『30秒@ジョグ+20秒@コンティニュアス+10秒@ハイスピード』を繰り返すと最大酸素摂取量が伸びる!しかも本気で走らなくても良い
レースでの記録短縮を目的に走っているランナーにとって、最大酸素摂取量(VO2max)を向上させるアプローチは役に立ちます。
また、VO2maxは様々な客観的健康指標とも密接に関係しているため、健康度を高めるために走っている人にとっても、VO2maxを高めることは大切です。
VO2maxを高める上で大切な刺激が強度(激しさ)にあることは、スポーツ科学界で昔から現在まで一貫して示されてきましたが、強度が高いセッションを実施するのは心理的にハードルが高く感じてしまう人も多いです。
昨年、発表されたある論文では、「30秒@ジョグ+20秒@コンティニュアス+10秒@ハイスピード」というユニークな高強度トレーニングの効果について、「10秒@ハイスピード」を最大努力(Maximal effort)で実施した群と、最大下努力(Submaximal effort)で実施した群のトレーニング効果を比較しています。
Skovgaard, C., Christiansen, D., Martínez-Rodríguez, A., & Bangsbo, J. (2024). Similar improvements in 5-km performance and maximal oxygen uptake with submaximal and maximal 10-20-30 training in runners, but increase in muscle oxidative phosphorylation occur only with maximal effort training. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 34(1), e14493. https://doi.org/10.1111/sms.14493
なお、「30秒@ジョグ+20秒@コンティニュアス+10秒@ハイスピード」は、「10-20-30トレーニング」という名称で、近年のスポーツ科学界で若干注目されているアプローチです。
論文の内容を見ていくと、レクリエーショナルレベルの男性ランナー19名がランダムに最大努力群と最大下努力群に分けられました。
両群ともに、週3回のトレーニングの全てを「30秒@ジョグ+20秒@コンティニュアス+10秒@ハイスピード」で実施しましたが、「10秒@ハイスピード」の中身が違いました。
具体的に言うと、「30秒@ジョグ」(最大スピードの30%程度、時速8km程度)、「20秒@コンティニュアス」(最大スピードの40-50%、時速11-14km程度)は両群で統一されていました。
一方、「10秒@ハイスピード」は、最大努力群では全力実施(本気)だったのに対し、最大下努力群は最大スピードの75%程度で実施しています。
イメージとしては、最大努力群はスピードが落ちても良いので、フルスプリントで、最大下努力群は高強度とは呼べるものの余裕を持ちながら走る感じだと思われます。
各回のセッションは、「2-4セット×5or6本(バウト)×30秒@ジョグ-20秒@コンティニュアス-10秒@ハイスピード」で行われています。
(最大下努力群の方が距離が短くなることを想定し、最大下努力群が6本、最大努力群が5本)
6週間のトレーニング期間の前後に、5km走のタイムトライアル、トレッドミルテスト(VO2max、ランニングエコノミー)、血液検査、筋バイオプシー法による筋の酸化的リン酸化(OXPHOS)の評価が行われています。
その結果、トレーニング期間前後の5km走のタイム、VO2maxは両群ともに増加、向上したものの、その度合いに群間差はありませんでした。
ランニングエコノミーはそもそも両群ともに伸びていませんでした。
一方、筋の酸化的リン酸化については、最大下努力群では変化がなかったのに対し、最大努力群ではOXPHOSのサブユニットおよび総OXPHOSが9-29%増加しました。
この結果に基づき、論文の著者らは、「10-20-30トレーニングを最大下努力で実施すると、5km走のタイムとVO2maxについては最大努力と同等の効果があるものの、筋の酸化的リン酸化の向上は最大努力で行った場合にのみ起こる」と結論付けました。
筋の酸化的リン酸化の変化に群間差が認められたのに対し、VO2maxは同じように伸びた結果は、VO2maxは末梢要因(筋)ではなく、中枢要因(心臓)によって限定を受けたからだと考えられます。
それはさておき、個人的に注目したのは、ランニングテスト(漸増負荷試験)の最高ランニングスピードの増加度合いにも群間差が認められ、次に示す通り、最大努力の方が伸びたという結果です。
最大下努力群:18.6±0.3km/h→19.0±0.3km/h
最大努力群:18.1±0.2km/h→18.8±0.2km/h
最高ランニングスピードは、VO2max、ランニングエコノミー、酸素摂取水準に加えて、神経筋機能の影響も受けることが知られていますが、「10秒@ハイスピード」をより高いスピードで実施したことで、神経筋機能の適応が進んだと考えられます。
なお、論文の著者らは、神経筋機能ではなく、Anaerobic capacity(無酸素性のキャパシティー)の改善によるものと考察していました。
というわけでトータルで見ると最大努力で実施した方がメリットが大きいと言えるわけですが、最大下努力に比べると、シンドイに違いありません。
自分も気が向いたときに、「30秒@ジョグ+20秒@コンティニュアス+10秒@ハイスピード」をやってみようかなと思っていますが、「10秒@ハイスピード」は最大下努力でやっている気がします。