【モデル編】IPゲームタイトルにおける3DCGの作り方|コードギアス 反逆のルルーシュ ロストストーリーズ
こんにちは、f4samuraiリード3DCGデザイナーの若林です。
数か月前にオンラインセミナーに登壇し、『コードギアス 反逆のルルーシュ ロストストーリーズ(以下:ロススト)』における3DCG制作についてお話させていただきました。
少し期間が空いてしまいましたが、大変ご好評いただきましたため、講演の内容を本記事にてご紹介させていただきます!
『ロススト』開発初期に考えたこと
まず、思い出話になってしまいますが、『ロススト』の制作に入った頃、IP作品に関わることになって最初に考えたことを振り返ります。
個人的には、IPを使用したゲームには大きく2種類あると思っています。
『ロススト』は『コードギアス 反逆のルルーシュ』のアニメ本編のストーリーをなぞりつつ、オリジナル主人公を交えて、少しだけオリジナルストーリーが見られる作品のため、前者に該当すると考えました。
原作追体験型のIPゲームでは、「忠実な原作再現」が最も重要な要素です。
“何を”“どのレベルまで”忠実に再現するかは、ユーザーのメイン層が原作ファンであるという仮定のもと、自分もIPの一ファンとして「どんな3DCGを見たいか」を考えました。その結果、やはり原作の印象的なシーンが3DCGでリブートされたものを見たいと思いました。
そのためにこだわったポイントは以下の通りです。
「これくらいでいい」をやめる/「3Dでは実現が難しい」を言い訳にしない
効率重視で作られたものや、「これくらいでいいだろう」という開発側の妥協というのは、原作ファンの皆さんにはすぐ見破られてしまうものです。
逆に言えば、大好きな作品が期待以上のゲーム画面で登場したらきっと感動を与えられるはずです。なので、とにかくロスストの3DCG制作においては、「妥協をしない」「高い完成度を実現しないと、ファンは納得しない」という意識で制作にあたってきました。
時には3DCGでは表現が難しかったり、制作が大変なギミックがあったりもしましたが、「3DCGだから…」を言い訳にせず、とことん作り込むようにしました。
開発者自身が、IPに対して本気で向き合う
もう一つもマインド面の話になりますが、開発者の僕たちがIP作品と本気で向き合い、版元の企業様やファンの皆さんから認めていただくことを目指してきました。
IPというのものは一朝一夕で作られる訳ではなく、さまざまな作り手の苦労や、あらゆるIP展開をに携わってきた人たちの思いが背景にある、いわば魂の込められたものです。
それをゲーム化という形で任せていただく僕たちも、やはりその作品を心から愛し、そのIPのさらなる発展を精一杯目指すべきだと考えました。
ユーザーの皆さんにも、「IPに理解の無い人たちが作ったゲーム」とは絶対に思われたくなかったので、きちんと「『コードギアス』が好きなスタッフが開発しているんだな」と感じていただけるゲームにしようという思いで、真正面から向き合ってきました。
3DCGモデル制作フローのご紹介
ここからは実際の制作事例をお見せしながら、具体的な制作についてお話したいと思います。
『ロススト』の3DCGといえばまず浮かぶのが「ナイトメアフレーム(KMF)」と呼ばれるロボットだと思いますが、どうすれば世界観に合ったロボットを作れるか?ということをまず考えていきました。
そこで、人間のキャラクターと比較をした際のロボットの特徴を洗い出しました。
これらの特徴を意識しながら、原画をベースにして最初の3DCGを作っていきます。
こちらの原画は設定資料集にあったもので、まずは基準となる3DCGを目指してブレや違いが出ないように原画に準拠したものを作りました。
ここから、よりかっこよく魅せるための調整を重ねていきます。
その中で、特に難しかったのが頭部の作りです。
KMF頭部の3DCGモデリング
表情の変化がないとはいえ、ロボットも人と同じく顔はキャラクターとしても演出としても非常に重要な箇所。ですが、『コードギアス』に登場するロボットは全機体を通して顔の作りが複雑で、設定資料通りに3DCGを起こすだけでは「なんかかっこよくない…」ということが多々ありました。
さらに、その原因を言語化してモデラ―に的確なフィードバックを伝えることも難しく、制作初期はかなり悩みました。
その後、様々な資料を見ながら研究を重ね、納得がいく形になるまで手を動かすことから始めてみました。
例えばランスロットでいうと、正面向きや横向きの原画が特にかっこいいと感じたので、それらを見ながら調整していくと、頭部全体で一つではなく、「後頭部に向かって広がる兜」と「小さめな顔面」に分けて考える必要があると気が付きました。
また、突き出ている部分は昆虫のかっこよさや力強さを思わせると感じたので、それらを意識することでだんだんと収まりのいい形を見つけることができました。
サザーランドも同じく最初は頭部全体が曖昧な形だったのですが、上部を兜のような被り物、下部を小さめな顔面と捉えることでメリハリのある頭部に修正することができました。
いずれの制作においても、最終的には「一人のファンとして見たときに、どこに出しても恥ずかしくない3DCG」を目指すようにしていました。
上記のような工程でブラッシュアップを重ねたあとは、版権元であるサンライズ様に監修いただくため、制作物を提出します。監修の際は、作ったモデルの画像、設定画、原作カットらを並べて、比較がしやすいような資料にまとめてご覧いただきます。
3DCGにしたときの再現度やクオリティ、解釈に問題がないかなどをメインに確認していただきましたが、スムーズにGOサインをいただいたと記憶しています。
制作者目線はもちろんのこと、開発メンバー一人ひとりがファンとしての目線も持ちながら制作にあたった結果だと考えています。
質感・モデル表現の選定
3Dモデルの形をつくった後は、質感です。
「このゲームの3Dモデルはどんな質感であるべきか」を考えるために、まずは『コードギアス』におけるロボットの定義や特徴、世界観との相性を考えていきます。
その結果、以下のような特徴があると考えました。
作中では、ナイトメアフレーム(ロボット)は貴族や騎士が乗る高貴なものである
ダメージや破損はあるが、傷やサビなどの汚れはついていない
『コードギアス』の背景は原作も含めて発色がよく、近未来的な透明感や色彩がある
これらのポイントをふまえると、例えば戦車などの装甲よりも、スーパーカーや高級車のようなコーディングがきちんとされた質感の方がイメージにより近いと考えました。
以上のポイントをおさえながらシェーダー調整まで完了した完成版がこちらです。
ランスロットを例に挙げると、全体的にトゥーン調と手書きテクスチャを合わせた表現を採用しています。理由としては原作イメージに近づけるためと、背景が手書きのグラデーションを多用したテクスチャで制作することが決まっていたので、そこからあえて浮かせるためにトゥーン調を取り入れています。
影色は2色使って立体感を出しつつ、白い部分にハイカラ―をしっかりと入れることでメリハリのある質感を表現しました。リムライト(周り込みの光)も割り当てることで、動きが付いた場合でもやや輪郭線が入るようになっています。また、目には自己発光を入れています。
細かいこだわりでいうと、白い部分よりも金色部分の方がピカッと光ると考えたので、そちらの光の反射をより強く調整しています。
続いて、以下がシェーダーに必要なテクスチャを分解したものです。
ベースマップはモデルそのままですが、上から光が当たって内側になる部分には影が入り、面が単調にならないように多少グラデーションを入れていたり、キワにはハイライトを入れて面が割れるようにしていたりと、描き込みはしっかりとしてある状態です。
ここにのせるHiColorマップでは、ベースにしているモデルに対してライトが当たった時にどんな色でハイライトが入るのかという設定になります。白いところは、明るすぎる色のハイライトがのってしまうと白飛びして眩しくなってしまうので、あえて色を抑えてありますが、金色部分は大きく反射してほしいので明るめに描いています。
Rimマスクでは、光の当たってほしい部分と当たってほしくない部分の区別をしていて、緑になっている部分は全部リムライトがのるという設定になっています。
最後のEmissiveマスクは目の自己発光の設定がされているものになります。
ギミック再現
本編の最後は、作中のさまざまなギミックについてです。
メカメカしいギミックが施された武器や武装で戦うのはロボットもののお約束であり、見どころの一つでもあります。『ロススト』でもやはりギミックが絡む部分は重要だと考え、ゲームだからと割り切らずにしっかり再現したいと考えました。
例えば、ランスロットだけでも武器が3つ登場します。
一つは背中に背負っているメーザーバイブレーションソードです。最初は灰色の剣ですが、真ん中から2つに分かれて中央がピンクに光り、エネルギー充電後は赤くなる武器です。
3DCG制作時には
武器が2つに割れるようにモデルを分けておく
中身を光らせるために自己発光のマスクを仕込む
赤く変化させるための別テクスチャを用意しておき、変換する
という工程を踏んでいます。
二つ目は遠距離武器のヴァリスです。この武器はノーマルとフルパワーの2つのモードで変形します。
ノーマルモード時の外見だけでなく、フルパワーモードで変形したときに見える中身の部分まで細かく再現するように注力しました。
最後がスラッシュハーケンという忍者の鉤縄のような武装で、先端を敵に直接当てて破壊したり、壁などに引っかけて移動したりといった使い方をします。
『コードギアス』のほぼ全機体が似た武装を持っているのですが、3DCGで鞭や縄といったワイヤー系をきれいに表現するには一定量のbone数が必要で、コストが高くなりがちです。
スラッシュハーケンも初期はできるだけ使わない方向で行こうかとプロジェクト内で話が出たこともあったのですが「この武装を使わない戦闘は『コードギアス』の戦闘じゃないよね」と見直すタイミングがあり、積極的に取り入れていく方向にシフトしました。
モーション担当者の作業が大変ではあったのですが、結果、その苦労に見合うバトルシーンを作ることができたので、がんばってよかったと思えるギミックの一つです。
最後にご紹介するのは、機体本体も変形するギミックの多いモデルです。
スピンオフ作品の機体だったのですが、顔も武器のトンファーも変形しますし、手首に仕込み刀があったり、機体全体も二足歩行から四足歩行モードになったりと、数多くのギミックがちりばめられている機体です。
制作コストが他機体と比べても高いため、変形なしでの登場も考えましたが、両形態ともに現作内での活躍が印象的でしたので要素としてしっかり取り込むべき、と判断し制作を進めました。
ただ、bone数や負荷処理が大きくなりすぎるという問題もあったため、演出のときのみ変形するモデルを使い、それ以外は人型の基本モデルを使うことでゲーム内のバランスを保つように工夫しています。
演出編もお楽しみに!
いかがでしたでしょうか。今回は『ロススト』の3DCG制作のうち、モデル編をご紹介しました。
少しでも、僕たちのこだわりやゲームに対する思いが伝わる内容になっていたら嬉しいです。
次回は、後編として【演出編】をお届けする予定です。お楽しみに!
▼ CGWORLD様に取材いただきました!
『ロススト』チームの3DCG制作について、計4回でご紹介いただく特別連載です。若林も登場していますので、ぜひご覧ください。
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