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第一回 あたらよ文学賞 一次選考結果発表


【一次選考通過作品について】

あたらよ文学賞選考委員会による厳正な選考の結果、応募作品496作品のうち、下記67作品一次選考通過としました。(到着順・名前はペンネーム、敬称略)
この後、二次選考及び最終選考を行い、受賞作品を決定致します。

※選考過程に関する問い合わせには一切応じられませんのでご承知ください。

明け方を航る鳥たちは / 糸野麦
なでなでしてね / 南都浩哉
ヘヴン・ヘヴン・ヘヴン / 夜庭
Zee / 飯田太朗
私の未緒のビオトープ / 咲川音
夜が冷たく忍びよる / えきすときお
とばりともだち / 梶原一郎
まわる空まわる命 / 白里りこ
倦怠からの逃走 / 文園そら
手負いの鷹 / 圭琴子
蒼月の宵 / 高田はじめ
私たちの月の家 / 咲川音
雨と深夜とランドリー / クソイグアナ男
あるラジオ番組 / 佐馬鷹
伝う、夜のディテール / 華嶌華
可惜夜元年 / 鈴木青
ワケありお嬢様は夜空の下をゆく / 草加奈呼
誘蛾灯 / 山田脩人
星降る夜に君と会う / 藤原くう
火垂る袋 / いっき
まゆどじょう / 佐藤龍一クライマー
ハッピーエンド / 三浦さかな
バスみたいに揺れたらいいのにね / 南都浩哉
のこぎり夜話 / 太郎吉野
瓜の舟 / 草乃草子
岳おじちゃんはすきなひと / 神敦子
夜もすがらに咲き誇る / mk*
慰霊 / 山本貫太
椿桃、永遠に / 伊藤なむあひ
夜直の人魚狩り / 一野蕾
そして、吸血鬼たちは夜空を見上げる / 暇埼ルア
パーテルノステル / 虹乃ノラン
猫が飛んだ夜 / 右城穂薫
夜のアジール / 上雲楽
ムーンとデスとR.I.P. / あまひらあすか
黒き蛇よ / 西村修子
夜半舟 / 秋田柴子
朝焼けまでに帰れたら / みずきけい
向日葵 / アオイ
スタアライト酔痴 / 神足颯人
蝉 / 奥津雨龍
こはねに勝てないなら死ぬ / 岩月すみか
ケニヤサハナム / 上雲楽
宮川霞 25:58,YFS Est / 野呂瀬悠霞
ふたつの星を / 山内みえ
夜の地層 / 春名トモコ
弔い / 東武
月が落ちてくる。 / 辻内みさと
太陽の交換期 / 山本貫太
白道 / 月江りさ
うたかた / 綺月遥
流れ星のシール / 桜井かな
秋宵 / 桜井かな
ジェンガの上で何を見る / 永和けい
花山ホテルの幽霊 / 茉亜
神と夜明け / 山川陽実子
未明の音楽 / 我妻許史
ジョニーの星 / 髙橋螢参郎
コンビニ騒動 / 搗鯨或
傲慢と偏見の狭間で / マルクス・ホセ・アウレリャノ・シノケス
黄昏時がすぎると。 / マルクス・ホセ・アウレリャノ・シノケス
ツー・ミッドナイト・ノブレス / 蛙鳴未明
初恋 / 濃藍珠
私のお城が崩される時 / 黄間友香
ヨシロウさん / 得能香保
親鳥の羽 / 夜霧
フライ・ミー・トゥー・ザ・サン / 小川リ

【一次選考通過作品・講評】

明け方を航る鳥たちは / 糸野麦
朴訥とした筆致ながら温かみのある文章。短くシンプルな構造ゆえに、会話でのやり取りのセンスが光っている。押しつけがましさがなく、落とし所もよい。夜のコンビニエンスストア特有の静かな雰囲気が垣間見える。

コンビニの深夜帯のバイト同士で交わされる会話の質感がリアル。わずかな描写から推察できる主人公の家庭事情や、異性であり年齢差のあるこの二人だからこその空気感、ラストに漂う淡い救いの感情に、物語の拡がりを感じた。

なでなでしてね / 南都浩哉
方言の持つ素朴さの底にある静かな不安感。柔らかで温度を感じる文章が心地よく、徐々にボタンを掛け違えてゆく男女の歪みが見事に表現されている。終盤、物語が転調し一気に狂気を見せる点もよい。

話運びがスムーズで良く、方言のきつさはあるもののそれもまたリアリティを感じました。ラストの展開が衝撃すぎて驚きました。
最初~中盤まで良かっただけに、後味の悪さが残念に思えてしまいましたが、他の作品も読んでみたいと思いました。

ヘヴン・ヘヴン・ヘヴン / 夜庭
酩酊するような文章が心地よい、ロードムービー小説。真実は結局なんなのか、物語性があってないような作品だが、道がただだらっと続いているようにいつか何処かに辿り着くのかもしれない、そのような印象を持った。

すごく面白かったです。三つの視点から語られる死体埋めの、三人の関係性と行く末が最後の最後までひたすら気になって読みました。
朝になって何食わぬ顔でそれぞれが日常に戻っていく合間に、見た光景を、夢ととらえるか現実ととらえるか、最後まで読者の判断に委ねられる、どこか不穏でありながら、そうは書いてないけど朝日が照らし出すような、表現のバランス感覚がお見事でした。

Zee / 飯田太朗
生命倫理と人間の傲慢さ、動物らの率直さがストレートに表現されているSF作品。嵐の夜に起こる不可思議で悲劇的なエピソードから、人間たちへの警鐘が聴こえる。

実験によって産み出された人間並みの知能を持ったチンパンジーが、日本語を操ったり、動物的な本能に突き動かされたりする様子が、非常に気味悪く描かれている。何を食べたらこれを思い付くんだ……という設定に、スラスラ読める文章。SFであり、ミステリであり、ホラーでもあるという、ジャンルにとらわれない挑戦的な作風が見事に成功しているように思う。

私の未緒のビオトープ / 咲川音
静かで純文学にも似た香りが漂う幻想文学。イマジナリーフレンド、或いは妖精との温かな日常と、冷たい記憶とのギャップがいい。後半の女性が出て来るパートも、痛々しくてよかった。

流れるような文章で紡がれる語りに引き込まれた。実在のものなのかはたまた主人公逸花の想像の産物に過ぎないのかわからない未緒という不思議な生物のあやふやさが、逸花の回想の痛みや手触りをより現実的なものにしている。
後半で登場する「走馬灯事前登録システム」というややSF的な単語が唐突かつ若干浮いているようにも感じられたが、この作品の力を損なうまでには至っていない。逸花も薫子も、未緒と祥子のように小さなビオトープの中に息づく愛の容れ物なのだろう。逸花が彼女自身の物語を歩んでいくだろうことを予感させるラストでは、小さいが確かな希望が感じられて読後感も良かった。良い作品。

夜が冷たく忍びよる / えきすときお
昼族、夜族の設定がしっかりとしており、異世界ファンタジーとしての完成度が高かった。中盤から後半にかけてきちんと転調し、物語の構造がぐるりと反転するところが魅力的。

夜を恐れて歩き続ける『昼族』の設定が非常に秀逸。昼と夜とがそれぞれ何を象徴しているのか、彼らが何を得て何を失ったのか、深い含蓄のあるストーリー。滔々と流れるように綴られる、漢字を多めに開いた文章と映像的な描写が大変心地よく、物語への没入感が素晴らしかった。繰り返し読みたい作品。

とばりともだち / 梶原一郎
レイトショー特有の空気感を孕む、動的だが静かな物語。そこでしか会えない友人との朧げで儚く、しかし絆を感じさせる強い交流が楽しい。日常の合間に佇む映画館の良さを改めて感じた。

親しみを感じさせる主人公の語り口、ライトでポップな印象ながら、きちんと「夜」というテーマを作者様なりに噛み砕いて物語に昇華させている点が、とてもよかったです。
「夜」からレイトショーに持っていく着想が好ましいし、お仕事終わりの少しの疲労感と、アフターに気持ちを切り替えて趣味に打ち込むかんじと、偶然から始まる奇妙な友情と、私たちの日常のとなりにもないとは言えないシチュエーションが、リアリティと憧れを両立させていました。オールナイト上映会以後トムとスライの関係性がどう変わるか、想像にお任せしつつ匂わせる結末も最高です。

まわる空まわる命 / 白里りこ
子どもペンギンの目線から描かれており、目のつけどころが面白い。親から与えられる命と食糧が、次の世代の糧となり、新陳代謝を繰り返してゆく群れ。輪廻の厳しさと優しさが内包された一作。

映像の浮かぶ導入がとにかく素晴らしい。ただし、会話劇のあとに地の文の魅力が半減した感が否めない。執筆者の知識と、弱者の語り手から見える世界観が混ざってしまったことが要因だと感じた。
作品の最後、なんとか表題でもあり導入部の山でもある「まわる」に着地して欲しかった。

倦怠からの逃走 / 文園そら
二十七に死ねなかった女とまだ二十六の男による深夜ドライブ。ストーリーラインは単調だが過不足なく、心情・風景描写が共に細やかでよい。洒落た文章が物語に深みを持たせており、惹きつけられる作品だった。

男女二人が一晩かけて車で移動するだけの話なのに、最初から最後までぐっと物語に引き込んで読ませるパワーのある作品だった。人生のさまざまな悲哀を感じ取れるやりとりや、テンポ良く交わされる会話が気持ちいい。ただの隣人だからこそ、この一晩だからこそ生まれる情が、唯一無二の余韻を残した。

手負いの鷹 / 圭琴子
傷ついた軍人と村娘との交流が、どこか切なくも温かい。読後感もよく、丁寧に作り込まれた物語と文章で好印象。

成人の儀式を間近に控えた少女が、ある夜に脱走兵の男を匿ったことから始まる恋愛短編。初めての恋に揺れ動く心情が、読みやすい文章で丁寧に綴られていて、物語のテンポもよかった。

蒼月の宵 / 高田はじめ
文章が秀逸かつ読みやすく、切れ味のある物語。物の怪との知恵比べが面白く、機転を利かせるくだりがよかった。

平安時代の歌人夫婦である和泉式部と藤原保昌の過ごすひとときを描写した短編である。
支え合う夫婦の愛情に対する丁寧な表現、緩急のある展開、史実に対する理解など、やや地味な印象はあるものの、全般的に考えうる及第点を大きく超えており、商業出版として妥当なエンターテインメント性、クオリティを兼ね備えた作品であるとし、高く評価する。

私たちの月の家 / 咲川音
年代特有の女子の行動や心情描写が巧みに描かれている。抜毛症や過食といった自傷行為、息苦しい家庭環境の描写にもリアリティがあり、文章に説得力があった。SF的要素も物語にしっかりと落とし込まれており、最後の転調も含めて好印象。

名前に「夜」と「朝」を含む二人の交流が、「魔法」や「月の家」といったファンタジックなワードを軸に静かな文体で語られている。「夜」というテーマをとても上手く昇華させており、人物の描き方や心理描写も巧み。「夜明け」を迎えるラストでは、どこかにいるであろう彼女たちのような少年少女に思いを馳せ、涙が滲んだ。傑作。

雨と深夜とランドリー / クソイグアナ男
恋愛のようなままごとのような、男女ふたりの心模様の変遷が痛々しい。自分を曝け出すことへの怯えを洒脱な筆致で描いており、決定的に感覚が違うのにどこか似通ったふたりの心情がよく表されていた。深夜に降る雨や、路面の水溜りの描写なども美しい一作。

2人の微妙な関係性を描く作品をいくつか読まさせていただきましたが、なかでもこちらはとても丁寧な印象を持ちました。セリフのテンポがよく、リアリティもあいまって、歳下の男の子との思考のギャップに徐々に心が疲弊していく主人公の気持ちには非常に共感できます。また雨とコインランドリーという、夜から連鎖する合わせ技のコンボも、雰囲気づくりに一役買っているとかんじました。

あるラジオ番組 / 佐馬鷹
深夜ラジオ特有のゆるい雰囲気が伝わって来る、リラックス感の溢れる作品だった。

“最後まで読ませること”が小説の命題であり良作の定義ならば、この作品は完全勝利。山も谷もない飄々とした展開が、思春期から青年期特有の青々しさを表現している。

伝う、夜のディテール / 華嶌華
昨日までの常識が一瞬で変わってしまう、SF風味の作品。新常識における日常描写にもリアリティがあり、説得力のある物語だった。

文句なしの満点です。こういうのが読みたかった。
夜という非日常、その中にある個々の日常、さらにその奥にある心の闇、幸福も闇も、全ての事象を夜という現象によって相対化してみせる。見事としか言いようがない最高の作品と思います!

可惜夜元年 / 鈴木青
作り込まれた設定が魅力的なSF作品。作中に次々と出て来る議論が楽しく、謎めいた展開も面白い。夜の要素が取ってつけたようで少し残念。

とても読みごたえがあった。ロボットたちの哲学的な会話が楽しい。最終的に目指す場所が海というのもいいし、夜や夜明けに託した意味も実に深遠。ともすると衒学的とも取られかねない部分はあったが、ぎりぎりのところでそれを回避している巧さがあった。

ワケありお嬢様は夜空の下をゆく / 草加奈呼
夜にしか外に出ることの出来ないお嬢様と、夜になったら獣人化してしまう男の子との邂逅。要素が少し詰め込まれ過ぎているきらいもあるが、主人公らの人柄がよく気持ちよく読むことが出来た。

お嬢様〜〜ッ好きです!(告白)
軽快なセリフ回しとテンポの良さで、さくさく読めました。お日様のもとを歩けないワケアリのお嬢様、というだけで題材の勝利だと思いますし、狼男の新人執事くんが相手役というのも、運命的な恋愛モノとして、魅力的な設定だなぁと思いました。夜空を散歩するシーンは微笑ましかったです。

誘蛾灯 / 山田脩人
漫画家としてデビューを果たした友人ら、眩しく映るひとびとの影で夜勤アルバイトに勤しむ主人公。彼の苦悩がまざまざと描かれていて、魅力的。明けない夜はないように、いつか彼にも夜明けを見て欲しいという気持ちになれる作品。

「誘蛾灯」の使い方にテクニックを感じ、引き込まれました。主人公の心情とともに蛾が弾ける表現が良く、また内容も共感性が高く、ラストの主人公の心情もよく伝わります。とても面白かったです。

星降る夜に君と会う / 藤原くう
宇宙飛行士を目指す少女と、内気で薄幸な少女。クラスメイトのはずなのに、夜に出会うときには昼間と距離感の違うふたりの関係性が心地よい。終盤の転調が物悲しくも柔らかい、情緒が揺さぶられる作品だった。

とても読みやすく内容がすっと頭に入ってきました。ラストでひっくり返る構成もいい。もっと盛り上げられたと思うのでそこが残念なのと、スイがどんな人生を送ってきたのか見えてくるとよかったなあ、と思いました。

火垂る袋 / いっき
奇妙な病がリアリティたっぷりに描かれている。蛍のように美しく儚い命を燃やす少女の、魂を削るような生き様が美しい作品。

美しい郷の景色と、火垂る袋という馴染みのない風習が、どこか幻想的な雰囲気を醸し出していて最初から引き込まれました。妹の病気のことが明かされると、美しい郷の景色が一変して異界のような恐ろしさを持ちはじめ、巧妙でぞっとさせられました。限りある生命を燃やすように夜な夜な絵を描き続ける妹が切ないです。風景描写と人物、心理描写の両面から夜というテーマに深く切り込もうとしていることが、伝わってきて良かったです。

まゆどじょう / 佐藤龍一クライマー
奇妙な生態を持つまゆどじょうを巡る物語。まゆどじょうも不思議な存在だが、それ以上に謎めいている舞藤という男から目を離すことが出来ない。

いやーこれ面白かった!
まゆどじょうの繭というモチーフと主人公の心情が重ね合わせで淡々と語られ、ぞくぞくするようなスリリングがありました。ラストで舞藤の彼女が出てくるところもいい。モチーフと比喩が少しあからさま過ぎるのと、主人公の心情がもう少し踏み込めるといいなとだけ思いました。

ハッピーエンド / 三浦さかな
洒落た文章と静かなカウンターが夜の懐の広さを感じさせる。後半に出て来る海が物語に一層の雄大さをもたらしている。

魅力的なキャラクター造形に加えて、油絵を眺めているかのようなシーン描写が印象的。エンターテインメントしつつ、その上で文学作品として作者の拘りも読み取れる。解釈の分かれそうな結末を、簡潔なタイトルが攫っていくのが見事。

バスみたいに揺れたらいいのにね / 南都浩哉
バスの揺れの心地よさと、ゆりかごのような安心感。眠りに就くときの奇妙な感覚が、娘に引き継がれるという不思議な展開だが、独特のおかしみがあって面白かった。

不眠症だった自分を救ってくれた「揺れ」と、娘さんの感じる「ゆらゆら」と。その正体はなんなのか、どうして同じ感覚をもっているのか、その正体は分からないけれど、過去の自分や過去の自分にとって大切だった人のかけらが子どもに伝わっているんじゃないかという、温かいお話。なにより文章が鮮やかで、温度感があり、表現力が素晴らしいです。

のこぎり夜話 / 太郎吉野
こちらに語りかけて来るような癖の強い関西弁調の文体で、独創性が高い。物語の端々から情が溢れており、最後のオチまでしっかり描かれていた。

声が聞こえてくるような語り口調の文章で、とある女性のこれまでを描いた作品。固有名詞やカタカナ、関西弁が見事にバランスよく使われており、リアリティを演出することに成功している。
情報の出し方も素晴らしく、終盤に明かされる女性の現状に、心が温かくなった。読後感も非常に爽やか。

瓜の舟 / 草乃草子
詩人の話。物語そのものが詩のように美しい文章で綴られており、心地よく読めた。不思議であたたかな空気感も魅力。

瓜を慈しむ詩人の物語。「くだもののある景色はいつもうつくしい」という一文に、絶大な説得力を与える筆致が見事だった。選び抜かれた表現が魅力的な、珠玉の幻想文学。

岳おじちゃんはすきなひと / 神敦子
岳おじちゃんと姪っ子のやり取りが、ふたりの絆を感じさせる。おじちゃんの昼間にはふらふらとしていてどこか頼りない飄々とした姿と、夜の祭りで地に足をつけて楽しげに振る舞う姿の違いが面白い。夜にしか生きられない、祭りの日にしか邂逅できない住人を描いた、奇妙で不思議な作品だった。

体の弱いおじを慕う少女の話。少女の視点で主観的に描かれたおじの魅力が、しっかり伝わってきた。臨場感あふれるお祭りの描写もあり、いつの間にか不思議な世界に引き込まれているような感覚を抱いた。お祭りが終わったシーンの、畳みかけるような文章が非常に印象的だった。

夜もすがらに咲き誇る / mk*
設定がしっかりと練り込まれた骨太なSFファンタジー。創造性が高く、描写が細やかで美しい。彗石ラジオが繋ぐ儚い最後のひとときや、ノアの方舟をモチーフとした物語性、植物の恒久性や雄大さが目を惹く作品。

筆致が安定しており、優れている。
SFに広く用いられる表現を多用しつつ、内容も叙情を意識した充実した内容であり、一定の水準を超えていると考えられる。オリジナルのアイテムである彗石ラジオも興味深く、効果的に使われている。
古典を強く意識しており、エンターテインメント性という意味で若干の弱さを感じたが、全体的な質を高く評価したい。

慰霊 / 山本貫太
重厚な文章かつ高い密度で綴られている物語。やや持って回った印象を受けたが、圧倒的な文章の力により説得力を感じた。

すげーのが来た。幻想文学だ。いや、思索文学なのかな?
しっかり解釈できないと正しく評価できないかもしれない。あるいはハッタリだけで中身のない文章かもしれないが、それでここまで読ませるなら充分だ。

椿桃、永遠に / 伊藤なむあひ
腸が人の本来の姿という理論を振りかざす父。そこから繰り広げられる奇妙な顛末は、カルト性を伴って狂気に満ちた展開へと辿り着く。正気と狂気に彩られた腸が生き生きと夜の中に放り出されたとき、我々は自らの信じていた常識を疑うこととなる。奇妙だが重厚で中身の詰まった怪奇小説。

発想が宇宙方面の天才すぎて意味がわからないのですが(褒めてます)、意味がわからない状況なのにぐいぐい引き込まれて一気に読まされてしまいました。
いろいろな伏線からお父さんはなんかの教祖かな…と予想していましたが、わりと早い段階でそれが明かされ、そこから『夜』に絡めたより深いお話になっていくのは読めなくて、驚かされてばかりでした。ひっくり返すところや腸の描写などもお上手なので、途中うぇーうぇー悶えながら読んでいましたが、理解しがたい気持ちの悪さの中にも一貫して哲学があって、あー、なるほど、人間は結局、腸になればいいのね。などとだんだん本当に洗脳されていくような怖さがありました。

夜直の人魚狩り / 一野蕾
ひと知れず人魚からひとびとを守る領域治安部。スピード感溢れる展開で、意外性もあり、文章も過不足なく読みやすい。ハードボイルド怪奇小説として、総じて完成度が高かった。

シンプルに面白い、文章力も充分。高評価が当然の作品だが、若干のテンプレート感は否めないため満点は回避。

そして、吸血鬼たちは夜空を見上げる / 暇埼ルア
限られたものしか入れないバーの近くで起きた暴行騒動。犯人へ至る道筋も明確で、登場人物らに魅力がある上質なキャラ文・ミステリー。結末もすっきりとしていて読後感が良かった。

内容、キャラ共に魅力的で設定もとても良いです。エピソードも構成もしっかりしており、よくこの文字数でまとめられたなと思いました。とても面白かったです。

パーテルノステル / 虹乃ノラン
覗き部屋をモチーフにした、色気たっぷりのサスペンス・ミステリー。登場人物が魅力的に描かれており、構造物の仕掛けも凝っていて面白かった。

粗はあるけど、おもしろい! ドキドキしながら最後まで読みました。もう少しだけ感情表現に奥行きがあれば最高でした。

猫が飛んだ夜 / 右城穂薫
母に従属している子供特有の視点で綴られた幻想的な物語。母が自らをアクセサリーとしてしか認識していない子供時代の、親類の家での静かで美しいがどこか緊張感のある一幕が丁寧にしたためられている。作中に出て来る猫や男性の存在が謎めいていて、結末の気持ち悪さもどこか美しい印象を残す作品だった。

全体を貫くノスタルジックな雰囲気に魅了された。感受性豊かな語り手による危なげのない描写が、どこか幻想的な作品世界に現実感を与えている。ラストに描かれた光景は、語り手のみならず読者の記憶にも鮮烈に残ることだろう。

夜のアジール / 上雲楽
視点やシチュエーションが固定されていることで、頭の中に自然と映像が浮かんで来る。いい意味で低予算映画的なスリリングな物語に仕上がっていると感じた。

また満点つけてしまった。これもよかった!
クリストファー・プリーストのようなSFでもあり、幻想文学でもある感じ。端正な文体が読ませます。解釈はいろいろあり得そうだけど、それがなくても充分に楽しめる文学と思います。

ムーンとデスとR.I.P. / あまひらあすか
月面作業員の日常がリアリティたっぷりに描かれている。月面で自死をはかるものたちと、オカルト感のある死神の存在もいい。結末もウィットに富んでいて面白かった。

高度に発達した技術と心霊写真や盛り塩などのスピリチュアルな事項が同居しているところも含め、すごくリアルで「すこしふしぎ」なSFで、冒頭から引き込まれた。月面の様子やそこから見える地球など、映像的なイメージも美しい。
死神の言葉がどこまで事実なのか、いろんな解釈ができつつ、少しヒヤッとしたものが残るラストがお見事。

黒き蛇よ / 西村修子
流されるままに生きるための仕事を探す主人公が就いたのは、米軍の水兵らに淫売ビデオを売りつける前衛集団の掃除婦だった。戦後の煤けた風景や貧しい生活が垣間見える、リアリティが溢れた非常に力強い作品。

これも面白かった。歴史もの、それも庶民の文化を鮮烈に描くもので、恐ろしくレベルが高い。そして普通の出版社ではなかなか扱われない。笑
ただ、テーマの「夜」というところについてはどうなんだろう、とは思った。

夜半舟 / 秋田柴子
宵の口から夜半を過ぎるまで、無愛想な大将は屋台で蕎麦を作り続ける。不思議な屋台にふらりと立ち寄った主人公と、蕎麦をすする若者との一瞬の邂逅。若者の笑顔がどこか切なく、転調する後半の流れもよい。胸を打たれる作品。

仕事帰りの主人公は、偶然見かけた蕎麦の屋台で、居合わせた青年と語り合う。滅多に見かけない屋台で食事をするという非日常が、さらなる非日常へと主人公を誘っていく流れに引き込まれた。ラストの余韻も温かく、優しい気持ちになれる物語だった。

朝焼けまでに帰れたら / みずきけい
夜中に奇声を上げながら自転車を漕ぐ主人公と、顔見知りの花屋の店員。夜の公園で出会ったふたりの四方山話は少し滑稽で少し切ない。同じ夜を過ごし、同じではない夜を過ごしたかもしれないふたりの心の交錯が丁寧に描かれていた。

突き抜けた深夜テンションから始まり、夜明けが近づくにつれ二人の輪郭が徐々に浮かび上がってくる。読み進めるほど『夜』という時間の特別性を実感する、稀有な読み口だった。それぞれの持つ事情ははっきりとは描かれていないのに、生きた人間の情緖の波をリアルに感じて、彼らの人生の先行きに思いを馳せたくなった。

向日葵 / アオイ
地球温暖化が進み、夜が日常となった世界。発想がよく、その世界観の中での細やかでリアルな生活がうまく描かれている。夜の世界で暮らすものが昼間に焦がれる、エモーショナルな物語。

温暖化により、人々が夜に活動するようになった世界を舞台に、少女が昼の向日葵を見るまでの話。世界ごと昼夜逆転するという、大胆ながら、想像できる範囲に収まっている設定が非常に面白い。主人公から見た、太陽の光に照らされた世界の鮮やかな描写も印象的だった。

スタアライト酔痴 / 神足颯人
成功の光から、人は逃げることは出来ない。一度浴びてしまった光を消すには、恐らく全てを真っ暗にしてしまうことでしかなし得ないのだろう。余生を捧げて発電設備を襲った男に、悲劇的ながらどこか再度光が差すような物語。

全文を読み終えてから、タイトルを見直すことで「あぁなるほどな」と感じられる作品でした。彼はずっと「成功した自分」に酔い続けていたのですね。そんな酩酊状態で、事件を「成功」させられるわけもなく。
ただ「素面」の彼はきっと努力家で、真面目で、だからこそ高校時代に成功をし、また技術者としても尊敬されるような、そんな人だったのだと、そこまで想像させられました。

蝉 / 奥津雨龍
蝉の鳴き声が不気味に鳴り響く幻想小説。夢の中へと誘われる道程が自然ながら不自然で、不可思議な世界に引きずり込まれてゆく/既に引きずり込まれている人物らの描き方が絶妙だった。

端正な筆致でした。物語の隅々まで不気味一色で、後半に差し掛かるにつれて没入できました。

こはねに勝てないなら死ぬ / 岩月すみか
ナンバーワン・キャバ嬢のこはねとナンバーツーのきり。結婚を機にお店を辞めるこはねの結婚相手は、きりの幼馴染の詐欺師だった。王道のストーリーラインだが、文章に力があり、感情豊かに綴られたきりの心模様がうまく描かれている。ビターな結末もよい。

3名の主要キャラクター間で飛び交う様々な感情の矢印。その矢印の一つ一つに明確な理由と背景が描けている。ユーモラスな文体ながら基礎を押さえていて読みやすく、展開も結末も見事。傑作。

ケニヤサハナム / 上雲楽
仏教や陰謀論をモチーフとした物語。先輩から受け継いだUSBメモリのデータを見たのちに、主人公に徐々に奇妙なことが起こり始めるのが面白い。ミトラ教の陰謀によりパニックムービーの様相を呈し始める後半は怒涛の勢いで読み応えがあった。

摩多羅神の呪文を生かしたテーマは斬新であり、目を引いた。
設定、筆致、展開のいずれも秀でており、高く評価したい。ただしこの分量に対しては設定量が多く、キャラクターの押し出しが相対的に弱いため、情報量を押さえ、テーマの押し出しを強くすることを検討されたい。後半部分も会話が少なく説明的になっているところに改善の余地があると考えられる。

宮川霞 25:58,YFS Est / 野呂瀬悠霞
CM撮影の様子がまざまざと詳細に綴られており、興味深い。文章力や表現力が非常に高く、細かい状況が手に取るようにわかるが、全体像がぼやけている印象。物語の大枠や構造が掴み取りにくかった。

こりゃまたすごいのが来たな!!
スタジオマンというニッチすぎる題材をここまで仔細に描いたものはもう、小説として絶対に価値がある。
その他描かれる感情の機微も素晴らしいが、夜というテーマについてはちょっと薄いか。でもそれさえ気にならないくらいの完成度です。

ふたつの星を / 山内みえ
夜のカフェで受験勉強をする主人公は、同じカフェで勉強をしている男性の様子が気になって仕方がない。勉強をするうちに、次第に惹かれてゆくふたりの様子がじれったく初々しいが、しっかりと距離感も保っており、キャラクタの信念の強さを感じさせる。最後の最後までしっかりちょっとじれったいふたりのやり取りがよかった。

同じカフェで勉強する受験生の物語。二人の距離感や語り手の思考がとてもリアルで、飾らない語り口も読み心地がいい。二人の夜明けを祝福したい気持ちでいっぱいになった。

夜の地層 / 春名トモコ
夜が消えた世界で繰り広げられるファンタジックな物語。槍で夜空を壊した神の神話や、一日を半分に分けて活動をする生徒ら、森の中の黒沼の存在など、世界観がしっかりと構築されていた。後半の展開も面白く、長篇にしても耐えうる強度を持っていると感じた。

おおお…ファンタジーだ…!!
こういうファンタジー短篇、今は世に出すところがないだろうからまさにこういうのは推したい。沼に星が広がる美しい情景が素晴らしく魅力的な見せ場になっている。
ただ、百合?(性別未分化ではあるけど)っぽい演出は個人的に要らなかった。構成としてすごくよくできてるけどね。

弔い / 東武
人は死ねば山へ行く、と言った父の言葉を思い出す五十男。二十歳から始めた登山で山に取り憑かれ、膝を壊してしまった彼の、あるいは彼らの精神的な墓場としての山。気力・体力共に大幅に低下しながら、彼は自らの気持ちを弔うために山に登る。重厚な物語。

男性的な力強さを感じる名作であり、高く評価したい。
大山への思いを持つ主人公の無骨でありながら繊細なキャラクターは読者への強烈なメッセージ性があり、彼女との関係性や怪我との向き合い方など、様々な面から多面的にまとめられている。
本来ならば満点をつけたいところだが、新規性という点に関してはやや乏しく、熊谷達也や夢枕獏、飯嶋和一、あるいは彼らと相互に影響を与えあった、同時代作家の空気感が拭えない。新たな時代を切り開く作品としては、さらにもう一歩の踏み込みがほしいところではある。しかしながら、自分の感覚とマッチする部分も多かったため、今回担当した応募作の中では最高点とした。

月が落ちてくる。 / 辻内みさと
閉鎖的な空気感が漂う幻想文学。見事な筆致で狂った世界観を表現している。後半にゆくにつれて真実が明らかになってゆき、更に二転三転してゆく展開に驚きを隠せない。非常に読み応えがあった。

どんでん返しに次ぐどんでん返し。これは面白い!
人間関係が爛れきった煽情的な作品かと思いきや、主人公の意識がはっきりするにつれ様々なことが明らかになり、それだけでない物語展開のある、楽しめる物語でした。

太陽の交換期 / 山本貫太
遠い未来、宇宙船で繰り広げられる物語。識字能力が失われた人類の、電球を替えるためだけに存在し続ける虚しさが切ない。図書館を愛する少女と主人公が出会ったとき、知は受け継がれてゆく。レゾンデートルを揺さぶられる静かで美しいSF。

非常に引き込まれる設定とストーリー。『星の王子さま』の点燈夫の話を思い出した。人間の一個体がただの歯車として機能すべき世界で、知識を得てしまった少女の存在感の異質さが際立って魅力的。主人公が文字を覚えて本を読むうち、自身の在り方への違和感が大きくなっていくのが、嗅覚を通してリアルに感じられた。ラスト、灯らなくなった電球が象徴的で、たまらない喪失感が残った。

白道 / 月江りさ
電彁というヒト型AIが人間と同じように活躍をする社会をのびやかに描いている。巧みな筆致で音楽をモチーフにした点も面白かったが、現代から千年もの月日が経っているのに、生活や文化、技術レベルが現代を模し過ぎているのが残念。昔のように、などの注釈を入れてしまう点からも、SFを書き慣れていないように感じた。もっと発想に飛躍があればよかった。

説得力のある文章で、骨太の世界観を持つSF。普段からよくSF書かれている方なのかなと思いました。既存の情報の集積からAIがつくりだした芸術はたして創造性をもちえるのか、芸術といえるのか、という議論はこれから未来ずっと考えられていくと思いますが、近いことはかならず起きるのではないかと思わされました。
ドビュッシーの楽曲は、残響をとても大切にする性質を持つので、それが物語中で効果的に使われているのもよかったです。白道というタイトルのセンスもすごい。一読しただけでは難しい部分もありましたが、読めば読むほど味わいがありました。

うたかた / 綺月遥
月と太陽がひとの姿を模している世界。月の満ち欠けのたびに、太陽は月に刃を突き立てる。何度も何度も繰り返す神話の中で交錯する、ふたりの感情の揺らぎが愛おしい。最後の転調もよかった。

月のつれなさと、太陽の笑顔。月はつれないままですが、ずっと存在し続ける太陽はどんどん無邪気さを失っていきます。そして月も、そっけない態度はそのままに、長い長い年月をかけて少しずつ変わっていく。そうして月と太陽以外の何者もいなくなったとき、二人は愛によって世界を終わらせる。神話めいた、どこか可愛い雰囲気のある、しかし物騒で一途な愛を感じる物語でした。

流れ星のシール / 桜井かな
シールやスタンプでのコミュニケーションを鋭角に切り取っている物語。一人称で描かれるがゆえに、語り手の異常に気づくのが遅れ、それが一層の深みを物語に与えている。非常に読み応えがあった。

怒涛の勢いのモノローグで、それ自体が語り手の為人を見事に表していた。「ミカ」への異常な執着とコミュニケーションの不味さを全て都合よく解釈するメンタリティに、ある意味圧倒される。語られていない部分に絶対トラブルがあったはず。シニカルな面白さがあった。

秋宵 / 桜井かな
着物を虫干しする、どこかミステリアスな祖母と主人公。落ち着きのある冒頭から想像出来ないダークな感情を抱えた主人公に振り回されたと思ったら、実は祖母にも秘密があったという二重構造がよかった。

ジブリ感×狂気×ホラー。限られた文字数を活かし、短編小説として完成している。細かく描く部分と暈すべき部分の対比が見事。真相に辿り着いて尚、祖母を寄り慕う主人公、まさに蛇の道は蛇。

ジェンガの上で何を見る / 永和けい
出身地はアイデンティティーに繋がっている。出生地を答えるのか、生まれ育った地を答えるのか、思い入れのある地を答えるのか。ふたりの男子大学生の友情の中にある自己/他者評価の揺らぎのようなものが滑らかな筆致で描かれていた。

ジェンガの使い方がとても上手い。ひとつ積むごとに不安定になっていくジェンガと、その合間に交わされる会話の緊張感が巧みに絡み合っている。ジェンガそのものが語り手の葛藤の象徴となっている点も良い。友人のキャラクター造形もよかった。

花山ホテルの幽霊 / 茉亜
叔父のホテルで起こった幽霊騒動に、主人公と幼馴染の神主の息子のふたりが駆り出される。ディティールが細かく、映像が目に浮かぶほどの説得力がある文章がよい。キャラクタ性や物語の構造も面白く、幽霊の正体もなるほど岩手だからな、と腑に落ちた。

ストレートなエンタメホラー作品で、霊媒役の次期神主というオーソドックスなキャラクターを使いつつも、主人公がしっかりと生霊と神霊(座敷童子)というふたつの異なる『霊』への真相を導き出していて、完成度が高いと感じました。オチにはどこかほっこりさせられました。盛岡にちなんだ小ネタの数々や、どこかノスタルジックな世界観を持つホテルの、風情ある描写、グルメまで堪能できて、とても楽しい作品でした。

神と夜明け / 山川陽実子
稲作を始めたころの民族たちの物語。稲作を通じて、よい神や悪しき神が語られるが、本当に怖ろしいのは環境の変化によるひとびとの心の変遷なのだろう。新しい時代の夜明けの影にはこうした鬱蒼とした夜が横たわっていたのかもしれないことを想像させる作品。

これは興味深い。古代ファンタジーと見せつつ、人類史に対する真摯な視点が読ませます。神と来訪神のもたらす福と禍。プロメテウスのもたらした火をコメになぞらえたような神話的物語。

未明の音楽 / 我妻許史
夜のバーにはさまざまな客が訪れる。カウンターでバーを回す男性と客たちの会話劇が淡々とつづられているが、会話のテンポや内容にメリハリがあって惹き込まれる。最後までなにがあるというわけではないが、筆者の言語センスが発揮された作品。

面白い! 夜中のバーに集まるクセのある人々を描いた群像劇で、一人一人の描写がものすごく上手い。特筆すべきなのは、物語を盛り上げるための大きな事件が起こるでもなしに、飽きることなく読ませる手腕。とても良かったです。

ジョニーの星 / 髙橋螢参郎
いまでは片田舎のマイルドヤンキー的存在になってしまった主人公にも、星のように輝いていた日々があった。田舎が生んだスーパースター、ジョニーとスターになれなかった男の物語。夜空に輝く一等星の横に並んだはずの光の幻視を見た。

採点に苦しんだ一作。固有名詞が多く、確実に読者や世代を選ぶ。主要人物らの年齢や時系列を読み取りづらく、また田舎の表現などはテンプレートの域を出ない。とはいえそれらの問題点を補ってなお、最後まで読ませる力を感じた。これがロックンロールなのか。

コンビニ騒動 / 搗鯨或
コンビニのイートインスペースで起こるミステリアスな一幕をコミカルに描いている。登場人物らの造形が誇張されつつもリアルで、ミステリ風味の物語も読み応えがあって面白かった。犯人の目星はおおよそついていたが、オチは少し意外で笑った。

客も店員もクセ強ぇよ! とツッコミたくなりましたが、反面、実際こういう人いそうよなぁと思えるキャラクター性もちゃんと持っていて好感触でした。真犯人に行き着くまでに起きる小さなドタバタ事件も、リアルすぎにもウソっぽくにもならず、作品全体をうまくコメディ色にまとめていると感じました。
オチを見てから再読すると、田中さんが「細身」のところで特に違和感を持っていないことにウケます。おデブの自覚がないんですか? 笑 それともあえてスルーしているのですか? 笑 面白かったです。

傲慢と偏見の狭間で / マルクス・ホセ・アウレリャノ・シノケス
深夜の海の中で銛を掲げる主人公。彼女の死生観が、狩りを通して伝わって来る。陸で暮らす当事者意識のない人間と、直接命を手にかける彼女との違いを感じさせる、静かだが深みのある物語。

文句無し。規定の倍くらいの点数を付けたい。圧倒的な描写。食物連鎖のエゴ、生命の本質、倫理の無力さ、あらゆるものが詰め込まれている。さらには物語を締め括る2行が半端ない。読み取った瞬間に鳥肌が立った。

黄昏時がすぎると。 / マルクス・ホセ・アウレリャノ・シノケス
キノコが知性を持った星での物語。最初は狩りをしていた人間たちだが、キノコに知性があると広くわかると、既得権の奪い合いなどで次第に旗色が変わってゆく様がリアルでよい。主人公が星に辿り着いたころには、星もディストピア化しておりその中で悪知恵を働かせながら生き抜く彼らに親近感を覚えた。
作り込みもよく、独創性の高いSF作品。タイトルが取ってつけたようで残念。

SF短編として抜群に優れている。
設定のアイデアがいいこともさることながら、ドラマも練り込まれており、既存に見られない明らかな独自性がある。ライトノベルの錆喰いビスコを思わせるような世界観と、ベジタリアン的な思想の扱いの難しさを融合させたような、見事なコンセプトアートと言えよう。マタギの生活を描いた飯嶋和一の「プロミスト・ランド」なども彷彿とさせる側面がある。新時代の商業作品に相応しい、傑作であると判断した。
唯一の減点対象はタイトルであり、より内容に迫るものに変更することが望ましいのではないだろうか。

ツー・ミッドナイト・ノブレス / 蛙鳴未明
リアリティのある冒頭から、摩訶不思議な黒猫と出会ったかと思えば第二の夜が来る不思議な世界線へ。そこから始まる不条理文学的展開は不可解であるが滑稽で非常に面白かった。文章にグルーヴ感があり、次々と移り変わる情景に置き去りにされそうになるが、奇妙な説得力があった。

個性が光る作品でした。豪快で不思議な世界観に引き込まれ、後半の逃走劇などは目を瞠るものがありました。キャラクターも立っていて楽しく読めました。

初恋 / 濃藍珠
流麗な文章が印象的。幾星霜を生きるものとそうではないものの相違が、詩的に表現されている。濃厚に紫煙がまとわりついた、匂い立つような作品。

これはすごいのが来た。
人外という設定はポップによるかと思いきや、コンテクストに依存せず純粋に文学として読ませる。そして「初恋」の様相とそれに敗れる様は、ファンタジーの領域でなく、正しく現実の暮らしと感情に地続きで、その瞬間、この物語、この彼女はファンタジーの領域から読者の身近な領域に明確な形を成す。見事なカタルシスでした。

私のお城が崩される時 / 黄間友香
母と娘の物語は大抵愛と呪い、それからパーソナルスペースの話になりがちではあるが、この作品もそのような方向性だった。娘のことを自分自身の延長と捉えているような母親の気持ち悪さが丁寧に綴られていて、読んでいて鬱々とした気分にさせられる。娘にもまた共依存的な部分があり、ささやかな反抗の印として部屋を汚す。非常に嫌らしい、しかし目を離すことの出来ない魅力に満ちた作品。

母と娘の間だけにある呪いの在り方がリアル。「ゴミを片付ける」という日常動作の中に、母から受けてきた身勝手な干渉が主人公の人生を侵食している様子が見事に表されている。いる/いらないの判断が上手くできない。それは母との関係そのものについても言えることであり、平穏な夜が闇に塗り潰されるような絶望と諦観で、ひどく苦しい気持ちになった。

ヨシロウさん / 得能香保
家庭環境の歪みや劣悪さ、暴力の連鎖から逃れることは容易ではない。そこから逃げ出すために、主人公はイマジナリーフレンドを作った。テーマ、文章共にありがちではあるものの、感情表現の巧みさや痛々しさが生々しく、非常に力のある作品に仕上がっていた。

とても素敵な夜の話でした。そして、ヨシロウさんという存在は、ある意味では物語が持つ役割そのものだなと感じました。彼女の夜が明け、爽やかな気持ちです。

親鳥の羽 / 夜霧
充電するものが多過ぎるくだりはわかりみが深い。そこから始まる怒涛の子育てや家族にまつわる物語。その中から立ち上がって来る疑念と衝動はリアリティがあって読んでいて辛かった。全体的に閉塞感の漂う内容ではあったが、今の世の中を鋭角に切り取っていた。

経済的に余裕はないが、切り詰めればなんとかなりそう。そんなギリギリのところにいる母親の不安が伝染してくるような作品。充電と食事を結びつける感性の鋭さに驚かされた。夫に対する感情の描写が非常に丁寧で、失望感と怒りのエネルギーがひしひしと伝わってきた。色々なことが重なって迎えた悲劇的なラストには鳥肌が立った。

フライ・ミー・トゥー・ザ・サン / 小川リ
絶妙な距離感の先輩と後輩の胸があたたかくなりつつもちょっともだもだする感じの交流が軽妙に描かれていた。会話の調子がよく、洒落感もある。最後の一節も絶妙で美しかった。

主人公の視点そのものから先輩への好意を感じ取れる筆致が見事。彼の「時間とは場所」という考え方に惹かれた分、彼が失恋のせいでチェーン店に行かなくなったこと=まだ過去の時間に囚われたままなのだと腑に落ちすぎてしまって、呆然とした主人公の気持ちがよく分かる。名曲を彷彿とさせるタイトル、そこに重ねられた叶いそうにもない想い。読了後もしばらく尾を引く切なさだった。

二次選考の結果発表は9月末ごろを予定しております。

【惜しかった作品について】

一次選考通過はならなかったものの、通過作品と遜色のない作品が多く集まったことから、「惜しかった作品」として51作品の講評を以下に掲載致します。

夜、暗殺者の夜 / 桑原和彦
夜に溺死 / 大森猫
金の玉昇天 / 花園メアリー
普通さんのいじわる / 国河松茶
約束 / 染井雪乃
冥土への花火 / 星野芳太郎
わたしは、なにも感じない / 沈丁花ましろ
カートの中は夜 / 真魚ゐ
星も見えない、この夜に / 春待まな
Night sky / 円寺える
夜明け前 / 海老名恵多
夜の実 / 兎束作哉
殺人鬼と声のトモダチ / 木々暦
啓蒙いちご通信 / あたらしみな
夢を抱く / 恵創
ヒロインの靴なんてない / 宍井田理緒
ポルちゃんくれてやるさかい、あとは自分でなんとかせぇや / 桝田耕司
おはよう! いちばんドリ / 宮本享典
わからないおとこたち / おふなじろー
覗く人 / 石川鳩男
きらら / 虹乃ノラン
今宵、Storiaにて / 杜乃日熊
びんどん / 八木真平
ネロリとニガヨモギ / 髙谷慎太郎
可惜夜に酔えれば / 佐々木井三郎
眠れない夜ならば / 水戸桂子
夜売屋アキの永い夜 / 齊藤奏瑠
パーフェクトガール / 入間真由子
あくにん同盟 / 桜井かな
貰い火 / 犬山昇
優か劣か / 田中海吏
不幸論 / 岩瀬達哉
泣いたら夜明け / 一野蕾
お隣さんは夜にしか会わない / 東雲亮
蚤の心臓 / 逸見光
バスと街灯と夜の扉 / 紅木夜
超徹夜 / 結城熊雄
桜の夜に / 福田愛
月夜の華 / たおず
邂逅アイスクリーム / 那津実栞
抱卵 / 水の森一猫
春暁に死す / 蝦夷雪夜
聖なる・・ / マルクス・ホセ・アウレリャノ・シノケス
ナイアー・トラップ / 藤崎ほつま
サヨナキドライブ / 奈尚
きこえる / 瀬戸千歳
夜なき人狼 / 憂杞
3月32日 / 進之介
余命半年の浦越さんが三年峠で転びかけている。 / しのびかに黒髪の子の泣く音きこゆる
冬はカンパリで / 市ヶ谷悠
夜は飲んでも吞まれるな / 又碧羽

【惜しかった作品・講評】

夜、暗殺者の夜 / 桑原和彦
深い夜の中で、夢と現が曖昧模糊となるような作品。カルト的な空気感と、艶かしいリアリティがあり、文章のよさも相まって心地よく読めた。

20世紀の不条理小説を連想する作品である。
殺される間際の心理から始まり、前半は不可解な事象に対する戸惑い、死に対する嫌悪感を強調している一方で、そこに感じる性的な快感や安息への憧憬などを様々織り交ぜ、細分化した描写に特化した内容となっている。後半は幽玄を思わせる奇妙な空間で取り扱われる自分の描写がほとんどであり、花魁やグスタフ・クリムトなど、エロスを強調する描写が多い。総じて、悪夢をそのまま描写したような内容で舞台劇を思わせる臨場感がある。
筆致には一貫性がある。途中で投げ出してしまうこと無く、徹底して最後まで同じリズムとリリカルさを維持したことについては一定の実力を感じた。
ただし現在の日本から販売すると考えた時に、何を現代性として表現したかったのか、海外作品の翻訳ではなく日本の作品であるということをどのように表現したのか、は残念ながら読み解くことはできなかった。

夜に溺死 / 大森猫
希死念慮と生への渇望に満ち溢れた作品。前半の工場のくだりは淡々としていたが、後半にゆくにつれて主人公の本心が現れていってツイストする様がよかった。

Web上の仲間とリアルで出会うために働き、目標を叶えようとする物語。終盤の展開には、冒頭に戻って物語をたどらせる意外性と力強さがある。日中の世界の生きづらさと諦めが丹念に描かれていて、読後感もよかった。

金の玉昇天 / 花園メアリー
コミカルなタイトルとは裏腹に、魂の拠り所についてしめやかに描かれている。魂が失われるひとときを丁寧に綴っており、好印象。

死んだ男の魂の依り代と思われる金の玉を見つける野良猫の様子が、お洒落な文章で紡がれている。輪廻転生とか魂とか霊とか、そういったワードが出てくる不思議な話でありながら、綺麗にまとまっているように思う。

普通さんのいじわる / 国河松茶
言語化され、診断を受けることで明確になる「普通じゃない」が辛い。普通でありたい気持ちや心の乖離が丁寧に描かれている。他人からの目線や、自分自身への期待や失望などがない混ぜとなり、取り留めもない文章で綴られているのが面白い。

描こうとしているテーマとその描き方、「普通さん」という言葉に個人的にとても好感を覚えたが、小説の技術面がもう一歩といった印象。伝えたい情報を整理し、描写の強弱を意識してみてはどうか。誤字や言葉の誤用などが散見されるのも残念。母親や店員などの周囲の人物が人格者なだけに、主人公がややひねくれていて卑屈過ぎるようにも見えてしまった。主人公の心情の変化を説得力とともに丁寧に描き出すだけでも、ぐっとよくなる可能性のある作品だと感じた。

約束 / 染井雪乃
弟を見殺しにするという、刺激が強めな冒頭のくだりがよい。からの、思いのほか穏やかな弟の身代わり=吸血鬼との交流。ふたりの心情の変化が自然で心地よく読めた。

愛に飢えていただろう二人が互いにとって不可欠な存在となっていく過程が、心地よい文体で淡泊につづられていく。描写が必要最小限でありながらあまり不足を感じないのは、作者の力量によるものだろう。約束は二人を縛るものでもあるが、二人の世界を存続させるためのよすがでもある。弟の扱いにもう少し救いがあれば尚良かった。

冥土への花火 / 星野芳太郎
きっぷのよい江戸っ子気質が心地よい一作。冥土の迎えの存在が洒落感があって面白い。ほろっと来る寂しさもあるが、人情味の溢れるあたたかな物語だった。

江戸っ子の気風と洒落っ気が心地よく、テンポの良い噺でとても楽しかった。誰かが割を食うような皮肉ではなく、みんながポジティブなことで生まれるおかしみが、今の時代に合っていると感じた。登場人物全員が可愛らしく、心のほっこりする良いラスト。ぜひ実際の落語として聴いてみたい。

わたしは、なにも感じない / 沈丁花ましろ
思春期ということばによって平たくされ、自己の感情が曖昧となってゆく感覚。恋愛感情のズレや親娘の交わらない心情の交錯が、読んでいて非常に痛々しい。主人公の孤独さが夜を思わせる秀逸な作品。

文章は書き慣れており、技術的には高い。読み手のリズムに応じた展開を用意できており、最初から最後まで一連の流れが平易な表現で、しかし感情の動きを的確に伝えることができている。
その一方で、主題とメッセージ性に対しては難が多い。夜というテーマに直接的に合致していないし、伝えたいことが単純すぎる。読者に対して新しい気付きを与えたり、深い部分にまで刺さる作品であるとは言い難い。

カートの中は夜 / 真魚ゐ
アクの強い超能力者が女子高生らを救う話。キャラクタに一貫性があり強度があった。物語もうまくまとまっており、読後感がよかった。

けぇ子さんが面白くてつい笑ってしまうのですが、一人一人のバックボーンは重く、軽い語り口の中で人間関係や生きることについて思いを馳せさせる良い作品でした。

星も見えない、この夜に / 春待まな
周囲に潰されるように生きる姉の姿が、悲しく儚い。痛々しい気持ちにさせられる作品。

大切な姉を救えなかった記憶と、越えられなかったものへの無力感に、底まで突き落とされたような感覚に陥った。敬体と常体の入り混じった語り口が独特のリズムを生んでおり、情緒の不安定さにリアリティがあった。深い哀しみと虚しさが、ひどく後を引いた。

Night sky / 円寺える
明るいところで優等生らしく振る舞わなければならない昼の自分をふわりと解き放つ、赤髪のネイリスト。夜の街が似合う赤髪の柔らかな物腰と言葉が胸に刺さる。

共感性が高く、読みやすかったです。しかし良くも悪くもまとまりすぎています。(例えば、キャラたちのこれからを想起させるような締め方など…)セリフ力もあり、特に赤髪の店主が好きになりました。他の作品も読んでみたいです。

夜明け前 / 海老名恵多
この世に未練を残したおじいちゃんと、受験を控えてナイーブになっている女子高生との出会い。あたたかな雰囲気や言葉が胸に沁みる。後半にかけての展開力もあり、読後感のよい物語だった。

主人公の揺れる心情と「未練」が明かされるくだりでグッと盛り上がりました。文章も淡麗で読みやすく面白かったですが、展開を急いでいる印象で叙情に欠けるのが残念。ラストももう少し踏み込みが欲しかったです。全体的にハイレベルな作品でした。

夜の実 / 兎束作哉
昨日まで存在しなかったはずの「夜の実」が突如世界に現れるSF作品。状況に振り回される主人公に降りかかるパニックムービー的展開が面白い。

『夜の実』という謎の植物によって、人々の思想が唐突に汚染された世界で、自分らしさを守り抜こうとする主人公たちのボーイミーツガール短編。発想が斬新で、主人公と同じく『夜の実』に汚染されていないヒロインの個性も眩しい。ラストの展開もよかった。

殺人鬼と声のトモダチ / 木々暦
殺人鬼とこころを通い合わせる声の主。ふたりの会話劇が温かく、切ない。ラストシーンの物悲しさがよい。

キャラのこの組み合わせが作品を面白くさせ、またこの二人じゃないと成立しない作りになっているのが良かったです。ラストを想像すると切ないですね。互いに自分の境遇に疑問を抱いていないのに、悲惨な状況を読者は感じられる書き方がとても良かったです。

啓蒙いちご通信 / あたらしみな
アイデンティティーの話。読まれることのない手紙を通して、自分と相手の存在を確立してゆく苺。アイスクリームの存在を通して、自分と相手の関係性を思う夜桜。ふたりの魂の交錯が切なくも美しい物語。

好みの分かれる世界観と文体。考察しがいはあると思われるが、あまりにも輪郭がぼやけているので、大多数の読者にはしんどいと思われる。

夢を抱く / 恵創
夜の世界の中でしか触れ合えないふたりの心情がうまく描かれている。危うい中に光明の見える物語でよかった

社会的な場(=昼)では公にしづらい、密かに静かに繋がっていた二人の空気感や距離感(=夜)の描き方が良い。足の冷たさで相手の不在を意識する描写が秀逸。同性同士の簡単ではない関係性に何を望むのか、読み終えた後にタイトルに深い含蓄を覚えた。

ヒロインの靴なんてない / 宍井田理緒
真夜中の海に向かって、自分の気持ちを吐露する主人公の心情がよく描かれている。失いかけた片方のスニーカーがシンデレラのガラスの靴を思わせる。

知らない場所に来て、最後に一番近しい自分の居場所思い出す。そのラストがとてもしっくりと落ち着きました。

ポルちゃんくれてやるさかい、あとは自分でなんとかせぇや / 桝田耕司
ポルターガイストにまつわるドタバタコメディ。筆者の個性が十二分に出ていた。悲劇的な雰囲気からはじまり、きちんと喜劇に着地するところが面白い。

テンポの良い、綺麗にまとまったコメディで、とても楽しく読めた。主人公の投げやりさと、幽霊の律儀さ、アプリで出会った男性の善良さが上手く噛み合っていて、気持ちよく収束するハッピーエンド。疲れた時に繰り返し読みたいタイプのお話。

おはよう! いちばんドリ / 宮本享典
深夜に人知れずラジオ局の機材を直す仕事。専門的な話だったが文章がうまく読みやすかった。きちっとした仕事ぶりも気持ちがいい作品。

特殊な職業を描写する力を感じられました。まとまりがあり、とても読みやすいです。しかし大きな展開を感じることができませんでした。

わからないおとこたち / おふなじろー
アウトローな男と出会ったゲイの、ひりつくような一夜の出来事。代打ち稼業を生業とする男の危うさと、同性愛者の主人公の持つ熱が絡み合う読み応えのある物語だった。

失恋で川に飛び込んだ男が、絶対に交わることのない男と偶然出会い、非日常な夜を体験をする。序盤の臨場感のある文章に心をつかまれた。二人の人生を比較する際に、名刺が使われていたのが印象的だった。

覗く人 / 石川鳩男
ひとの趣味嗜好は自由であり多様である。しかしながら、ベランダから人々を眺めてその人の生活を想像する趣味はいい趣味とは言えない。そのような奇妙で不気味な癖が手紙にしたためられた物語。不気味なラストシーンで背筋が寒くなった。

夜闇に紛れて人間観察をしている主人公のお話。淡々とした文章に時折滲む執着と、鮮やかに展開される想像の世界が、この主人公ならではの世界観を形作っていた。ラストの展開もよかった。

きらら / 虹乃ノラン
櫛や漆についての造詣が深く、読んでいて学びになる作品。しっとりとして刹那的な空気感も良かった。

“夜”の表現方法が斬新で突出している。作者の知識と作品の雰囲気の融和も素晴らしい。惜しむらくは物語終盤の纏め方に少々の粗さが見える。心から高得点を付けたかった。

今宵、Storiaにて / 杜乃日熊
千夜一夜物語を思わせる幻想的な雰囲気と、物語を生成するAIの存在。種明かしをしてしまうことで地に足がつきすぎてしまって、逆効果と感じた。

単純に面白く、最後まで引き込まれた。二人称であることにきちんと意味があり、なおかつ効果的に働いている。「物語を提供する店」という設定だけに終わらない奥深さがあり、テーマに時代性が感じられる点も良かった。

びんどん / 八木真平
五十男のびんどんの中にいるかのようなすり減った日々が朴訥な文章で綴られているかと思えば、物語は転調して死者の乗る列車へと辿り着く。死へと向かう男の、自身の家庭を覗き見る最期のシーンがあまりにも悲しく、切ない。

一自分にとって本当に大切なものが何なのか、自覚したときには遅すぎる……残り僅かの人生で気づいた愛しさと、すれ違いが生む切なさを、精緻に捉えたヒューマンドラマだった。物語に織り込まれた希望にも、確かな温度を感じた。

ネロリとニガヨモギ / 髙谷慎太郎
気だるげで洒落た雰囲気が漂う。ペーパーバックにぴったりといった読み応えで独創性が高いが、固有名詞を無駄に多用したりと洒落感を演出し過ぎているせいでやや読みにくく感じた。

舞台劇を思わせる厚みのある豊かな表現、キャラクター2人の微妙な距離感と個性、舞台の独創性など、様々な点で高く評価したい。
香りや音を多用する文体には臨場感もあり、出てくる小道具も独特で興味深い。やや文体がレトロな感じがあるが、これが狙ったものか、単になんとなく書いた結果なのかは読み解けなかった。
ただ、どちらにせよ読者の絞り込みにつながる要素ではあるため、その部分については改稿を通じて仕上げていくことが求められそうに思う。文芸として一定の水準に達していると考え、以降は商業作品としての完成度を上げていくことに注力されたい。

可惜夜に酔えれば / 佐々木井三郎
奇妙な都市伝説を巡る物語。言えなかった思いをどうにかして昇華したい、という気持ちとオカルトとのコラボレーションは奇妙だが面白い。リアルな人間味の漂う作品。

これ、好きだなぁ。ポップカルチャーのコンテクストをベースとした話は純文学としてはマイナスだと思うんだけど、雰囲気もキャラクターも、そしてオカルト的な考察という意味でも納得感が高く斬新。好みの作品でした。

眠れない夜ならば / 水戸桂子
優秀だった主人公が事故を機に深夜コンビニバイトに勤しむ話。コンプレックスを抱えた主人公のなよなよとした思考回路には少々辟易していたが、徐々に自信がついてコミュニケーションが取れてゆくさまが読んでいて心地よかった。登場人物らが魅力的だし、オチもしっかりとあってよい。

主人公と一緒に働く真田さん、王さんのキャラクターを、主人公と共にだんだんと好きになっていく感覚を味わえたのが良かったです。

夜売屋アキの永い夜 / 齊藤奏瑠
明晰夢を売る夜売屋から半年分の夢を買った主人公の余命は半年だった。夢の中で夜売屋と友達になり、自由な生活を謳歌する主人公だったが、夢を買うことには代償があった。結末まで悲しくも美しい物語だった。

夜を売る不思議な女が余命わずかな少女の夢の中に現れ、お互いがかけがえのない存在になっていく様子が、丁寧な筆致で描かれている。不思議なことを体験する側ではなく、不思議な存在側の視点で物語が進むのが新鮮だった。同じ台詞である最初と最後の一文で、受ける印象が変わっているところもよかった。

パーフェクトガール / 入間真由子
某事件を思わせる全寮制ヨットスクールに入所しているカヤ。読字障害の彼女は学校に通っており、ユイという友人がいた。ふたりは次第に共依存のような関係になり、衝撃的な結末を迎えてしまう。ふたりの関係性が眩しくも痛々しい物語。

カヤの目には完璧に見えたユイが、どんな悩みや鬱屈を抱えていたのか、想像するだに苦い気持ちになった。どうであれユイの読み聞かせてくれた物語たちは救いであり、それらのストーリーを織り込んだ構成が上手い。五年後もカヤは純粋なままで、ひどく哀しい余韻が残った。

あくにん同盟 / 桜井かな
一定以上の筆力があり、変貌してしまった母が息子の元を訪問するストーリーラインがよい。設定が非常に魅力的だったが、あまり活かされていないように感じた。

斬新な物語を高く評価したい。多少とっ散らかってしまった感は否めないが、人間の本質をシュールに描けている。

貰い火 / 犬山昇
炎症性関節炎というありふれた名前だが、手が燃えるというオカルト的な病を抱えた白河夫人と、医師の主人公の距離感がよい。深みのある台詞回しや過度に運命的にならない展開もよかった。真昼のような白夜という設定を活かしきれていない点が残念。

医学的な情報が詳細まで描かれており、その点では面白かった。可読性も高く情緒的であり、またキャラクターも親しみやすい口調や仕草に対して好感が持てる。
ただし、内容がほぼほぼ病気の話題に終止しており、単なる日常的な会話のようであり、ドラマに乏しく淡白で、商業作品としては不適に思えた。

優か劣か / 田中海吏
高スペックながら同じアルバイトの後輩に対抗心を燃やす主人公。彼のコンプレックスはやがて、就職活動への情熱へと向かうが、歯車はすでに狂っていた。終盤の転調が面白い、ひとの心の裏側を覗き込むような作品。

誰でも一度は感じたことがあるだろう他者への劣等感をテーマにして狂気を描いた快作。それまでの印象がひっくり返る終盤の展開が見事。優劣とは何なのだろうと考えさせられた。

不幸論 / 岩瀬達哉
妻とうまくいかなくなり、離婚をした男が歌舞伎町で少女に声をかける。少女の口から語られる非常なエピソードはリアリティがあって鋭く刺さる。最初はセックスをするつもりのなかった主人公の流される感じが絶妙な嫌悪感をもたらす作品。

高い文章力と、人物心理の描写力を感じます。読むほどに男の平凡さと少女の強かさが際立ち、読者は少女に遣り込められる男と同じ視線で、少女を見つめることになり、そこがまた面白く感じました。

泣いたら夜明け / 一野蕾
花街で身請け話が出た。女郎の太鼓持ち、朱門は喜ぶが、大方の予想通り悲劇が訪れる。世界観がしっかりと構築されており、導入からの妖騒動へ繋がる流れが面白かった。

舞台、設定、キャラクターとすべてが魅力的で面白かった。応募作単体で見ると、これから始まる物語の第一章という印象だったのがやや残念。できれば長編化してもらって祓い屋兄弟の活躍をもっと見たいと思った。

お隣さんは夜にしか会わない / 東雲亮
共同廊下で星を見ている隣人と、花火がきっかけで親しくなった主人公。ふたりの近づきそうで近づかない距離感が恒星を思わせる。後半にかけてしっかり転調し、物語が動いてゆくところがよかった。最後もほっこり。

仰々しさのない淡麗な文章は過不足がなく、文章を読む心地よさに溢れている。内容も面白かったが、ラストは予定調和。エンタメとしては正しいけど、文章がいいだけにもうひと声求めたい。

蚤の心臓 / 逸見光
古典的な文体を自在に使い、読み応えがあった。美しい文章であり、こうしたアプローチをする行為そのものを評価したいが、物語そのものにはさほど動きがない点が残念だった。

古風な文体が目を引く、意欲的な作品である。特に一行目の言葉選びは群を抜いている。
主人公の感情にも一貫性があり、文体に関わらず内容もつかみやすい。どのようなバックグラウンドがあればこのような作品を作れるのかは想像もつかないが、これが抜き書きなどでないのであれば、作者の豊富な知識には感嘆しかない。
しかしながら、現代の作品としてこのような文章を提示し、世に出そうとした意図はあまりよくつかめなかった。取り立てて驚きのある展開ではなかったのも残念である。内容としては家族を失い今また自分も絶望に苛まれている、というものであり、古典文学にこのような作品があってもさほど不思議ではないが、今の作品である理由が求められるようには思えた。

バスと街灯と夜の扉 / 紅木夜
夜のバスに乗った先にはルナちゃんのいるお店がある。幼い主人公は、母と一緒に月に一度このお店に通っていた。どこか夢の中のようなふわふわとした空気感を漂わせる夜のバーを舞台に繰り広げられる、ポエティックでセンチメンタルな物語。終盤にあっと驚く展開になるのもよい。

切なくも温かみを感じる作品でした。キャラクターに感情移入しやすかったです。時系列をもう少し整理すると読みやすくなると思います。

超徹夜 / 結城熊雄
時計の表示が延々と肥大し続けるシュールSF。発想力があり、飛躍した文章も独特のおかしさがあった。

最高の発想です。状況は最悪ですが! 笑
時刻は深夜78時を回った。というつかみの文が天才だし、2024時回ったあたりから加速する意味不明さも好きです。明けない夜が明けていくターンでは思わず胸が熱くなりましたが、そこからさらに驚愕のオチへ向かっていく勢いには震えました。ラストは何がどこまで現実なのか考察も捗るところではありますが、個人的には壮大な夢オチであってほしいと願っています。
かの有名な5億年ボタンのような感覚で、実は一晩の長い夢。こんなにも勉強頑張ったんだから、東大受験頑張ってほしいです。
あまり感想が出てこないのは文章がすんなり入りすぎていて読んだというより感じたというほうが近いからです。面白かったです。

桜の夜に / 福田愛
桜の下には死体が埋まっている、という有名な一文から繰り広げられる物語。合同の兄貴の女を寝取ってしまった男の、悲しくも愚かな四方山話が丁寧な筆致で綴られていた。男の関西弁がうまく外連味を醸し出していて、オチも意外性があってよかった。

静謐としていながら秘めた激情を覗き見するような、巧みな話の運び。謎の男から漂う何とも言えない色気とも相まって、独特の夜の空気感がある。終盤、激しい恨みつらみから、ただ愛する人と一緒に眠りたいという切望へと一気に揺れる情動が胸をついた。

月夜の華 / たおず
心が底冷えするようなホラー作品。ミステリアスで魅力的な真田先輩の正体が徐々に明かされてゆく過程が面白かった。

出だしから不穏で、先が気になりとてもワクワクするラブ&サスペンスでした。期待を裏切らない展開に、最後まで楽しく拝読しました。
短編としてはかなり短いにもかかわらず、この短さで、この情報量で、筋立ても混乱を招くことなくオチまで綺麗というのが本当にすごいです。それだけでなく、真田先輩のミステリアスなキャラクターも、阿久津先輩の存在感も際立っており、キャンパスライフの中で起きている奇妙な事件を、ただ荒唐無稽というだけではなく主人公に感情移入しながら身近に感じることができました。
雪の積もった地面を染め上げる血を照らす満月と、それより美しい先輩の横顔には鮮烈な印象を受けました。すごく良いシーンだと思います。

邂逅アイスクリーム / 那津実栞
深夜のコンビニにアイスを買いに行った主人公は、疎遠になっていた親友を見かける。そこから始まるふたりの交流は、どこかぎこちなくもほんのりと優しい。後半にかけるにつれて不穏な雰囲気をまとい始め、最後にきっちりとオチが用意されている点もよかった。

コンビニと真夏と受験生という日常に不思議な出来事が訪れる話。じとっとした真夏の湿っぽい空気感がよく伝わってきて心地よい読み心地だった。これもオチが読めてしまったのと、その上で主人公の感情、環境への踏み込みが物足りない感じがした。

抱卵 / 水の森一
猫が卵を産んだ。荒唐無稽な出来事から始まる、壮大なSF作品。卵の存在が不気味で、人類に何らかの警鐘を与える存在なのかもしれないと感じた。短いながら上質な物語。

飼っている猫が産んだらしい卵が大きくなっていく様子に引き込まれた。底知れない気味の悪さが、感情描写が薄めの文章によって引き立てられている。飼い猫の異変から、地球と人類に規模が拡大される展開にも驚かされた。

春暁に死す / 蝦夷雪夜
短いながら、猫の最期のひとときを丁寧な言葉で切り取っている。文章の美しさもさることながら、なにかままならない気持ちにさせられる優しくも物悲しい物語だった。

淡々とした静かな文章で紡がれた、悲しくも美しい物語。描写が巧みで、ラストでは胸にこみ上げてくるものがあった。内容が濃く、この文字数で書かれたとは思えない読後感だった。

聖なる・・ / マルクス・ホセ・アウレリャノ・シノケス
自身の腹の中にいる生き物に恐れ慄く主人公。これはもっともな話で、腹の中に自分ではない生物がいるのだから、異物を排除しようという発想を抱くひともいるだろう。すべての人間に等しく母性が目覚めるわけはないのだから。

自分の腹に宿った胎児に感じるグロテスクさが生々しい。マタニティブルーという一言では表せないほどの偏執と歪んだ自己愛を感じた。夫の存在について語られていないことや、どこか脅迫めいて聞こえる男性医師の白々しい言葉など、薄暗い想像の余地があった。

ナイアー・トラップ / 藤崎ほつま
夜が逃げ出し、その夜をビン詰めして保管するという発想に秀でた作品。採取した夜のそれぞれに違った表情があって面白い。中盤から終盤にかけてしっかりと物語が転がってゆき、最後に不気味な展開を迎える点も良かった。

採集した「夜」を瓶詰にして監禁している男のお話……と思いきや。「夜」の正体にゾッとして、ラストの展開に再びゾッとした。因果応報の描き方が秀逸だった。

サヨナキドライブ / 奈尚
オートマタの活動限界についての物語。ポエティックで感情がしっかりと描かれた作品だが、要素を少し詰め込み過ぎている印象だった。

オートマタの悲哀を描いた良作である。
舞台、展開、筆致のいずれも及第点を超えており、構成がやや複雑ではあるが可読性を損なうレベルではない。不穏な結末で余韻を感じられるラストも良く、まずは商業作品としてのラインは超えていると判断した。
しかしながら、こうしたセカイ系的な設定と空気感は一時期爆発的に流行したことがあり、その中の一作品に留まっているようにも感じた。これ以上の「秀」を目指すのであれば、もう一歩の時代性や奇抜さが望まれるところである。

きこえる / 瀬戸千歳
死者に会える泉の儀式に携わるアルバイトという突拍子もない設定が魅力的。滑らかで手触りのある文章もよく、信心深くもないのに泉に敬意を払いたくなった。

文章力、構成力ともに良かったです。不思議な恐怖を感じられる作品で、もう少し読んでみたいと思いました。

夜なき人狼 / 憂杞
夜のなくなった世界と人狼ゲームを掛け合わせた意欲的な作品。狼男ならぬ人狼という設定がミソで、なるほど人狼ならば夜の間にひとり手にかけなければいけない。他にも人狼的な設定を物語にしっかりと落とし込んでいて面白かった。

人狼ゲームを題材とした作品である。ゲームのルールと叙情を両立させており、アイデアを形にするための十分な練り込みと推敲が感じられた。商業作品として適切なレベルに達していると考えられる。
しかしながら、ホラーとしての面白みはあるものの、それであればもう少しエンターテインメントとしてのカラーを強めてほしかったし、そうでなくリリカルさを全面に押し出すのであれば、作者の人狼に対する思想をもう少し全面に出してほしかった。
どちらか一方に振り切れておらず、全体として中途半端な印象を拭えなかったところが画竜点睛を欠いているようで惜しい。

3月32日 / 進之介
4/1になる前にやり残したことをやりに行く話。3/32の案内人が世話焼きで少し鬱陶しいが、やり残したことを探しに行く過程で主人公は本当に大切にすべきものに気づく。今を生きる私たちに必要な物語。

多くの人が共感し、自分の身に置き換えて考えることになる作品だろうと思う。電車の中で出会った浮浪者の言葉が深くて感銘を受けた。その上で、主人公なりに得た答えにも納得感があり、胸が熱くなった。特別に得た1日の出来事を覚えていなくても、きっと彼なら大丈夫だろうと思えるラスト。力強いメッセージのある、良い作品。

余命半年の浦越さんが三年峠で転びかけている。 / しのびかに黒髪の子の泣く音きこゆる
三年峠をオマージュしたコメディ作品。三年峠のほか、余命ものや天野岩戸をうまく作品に取り込んでいて、発想力の高さに舌を巻く。軽妙な会話の応酬劇で、峠のダブルミーニングもおかしさがある。落語めいた滑稽さがあった。

“三年峠”を題材にユーモアで殴り続ける作品、かと思いきや、民間伝承に準えた難解な側面も持ち合わせる一作。メタ発言も含めて考察のしがいがあるが、若干読み手を選びすぎるか。有賀峠に纏わる逸話から着想を経たのだと思われるのだがどうだろう。

冬はカンパリで / 市ヶ谷悠
不気味な超常現象から始まる愛の物語。主人公と友人の含蓄のある会話劇が面白い。終盤に転調し、しっかりと物語が転がってゆく様もよかった。ラストも希望が残っていてよい。

表現力が高く、文章も読み心地が良くキャラクターも魅力的です。どんな着地点を見せてくれるのかワクワクしました。期待通りで、冒頭からこのラストは予想できませんでした。面白かったです。

夜は飲んでも吞まれるな / 又碧羽
月の裏には密やかに開いている居酒屋がある。ふとした拍子にそこに辿り着いた主人公と、猫又や兎ら獣たちの酒談義。キャラクタが活き活きとしていて魅力があり、喉越しも爽やかなキャラクタ文芸だった。

夜にも種類があって、ものによって味わいが異なる。それも酒のように——という設定が面白かったです。ベランダから落ちた時はひやっとしましたが、こんな素敵な経験ができ、無事に帰れたのだからとても幸運な主人公ですね。

ぜひ次回以降にも作品をお寄せください。お待ちしております。

【YouTube】

#あたらよ文学賞】第一回 あたらよ文学賞 一次選考通過作品発表会!
一次選考結果発表の動画になります。選考結果のみならず、補足情報なども喋っておりますので、ぜひご覧ください。

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