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おらは何ランナー?

英語の論文を読んでいると、対象者を表す表現に多様性があることに気付きます。

具体的には、
・World Class runner(筆者訳:ワールドクラスランナー)
・International Level runner(筆者訳:国際ランナー)
・Elite runner(筆者訳:エリートランナー)
・National Level runner(筆者訳:国内ランナー)
・Highly-trained runner(筆者訳:高度に鍛えられたランナー)
・Well-trained runner(筆者訳:良く鍛えられたランナー)
・Trained runner(筆者訳:鍛えられたランナー)
・Recreational runner(筆者訳:レクリエーショナルランナー)
・Novice runner(筆者訳:初心者ランナー)
といったように(その他、年齢や通学している学校のステージによる表現も存在します)。

私も過去に
・Successful  runner(成功を収めたランナー)
・International Level runner
・Elite runner
・National Level runner
・Well-trained runner
・Recreational runner
・Novice runner
を対象とした英語の学術出版物を執筆した経験があります。
色々なつながりや機会に恵まれたこともあり、様々な背景を持つランナーを対象として研究が出来たことは、今の私に活きていると感謝しています。
また、今後も機会があれば、色々なカテゴリーの方々を対象とした研究をしていきたいとも思っています。

それで、論文を読み続けていると、これらの対象者の表現に関する定義は、研究間で統一されておらず、個々の研究によって様々なことにも気づきます。
「えー。このレベルでEliteと記すのか」「Recreational runnerのわりにVO2maxが高い!」といった感想を抱くことも稀ではありません。

率直に言えば、そもそも一言で定義しようとすること自体に無理があり、各論文の中身を見た上で個々に「これぐらいの人たちね」と漠然と評価したいところです。
しかし、こうした表現の不統一性は、研究活動はもちろんのこと、その論文を出典あるいは引用し、セミナーを行ったり、文章を執筆したりする際にも困ることがあるのも実際です(論文をリスペクトして元々の表現を活用すると、1つの発表としての表現の統一性に欠けます。また、いちいち注釈を入れるなどすると、それはそれで読者や視聴者の視認性、可読性、判読性などに問題が生じる場合もあります)。

こうした研究界の現状に気づく人も多く、最近では、一定の基準に基づき、6段階に分類するフレームワークも提案されており、実際に活用されています。

このフレームワークを用いると、あるスポーツに取り組む人たちは次の6つの層に分けることが出来ます。

  • Tier 0: Sedentary:運動習慣がほぼなく、最低限の活動基準にも達していない。

  • Tier 1: Recreationally Active:世界保健機関(WHO)の運動基準を満たすが、そのスポーツ種目への特定のコミットメントはない。

  • Tier 2: Trained/Developmental:特定のスポーツに取り組み、週3回程度のトレーニングを行い、地域の大会に参加。

  • Tier 3: Highly Trained/National Level:全国大会に出場、体系的なトレーニングを実施。世界記録または世界トップレベルの記録から20%以内の自己ベスト記録を持つ。

  • Tier 4: Elite/International Level:国際大会に参加、世界ランキングで上位300位以内。世界記録または世界トップレベルの記録から7%以内の自己ベスト記録を持つ。

  • Tier 5: World Class:オリンピックや世界選手権のメダリスト、または世界記録保持者。世界記録または世界トップレベルの記録から2%以内の自己ベスト記録を持つ。

※ただし、具体的な評価基準は他にもいくつか存在します(詳細は上記論文をご参照)。

これはこれで良い側面がある一方、特に陸上競技長距離においては、厚底カーボンシューズによる記録向上の影響もあり、エリート以上に相当するInternational LevelやWorld Classになる基準が非常に高い印象を持ちます。
例えば、男子マラソンでは、World Classには2時間03分00秒以内、International Levelには2時間09分01秒以内の自己記録が求められ、それよりも遅いランナーはHighly Trained/National Levelに相当します。
現在の日本記録は鈴木健吾選手がマークした2時間04分56秒のため、日本のマラソンランナーの中に、World Classのランナーは誰もいないことになります(女子も同様)。
また、Highly Trained/National Levelに求められるのは2時間24分42秒以内の自己記録であり、自己記録が2時間46分の私を含めて多くのランナーは、Trained/Developmentalのカテゴリーに割り当てられます(週3回よりはるかに多いトレーニングをしているものの・・・)。

※参考
https://doi.org/10.1016/j.freeradbiomed.2024.10.277

ランナーを形容する表現の難しさは、研究の世界の外にでても、当てはまる部分があります。
話が広がりますが、私は少し前まで主にRecreational runnerという意味合いで「市民ランナー」という表現を活用してきましたが、最近は言葉の意味などを参考にして「一般ランナー」を好んで使うようになりました。


女子マラソン大会の中でも、参加資格が厳しい大阪国際女子マラソンでは、3時間7分という参加基準を突破した一般ランナーを「スーパー一般ランナー」と呼び、「エリート」と「一般」の狭間に新しいカテゴリーを登場させています。

大阪国際女子マラソンのゼッケンを獲得するために、3時間7分※という参加記録を突破し、トップアスリートと同じスタートラインに立った「一般選手」に敬意を表して「スーパー一般ランナー」と呼んでいます。

協賛した昨年から公式呼称として採用されました。HOKAは、3時間7分の先にある可能性を信じ、走り続ける彼女たちの挑戦を応援しています。

※参加資格:マラソン 3時間07分以内 / 30km 2時間08分以内 / ハーフマラソン 1時間25分以内 / 10000m、10km 36分以内(大会ごとに変動する可能性があります)

https://www.hoka.com/jp/osaka-womens-marathon/

ちなみに、前述のフレームワークに基づくと、女子マラソンでTrained/National Levelに求められる自己記録は3時間07分よりもはるかに速いのです(2時間35分台!)

他にも、準エリートいったカテゴリーが存在するマラソン大会もあります。


いずれにしても、こうした定義が完全ではないことは、ランナーであれば理解できるはずです。
また、これらの分け方が必ずしもランナーとしての総合力を反映しているわけではなく、自分がどの表現に位置するかにこだわることは、本質的ではないと感じます(ただ、例えば、フルマラソンが2時間10分の自己記録を持つ男性マラソンランナーがいたとしたら、「International Level」まであと1分!といったように、モチベートする材料に使える可能性もあるのかなと)。
本来は漠然としたものを無理やり具体化する際に生じる弊害でしょう。

ちなみに、私はここ数年、特定のレースに向けたある一時期しか頑張らないランナーということもあって、自分のことをSeasonal runner(季節限定ランナー)と形容しています。
来月に参加予定のレースでは、Seasonal runnerの意地を見せたいところですが、どんなに頑張っても前述のフレームワークから見ると、Trained/Developmentalから抜けられることはなさそうです。






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髙山 史徳/Fuminori Takayama
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