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「なんで日本はこうなんだろう?」を知る手助けに...「マスキュリニティ度チェックリスト」を作ってみました

以前、日本の組織文化を知るためにマスキュリニティ(男性性)についての記事を以前書きました。

日本の組織文化について考えるために「ホフステードの文化次元論」の「男性性指数」(マスキュリニティ)をまとめてみた|板敷ヨシコ (note.com)



ヘゲモニー的マスキュリニティ


今回は、ワークショップや内省に活用できる「マスキュリニティ度チェックリスト」を作りました。「なんで日本はこうなんだろう?」と思った時に、使えるレンズは「ヘゲモニー的マスキュリニティ」(覇権的男性性)の概念です。ヘゲモニー的マスキュリニティは日本に限らずどこの文化地域にもあるものなので、英語では多くの文献があります。平たく言うと「支配する男がかっこいい男らしさ」で、子どもの頃から親しむスポーツや物語のヒーローやゲームの中にも見ることができます。

古臭い男らしさから脱却しようと意識している男性でも、男女平等を願っている女性であっても、社会で好意的に受け止められているこの「男らしさ」に知らぬ間に、無意識に寄り添っているものです。

ヘゲモニー的マスキュリニティは、社会の仕組みに織り込まれていて、「男性であること」に分かりやすく関連付けられています。女性が女性として育てられて社会が期待する大人の女性になるように、男性は社会が期待する男性になるように育てられます。最初に述べたように、日本は特に男性性指数が高い国で、このヘゲモニー的マスキュリニティを好意的に受け止める社会の中で「男らしさ」が育まれます。

男性性指数が高いのが日本の大きな特徴なので、ヘゲモニー的マスキュリニティを知ることは「なんで日本はこうなんだろう?」を考えるために欠かせないと私は考えています。といういことで、ヘゲモニー的マスキュリニティの性質を元に、簡単な「マスキュリニティ度チェックリスト」を作ってみました。所属している組織やチームのマスキュリニティ度を考えるのにも役立つと思います。

マスキュリニティ度チェックリスト

このチェックリストによって、ジェンダー規範、性別役割規範の解像度をあげることができます。女性社会研究所では、今後女性だけの安心できる場で、オープンな対話(本音の雑談)やワークショップをするときに使うことを想定しています。他にも男性がこのリストを元に男性性について考えたり思うことをnoteやブログ記事を書くのにも使えると思います(この記事を出典として書いていただけるととても嬉しいです)。

どのような使い方にしても、「マスキュリニティについての対話は、反発的になるのではなく、感受性を豊かにし、ポジティブな変化を目的としている」という意識を強く持つことが不可欠です。こういった注意点を心にとめておいて欲しいと思います。


ヘゲモニー的マスキュリニティ、組織への影響

次に、組織づくり、チーム作りにおいて、このマスキュリニティがどのような影響を持っているのかも書いておこうと思います。

このヘゲモニー的マスキュリニティ(覇権的男性性)をあらためて説明すると、マスキュリニティ、男性性、とは、文化的に受け入れられている男性と関連付けられた規範や行動のことです。そして、ヘゲモニー的、覇権的、とは上に立ち集団を支配する性質のことです。つまり、ヘゲモニー的マスキュリニティとは、「支配したがりの男らしさ」と言い換えることもできます。

この「支配したがりの男らしさ」は、当然、組織文化、マネジメント、チームワークのあり方に影響します。良い影響、悪い影響、についてまとめたのが次の記述になります。


良いと考えることもできる点(良い影響)

  1. 強いリーダーシップ
    自己主張性や自信など、ヘゲモニー的マスキュリニティの性質が、強いリーダーシップとして組織に貢献することがある。

  2. 明確なヒエラルキー
    伝統的な性別役割分担は、明確な上下関係となりヒエラルキー構造を簡単に作ることができるため、組織づくりに工夫をする労力を使う必要がない。

  3. 目標達成の重視
    ヘゲモニー的マスキュリニティの性質である「競争心」と「目標達成の重視」によって、マネージャーは一度決めた目標に向かって努力するようにチームを動かすための工夫をあまり必要としない。(一度、目標を定めれば、リーダーが多少無能でも達成のためにチームが動く)


潜在的なリスク(悪い影響)

  1. コミュニケーションバリア
    ヘゲモニー的マスキュリニティ度が高いと無意識レベルで伝統的な男性性を厳格に守ろうとします。その結果、オープンなコミュニケーションや他者への配慮が妨げられます。チームメンバーが自由に懸念点を意見したり、新鮮なアイデアを共有することが困難になる可能性があります。

  2. 排他的慣行
    ヘゲモニー的マスキュリニティの特徴として、伝統的な性規範に適合しないチームメンバーを仲間外れにする傾向があります。多様性と包括を妨げる排他的慣行につながる可能性があります。(ダイバーシティ、インクルージョンを掲げる組織は、ヘゲモニー的マスキュリニティ度が低くなくてはいけません)

  3. 対立と攻撃
    競争と優位性に価値を置くことは、チームメンバーがリーダーシップの役割を競い合ったり、協力するよりもむしろ競い合ったりします。人間関係の対立を助長したり、攻撃を優先するようになります。

  4. 限定された視点
    伝統的な男らしさへの固執は、チーム内の視点の多様性を制限し、創造性と問題解決を妨げることがあります。

  5. 変化への抵抗
    ヘゲモニー的マスキュリニティの影響を受けた集団は、伝統的なジェンダー規範、性別役割規範にこだわらないアプ ローチや変化に抵抗しようとします。


ヘゲモニー的マスキュリニティ対策として英語では以下のような対策が推奨されています。ビジネス記事、HR系セミナー、人的資本経営の話などでこのような対策を目にしたことがある人もいるかもしれません。


一般的に提示されている解決策

  • 多様なリーダーシップスタイルを奨励し、コラボレーションと異なる視点を重視する包括的リー ダーシップの重要性を強調する。

  • チームメンバーがオープンに自己表現し、アイデアを共有し、必要なときにサポートを求めやすい環境を育成する。

  •  異なるジェンダー規範に対する意識を高め、より包括的なチーム文化を奨励するために、多様性と包括性に関する研修を提供する。

  •  相互尊重、積極的な傾聴、支援文化を優先するチーム規範を確立するために協働する。

  • リーダーや影響力のあるチームメンバーは、協働、共感、多様な視点の尊重を促す積極的な行動を模範とすることができます。

ヘゲモニー的マスキュリニティを減らすための対策として、英語で調べると、以上のような解決策が提案されていますが、日本は世界一マスキュリニティ度が高く、それを強化する作用がある「イエ的運営」をしていることもあり、上記の対策にいたるまでがなかなか難しいと私は考えています。現実的には、上に掲載した「マスキュリニティ度チェック」をみながら「考える」(内省)ところから始めるのが有効でしょう。

その上で、こういった性質がチームワークに及ぼす潜在的な影響を認識していき、最終的に、多様性の尊重、オープンなコミュニケーション、対話による協力的な問題解決ができる環境づくりに取り組むことができれば...

「どうして日本はこうなんだろう?」から「こういう問題点があるのではないか」「こうしていったらどうだろう」とポジティブな変化のための対話的議論ができるようになるのだと思います。

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