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【演出編】IPゲームタイトルにおける3DCGの作り方|コードギアス 反逆のルルーシュ ロストストーリーズ

こんにちは、f4samuraiリード3DCGデザイナーのWakabayashiです。

数か月前にオンラインセミナーに登壇し、『コードギアス 反逆のルルーシュ ロストストーリーズ(以下:ロススト)』における3DCG制作についてお話させていただきました。

少し期間が空いてしまいましたが、大変ご好評いただきましたため、講演の内容を本記事にてご紹介させていただきます!

モデル編はこちら


再現性へのこだわり

はじめにご紹介するのが「再現性へのこだわり」です。

「原作で好きなシーンが、ゲームではどう表現されるのか」は、プレイする上でのモチベーションになり得る重要なポイントだと考えておりましたので、モデル作成と同様に、演出(モーション、カメラ演出、エフェクトなど)でも再現度にこだわって制作を進めました。

例として、紅蓮弐式という機体の初陣シーンをご紹介したいと思います。

紅蓮弐式は原作の中でも主役級の機体で、特に初陣の活躍シーンは人気が高いです。僕もこの初陣シーンがすごく好きです!

このシーンのかっこよさや迫力をゲームでも再現できるかどうかは、ゲーム全体の評価を左右すると考え、魅力をしっかりと伝えられるものにしようと尽力しました。

こちらが原作と比較した該当シーンの動画です。

原作シーン

ゲームのカット

全体のポイントとしては、3Dであることを活かし、カメラワークを使ったダイナミックな表現やテンポ感が生まれるようにしました。
ツヤ感のあるエフェクトを使って画面のリッチさを出すなど、元々魅力的だった原作のシーンを、3DCGに起こすことで違った魅力を引き出すことを目指して作成しました。

部分的な再現のポイントは2点あります。

一つ目はボコボコと膨らむ敵機の表現。二つ目は爆炎に浮かぶ決めカットです。

1:ボコボコと膨らむ敵機の表現

高出力の電磁波を放つ輻射波動によって機体が徐々にボコボコとダメージを受けるシーンです。この膨らむ過程をきちんと再現しようということで、シェイプアニメーションを使用しています。

まずは元々のモデルのメッシュを細かく割り、このシーン専用のモデルとして複製をします。

複製したモデルをそれぞれ少しずつ膨らんでいくように編集し、全部で8パターンのシェイプモデルを用意します。

最後に、用意したモデルをUnity上で組み合わせ、タイムライン機能で細かくタイミングを見ながら適応度を調整し、シーンの中に落とし込んで完成です。

ちなみに、このシェイプアニメーションは人の表情変化などに使われることが多いため、ロボットに応用できたことに新鮮さもありつつ、知識を持っていてよかったと感じた事例でもありました。

2:爆炎に浮かぶ決めカット

相手を倒し、爆炎をバックにフィニッシュポーズを決めるシーンです。

個人的にもこの決めカットははじめて見たときにすごくかっこいいと感じ、『コードギアス』が一気に好きになったきっかけのシーンでもあるので、迫力や感動を伝えられるものにしたいと思っていました。

まずは炎無しの絵を参考にして、ポージングから制作しました。

一旦作ってはみたものの、この段階だと上半身がずんぐりとしていて、かっこよさや再現性はまだまだという感じがします。

他の角度から見てみたのが左下の画像です。一応どの角度から見られても辻褄は合うように作ったのですが、原作のポーズ・構図が再現できているかというとイマイチな出来でした。

そこで、「このシーンの特定のカメラから見てかっこよければそれでいい」と割り切って制作したのが右の画像です。

本来は傾いている胸パーツをほぼ垂直にし、足もバランスの取れる形ではなく前に出しています。爪にもあえてスケールを入れ、パーツに隠れている右ひじは理論的には関節が外れている状態なのですが、見え方としてはこの形が原作のシャープな印象に近いので、このポーズをベースにして進めました。

次はライティングとエフェクトを入れていきます。

ポージングしたモデルに下から赤いライトを当て、炎で浮かんでいるような印象を探ります。

次に炎のエフェクトを盛り込みます。エネルギーを使ったカートリッジが左上に射出されているのですが、こちらも高熱が伝わるようなエフェクトをかけています。

そこからさらにUnityのポストプロセスという機能で画面エフェクトを調整しています。
Photoshopの調整レイヤーのような機能で、全体的にツヤ感のある画面にして、コントラストをつけてメリハリも出しています。

完成したものがこの画像の右側です。
左は開発初期に作ったものです。当時の全力で作ったとはいえ、見比べてみるとクオリティがまだまだ足りていないことがわかります。

このシーンを完成させた時は、個人的にもいい画作りができた手ごたえがありました。また、この画のクオリティラインが制作全体の標準ラインに定められ、その後の制作の指標にもなったので、しっかり作り切れてよかったと思っています。

IP(版権)をゲームに落とし込む難しさ

続いて、IPをゲームに落とし込む難しさについてお話できればと思います。

開発がはじまる前は、下記のように考えていました。

・原作再現や原作合わせの制作が多くなるだろうからオリジナリティはそんなに必要ないのではないか?

・基本的には機体のかっこいいシーンをしっかりと3DCGにアレンジして作り込むことができれば、ファンの期待に応えられるものができるだろう

しかし、制作に関わっていく中で少しずつ考えに変化が現れました。

・原作はストーリーの流れや2Dアニメーションでの表現でかっこよく魅せているものであり、単にそれを切り貼りするだけだと魅力が半減してしまう場合がある

・「原作通りに再現しよう!」という考え方を捨てて、3DCG演出的にあるいはゲーム的にふさわしい表現に作り変える必要がある

IPタイトルの制作に携わっていると、「ちょっとかっこよくはないけど原作通りの表現だし……」「少しテンポが悪いけど原作に沿って作っているから大丈夫か……」というような、“原作通りだから大丈夫病”に陥る時期があります。

ですが、原作はその媒体であるからこその表現も多いので、ゲームの場合はゲームに適した再現方法・表現を模索しなければいけません。

その表現の模索が特に難しかったシーン例をご紹介します。

ギャラハッド(機体)

この必殺技シーンは、「飛んできてパンチ」「指先のハーケンで攻撃」「背負った剣で攻撃」の3つの攻撃シーンで構成されています。

しかし、通して見てみると3つのシーンが独立して見えてしまい、コンボ感が薄れてしまっているのがわかります。

原作通りのシーンではあるものの、まずパンチでダメージを与えて、ハーケンで敵を動けなくした上でとどめを刺す……といった理由付けを表現しないといけなかったなと思います。

最後の一撃周りのエフェクトを盛ることで体裁は整えたものの、作中最強格の機体でもあったので、もう一段階強く魅せる演出を模索したかったシーンです。

蜃気楼(機体)

二つ目の例は、蜃気楼という機体の必殺技演出です。

前半部分は原作の一部のカットに習い、両手を左右に開いた後、前にかざして牽制射撃をするという流れで作ったのですが、ゲーム内の必殺技演出としては、機体の強さが伝わりにくく、続く強力なビーム攻撃の前座としても必要性を感じられない中途半端な演出となってしまいました。

蜃気楼は原作の主人公・ルルーシュの最後の搭乗機体なので、全機体の中でも特に強さや魅力を表現したいと思い、原作に縛られるのではなく、『ロススト』でのかっこいい表現を目指して修正をしました。

最初に目を光らせるなど、この機体のダークヒーローっぽい魅力を前面に押し出そうという方向性で修正をしました。

攻撃もハドロンショットを連射しながら近づき、容赦ない攻撃をした後に拡散するビームでとどめを刺すという構成にしたことでゲーム内における強機体の表現をすることができたかと思います。

再現に縛られず上手くいった例

こちらは原作の再現に縛られずにうまく表現を掴むことができた例です。

ランスロットの原作における活躍シーンは多いのですが、意外と必殺技としてピックアップしやすいシーンは少なかったため、最後の一撃の構図以外はオリジナルで作成しています。

オリジナル部分は、素早い動きで敵を追い詰め、圧倒的な力でねじ伏せる原作でのランスロットの活躍を踏まえながら『ロススト』ならではの演出として再構築しています。

ゲームオリジナルのカットシーン表現

『ロススト』オリジナルで作成したカットシーンをご紹介します。
オリジナルシーンの制作ポイントとしては、原作シーンをしっかりと踏襲した上で違和感のないものを目指しつつ、オリジナル要素である主人公の存在を際立たせる、ということに注力して制作しました。

こちらは『ロススト』主人公のオリジナル機体とランスロットの対決シーンです。

「盾でMVSを受けて使用不能にさせる」というシナリオをふくらませて、ランスロットだったらこういう動きをするだろうな、この主人公だったらこう対応するかな、でもランスロット相手には防戦一方になるかな、といった想像をしていき完成させたシーンになります。

最後に

プロジェクトを通して痛感したのは、原作IPを好きなメンバーが多いほどゲームの品質が上がるということです。

『ロススト』のプロジェクトは全体的にIPに対する思い入れが強いですが、その中でも特に熱量の高いメンバーほど、より自主的にゲームの品質を上げようと努力していた印象があります。

僕自身もこのIP自体を好きでなかったら「ここで妥協していただろうな」「ここまで頑張らなかっただろうな」と振り返って思います。

ユーザーの方に響くのはきっとこの「情熱」です。

もし、みなさんがIPに関連する仕事をされる際は、まずIPの魅力を探して、どっぷりはまって、チーム内でIPの好きな部分を語り合いながら「このキャラはここがいいんだよ!」「このキャラはこうじゃなきゃ!」といったこだわりを自分の中に持って、納得いくまで作り込んでみてください。

どんな高価で効率が良いソフトを導入するよりも、ユーザーの方に響くいい作品になると思います!

今回は『ロススト』の3DCG制作のうち、演出編をご紹介しました。
少しでも、僕たちのこだわりやゲームに対する思いが伝わる内容になっていたら嬉しいです。

ありがとうございました。


▼ CGWORLD様に取材いただきました!
『ロススト』チームの3DCG制作について、計4回でご紹介いただく特別連載です。若林も登場していますので、ぜひご覧ください。

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