994 夏休みの読書・ゴールドマン・サックスの経営陣が、夏休みにお勧めの本を紹介
オススメ本コンテンツ。今年は掲載されなかったです。
夏休みの読書2016
ゴールドマン・サックスの経営陣が、夏休みにお勧めの本を紹介します。
2021 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017 | 2016
植田 栄治 (ゴールドマン・サックス証券株式会社取締役)
15 AUG 2016
デフレの正体 ー 藻谷浩介
今でこそGDPの成長には労働人口比率の増加が重要であることは定説になっていますが、長らく、多くの人がその原因を理解できていませんでした。日本がデフレ経済に陥った原因を突き止め、明快に解説しているのが2010年に出されたこの本です。日本と同様、他の先進国も労働人口比率が頭打ちになり、低下し始めていることを踏まえると、なぜ2008年にアメリカ発でリーマンショックが起きたか(アメリカの労働人口比率のピークアウト)、リーマンショック後8年たってもなぜアメリカの長期金利は1.5%を切っているのか(更なる老齢化に伴う潜在成長率の低下)、ヨーロッパはなぜマイナス金利に踏み切ったのか(ヨーロッパ各国は2005-2010年に労働人口比率がピークアウト)、中国はなぜ潜在的に大きな問題になりえるのか(2014年以降労働人口比率の急低下)など、現在進行形の謎の多くが非常に簡単に理解できます。更に低成長が人口構成に起因するとすれば、当然解決に相当の時間がかかります。世界中の中央銀行は長期にわたって超金融緩和政策を取り、資本主義やお金そのものに対する考え方にも影響が出始めています。最近の金の高騰はまさしくそれを反映していると思います。この本は今後の世界を見通す上での基本的な考え方を示してくれる、分かりやすい状況分析本だと思います。
友清 寛之 (ゴールドマン・サックス証券株式会社証券部門マネージング・ディレクター)
15 AUG 2016
小さき者へ ― 有島武郎
「行け。勇んで。小さき者よ」というフレーズで有名でしょうか。母を亡くした幼い我が子達に対する、父親からの真情溢れるエールです。ごくごく短い、ストレートな文章ですが、一人の父親として子供達に伝えたいメッセージに強く共感しました。子供達が成長し、(肉体的には)小さき者ではなくなり、自己主張も始めて色々悩ませてくれるようになった今でも、読む度にこのメッセージに首肯し、改めて子供達と真摯に向き合えますし、また時折、厳しかった亡父のことを考えたりもします・・・ご家族と過ごす夏休みに、是非読んでみて下さい。
アダム・スミス『道徳感情論』と『国富論』の世界 ー 堂目卓生
昔、学校で習ったアダム・スミスと言えば『国富論』、「見えざる手」の人。市場には調節機能があるので、個人が各々の利益を追求することが、結果的には社会全体の富の発展に資する、といった思想の人というイメージでしたが、その人による「道徳」という一見対極的なテーマを扱った著作があると知って興味を持ちました。本書はスミスが『国富論』で示した社会システムの前提として、個人はどのような存在であるべきと考えていたかを解説してくれています。豊かさへの欲求を肯定しながら、そもそも人はなぜ富を求めるのか、究極的に求めるべきものは何かについてスミスがどう思案していたかを知ることができ、考えさせられた一冊でした。
桐谷 重毅 (ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント株式会社代表取締役社長)
10 AUG 2016
史記 ― 司馬遷
BC94年からさかのぼること2500年にわたる中国史の大作。主要な部分が編年体でなく紀伝体で構成されており、歴史上の人物が(王侯貴族だけでなく泥棒や刺客まで含まれている)どう生きて、そして何のために死んでいったのかを描いている。もし自分ならどう行動するか考えながら自分の好きな章を繰り返し読むようになった。著者の人生もドラマティックである。罪に問われて死罪となった身を宦官になることを選択して生き延び、その恥に耐えながらこの本を完成させたのである
銃・病原菌・鉄 ― ジャレット・ダイアモンド
ヨーロッパ民族は銃と鉄と、そして何よりも病原菌への耐性の強さで他大陸の民族を征服していった。ではなぜ征服する民族と被征服民族の差が生まれたのか。それは人種の優劣ではなく、たまたまその民族が居住していた地理的環境に依存するものである、ということをさまざまな観点から論証している。たとえば農業や畜産業に適した動植物がたまたまユーラシア大陸に存在し、それが大陸を東西に伝播しやすかったことなど。大いに知的好奇心を刺激してくれる一冊。
矢野 佳彦 (ゴールドマン・サックス証券株式会社投資銀行部門M&A統括責任者)
10 AUG 2016
吉田秀和全集第17巻「調和の幻想」 ― 吉田秀和
泰西泰東の絵画や建築物の評論。著者はじっくりと対象物を見つめ、観察眼を鋭く駆使して精確なことばで描写する。そこから、何かしら「ふつうでは説明のつかない」疑問を見出す。この疑問から出発する著者の闊達な思考に、しなやかで精緻な文章が寄り添って生き生きと展開され、やがて豊穣で穏やかな広大さを持つ深淵へと読者を誘う。観念的な精神論は排され、「自分の見たもの」の意味を自ら反芻し徹底的に吟味しながら読者とともに考えを進める。この本は、「優れた物の見方(「仕事」)は、厳しい自己批評と訓練を経た高度な知性、経験に基づく豊かな感受性、そして何より対象への忍耐深い愛情を必要とする」という真理を読者の眼前で実践した驚くべき作品である。日本語で書かれた文章の中でも最高峰に属する美しさ。18巻の「セザンヌ」もすごい。一冊の本が呼び起こす感動は深く人生観を変える。
小林 悦子 (ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント株式会社専務取締役)
08 AUG 2016
天才たちの誤算 ドキュメントLTCM破綻 - ロジャー・ローウェンスタイン
リーマン・ショック・コンフィデンシャル - アンドリュー・ロス・ソーキン
今の金融を知るためにも、その土台となっている過去の大きな出来事を学ぶ意義は大きいと思います。どんな優秀な人でも失敗や挫折があるように、金融の世界でも1998年と2008年にそれまでの常識を覆す大きなショックを経験しました。今回の本はそれらのショックが起こった背景やその頃の市場についてかなり詳細に書かれており、臨場感満載です。過去に学びそれらを将来に生かすためにも、私も折に触れて読み返しています。
賢者の投資 金融危機の歴史に学ぶ - 古賀信行・佐々木文之
これもリーマンショック、LTCMショックも含めた長い金融危機の歴史に関する本ですが、時間がない人にとってはこちらがお勧めです。仕事をしているとどうしても「今」や「今後」に目を向けてしまいがちですが、「歴史」を学ぶ重要性を忘れてはいけないと思います。歴史的教訓を学び、考え方を学ぶ。それが将来に対する自分の洞察力に繋がると思っています。
ベンジャミン・ファーガソン (ゴールドマン・サックス証券株式会社証券部門マネージング・ディレクター)
08 AUG 2016
No Place to Hide: Edward Snowden, the NSA and the US Surveillance State by Glenn Greenwald
Greenwald was The Guardian reporter chosen by Snowden to break the story of the NSA’s vast powers of internet and smartphone surveillance. He painstakingly analyzes the NSA programs leaked by Snowden and starts a debate on the political, media and civil rights issues the programs have created. Greenwald’s account is a suspenseful and lively read. It also does a great job of explaining the technical details of various programs in accessible language.
Nineteen Eighty-Four by George Orwell
With the context of the Snowden leaks and NSA programs, I re-read 1984. Orwell’s dystopian 1950’s masterpiece proves more prescient today than 1984. It resonates in our world of disaffected politics, state-sponsored surveillance and geopolitical tension. One thing Orwell got wrong: His ubiquitous telescreens used by big brother to monitor citizens are a considered a threat by the main characters. Today, we happily drop a GPS enabled smartphone with video / audio components and geo-tagging into our pockets that can easily double as a tool to monitor every move in our lives.
夏休みの読書2017
ゴールドマン・サックスの経営陣が、夏休みにお勧めの本を紹介します。
2021 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017 | 2016
居松 秀浩 (ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
16 AUG 2017
Creative Confidence ― トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー
新しい価値を創造する、それこそ今、様々なところで求められていることではないでしょうか。例えば過去10年に起きたことは、想像を超えるものであったし、今後10年に起きることもおそらくこの10年の延長線上にはないのかもしれません。それは、いままでの既成概念の破壊からもたらされるのでしょうか。クリエイティブであることとは何なのか、そしてそれがどのように達成されるのか、この本はそのヒントになります。筆者によれば、人は皆クリエイティブタイプであって、クリエイティビティはゼロから造られるものではなく、各々が持っているものを再発見することによって生み出されるもの。ただし、その創造性の真の価値は、各々が恐れることなく自らの考えにそって勇敢に行動することによってもたらされる。大人になればなるほど、経験を積めば積むほど、先入観に捕われて、物事を新しい目で見ることができなくなってしまうとも言えるのかもしれません。たしかに子供のように純粋に簡単に一歩踏み出せば、面白い発見があるかもしれないのです。
梅谷 俊彦 (ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
15 AUG 2017
GRIT やり抜く力 ー アンジェラ・ダックワース
正月休みに日本語で読んで感動した直後に、偶然、著者にお会いする機会があり、頂いた英語の原典を再度読みました。
マッキンゼーでの勤務を経て教師になり、更にペンシルバニア大学の心理学者になった著者が探求し続けたのは、「達成」や「成功」の真の要因は何か?という命題。激烈な競争倍率を誇る「米国陸軍士官学校(ウエストポイント)」に合格する最も優秀な学生が、入学直後に行われる「ビースト・バラックス」と呼ばれる過酷な基礎訓練で大量に脱落してしまうのは何故か?オリンピックで金メダルを取る選手の成功要因は「才能」か?Amazonを設立したジェフ・ベゾスは何故成功したか?
それは、単なる才能ではなく「GRIT(やり抜く力)である」と。GRITとは、Passion(情熱)とPerseverance(粘り強さ)を備え、断固たる強い決意を持つことであると著者は説きます。「才能」×「努力」=「スキル」であり、「スキル」×「努力」=「達成」であり、たとえ2倍の才能があっても、1/2の努力では、努力家には大きく差をつけられてしまうだろう。こういった研究成果を、興味深い事例を使って平易な文章で解説しており、自分の職場での組織運営、部下育成に留まらず、子育てや自らの人生に対する姿勢など多面的な示唆に富み、勇気づけられる著作です。
キャシー・松井 (ゴールドマン・サックス証券株式会社副会長)
10 AUG 2017
Pachinko ー Min Jin Lee
Too little has been written about the history of Korean immigrants in Japan, but Pachinko is a page-turning saga about four generations of a Korean family trying to assimilate in 20th century Japan. I got to know Min Jin when she was conducting her research in Tokyo, and this novel delves into the complex, and often misunderstood, history between Korea and Japan. At the same time, it’s a dramatic and poignant tale of an immigrant family’s multi-generational struggles with their identity—something I can relate to—which also has significant relevance in today’s political context
Half the Sky ー Nicholas Kristof and Sheryl Wudunn
While we’ve seen progress in narrowing the gender gap in developed nations, this book is a sobering reminder that there are still many parts of the developing world where oppression and violence against women and girls persists and is sadly ignored. As the mother of a daughter, the individual stories are somewhat difficult to read, but by proposing concrete solutions, Nick and Sheryl challenge each of us to wake up and take action. This book helped inspire me to support women’s education through the Asian University for Women (www.asian-university.org).
衣畑 秀樹 (ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント株式会社マネージング・ディレクター)
9 AUG 2017
ルービン回顧録 ー ロバート・ルービン
筆者はゴールドマン・サックスの元共同CEOであり、私が所属している部署の前身であるリスク・アービトラージ部門を立ち上げた人物である。ゴールドマン・サックスを退社後、クリントン政権下で大統領経済諮問委員会の委員長、財務長官を歴任した。アジア危機中に当事者として困難な状況にいかに対処し判断したかの過程を臨場感溢れる形で描いている。不確実性が多い中での意思決定のプロセスが、ビジネスの世界でも政治の世界でも共通する部分が多く読んだ当時とても新鮮だった。金融危機というのはその局面によって形を変えて訪れるものであるが、どの局面においても冷静にその時最善と思われる判断を下していく様子が興味深い。
竜馬がゆく ー 司馬遼太郎
言わずと知れた歴史小説だが読むたびに胸が熱くなる。幕末の揺れ動く時代に学歴も組織の後ろ盾も財力もない坂本龍馬が日本中を奔走し、明治維新への原動力となった様子を司馬遼太郎独特の語り口で物語は進む。龍馬の固定観念に囚われないビジネスセンスには学ぶところが多い。中岡慎太郎などそれほど有名ではないが重要な役割を果たした人物が多く登場するところも面白い。
夏休みの読書2018
ゴールドマン・サックスの経営陣が、夏休みにお勧めの本を紹介します。
2021 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017 | 2016
村田 貴士 (ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 16 2018
Hit Refresh - Satya Nadella
Written by the third CEO of Microsoft after few years into his role as a CEO, this is a book of two halves. In the first half, Nadella shares the inside story of Microsoft’s transformation and how the company rediscovered its soul, reflecting on his own personal journey from an Indian upbringing to working in the U.S tech sector. In the second half, the author talks through his vision and questions for the future regarding the rapid technological developments occurring in our world. In both parts, Nadella focuses on the importance of empathy as a key quality for humans and organizations. An honest and insightful account of change and growth, the book is very relevant to an individual or company facing the challenges of adapting to an evolving world.
藤田 直介 (ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 14 2018
トータル・リーダーシップ ウォートン校流「人生を変える授業」 - スチュワード・D・フリードマン
長いキャリアの中でときに行き詰ってしまうことがある。仕事は空回り、家族や友人とも気がづいたら疎遠になったりぎくしゃくしている。そんなとき手にとった本がペンシルバニア大学ウォートン校フリードマン教授の人気授業を著書にした「トータル・リーダーシップ」だった。自分の人生を4つの領域、①仕事、②家庭、③コミュニティ、④自分自身、にわけ、本のワークをステップ・バイ・ステップで着実にこなしていくと、それぞれの領域で自分にとって大切な価値観が明確になり、ひとつの領域に偏重することなく、人生のバランスと生きがいを取り戻すことができるというのがみそだ。例えばそれぞれの領域の自分のステークホルダー(仕事=上司・同僚、家庭=パートナー・両親など)を具体的に書き出し、自分がステークホルダーに期待すること、ステークホルダーが自分に期待することを明らかにして、ステークホルダーと実際に会う。そこで得たフィードバック・気づき(期待を勘違いしていたことが判明することもある)を踏まえて、(関係が悪化しているのであれば)関係修復のための行動を策定し実践するといった具合だ。こうした作業を通じて、人生に対して抱いている漠然とした不安・焦りを具体的な目標と行動に転換することができ、私自身人生が少しずつ変わっていくことを確かに実感することができた。実践するために多少の意志は必要となるが気心の知れた仲間とお互いをコーチとして実践してみたらどうだろう。皆さんもこの夏自分の人生ポートフォリオの棚卸しをしてみませんか?
伊藤 真理 (ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 10 2018
FREAKONOMICS (ヤバい経済学) - スティーブン・D・レビット/スティーブン・J・ダブナー
この“FREAKONOMICS”のシリーズ本は、ジャーナリストとシカゴ大学教授の共署で、世の中のあらゆる事象の隠された根本的な真実を、経済分析や統計的な視点で暴くというものです。扱われているテーマは、「学校の先生は自分の評価を高めるために標準テストの採点で不正をしているのか」、「ドラッグディーラーの親分は金持ちなのにどうして末端のドラックディーラーは貧乏なのか」、「犯罪率が急減した本当の理由はなにか」、「角番力士の取り組みでは不正が行われているのか」など、常識を疑い、真実を焙り出すもので、堅苦しい経済学とは全く一線を画しています。経済分析とはいっても全く難解ではありませんし、経済学の知識がない人にとっても娯楽として楽しめるシリーズです。真実を徐々に暴いていくような推理小説的な面白みがあったり、一般的に理解されているものとは反する真実を証明したりするアンチ・エスタブリッシュメント的な痛快さもあります。リラックスした夏休みに読む本としてはお勧めです。
夏休みの読書2019
ゴールドマン・サックスの経営陣が、夏休みにお勧めの本を紹介します。
2021 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017 | 2016
上田 彰子
(ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 16 2019
アラスカ物語 ― 新田次郎
今年の夏季休暇は大好きなアラスカを再訪する機会を得ました。アラスカに関連する書籍というと、荒野へ(原題 In to the Wild, John Krakauer)や星野道夫さんのものが有名ですが、アラスカ物語は、実話に基づくフランク安田さんという日本人男性の数奇な運命の物語です。15年ほど前彼の墓標のある北極圏直下にあるアラスカ州バラー・ビーバー村を訪問しました。その小さな村へプロペラ機で向かう途中、眼下に広がる雪に覆われたユーコンの雄大な景色をみながら、小説で描写されている犬ぞりで雪原を何日もかけてわたる場面が目に浮かびました。フランク安田の幾度も困難に立ち向かう強さに本を通じてふれてみてください。
AI vs 教科書が読めない子どもたち ― 新井紀子
本書については賛否両論あるでしょうが、日本の教育のあり方について一石を投じるきっかけとなっているのではないかと思います。AIが浸透し、更なる自動化が進むこれからの世界を生きていくうえで、必要なスキルは何かということを、2児の母として日々考えます。東京大学合格を目指すAI「東ロボ君」の話を通じて、読解力の必要性が語られています。論理的な思考、プレゼンテーション力の基礎ともなる読解力をどう育むのかは大事なテーマてす。
高山 大樹
(ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 9 2019
道は開ける ― デール・カーネギー
有名なロングセラーなので、お読みになった方も多いと思いますが、世の中で何かを成し遂げようと挑み続けている人にとっては、あらためて知っておくべき考え方かと思います。人生で直面する困難や悩みに対し、健全な精神状態を保ってどう乗り越えていくか、幸せや豊かさをどう実感するか、など先人の知恵が満載です。「悩みの大半は判断の根拠となる知識がないのにあえて判断しようとするから」という一文などは、「その通り」と深く納得しました。
ホワット・イフ ― ランドール・マンロー
「野球のボールを光速で投げたらどうなるか」「地球から海の水を抜いたらどうなるか」などジョークのような話を科学的に検証した娯楽本です。証券アナリストとしての私の仕事では「予想の必然」という場面に出くわすことがあります。点と点の事実を繋ぎ、その結果起こり得る一連の事象が客観的であれば、高い確率でその通りになります。こういう客観的な「What if」を考えられる人は仕事人としても魅力的な人だと思います。
松澤 正午
(ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 2 2019
失敗の本質 日本軍の組織論的研究 ー 戸部良一・寺本義也・鎌田伸一・杉之尾孝生・村井友秀・野中郁次郎
大東亜戦争における日本軍敗北の理由を、組織論という社会科学的アプローチから探究したベストセラーです。第1章でノモンハン事件から沖縄戦までの代表的な敗北6ケースを分析したのち、第2章で日本軍に固有の失敗要因について考察を行ない、第3章では日本軍がこうした特性を持つに至った根源を明らかにし、更に戦後日本の各種組織との連続性にも光を当てています。
第2章では米軍との比較を行うことで日本軍の特性を浮き立たせようとしていますが、「演繹的(グランドデザイン)」、「標準化」、「構造主義(システム)」といった米軍に対するキーワードは、米国系の会社に身を置く者として実体験に照らしても説得力が高いと個人的には思います。また末尾の「文庫版あとがき」では、結果的に30年間の平成の停滞を見事に予見していて興味深いです。
初版は35年前ですが、本書の分析は些かも色褪せるところはなく、いつ読んでも新しい発見があります。自分自身の仕事の進め方や、お客様へのアドバイスを考えるに際して、常に視座を与えてくれる貴重な一冊です。
吉村 隆
(ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 1 2019
平成金融史-バブル崩壊からアベノミクスまで ー 西野智彦
日本の金融システムが崩壊の危機に瀕したのは約20年前ですが、平成元年から明確化したバブル崩壊がそのきっかけをつくりました。思えば、平成の約30年間は日本の金融システムが大きくかわり、それが国民生活にも大きな影響を与えた時代でした。
私自身昭和60年から金融界に身を置いていますので、この30年間の激動の時代を体験してきました。この本を読むと、そうだった、そうだった、と懐かしく思うことが多く書かれている一方で、裏舞台で繰り広げられていた知られざる悲喜劇も紹介されていて、まさに、平成金融史になっています。
歴史は繰り返す、と言いますが、これからの金融界も激動の時を迎えそうですので、直近の過去を振り返るのも大事なことで、この本はそのための格好の素材だと思います。
夏休みの読書2020
ゴールドマン・サックスの社員が、夏休みにお勧めの本を紹介します。
2021 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017 | 2016
白井 俊道(ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 14 2020
深夜特急〈第一便〉黄金宮殿 - 沢木耕太郎
私の人生に大きな影響を与えた本というと、間違いなくこの一冊になると思います。この本は、1970年前半に著者がインドのニュー・デリーからイギリスのロンドンまで乗り合いバスだけを使ってユーラシア大陸を一人旅する旅行記です。この本を読んで、私も大学を1年間休学し、1997年大阪の南港から鑑真号に乗り上海からポルトガルまでバスと列車でユーラシア大陸を横断する一人旅をしました。色々な土地で、様々な文化や人々と直接出会えたことは人生の大きな財産になっていると思います。
〈第一便〉は、出発地のデリーに到着する前に立ち寄った香港・マカオ・東南アジアの話がメインです。旅の始まりである香港・マカオ編は、旅の熱気や計画のない旅の面白さが特に感じられる一作です。コロナ禍で旅行がしづらい今こそ是非。
喜嶋先生の静かな世界 - 森博嗣
推理作家で大学工学部の元助教授でもある作者の、学問の深遠さ、研究の純粋さ、大学の意義を語る自伝的小説です。この本を読むと、学ぶことの大切さを再発見できます。学べることの幸せを感じられます。何か新しいことが学びたくなります。そして、大学院時代が少し懐かしくなります。個人的には知的好奇心が無くなった時が、自分の成長の止まる時だと思っています。日々の仕事が忙しくて、新しいことを最近学んでないなと感じる方はこの本を読んでみてください。
江原 正弘(ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 13 2020
チーズはどこへ消えた? - スペンサー・ジョンソン
本書は2匹のねずみと2人の小人が迷路に隠されたチーズを探すお話ですが、1998年にアメリカで出版され、2019年時点で2800万部をこえるベストセラービジネス本です。
早いもので私が金融業界に身を置いてから30年近くがたちました。その間、大小さまざまな出来事がありました。今思えば大したことはなかった2000年問題や思い出すだけでも心拍数が上昇する2008年の金融危機などです。
いまでこそ、楽天家と評されることの多い私ですが、本書に出会うまではすべての変化に対し漠然とした不安を抱いて過ごしておりました。変化にうまく対応するために、常日頃からどのような準備をすべきなのか。また、変化を逆手にとって味方につけるにはどうすればよいのか?私を変えてくれたのは本書です。世界は今、未曾有の変化の只中にあります。不安を感じられている方、この変化を味方につけたいと思われている方、ぜひこの本を手にとってみてほしいと思います。
一人ならじ 「石ころ」 - 山本周五郎
涙腺の弱い方は人前で読まないでください。戦から大切そうに石ころを持ち帰る武士のはなし。
まだ私がこの業界で駆け出しだったころ、なかなか結果の出せない自分に対して「自分はここで何をしてるんだ」、「自分はこの仕事で本当に良かったのか」、「周りの人々はちゃんと見てくれているのか」とあせりを感じたものです。そんなときにはいつもこの本を読みました。「石ころ」の主人公はたった一つの目標のために命をかけて戦います。その目標のほかには名声などを求めず、最後に目標を達成した証に石ころを持ち帰るのです。
この小説を読んで落涙しなかったことがありません。たった数ページの小説ですが、折れそうな心を元気付けてくれます。ちなみに「いちにんならじ」には、ほかにも「三十二刻」、「芋粥」といった涙なしには読めない短編が収録されておりお薦めできます。
河野 祥 (ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 12 2020
心 - 稲盛和夫
著者は京セラの創業者でJALの再生を果たした稲盛和夫氏。コロナ禍で個人、企業が様々な分野でそれぞれ価値の再定義を迫られているかと思います。ただどの時代にも普遍的で変わらない考えや哲学があることを感じるのが本書です。「すべては心に始まり、心に終わる」。たくさんの経験談を交えながら、人生の目的は心を磨き他に尽くす(利他)精神、逆風にさらされても正しい道をまっすぐに行く大切さなど、たくさんの気づきを与えられます。
通貨「円」の謎 - 竹森俊平
危機に直面した国の通貨は下落するはずなのに、金融危機、震災など危機を迎えるたびに訪れる円高に漠然とした疑問を持っていたころ、円高に苦しんだ海外経験の長い父より本書をプレゼントされました。円高となる背景には多額の経常黒字と対外純資産を持つ日本の特性があるとしています。後半は経済再生には円安が不可欠との主張ですが、金融に身をおくものとして、とてもポピュラーな「為替」に考えを巡らせ、その奥深さに触れることのできる一冊です。
足立 洋子 (ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 11 2020
限界費用ゼロ社会〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭 - ジェレミー・リフキン
将来のパラダイムシフトを予測する学術書的な本が好きです。これもその一つ。少し前の本なのですが、①再生可能エネルギー②3Dプリンター③IOTインフラの普及で、誰もが生産消費者(プロシューマー)になり得、財やサービスの価格(コスト)はゼロに近づいていき、今後30年で重厚長大的な資本主義は少なくとも部分的には歴史的意義を終える、簡単に要約するとこういうことかと思います。勿論全部を鵜呑みにはできませんが、この様な本を読んで世の中で起こることを予測していく作業はとても楽しく、また自分がいかに今の常識に縛られた考えをしているか痛感させられます。
小説十八史略 ― 陳舜臣
子供の頃読んだこの本で、歴史に恋に落ちました。この本は中国の歴史を神話時代から元辺りまでを、とても生き生きと人物に寄り添って描いています。中国の歴史はすさまじく、一つの国が倒され、新しい王朝が誕生し、理想の組織が作られ、また腐敗し、倒され、ということをこれでもかというほど繰り返します。その間、本当に多種多様な人物がキーマンとなり歴史を動かしていきます。昨日の敵は今日の友だったり、一生かけて復習を計画したり、名君の影には彼を支えるしっかり諫言できる人物がいたりと、何千通りにも及ぶキャラクターとその人生の行く末を存分に楽しんでもらえる一冊だと思います。
山田 俊一 (ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント株式会社取締役)
AUG 7 2020
修身教授録 ― 森信三
今年、私が講師をしているMBA プログラムの講師同士の勉強会の際に題材となった書籍です。
昭和12年4月から14年3月にかけて森信三氏が行った「修身」という講義の議事録です。受講生の観察から始まり森氏の授業内容が一言一句書かれ、そして受講生の感想で終わるというものです。
出会いを天命と思い尊ぶこと、虫でなく人間として生まれたことを自覚し感謝すること、日本に生まれたことの意味を考えること、40歳までは準備期であること、志と野心は違うこと、謙遜は我が身を謹んで己を正しく保つこと、教育は詰め込むものではなく志を奮い立たせて自ら勉強するようにさせること、など、教育者そして人間の生き方について、金言が溢れている書籍で、メンタリングの際にも活用しています。ゴールドマン・サックスの人を育てる文化にも通じるものがあり、根底に人間愛が流れる講義を受けている気にさえなってくるので、コロナ禍でいろいろ迷った方にはおすすめの一冊です。
夏休みの読書2021
ゴールドマン・サックスの社員が、夏休みにお勧めの本を紹介します。
2021 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017 | 2016
高鍋 鉄兵(ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 16 2021
The Great Gatsby - F. Scott Fitzgerald
言わずと知れたアメリカ文学の代表作ですが、この原典と複数の日本語訳を含めて一番何度も読み返している作品かもしれません。世界恐慌前のニューヨークの熱狂、退廃的な雰囲気、若者のはかなさや人間の悲しさが美しい英語で描かれています。語り手のニックが証券会社勤務ということもあり、個人的には作品への親近感が増しました。また、この作品は何度も映画化もされていますが、2013年のバズ・ラーマン監督作品もお勧めです。原作を読んで映画を観てみるのも面白いかもしれません。
アフターダーク - 村上春樹
簡単に言えば、ある一夜の若者の群像劇です。村上春樹さんの作品の中では一番さっぱりとした作品だと個人的には思っています。短いですし夏休みにさっと読むには適した作品ではないでしょうか。一方、さっとは読めるものの、そこは村上春樹ワールドで難解な部分もありますので、何度も読み返す必要があるかもしれません。自分も何度も読み返しました。村上春樹さんの長編作品ではノルウェイの森が映画化されているのですが、この作品も映画化に向いていると思っています。小説として映像的な視点で読める作品だと思います。
三好 輝子(ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 9 2021
The Road Less Travelled ー M. Scott Peck
学生時代に読んだペーパーブックで、本屋でなんとなく手にした一冊ですが、spiritual growth とは何か、エゴ・依存と愛情の違い、困難との向き合い方など心理学的に書かれてますが、社会経験の少ない自分のその後の考え方に影響のあった一冊です。日本の大学を休学してアメリカ留学する際、高度経済成長を遂げた日本の大人から反対意見がある中、背中をおして応援してくれた両親の愛情にも気づかされた一冊です。
生き方 ー稲盛和夫
人生、仕事の結果は熱意と能力の掛け算だけではなく、考え方がとても大事だということ、迷った時原理原則に立ち返って判断すること、視点を変えて答えを導く、など生きる上でのヒント、気づきを与えてくれた本です。心をリセットしたいとき、松下幸之助の「素直になるために」とともに今も繰り返し読み返す本です。
跳びはねる思考 ー 東田直樹
自閉症の著者が見る世界観に感動しずっと心に残った本です。人も風景の一部で山も空気も鳥も一斉に話しかけてくる感覚、記憶が線でなく点であり、時間と空間の旅を楽しみながら、決められた場所にいるという役割を果たしている日常など、多様な考え方、感じ方に大きな気づきを与えてくれた一冊です。
山上 千晴 (ゴールドマン・サックス証券株式会社 マネージング・ディレクター)
AUG 4 2021
一分で話せ - 伊藤羊一
今から数年前のことですが、自分のコミュニケーション方法や話し方について悩んでいて、プレゼンや会議、座談会などで、自分の考えをより簡潔かつスマートに言えるようになれないかと思っていたときに出会ったのがこの本です。自分が「伝える」ことにばかり気を取られ、そもそも相手に何をしてもらいたいのか、自分が何を達成したいのか、について思いが至っていなかったことに気づかされました。ちょっとしたコツや比較図もとても分かりやすく、最後の実践編には取り入れやすいアドバイスも多く載っています。今でも大切なプレゼンなどの前に、リマインダーとして読み返したりします。簡単に読めるので、ぜひ手にとってみてください。
馬場 直彦(ゴールドマン・サックス証券株式会社 日本経済担当チーフ・エコノミスト)
AUG 2 2021
天祐なり(上・下) - 幸田真音
強烈なデフレからの脱却を目指し、1930年代に、タブーとされていた日銀国債引き受けによる財政拡大を柱とする、いわゆる「高橋財政」を実施した高橋是清の生涯を描いた作品です。高橋財政はケインズ政策と言われますが、経済学にケインズ政策が登場する5年前に実施に移されている所に、高い先見性が窺われます。彼は日本経済を見事に復調させましたが、二・二六事件で非業の死を遂げました。また、ペルーの銀山経営に失敗して一文無しになったかと思えば、日露戦争の戦費調達のため、当時ジャンクに過ぎなかった日本国債を海外で売りさばく等、ダイナミックな人生を歩みました。そんな彼のバイタリティに触れるだけでも、一読の価値はあると思います
金利と経済 -翁邦雄
日銀を代表するエコノミストとして長く活躍された著者は、私がエコノミストへの道を踏み出すきっかけを与えてくれた恩人でもあります。「異次元緩和」に対して、早くから警鐘を鳴らし続けてきた翁氏は、日銀が如何にデフレ脱却に向けた短期決戦で挫折し、紆余曲折を経てイールドカーブ・コントロールへの「転進」を迫られたのかを、時折ユニークな寓話的視点を織り交ぜつつ語りかけてくれます。例えば、期待への働きかけを重視する現在の金融政策の枠組みについて翁氏は、「前向きな確信をもって飛べると信じている間は飛び続けられるが、現実を直視して本来は飛べないのだと気が付いた途端に墜落してしまう気合の政策」とも評しています。
夏休みの読書2022
ゴールドマン・サックスの社員が、夏休みにお勧めの本を紹介します。
2022 | 2021 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017 | 2016
一守 哲慈(ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 8 2022
流転の海 ―宮本輝
著者の父をモデルとした主人公(松坂熊吾)と、その妻と息子3人の波乱万丈の人生を、終戦直後から約20年にわたって描いた全巻九部からなる長編小説で、第一部の執筆開始から第九部完結編まで実に37年もの歳月を要した作品です。人の生死を題材の中心に据えながら、著者独特の非常に読み進めやすい文章の中に、ひとりひとりの登場人物についての奥深い描写がなされており、功罪含めて人間の奥深さが小説全体を通じて感じられる内容となっています。自己啓発、自己研鑽などのテーマから一旦離れて、少しゆっくり大きな時の流れを感じたい時などにお勧めの一冊です。
赤松 房枝(ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 8 2022
Rogue Trader ― Nick Leeson
イギリスの名門投資銀行ベアリングス銀行を、1995年に破綻に追い込んだ一銀行員、Nick Leesonの手記です。私が金融機関の内部監査に転職したばかりの頃に、先輩から必読書だと言われて読んだ本です。監査人や管理部門の在り方を学ぶための教科書という意味合いもありましたが、臨場感溢れるストーリーにも引き込まれ、無我夢中になって読んだことを覚えています。
今回のコメントを書くにあたり、再度読み返してみると、最初に読んだ20年以上前とは違う観点からも学ぶことの多い本だと気づきました。実際に起きたとは信じがたいと同時に、人は多くの場合、聞きたいことだけを聞き、見たいものだけを見るものだということを痛感しました。健全な組織構造、客観的な分析に基づいて意見が言える企業文化の醸成、管理職による適切な監督など、どれが欠けても惨事は起こりえるということを改めて考えさせられました。
実際にあった話ですが小説のようなストーリー性もあり、また金融業界に入られたばかりの方から管理職の立場にいらっしゃる方まで楽しめる一冊かと思います。
氷点 ― 三浦綾子
筆者の三浦綾子さんは旭川のご出身で、私が北海道に住んでいた頃、「氷点」についてはよく耳にしていましたが、実際に読んだのは北海道を離れてしばらく経った中学生の時です。当時の私にはやや理解しにくい部分もあったものの、その小説の世界に大いに引き込まれました。「氷点」は「原罪」という重いテーマを背景としながら、衝撃的なストーリー設定と描かれている家族の細やかな心理描写で「氷点ブーム」を起こした作品です。その後、何度もドラマ化されているので、ご存知の方も多いと思います。
「氷点」の主人公の一人、善意を絵に描いたような陽子ちゃんの考え方、前向きさは、私にとても大きな影響を与えました。陽子ちゃんは辛いことがある度に、学校の先生の「汗と涙は人の為に流しなさい」という言葉を思い出して、にこっと笑ってみる、そんな健気な子です。そんな陽子ちゃんが、周りの虚栄心、エゴゆえに、とんでもない悲劇に巻き込まれ、最後は心を凍らす「氷点」に達してしてしまうという悲しい物語です。
舞台となっている北海道の澄んだ空気と雄大な景色を思い出しながら、この夏もう一度読んでみようかなと思っています。
ジョン・ジョイス(ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 10 2022
君もチャンピオンになれる ― ボブ・ボウマン/ チャールズ・バトラー
この本は一見すると典型的な自己啓発本のようですが、内容は意外にも実用的で、実社会に役立つものでした。
この本に出合ったのは、水泳選手になりたいという子供たちと共通の話題を探していた時です。なにしろ私は全く水泳に興味がなかったので、東京の古本屋でこの本を見つけたとき、すぐに買うことにしました。水泳は極めて厳しいスポーツで、年がら年中練習してもわずかしか上達しません。どんな逆境にも耐えて練習を続けていくには、粘り強い意志と厳しい自己管理が必要です。熾烈な競争の金融業界で20年以上失敗を繰り返しながらやってこれたのは、この水泳のGolden Methodを私も無意識に取り入れてきたからではないかと思ったりします。自分の経験がよみがえり、共感する一冊です。
The World For Sale ― Javier Blas / Jack Farchy
最近、物価上昇や資源価格高騰の話題がどの新聞でも取り上げられています。 その背景にあるさまざまな要因も興味深いと思いますが、私はそれよりも世界各地のコモディティ市場で主役となっている企業に興味があります。この本はノンフィクションでありながらも小説のような語り口で、第二次世界大戦後から現在に至るまで、商品取引商社がどのように世界経済とともに発展し、中心的な役割を果たすまでに成長したのかを簡潔に解説しています。資源分野に関する内容は多岐にわたり、とても面白く、また歴史的背景と市場構造などの分析も参考になるでしょう。この本を読むことで、コモディティ市場と実体経済との相互作用が実感できた同時に、価格変動に対する理解も深まったと強く感じました。
道塲 英夫(ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 10 2022
1兆ドルコーチ ― エリック・シュミット/ジョナサン・ローゼンバーグ/アラン・イーグル
「心理的安全性」に関する本を読みたいと思い探していたところ、題名が気になって手に取った一冊です。
シリコンバレーの大企業を成功に導き、そのリーダーたちに多大なる影響を及ぼしたエグゼクティブ・コーチ、「ビル・キャンベル」のコーチングに関する本で、彼がコーチングした経営陣の生み出した企業価値が1兆ドルにのぼることから、このタイトルがついています。具体的なエピソードをもとに書かれており、彼の人となりやコーチングの例を、実話をもとにまとめたとても読みやすい構成になっています。
「リーダーは部下が作る」、「信頼とは、正直さ、謙虚さ、約束を守ること、思慮深さである」、「リーダーは苦しいときこそ先陣にたて」等、貴重なアドバイスが詰まっています。私にとって、読み返すことで自身を振り返る大切な本です。マネージャーの皆さんに手に取っていただきたい一冊です。
峠 ― 司馬遼太郎
司馬遼太郎の著書はほぼ制覇していますが、その中でも特に印象に残っている一冊です。今年、ちょうど映画化もされました。
江戸幕末、激戦となった北越戊辰戦争で、新政府軍に抗戦した越後長岡藩(譜代・小藩)の上席家老、河合継之助の物語です。彼は幕府による封建体制の瓦解、武士の時代の終焉を見抜き、藩政改革や武器の近代化を推し進める等、先見性と実行力を有した人物でした。ところが時代が急変し、新政府軍が時代の勢いに乗り長岡藩に屈服を強い、彼本人が猶予を請うも受け入れられず、最も望まなかった戦いに突入してしまいます。将来を正確に予見していたにもかかわらず、家臣・武士としての運命を甘受し、武士であることに終始し、叶わぬ戦いに挑んだその「矛盾」や「ロマンティシズム」に、ある種の魅力を感じたのかもしれません。長岡藩と罪なき民を犠牲にした点で評価は分かれるでしょうが、読後に何かを感じる本ではないかと思います。やや長編ですが、夏休みの空いたお時間に読んでほしい本です。
二つの本に共通することは、いずれの主人公も30歳代後半から「場所」を与えられることで、自身の能力を開花させた人物である点です。何かを成すのに遅すぎることはないと教えてくれます。
夏休みの読書2023
ゴールドマン・サックスの社員が、夏休みにお勧めの本を紹介します。
2022 | 2021 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017 | 2016
小澤 博史(ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 8 2023
人を動かす ー デール・カーネギー
世界的なベストセラーだと思いますが、人間関係やコミュニケーションの基本となるようなことが書かれています。リーダーシップに関心ある方にも良いかと思います。忙しい日々において、目次をパッと読み返すだけでも、色々とためになる気付きがあるのではないかと思います。
やめないよ ー 三浦 知良
日本経済新聞で連載したコラムをまとめた一冊です。「全力」で物事に取り組む姿勢や、諦めずに上を向いている限り絶対にいいことがある、など共感できる考えが多く、とにかく自分も頑張ろうという気持ちにさせてくれる一冊だと思います。
江原 直子(ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 8 2023
ネガティブ・ケイパビリティ ― 帚木 蓬生
聞きなれない言葉かと思いますが、「ネガティブ・ケイパビリティ」とは、「どうにも答えの出ない、どうにも対処のしようがない事態に耐える能力」をさします。作家であり精神科医でもある著者は、医学論文でネガティブ・ケイパビリティという言葉を学び、「難局に直面するたび、この能力が頭をかすめ」「この言葉を思い起こすたびに、逃げ出さずにその場に居続けられた」と述べています。
人間は答えのない状況では落ち着かず、とにかく解決策を見つけようとするものです。私自身も、この本を読むまでは、どんな問題も早急に解決策を見つけようとしてきました。しかし、答えの出ない問題もたくさんあり、そういう場合はまずはその状況に耐え、「どうにもならないように見える問題も、持ちこたえていくうちに、落ち着くところに落ち着き、解決していく」と思えるようになりました。問題に直面したとき、行動を起こすだけではなく、その事態に耐えるということも選択肢だと教えてくれたとても興味深い一冊です。
モリー先生との火曜日 ― ミッチ・アルボム
これまで何度も読み返しているアメリカでベストセラーになったノンフィクションです。スポーツコラムニストとして活躍する著者が、偶然テレビで大学時代の恩師であるモリー先生が難病ALSに侵されていることを知り、16年ぶりに会いに行きます。社会学の教授だったモリー先生は著者に「人生の意味」について毎週火曜日に授業を行うことを提案します。著者は毎週火曜日にモリー先生を訪問し、二人は死、家族、感情、老い、お金など様々なことについて語り合います。モリー先生はどんどん身体が不自由になり、死に近づいていくのですが、先生に悩みを聞いて欲しいという訪問者が後を絶たず、本人は幸せそうで、最期まで自分の人生を生きようとします。生きること、死ぬこと、人生にとって大切なものとは何かを考えさせてくれる一冊です。
小菅 一郎(ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 8 2023
両利きの経営 -チャールズ・A. オライリー、マイケル・L. タッシュマン
ある企業経営者の方から是非読んだ方がいいと薦められた本です。日本の企業が向き合わなければならない課題が浮き出てくるような内容でした。様々な企業の事例を交えながら、成熟事業でうまく競争しながら、同時に強みを活かして新しい事業を開拓していくことの重要性が、組織、カルチャー、リーダーシップなど様々な角度から書かれています。企業の事例では馴染みのある知られた企業が多いので、堅い内容ですがとても読みやすいと思います。株式投資、企業分析などにご興味のある方には是非読んで頂きたい本です。
海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 ー 塩野 七生
塩野七生さんの著書ですが、有名な「ローマ人の物語」と並ぶ代表作です。ヴェネツィアの景色が好きという理由から手に取りましたが、その後訪れたヴェネツィアの町は、歴史や背景を知ることで細い小道、古い建物、そしてサンマルコ広場など観光地ですら違った景色に見えました。どのようにあのような美しい島が出来上がってきたのか、水上に浮いている建物はどのような構造をしているのか、そしてアドリア海を支配する強大な国家となったヴェネツィア共和国はどのように衰退したのか、興味深く書かれています。イタリア旅行の際には是非お薦めです。
湯澤 康太(ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター)
AUG 8 2023
イノベーションのジレンマ - クレイトン・クリステンセン
私が入社した2001年に手にとった本です。当時は「優良企業は、優れているがゆえに失敗する」という表現にキツネにつままれたような感覚を覚えました。あれから20余年、自動車業界を調査する仕事に従事し電気自動車の大きな荒波を目の当たりにしています。大きな技術革新に直面しながら、やらない理由/できない理由を極めて理論的に作り上げてしまうのが優良企業の一つの側面なのかもしれません。同時に私個人としても仕事や私生活で様々な変化を経験する中、固定観念に固執することなく物事を柔軟に見つめる努力は続けていかなければと考えさせられる本でもあります。きっとこれからも幾度となくこの本を読み返すことになるでしょう。
君たちはどう生きるか ー 吉野源三郎、羽賀翔一
恐らく私が中学生時代に文庫本で初めて出会ったのですが、最近漫画化されたということで息子に紹介しようと改めて読んでみました。校内の些細なトラブルで主人公コペル君の友人が殴り合いの喧嘩に巻き込まれてしまうシーンがあります。コペル君は友人を助けるために細身の体で挑もうとするのですが、結局は腰が引けてその場から逃げてしまうのでした。親友を裏切ってしまった後ろめたさから学校に通えなくなったコペル少年に対して、「正しい道に進もうとしているからこそ苦しんでいる」とこの本は説きます。そして、逃げてしまったことを後悔するのではなく、その記憶を留めておくことで次こそは正しい道に進む糧になると教えてくれるのです。原作は90年近く前に書かれているのですが、普遍的な道徳観に基づき失敗から立ち直る勇気を分かりやすく教えてくれる良書だと思います。