香港旅行~惜別のネオンサイン
香港といえば、ネオンサインである。
香港ではネオンサインを“霓虹燈招牌(Níhóngdēng zhāopái)”と呼ぶらしい。1950年代に香港で流行が始まったネオンサイン。60~80年にかけて経済の急成長に伴い、競い合うように増えていったようだ。その後80~90年にかけてネオンサインは黄金期を迎える。
飲食店、娯楽施設、商業施設、サービス施設など、あらゆる店がネオンサインを出した。それぞれが趣向を凝らし、より高く、より目立つようにと競って掲げたネオンサインの本格的な衰退がはじまったのは2010年ごろ。
建築法等によりネオンサインの高さやサイズの制限が設けられ、さらには老朽化が進み落下事故などが増加したことからネオンサインの撤去が進められた。ほかにも香港でかつて主流だった1階は店、2階は住居というスタイルにも変化が訪れた。1階で商売をする人々はショッピングモールやオンラインショップを主戦場とし、もはや競って高所にネオンサインを掲げる必要がなくなってしまったらしい。そういった背景があり、2020年にはネオンサインの9割が消滅してしまったと言われている。
なんとも寂しい話ではないか。
2008年に旅した香港では、確かに少なくなってきてはいたもののまだまだネオンサインは多く、ネオンサインすれすれの2階建てバスでネイザンロードを走るツアーなども多くみられた。が、今回はそもそもバスツアーが存続しているのだろうかと疑ってしまうほど、夜の香港は静かな景観であった(訪問した時期のせいもあろうが)。街並みもかなり平面的になり、あの突き出たネオンサインは探さなければ見られない、過去の遺物となってしまった。
今回は”失われつつある香港”を惜しむ旅。古き良き街並みや取り壊しが決まった建物をめぐろうと決めていた。もちろんネオンサインもである。旅のメインイベントである花火撮影は二日目の夜。事前の場所取りや混雑状況を考えると、ネオンサイン探しに繰り出せるチャンスは1日目の夜のみ。滞在時間58時間というタイトな日程の中でなんとか時間を見つけなければ。
1日目の夜はパレードを鑑賞後に街歩きをする予定だったが、パレード会場が予想を大幅に上回る大混雑で大幅に予定が押してしまった。本当は佐敦の夜市を見てから旺角に繰り出したかったのだが、すでに3万歩以上歩いた足は限界に近い。また時間も22時を過ぎ、カメラを抱えた一人歩きは若干の心許なさを感じる時間帯になったため、やむなく旺角行きを断念。ホテル近くの夜市とその周辺のネオンサインを撮影することにした。廟街夜市のエリアにはもうあまりネオンサインが残っておらず、数えるほどしかないので逆に見つけやすかった。
冠南華(Koon Nam Wah Bridal )とそのお隣
ブライダル専門店と娯楽施設の虹色看板。廟街夜市の突き当りにあるお店。
お目出度さ100%である。娯楽施設の看板が派手なのは世界共通なのだろうか。
百宝堂
紅茶、緑茶を扱うお店。十字路に張り出したネオンサインが目印。どの方角からでも見つけられる。亀がかわいらしい。
徳生質店
サイゴンストリートにある看板。”押”のマークは質店のサイン。上は蝙蝠の形で福の象徴、下は錢幣(お金)の形で商売繁盛を願うモチーフなんだとか。質店以外にもこのモチーフを使っている看板を時々見かける。特徴的でかわいらしく、お気に入りだ。
今回九龍地区を歩いてみて、香港の街は知らぬ間に大きく変貌を遂げていたのだと実感した。
映画でみたあの艶やかで妖しい風景はもう見られない。
かつての香港を彩ったネオンサインは、
変わりゆく街並みに溶けて消えていく。
シャッターボタンを押す指に、愛惜の想いを込めた。