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アイシングと鍼灸治療の併用について考える


みなさんこんにちは。
【考えながら臨床をすれば鍼灸治療は上手くなる】
スポーツ医科学と鍼灸を考えるF Lab です。

みなさん、急性期に肉離れに対してアイシングをしますよね。
この場面で鍼灸治療は行いますか?
今日はアイシングと鍼灸治療の併用について考えてみたいと思います。

アイシングの目的や効果についての基本的な事については触れませんが、最近、アイシングについて報告された論文をご存知の方も多いかと思います。
それは、

Masato Kawashima, Noriaki Kawanishi, Takamitsu Arakawa et al. Icing after eccentric contraction-induced muscle damage perturbs the disappearance of necrotic muscle fiber and phenotypic dynamics of macrophages in mice. J Appl Physiol, 2021; 130(5): 1410-1420.

この論文は、「アイシングは遠心性収縮よって引き起こされる肉離れの筋損傷後の再生を遅らせる」というものです。肉離れなどの筋損傷後に生じる炎症反応は組織の修復の正常な過程の1つであり、重要な反応と言えます。この反応を抑制してしまうと筋の再生を阻害してしまう可能性があります。これまでの報告でも、筋の再生に影響する、しないとする結果があります。この研究の優れているところは、実際の肉離れを想定した遠心性収縮による筋損傷モデルを作成しているところにあります。どうやって定量的な損傷を生じさせるのか?すごいですよね。

結果として、遠心性収縮モデルマウスに筋損傷を起こし、アイシングを30分間、2時間おきに3回行い、これを2日間続けました。2週間後の再生骨格筋を確認するとアイシングをした群では、していない群と比較し横断面積の小さい再生筋の割合が有意に多かったという結果でした。これには、炎症性マクロファージによる損傷筋の貪食が十分に行えず、新しい筋細胞の形成が遅れる可能性を示唆しています。

これらの結果は、アイシングの是非について考えさせられる結果となっていますね。この記事は「The New York Times」にも掲載されたようです。アイシングが完全に悪いということではなく、どのように行って行くのが良いかを考えていく必要があると思っています。もちろん、私もスポーツ現場での応急処置としてアイシングを使っていくと思います。

では、次に鍼通電についての論文を紹介します。

Naruto, Yoshida. Mescle Injury and Acupuncture. Adv Exerc Sports Physiol, 2010; 15(4): 135-138.

これは、打撲による筋損傷に対して、低周波鍼通電刺激を行っていると急性期には筋湿重量比が軽減できること、損傷21日後の筋横断面積がコントロール群と比較し、横断面積の大きい再生筋の割合が有意に多かったことを示した論文です。低周波鍼通電刺激により浮腫の軽減や再生筋の形成を促す可能性が示唆されています。では、なぜこのような現象が起こるのでしょうか?

次に紹介する論文は、

Akiko Onda, Qibin Jiao, Toru Fukubayashi et al. Acupuncture ameliorated skeletal muscle atrophy induced by hindlimb suspension in mice. Biochem Biophys Res Commun. 2011; 410(3): 434-9.
池宗佐知子, 大田美香, 宮本俊和 他, 後肢懸垂により引き起こされる筋委縮の回復過程における鍼通電刺激の効果. 全日本鍼灸学会雑誌. 2010; 60(4): 707-715.

これらの論文は、筋委縮の回復過程において鍼通電刺激が骨格筋内のマクロファージの浸潤を増加させることを示唆しています。また、鍼通電刺激によりmyostatin(Mstn, MuRF-1, MAFbx)の遺伝子の発現を抑制することが報告されています。myostatinは、主に骨格筋で合成され、骨格筋の増殖を抑制すると言われています。この遺伝子の発現が低下すると骨格筋は増殖し、筋断面積も大きくなると考えられます。しかし、遠心性収縮に伴う肉離れに対して鍼通電刺激を行い、筋の断面積やmyostatinの状態を評価した論文はなく、ここからは私見になりますが。

この記事の結論として、

肉離れや打撲などの骨格筋損傷の急性期にはアイシングが必要だと思います。しかし、そのデメリットとして炎症性マクロ―ファージの貪食が十分に行われず、筋断面積が小さくなってしまうのであれば、低周波鍼通電療法を併用してマクロファージの浸潤を増加させ、筋断面積が小さくなるのを防ぐと良いと思います。

実際には急性期の肉離れや打撲でアイシングをした後に、患部への刺鍼を避け、損傷した筋の起始・停止の部位や周囲に低周波鍼通電を行っています。この時の周波数は100Hzとして0.05mAの微弱電流で流します。急性期が過ぎると、流す電流量を上げて電気による筋収縮を促すようにしています(1Hzの筋パルス)。myostatinの遺伝子に影響を与えている刺激頻度は10Hzです。急性期を過ぎると10Hzでも良いかもしれませんね。

今日は、アイシングと鍼治療の併用についてでした。

また、一緒に勉強しましょう!


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