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戦争中の今だから読む「高坂正堯」の国際政治論ーー戦争は地球上から絶対になくならない理由。プーチン独裁王朝はどう進むか?鍵になるのは「ロシアによるネオ制限主権論」なのではないか説。インターネットが世界を救う52話目

昨今のウクライナ戦争はますます泥沼化し、ソ連は、まるでかつての「アフガン化」しているように見えます。首都キーエフ制圧までゼレンスキー率いるウクライナ軍は交戦できるのでしょうか。

そこで、今後の進展を考えるときに重要なのが、国際関係学者・高坂正堯さんの本。私もいっぱい読みました。

当時の冷戦時代・左翼全盛論壇時代からソ連や東欧、中国、共産主義国に批判で、アメリカやイギリスを中心とする欧州主体だったので嫌われましたがテレビタレントとして一躍時の人になりました。「古典外交の成熟」「海洋国家・日本の構想」など、左派やお花畑な民主主義論ではなく、冷戦下で書かれたリアリスティックな現実主義的な理論は、今読んでも古くなっていません。

今回を機に、再度読み返してみました。

今読むべきは、やはり一般向けにわかりやすく書かれた中公新書「国際政治(恐怖と希望)」でしょう。再刊されてKindleでも読めます。

先日のFCチャンネル竹村さんのメルマガにもありましたので、そこから引用します。


高坂氏は戦争についてこう言ってます。
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国家間の関係は戦争という行為を含んでいる。その可能性を考慮に入れなくてはならないので、国家間の関係はどうしても冷たいものとならざるをえない。外国を信頼し切ったあたたかい関係などというものは、まずありえないのである。
しかし、国家間の関係は完全な敵対関係であるわけでもない。貿易によって結ばれているように、諸国家はお互いを必要とする。
したがって、外交とは、完全な友人同士の交際でもなく、完全な敵対者同士のにらみ合いでもない。その中間の灰色の領域なのであり、相手を少しは疑い、戦争がおこったときの準備をしながら、しかもできるだけ友好関係を保つことが要請される場所なのである。
『世界地図の中で考える』より
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国家間の戦争の可能性ってのは無くすことはできない、のです。世界中の人々が平和を愛する国民なら戦争はおきないか?というと実はその逆。
平和主義者こそ自国の平和が脅かされた時、団結して戦争を支持するのは過去の歴史をみても明らか。その繰り返し、です。

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われわれは戦争防止の必要から現実化して来た世界政府の理念を、疑問の余地ない理想と単純に考える前に、多様性を重要視した思想と対面して、多様性の問題を十分に考えてみなくてはならないであろう。
すべての政治秩序は多様性と安定の、いずれをも無視することなく、この相矛盾する二つの要請を調和させなくてはならないからである。
『古典外交の成熟と崩壊』より
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これ分かりますかね?「この相矛盾する二つの要請を調和させなくてはならない」。「調和」という言葉は=harmonyですから、なんか優しい感じがしますが、そうではない。
相矛盾=対立するものを「調和」させる、ということが大事、ということです。

で、当時、あまり上手くいってない「東進衛星予備校」のFCの様々な問題、課題の解決について、この高坂正堯先生の国際政治学についての言説をヒントに色々考えてたことを思い出します。
下手な組織理論のハウツー本より、よっぽど高坂氏の国際政治学の著作のほうが組織のリーダーシップに応用できる、と若き日の竹村君は思いました(笑)。

ということで、今回のロシアVSウクライナの戦争も、国家をひとつの組織とみたて、プーチンとゼレンスキーのリーダーシップという観点から思考をふくらませると、様々な学びがある気がします。勿論、一日も早く終わって欲しいですが。

ーー引用終わりーー

そうなのですね。全く同感です。やはり単なる政治や外交論ではなく、そのままビジネスに応用できるのが高坂さんの思想。私が一番好きなのは彼の書いた日本現代史です。これは今は絶版なんですけどね。

今回私が歴史から学ぶべきだと思うのは、ソ連が軍事介入した1956年の「ハンガリー動乱」です。

ソ連が共産国の社会主義国家ハンガリーでの学生や不平不満デモを軍事介入し、戦車で反体制派市民を弾圧・鎮圧していきました。

1956年ですから、独裁者スターリンが死んだ直後とはいえ、まだまだ冷戦真っ只中です。日本でも当時は岩波知識人や左翼知識人、文学者の小田実や大江健三郎などを中心に、「ソ連邦」や「北朝鮮」の先進的な革新体制こそが人類の未来だ、と各種マスメディアで賞賛されていた時期でしたが、このハンガリー動乱を機に、「軍事」で「反体制市民」を圧殺するソ連の現状が見えてきました。当然自由主義陣営、西側諸国は一気に危機感を持ちました。

この当時、日本でも左派イデオロギー政党は「この事件」を「どう見るか」で、ハンガリー動乱への反応は二つに分断されました。

当時の野党第一党だった「社会党」は左派は「ハンガリー市民は、反革命勢力」だとして、ソ連政府の「戦車と軍事制圧」を肯定。一方で社会党内の右派(議会制民主主義容認で、欧州型の社民路線派)は「ソ連型共産主義の破綻」として、ハンガリー動乱でのソ連軍を厳しく批判しました。

当時の宮本顕治時代の共産党は「ソ連の軍事介入」を「肯定」しました。今では「巨悪のロシアや中国批判」を赤旗でもしていますが、このころまでの日本共産党は、まだまだ「本家ソ連寄り」だったのです。

ハンガリー動乱の背景にあるフルシチョフ指導者時代、ソ連近隣の東欧諸国で「自由化」宣言をされることは、即座に「ソ連社会主義と敵対する」とみなしたわけです。まさしくプーチンがウクライナ・ゼレンスキーを「ナチス」と言い放ったロジックとかぶりますね。

ここからソ連が使うようになった外交ロジックが「制限主権論」です。

おそらく鍵となる考えは「シン制限主権論」をロシアがどこまで適用してくるか。

ちなみにソ連は、ゴルバチョフ時代でようやく「制限主権論」の主張を取り下げ、「東欧各国」の「自由化・民主化」の独立解放を、ようやくソビエトは認めるようになります。

・プーチンが目指す「ネオ制限主権論」

ウクライナ軍事侵攻もプーチンなりの「ネオ制限主権論」といっていいでしょう。

おそらく、プーチンも300年続いたロシア帝政(ロマノフ王朝)スターリン時代のソ連型独裁社会への回帰を目指しているはずです。

ここに加筆すべきは、ネオ「制限主権論」のロジックで、「ロシア・ベラルーシ・ウクライナ統一型の「新ロシア帝国」を作ることです。このために、少しでも西側のような「自由主義」に傾くこと、「NATOに加盟を求めようとする」ことは、絶対に許さない。これは宣戦布告とみなしうる。

今後これは、プーチンの軍事弾圧により、ますます強まっていくはず。

ロシア・ウクライナ は「少数民族問題」を常に抱えています。

20年前の古い本ですが、梅棹さん編の「世界民族問題事典」で旧ソ連・ロシアの民族問題紛争がまとめられています。

「ネオ・ゴルビー主義者」の私としては、プーチン路線は真っ向から否定したいわけですが、それにしては、ウクライナでも、数々の民族問題が残っていることを痛感します。

残念ながらこの戦争で泥沼になっても、ロシアは、より以前と比較して、強固な「ロシア統一帝国回帰」をするでしょう。21世紀の「新しいロシア・ウクライナ統一帝国戦争」から幕開けし、ロシア軍が軍事介入し、ロシアのいうことを聞かない国々のトップを処刑していく。

少なくともクーデターが起こらない限り、まだあと10年はプーチン独裁政権は続くわけですから。

おそらく、プーチンが考えている歴史の先発事例では、1923年のポリシェヴィキ(ロシア共産党)によるウクライナ併合化事件が念頭にあるのだと思います。1917年10月革命で、ロシア革命政権闘争が幕開けします。そこからロシア革命は内戦状態になり、レーニンを指導者とする「ソヴィエト(「評議会」を意味するロシア語)政府」になるまで、かなり時間はかかっています。でも当時も、ロシアが抱える問題は常にウクライナでした。

全くもって、今回とかぶります。クリミア・チェチェン侵略と「ソビエト・ウクライナ戦争」をだぶらせるのはいかにもKGB出身のプーチンらしい発想ですが。

1917年のウクライナ大統領は「ウクライナ=ルーシ論」を唱えたムィハーイロ・フルシェーウシクィイ

のちに彼は民族主義者として、ソ連政府に投獄され、殺されます。

元々ロシアとウクライナの歴史はかなり揉めあっています。「キエフ・ルーシ大公国」あたりで検索してください。

・インフラと天然資源、そして「自由と民主主義、保守主義」をどう守るかがますます鍵になる2030年

豊かな社会だから、「自由」とか「民主主義」のお題目が成立する。文化が咲き誇れる。メディアやip、広告産業が成り立つ。これが当たり前だとつい3週間前まで誰もが思っていました。ロシアの愚行によってそれらの前提は覆され、市街戦の戦争、そして「21世紀型サイバー冷戦回帰」の様相を呈しています。

今後、プーチン皇帝帝国(統一ロシア)の中の、「プーチンあんまり内心よく思わない系」議員は粛清されて、処刑や交通事故処理で「殺害・消去」されていきます。まさにKGBが暗躍していた時代の旧ソ連に今後は戻っていくわけですが、それ以外の関係性はどう変わっていくのか。

例えば、かつて「NATO」を批判した勢力にイタリア共産党などの「ユーロ・コミュニズム系勢力」があります。彼らは、ソ連型共産主義・共産党一党独裁ではなく、新しい欧州型のリベラルな共産主義・社会民主主義的な共産主義を目指そう、という運動でした。ユーロコミュニズムは結局破綻に終わり、一部のソーシャルデモクラットは残りましたが基本的に破綻か退潮傾向にあります。

かんがえてみても、19世紀まで「帝国主義」の時代と、20世紀は革命で幕開けし、戦争から経済恐慌が起こり、新しいタイプの自由貿易が没落してきます。当然格差が生まれます。そして、新しいタイプの多国籍企業、グローバリゼーションができます。

ついに冷戦崩壊後の90年代になるとインターネットの登場により、誰もがパソコンや携帯電話、スマートフォン一個でビジネスができるようになります。資本と情報の民主化です。その背景にはマイクロソフト、IBM、アップル、アマゾン、グーグルといったテクノロジー企業が個人を支えてきた背景があります。簡単に「アメリカ資本主義の帝国」と批判することはいうまでもなくできません。

しかし、「自由な」国はまだまだ少ない、資源の乏しい国、国土のない国、識字率の低い国で、インターネットはまだまだ成果が少ないのです。

今回の事態でロシアは急速にネットをシャットダウンさせ、中央局中心、かつてのソ連の「プラウダ」のようになっていくでしょう。

ロシアに関するインフラ・天然資源・宇宙開発を即刻ストップさせ、「日本の自前主義インフラと農業」をしていかなければなりません。とくに電気代は、おそらく日本でも3倍レベルに跳ね上がる可能性も高く、工場や企業はもちろん、一般家庭まで経済的影響が出ます。

ロシアも、今回開戦時から、一貫して「新しいロシアの歴史の幕開け」を強調しています。「ロシアが勝つための歴史」を共有し、ウクライナを制圧するロジックに変換させています。この戦争の結末はまだ停戦合意まで見えていませんが、ソ連の1923年まで、79年からの10年間のアフガン侵攻、チェチェン侵攻、そして2014年のクリミア占領まで見ても、最終的に、おそらくプーチンの軍事的な読みが勝つのでしょう。

ロシアでは「ナチスの協力者」、一方で「ウクライナ」では、近年再評価されてるのが「ステパーン・バンデーラ」です。

プーチンが一生懸命叫ぶ「ナチス」というのは必ずしも「ゼレンスキー大統領(彼は名前でもわかるように、ユダヤ系です)」だけを指すのではなく、この「バンデーラ」も含まれているようなのです。

彼は生前ヒトラーと会ったことはないけれど、「ソ連」と「ナチス」の両極のスパイのような民族主義運動のリーダー的存在でした。

「ウクライナがロシアだったら、素晴らしい国になれるのに。。。」

彼を必要以上にウクライナでも賛美してしまったキライはあります。そこで、あのプーチンの「ナチが、」というスピーチになったようなのです。


今私たちは「日本」で「日本人」で、「日本語」をしゃべっていますが、完全なる単一民族国家です。一応琉球とアイヌのひとたちが北海道と沖縄でいますが、しかし99.9999%は「日本人」なのです。

つくづく、ロシアとウクライナの民族問題は根深い。

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