスの研究者です。

また、この論文のSupplementary material(補足資料)には国別、著者別ともに上位10位までを確認することができますが、日本もしくは日本人はいませんでした。
したがって、量的な観点から見ると、日本はこの分野における研究大国とは言えません

次に、キーワード分析の結果を見ると、直近3年では、次の5つの分野の研究が盛んなことが分かりました。

  1. エリートマラソンランナーの生理学

  2. エリートマラソンのトレーニング強度とペース戦略

  3. エリートマラソンランナーの栄養戦略

  4. マラソンパフォーマンスの性差、年齢差

  5. 炎症反応と筋ダメージの回復

こちらの結果は、この分野に関する論文を読み続けてきた自分的にも納得のいくもので、確かに新しい論文が多く出ているなと感じます。

ここからは、本記事の副題(自身の研究成果を添えて)に関してです。
私自身もマラソンパフォーマンスに関する研究に取り組んできましたが、Web of Science Core Collectionに収録されている論文数はおそらく5本です。
例えば、2018年に出した次の論文は、「炎症反応と筋ダメージの回復」に該当します。


ただ、残念ながら、引用された数が多く、論文の社会的インパクト(Altmetric Attention Score)が高い次の論文は同データベースには収録されていないようです。


その他にも収録されていない論文がいくつかあり、時が経って改めて振り返ると、もう少し我慢強く取り組んでいれば、論文の完成度が高まり、より高い評価を得られたかもしれないと感じます(同データベースに掲載されている論文=評価されている雑誌というわけではありません)。
一方で、そういった地道な努力ができなかったことから、フルタイムの研究者としての人生を歩まなかった自分がいるとも感じています。

いずれにしても、過去に戻ることはできないので、まだ研究者を自称している身である以上、世のためになる論文をまた出せたらと思っています。

本記事は、「Yan, L., Chen, Z., Zhang, X., Han, Q., Zhu, J., Wang, Q., & Zhao, Z. (2024). Themes and trends in marathon performance research: a comprehensive bibliometric analysis from 2009 to 2023. Frontiers in physiology, 15, 1388565. https://doi.org/10.3389/fphys.2024.1388565」を改変したもので、CC BY 4.0 で使用されています。



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髙山 史徳/Fuminori Takayama
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