1058 単記非移譲式投票
単記非移譲式投票
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社会選択理論
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単記非移譲式投票(たんきひいじょうしきとうひょう、英: single non-transferable vote; SNTV)は、投票制度のひとつである。この制度では、各々の有権者は1人の候補者を選んで投票し、得票の多い順に所定の人数が当選者となる。一例として、4議席の選挙区であれば得票数で上位4人の候補者が当選となる。落選した候補への票や当選が確定した候補が得た余剰の票が、他の候補に移譲されることなく死票となる点で単記移譲式投票と対照的な制度である。
仕組みと特徴
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例
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単記非移譲式投票の大選挙区制選挙で、5人の候補者(a1、a2、b1、b2、c1)が3議席を争い、a1、b1、b2が当選したとする。
得票数候補政党3207a1A党1999b1B党1996b2B党1804a2A党819c1C党
これを政党ごとに集計する。
政党得票数得票率議席数A党501151 %1B党399541 %2C党8198 %0
A党はB党より多くの票を獲得したが、候補者間で非効率な票の偏りが起きたため獲得議席数が少なくなった。仮にA党やB党が3議席を独占しようとして3人の候補者を擁立し、さらに得票が偏在した場合は、C党の議席獲得のチャンスが高くなる。
比例代表
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ゲイリー・コックスらによれば、単記非移譲式投票は、有権者の支持に関する情報を各党がかなり正確に把握し、有権者の支持の程度に従って候補者を擁立するとき、理論的には比例代表制(ドント式)と同じ結果になる。また、当選枠の数をMとすると、候補者aは得票数の
(ドループ基数)以上を獲得すれば当選が保証される。なぜなら、得票数で上位(M+1)番目以降の候補者は、候補者aよりも多くの票を得ることができないからである。
しかし、各党が自党の力量に比例した当選者数を得ることは非常に難しい。なぜなら、自党と他党の力量と、他党の候補者擁立数の動向を正確に判断したうえで、自党が擁立する候補者数を決めなければならないからである(戦略擁立)。たとえば擁立する候補者が多すぎると、自党支持者からの票が分散(票割れ、Split vote)し、各候補者の得票数が他党の候補者の得票数を下回ってしまうことで、結果的に共倒れになる恐れがある。逆に擁立する候補者数が少なすぎると、候補者が過剰に得票した分は無駄票(広義の死票)となり、自党への支持に比べて獲得議席数が少なくなってしまう。さらに、たとえ適正な人数の候補者を擁立できたとしても、自党支持者からの得票を候補者間で偏りなく分散(票割り)させないと、政党単位での得票数に比べて獲得議席数が少なくなってしまう恐れがある(上記の例のA党)。
但し有権者が戦略投票を行えば、過剰な候補者は得票数0%の実質不出馬状態になり、かつ、均等な票割りがされた状態に収斂していく。この場合、政党側が過剰に候補者を擁立したり、他党に自党と類似した候補を立てられても、票割れが抑えられ、各党が自党の力量に比例した当選者数を得る。ちなみに、候補者数を絞りすぎた政党がある場合は、「有権者」側では修正出来ない。しかし、投票権だけでなく立候補権もある「主権者」であれば、その政党に類似する無所属候補を候補者を絞りすぎた政党に補充することが出来る。多くの場合、有権者の殆どは立候補権ももっているので、候補者不足は問題にならない。つまり、単記非移譲式投票で比例代表の性質が破れるには、政党側の戦略擁立失敗だけでは十分ではなく、有権者側の戦略投票失敗も必要となる。
なお、単記非移譲式投票は、選挙区の大きさ(当選枠の数)が大きくなるにしたがって、より比例的な選挙結果をもたらす。
戦略投票との親和性
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単記非移譲式投票は、有権者に戦略投票を促す可能性が大きい。選挙結果の推測が可能で、合理的な投票行動をとる有権者ならば、自らの1票が死票になることを避けるために、(本命の候補者ではなく)当落線上にいる次善の候補者に投票することになる。このため、この条件の下では特定の候補者が極端に大勝することは無い。このことは、政党が他党の候補者から票を奪うためにその対立候補に似た候補者を立てる戦術擁立の可能性を示唆している。
また、選挙予測報道などで一旦「当落線より低い得票数しか獲得できない」と多くの有権者に判断された候補者は、当落線上の候補者に票を奪われさらに得票率が下がる、という悪循環に陥る。立候補の時点で十分な得票数の見込みを有権者にアピールできない候補者は、立候補の瞬間からこの悪循環に嵌まり、単に落選確実になるだけでは済まず、得票率がその下限である0%近くまで落ち込み、供託金没収も確実になる(泡沫候補)。逆に言えば、有権者の選択肢は公示日の時点から事実上制限されており、被選挙権を持つ人がその権利を実質的に行使するには、有力な集票組織からの公認やそれに代わる知名度(たとえばタレント政治家)が必要となる。このように、当選枠の数がMの選挙区では、泡沫候補に転落することなく選挙戦を戦い抜ける候補者は(M+1)人に限られるので、この選挙区から出馬する候補者数も次第に(M+1)人へ収斂していく(デュヴェルジェの法則)。
当選者の得票率は全員、(当落線ギリギリ程度の得票率と)等しくなるように収斂していく(当落線を越える得票は無駄票になるため、当落線上の候補者に奪われる)
次点以外の落選者は得票率が0%に収斂していく
この二つの性質は、比例代表の項で述べた性質を生み出す根拠となっている。
後援会、党内派閥、利益誘導
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単記非移譲式投票の大選挙区制選挙に出馬する候補者は、他党の対立候補だけでなく、場合によっては自党の候補者とも得票を競わなければならない。政党としては擁立した自党候補者を目論見どおり全員当選させたいと考えるが、支持者からの票を候補者間で均等に票割りすることは、よほど高度に組織された政党でない限り困難である。
J・マーク・ラムザイヤーとフランシス・ローゼンブルースは日本の中選挙区制について分析し、単記非移譲式投票の選挙制度が、(1)自前の後援会組織の育成と地元選挙民へのサービス、(2)党内派閥への帰属、(3)地元選挙区への利益誘導による自党対立候補との棲み分け、に対して強い誘因をもたらしていたと論じている。
→詳細は「中選挙区制 § 政治的帰結」を参照
各国と地域の例
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現在使用中
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かつては立法院と地方議会の議員が単記非移譲式で選ばれていたが、立法院については2008年1月の選挙から小選挙区比例代表並立制が採用されている。現在は、原住民枠において単記式の大選挙区制が採用されている。
かつては衆議院議員総選挙(いわゆる中選挙区制)や参議院議員通常選挙の全国区で単記非移譲式が採用されていた。現在でも参議院の選挙区、都道府県議会、市区町村議会(一人区を除く)で使用されている。政治以外においては、日本相撲協会の理事選でも大選挙区単記制が使われている。
過去に使用
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第四共和国と第五共和国時代の国会議員選挙において採用された。定数は一律2名。
参考文献
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関連項目
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外部リンク
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大選挙区制
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出典検索?: "大選挙区制" – ニュース·書籍·スカラー·CiNii·J-STAGE·NDL·dlib.jp·ジャパンサーチ·TWL(2022年7月)
大選挙区制(だいせんきょくせい)とは、1つの選挙区につき複数名を選出する選挙制度の総称である。
概要
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大選挙区制(en:multi-member district) は、地域ごとに選挙区を区分けし、一選挙区につき2人以上の当選者を出す選出方法の総称である[1]。広義には、少数代表制や比例代表制を含めることもある。完全連記などの多数代表制を用いることもできるが、同じ定員を複数の選挙区に分割する小選挙区制と比較すると、地域の特性をも反映しにくくなり小政党の進出を難しくする。
死票の少ない選挙結果を得ることができる一方、同一政党間における同士討ち問題が生じるなどの欠点がある。上記のうち、名簿式比例代表制を用いたものを除外する用法もある[2][3]。
歴史的には、大選挙区制の呼称は、戦前において府県を基本に市部に独立選挙区をおいた1902年から1917年までの衆議院選挙を指す。また、戦後1946年の総選挙で47都道府県中40府県において都道府県単位による選挙区単位としていた制度を指す。
また、選挙関係者の間では、1議会を1選挙区から選出する市区町村議会を大選挙区、複数選挙区に区分して選出する都道府県・政令指定都市議会を中選挙区(定数1の選挙区は小選挙区)と慣例的に呼び分けることがある。(en:At-large)
特徴
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一つの選挙区につき複数名の当選者を選出することによって、死票が少なく国民の多様な意思を反映した結果を得やすいという長所がある。しかし、同一政党間における同士討ち問題が生じること、候補者は有権者との距離が遠くなること[注釈 1]、多数の立候補者に有権者が混乱すること、選挙費用が多額になること[注釈 2]、補欠選挙を行いにくいことなどの欠点を合わせもっている。また、単記非移譲式を用いた場合、金権腐敗体質の招きやすいとの指摘がある[注釈 3]。
選挙方式
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政党名簿式比例代表制をのぞくと、投票方式としてはいくつかあり、次のような方式がある。
完全連記制
選出する人数分だけ候補者を選ぶ方式 (Bloc voting)。
制限連記制
選出する人数より少ない人数分の複数の候補者を連記する方式 (Limited voting)。
ボルダ得点
各候補者に1位、2位、3位、と順位をつけて投票し、それぞれの位に応じてポイントを割り振り、ポイントが多い順に当選する方式 (Borda count)。比例代表になるよう改良された種類もある。
単記非移譲式投票
当選者数に関わらず、一人の候補者だけを選んで投票する方式 (Single non-transferable vote)。
単記移譲式投票
優先順位を記述し、その選好によって票が移る方式 (Single transferable vote)。単記でも連記でも順位をつけることができるが、票が生きるのは一つの候補に対してのみである。
認定投票
選出する人数に関係なく自由に単記・連記できる方式 (Approval voting)。 多数代表になるのを避けるために調整が加えられることもある。
累積投票
複数の候補を選んで投票するが、一つの候補に票の価値を集中させることもできる方式 (Cumulative voting)。
日本の事例
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政党名簿式比例代表制をのぞくと、日本では2021年4月現在、参議院選挙の選挙区の一部と、地方議会議員選挙のほとんどで大選挙区単記非移譲式が採用されている。
衆議院議員選挙では長い間、大選挙区単記非移譲式が用いられてきた(中選挙区制を参照)。また、1890年の第1回衆院選から1898年の第6回衆院選まで2人区において2名連記の完全連記制、1946年の第22回衆院選において、定数10以下の選挙区では2名連記、定数11以上の選挙区では3名連記といった制限連記制が行われていた。また、参議院選挙の全国区制も大選挙区単記非移譲式であった。
脚注
注釈
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^ 小選挙区として選挙区を細分化されていれば、候補者は僻地の過疎地の有権者の票を獲得するために候補者自身が過疎地におもむいて遊説をするなどの政治活動・選挙活動をする動機が高くなるが、大きな地域による大選挙区では候補者自身が僻地の過疎地におもむいて遊説をするなどの政治活動・選挙活動をする動機が小さくなる。
^ 一つの政党が各有権者に対してかける選挙費用は区割りでは変わらないので、選挙区一つあたりでの選挙費用は選挙区の大きさに比例するが、選挙区数は選挙区の大きさに反比例する。このため、選挙費用の全国合計は小選挙区制とほとんど変わらないという意見もある。日本の公職選挙法には選挙費用の上限が定められているが、日本が中選挙区制を採っていたときも小選挙区制を取り入れても、大半の当選者は上限ギリギリまで費用を使っている。
^マルタやアイルランドなどの国と日本国との比較から、大選挙区制の問題ではないという意見もある。ただし、この2国はいずれも単記移譲式投票制度を採用する国である。
出典
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関連項目
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