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カタツムリを最初に食べた古代ローマ人ってよっぽどおなか減ってたのね
ハイ!
葉落々の『哲学シャーク・オブ・ザ・デッド!』の時間がやって来ました!
今回の『大學奇譚 葉落々の準備室』は哲学回!
『大學奇譚』の世界観をはららっと哲学シャークしていきましょー!
『大學奇譚』の論文バトルに欠かせないガジェット、『論文検証端末 Wis』。実験室外でも論文実界化を再現できるマストアイテム!
今回はその使い方をひとつ私が実演してみせましょー!
「もしも葉落々がWisを使えたら」どーぞ!
雨粒が光る。紫陽花が花開く。群れなす濃緑にピンクの髪がよく映える。
淡紫色に丸く輪を結ぶ花の集合体に、青く光る花の一房を葉落々は見つけた。
紫陽花が眩しく青い。ここならカタツムリもいるはず。
「何をしている?」
不意に押し殺した声をかけられた。
「ここは浦澤ゼミの実験花壇だ。君はゼミ関係者ではないな」
葉落々はちらと振り返る。そこには妙齢の女性が立っていた。名前は、確か、仮野准教授だったか。
降りしきる雨の中、白衣姿で傘も差さずに立ち尽くしている。
「ちょっとカタツムリに用があってー」
そう一言だけ答えて、葉落々はすぐに紫陽花の葉に向き直った。
「もう一度言う。そこは実験花壇だ。離れなさい」
仮野准教授は語気を強めて葉落々の背中に告げた。
「ある研究室で実験用カタツムリを高く買ってくれるんですって」
「浦澤教授が休職中とは言え、ゼミは活動中だ。私が代理で管理している花壇に部外者が立ち入るべきではない」
そういえば。葉落々は思い出した。
浦澤教授の行方不明事件は最近の學生SNSでも話題だ。代理でゼミを仕切る仮野准教授がやたらでしゃばって後釜を狙っている、とかなんとか。
「先生、知ってます? 今、カタツムリが激減しているんすよ」
葉落々は准教授に背を向けたまま、濃い緑の葉の中でカタツムリ捜索を続けた。
「それが?」
「カタツムリは酸性土壌を好みます。で、ここの紫陽花。普通は薄紫色の花をつけるのに、ここだけ濃い目の青が目立ちますよね。土が酸性だって証拠です」
「畑違いの學生の御託など聞きたくもない」
仮野准教授の厳しい口調にも葉落々は意に介さず、のんびりとした言葉使いすら変えなかった。
「浦澤先生、行方不明なんすよね?」
「……何が言いたい?」
元々學生の往来も少ない農学部棟裏手通路。夕刻の時間帯。降りしきるぬるい雨。目撃者など存在し得ない環境だ。
准教授は白衣のポケットに手を忍ばせて、そっと携帯端末を取り出した。それにはWisが据え付けられている。
「紫陽花が青くなる条件はいくつか考えられます。酸性の栄養素を撒いたり、酸性雨が降ったり、……地面に大型動物の死体が埋まっていたり」
葉落々は立ち上がった。仮野准教授はその細い背中にWisを突き付ける。
「『紫陽花や きのうの誠 きょうの嘘』」
仮野准教授の口からWisの起動キーが紡がれた。端末に表示された論文が高速にスクロールし読み込まれる。Wisが光を放った。雨によく似合う紫色の光、四方大學のカラーだ。
「勉強熱心な學生もいるものね」
論文発動。Wis端末の周辺現実が変容する。論文は展開し、実界化する。
紫陽花たちがざわざわと色めき立つ。緑はより強く発色し、細やかな粉が吹くように光を放ち出した。
発動した論文は仮野准教授自身が組み上げた紫陽花に含有される毒に関する論文だ。自身が研究、理解したロジックゆえにそれは何者よりも色濃く展開される。
紫陽花の葉に含まれる毒素が葉落々を包囲し、今にも飲み込もうと揺らめいていた。
「素直に立ち去れば何も起きなかったのに。かわいそうだけど、君にも埋まってもらう」
そこで葉落々はようやく振り返った。
「カンのいいガキはお嫌いですか?」
その胸に、キラリ、光を放つWisが差し込まれた携帯端末。ただの學生が、Wisを所持しているなんて。仮野准教授は一瞬だけ動きを止めてしまった。
葉落々にはその一瞬で十分だった。
「『一淵には両鮫ならず』ってね」
Wis起動キーが葉落々の高い声で奏でられた。葉落々の論文が展開される。紫陽花の花壇に、海の匂いが漂った。
葉落々の論文は哲学としてのサメの存在意義について。あと、サメの悪食。
「あいにくと」
葉落々の足元が白く波打つ。海だ。
「哲学サメの論文では負ける気がしないっすよ」
哲学の海が実界化した。
通常の論戦ならば論文に対する知識の深さ、その理解度が実界化の強度となる。
相手を論破するために論文効果を打ち消す反対論文を起動したり、論理を反証する抵抗論文を展開させたりする。仮野准教授はそうやって論陣を張ってきた。
しかしこのピンク色した女子學生は、あろうことか學生の分際で准教授の自分に真正面から論文をぶつけてくると言うのか。
「ご存じで? サメの肉体って、人間と違ってアルカリ性なんですよ」
葉落々の周囲に咲く紫陽花が色彩を変えた。青から、赤へと。彼女の髪色同様に、ピンク色に染まりつつある紫陽花群。すなわち、あの紫陽花の根元に巨大なアルカリ性の何かが息を潜めているということだ。
「さて、論文バトル。始めますか!」
てな感じ? てな具合? 以上、葉落々の妄想劇場でした!
サメの姿を見せずとも、サメがそこにいると強く意識させる。それこそサメ映画の極意であり、哲学シャークの真髄なのだ!
さて、みんなも探してみて。サメでも死体でもなく季節外れのカタツムリを。現在、ほんとにカタツムリがいなくなっちゃってるの。カタツムリ界隈で、何かが起きてるのかもね。
『大學奇譚 葉落々の準備室』今日はこの辺で!
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葉落々でした。またね!