ツール・ド・フランス期間中の睡眠時の心拍数(HR)、心拍変動(HRV)
以前の記事に続き、今回もツール・ド・フランス(毎年7月に約3週間をかけて行われる世界最大規模の自転車競技大会)に出場した持久系アスリートに関する論文を見ていきます。
今回の研究では、ツール・ド・フランスに出場した8名(1つのチームから構成)に対して、WHOOP4.0という睡眠データや睡眠時の心拍数、心拍変動(Heart Rate Variability: HRV)などが計測できるウェアラブルデバイスを着用させています。
なお、論文では、女性サイクリストが出場できるツール・ド・フランス・ファムに出場したアスリートを分析したデータも掲載されていますが、本記事では割愛します。
早速結果を見ると、睡眠時の心拍数、HRV(いずれも、自律神経コンディションを表す指標)はベースラインと比べても、レース期間中を通して著しい変化が見られませんでした(日間、あるいは週間での比較、図1)。
この結果だけを見て言うと、ツール・ド・フランスは自律神経コンディションに大した影響を与えないレベルの競技であると言えます。
ただ、ツール・ド・フランスは世界最高峰であるがゆえに、
優れた回復能力を持つトップアスリートが選抜されている可能性があること(生存バイアス)
優れた回復環境が用意されていること
日々のレース開始時間が早朝でないため、睡眠時間が確保しやすいこと
(実際、ベースラインと比べても、睡眠時間が変わっていなかった)
といった要素が結果に影響していると考えられます。
そういった要素が影響しているにしろ、個人的には、過去に執筆した電子書籍やそれ以外の原稿でも記していますが、トップアスリートであっても、自律神経コンディションはトレーニング負荷の大小よりも、トレーニング以外の要因に影響を受けると考えており、今回の結果もそれを示唆する結果だと捉えています。
最後に、この論文では、図2に示した通り、各日のデータ計測数がきちんと報告されていますが、見ての通り、最終ステージの終了後のデータだけ計測数が極端に減っています(8名中3名)。
また、計測されたデータを見ても、この日だけ極端に睡眠時間が減っているのが分かります。
このデータ、人間っぽくて、個人的にはちょっと笑ってしまいました。
21にも及ぶステージレースを終えたこの日は、みんなでパーティーでもしたのかな?
本記事は、「Sargent, C., Jasinski, S., Capodilupo, E. R., Powers, J., Miller, D. J., & Roach, G. D. (2024). The Night-Time Sleep and Autonomic Activity of Male and Female Professional Road Cyclists Competing in the Tour de France and Tour de France Femmes. Sports medicine - open, 10(1), 39. https://doi.org/10.1186/s40798-024-00716-6」を改変したもので、CC BY 4.0 で使用されています。
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