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12年前、男に殺された彼女へ

やっぱり今年も無理だった。

12年経っても、
なぜあなたが殺されなきゃいけなかったのか
いまだに分からない。

あなたの事件についてのウェブ記事も、
どんどん閲覧できなくなっていく。

あの時からわたしの中には、
わたしもこうして殺される可能性があるんだ
という恐怖が、ずっとあった。

風俗嬢が殺される事件はたびたび起きて
そのたびに悲しかったし腹が立つけど、
あなたのことを思い出すと、
手足の力が抜けていくんだ。
うまく椅子に座っていられないんだ。

わたしとあなたは、
ものすごく仲良しというわけではなかったけど
同僚だったし(そこはソープだったけど)
和やかに話をして笑いあう程度には
仲良くしていたから、

あなたが殺されたと知った時、
わたしはすごく悲しかったんだ。
すごく、信じられないくらい腹が立ったんだ。

腹が立つくらいしか感じられなくて、
悔しくて、
意味が分からなくて、
混乱していたんだ。

そして、
あなたを殺した犯人が刑期を終えて出所した時
わたしがまだデリヘル嬢をしていたら、
どこかで会うことがあるかもしれない。
もしどこかで会ったら、
絶対に殺そう。
絶対に、絶対に、絶対に、殺そう。
そう胸に誓った。

結局、その誓いを果たす前に
わたしはデリヘル嬢ではなくなってしまったけど。

12年。

生まれた子どもが小学校を卒業するくらいの時間。
わたしとあなたが交流したのは1年くらいで、
それも週に3回とか、4回、それもほんの2時間くらい。

でも、

いまでも
あなたを悼んでいます。

当日に書くことはどうしてもできなかったけど。

いまでも
あなたと交わした会話や
ちょっとしたやりとりや
共通で好きだったバンドのことは
忘れてないよ。

ひとりの人間としてあなたのことを、憶えているよ。


5月に去ったひとへ。

Hより。

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