香港旅行記:念願の「The Twilight of the Warriors : Walled In 九龍城寨之圍城」を心ゆくまで語る
【追記】祝☆日本上映決定!!
これを書いている9月19日に、なんと!日本公開日がアナウンスされましたー!やっほーい!記事を書き直すのが面倒なので、追記として最新情報を載せておきます。公開日はほぼ予想通りの2025年1月17日、全国で公開のようです。またそれに先立ち、10月には東京国際映画祭に出品が決定したようです。うれしいいいい!
2024年5月1日。
香港において、新たな伝説が生まれた。その名も
九龍城寨之圍城(ババァーーン!)
である。
この映画は1990年初頭まで存在した「九龍城(九龍城砦)」を舞台とした、ギャングやその周囲の人々の人生を描いた映画だ。公開するとあっという間に動員観客数を伸ばし、2か月で香港映画歴代2位まで成長したというのだからすごい。
私は公開前から密かにこの映画に胸をときめかせていた。なぜならこの映画には、大好きな サモ・ハン・キンポーが出演しているから。そして最大の胸アツポイントはそう、あの!
九龍城が詳細に再現されているから!!(ババババァーーン!)
そんな大注目映画をぜひ観たい、観たいと思っていたのだが、日本公開の予定は未定…。しびれを切らして香港まで観に行ってきました!香港での映画鑑賞はまさかの素敵シアターで満喫したのですが、その様子は前回の記事でご紹介しています。今回は映画について語ります。
九龍城とは
九龍城はもともと清朝が立てた城塞であった。
香港島がイギリスに割譲された数年後、高さ9メートル、敷地面積3ヘクタールにも満たない土地の中に、清朝の役人の居住地があったらしい。それが第二次世界大戦の後に啓徳空港が建設されることとなり、その際に資材調達の名目で壁が破壊されたのだそう。城塞の基礎だけが残った土地にあちこちから流れ着いた行き場のない人々が住み着き、コミュニティを形成していった。こうして人口の増加とともに建物も増え、まるで一つの巨大要塞、いやむしろ生き物のように膨れ上がっていったのだそうだ。
九龍城に住み着いた人々の多くは中国から流れ着いた人々で、床屋や医者などの知識はあるが資格のない人々が(当時はイギリスの資格を取る必要があった)もぐりで商売をしていた。彼らは知識があって安い料金でサービスを提供してくれるため、九龍城内だけでなく、近隣からも多くの人々が訪れていたらしい。また一時期は香港内の8割を占めるフィッシュボールが九龍城で製造されていた、なんて逸話もあったりする。
良く知られた九龍城のイメージは「暗い・如何わしい・危険・汚い・入ったら出てこられない」などだろうか。しかしそのような側面と併せて、人々が自警団を結成して街を守ったり、コミュニティ全体で助け合いながら生活していたという側面もあるようだ。この映画ではそんな”人々の絆”にもフォーカスしている点がとても好ましく感じる。
映画「九龍城寨之圍城」レビュー
ここからは映画の感想を。日本公開は未定ながら、公開に向けて準備が進められているとの情報もある。8月には全米公開もあったので、個人的には来年初頭くらいまでには日本でも上映されるのではないかと踏んでいる。なので、公開を待ちたい、初見の感動をとっておきたい方はここでさようなら。”もう我慢できない!せめて他人の感想でも共有したい!”という欲しがりなアナタは引き続きお付き合いください。
香港映画は(全部ではなさそうだけど)中国語、英語のダブル字幕仕様。おかげで内容も大まかに掴むことが出来て見やすかった。あれならかなりの映画を現地で楽しめそう。とはいえ、情報は初見で得た内容なので間違えてたら笑って許してね。興奮しながら観ていたのでいろいろと間違えていそうな気がします(笑)。
あらすじ
時は1980年代の香港。香港へと密航してきたロックは、偽造IDを手に入れるべく大老闆の一味に接触するも、金をだまし取られ使い物にならないIDをつかまされる。怒ったロックは手近にあった麻袋に札束が詰め込まれていると踏んでそれを奪って逃げたのだが、追い立てられていつしか九龍城へとたどり着く。危ういところで九龍城へ逃げ込んだロックだが、奪った袋にはヘロインが入っており金を手に入れることができなかった。さらには別のギャングに叩きのめされてしまう。そんなロックに手を差し伸べたのは九龍城に住む人々だった。九龍城のボス、龍捲風のもとへ誘われ金が欲しいと話すと、龍捲風はロックに住人を助け働くように言う。ロックは熱心に働き、少しずつ街に溶け込んでいく。そんな頃、九龍城である事件が起きる。事件をきっかけに仲間を得、絆を強めたロックだったが、運命が彼と九龍城の人々の未来を翻弄する…。
九龍城塞の胸アツな再現具合にチームの本気を見る
映画開始早々に登場する九龍城寨。まずはここで「オオォォォォォ!」と雄叫びを上げてしまう。九龍城寨の内部の記録は少なく、写真も貴重だ。そんな限られたデータを基に、よくもあれだけの巨大セットを作ったものだと感心してしまう。やはり若干小綺麗感はぬぐえないが、張り巡らされた電線、重なり合うトタン屋根、入り組んだ路地や階段、薄暗い通路と粗末な設備の数々がまるで写真から出てきたかのように再現されている。私の九龍城寨の知識(ビジュアル)は主に九龍城探訪という写真集から得たものだが、きっと彼らも大いに参考にしただろうと想像できるくらい、本の中の題材をなぞった舞台設定となっている。写真集については下記の記事で触れているので参考まで。ちなみにセットの制作費用は5000万香港ドル、総製作費の6分の1にあたる額を費やしたそう。胸アツである。
出演俳優陣が胸アツ
我々が子供のころは香港映画の黄金時代だった。ブルース・リーが灯した香港映画ブームの火を、ジャッキー・チェンをはじめとする錚々たるスター達が育て、時代を代表するムーブメントにまで成長させた。そんなスターの一人、我らがサモ・ハン・キンポー(役名:大老闆、英名:ミスタービッグ)が友情出演するということで、一気に注目度が増したこの映画。ほかにも今をときめくトップスター、ルイス・クー(龍捲風、サイクロン)と、コールドウォーでおなじみアーロン・クォック(陳占、ジェン?)が出演している(かっこいい!!)そんなキラッキラスターズの脇を固めるのは、これまたいぶし銀の大物俳優、リッチー・レン(狄秋、チャウ)とケニー・ウォン(タイガー)の超豪華バイプレイヤーズである。詳細は伏せるが、きっとあなたもタイガーを”大哥(アニキ)!”と呼びたくなるに違いない。
そんな超有名俳優陣を配しながら、主役となるのは期待の若手~中堅俳優たち、というのも胸アツポイントだ。今回大注目のレイモンド・ラム(陳洛軍、チャン・ロック・クァンa.k.aエッグヘッド・卵頭)、世界中の女子のハートを搔っ攫った(らしい)テレンス・ラウ(信一、シン)、驚異のアクションスキルで映画のクオリティを爆上げしたキット・チャン(四仔、AV)とフィリップ・ン(王九、キング)。そして映画のキーポイントで輝きを放つ現在大注目の若手俳優、トニー・ウー(十二少、サップイーシウ)である。スター同士の激突あり、貫禄のビッグネーム陣とパワフルな若手陣のぶつかり合いありと、とにかく目が離せない。ここまで終始目が離せない映画を久しぶりに観た気がする。
アクションがもはや別次元
この映画はアクション失くしては語れない。通常、アクションはストーリーのスパイス的な分量かな、と思うのだが、この映画は全編アクションマシマシ全部のせ級なのである。そしてそんなアクションを仕切る監督はなんと谷垣健治さん。「るろうに剣心」のアクション監督も務めていたらしい。そういえばあの映画、アクションかっこよかったな…。
個人的激アツ激推しはカンフーの使い手、キット・チャン&フィリップ・ン。特にいくつかの理由により個人的イチ推しキャラを演じたフィリップは、7歳からアメリカのシカゴで生活し、父と叔父から拳法を学んでいる。カンフーの他、詠春拳とテコンドーを極め、そのほかにもブラジリアン柔術やボクシング、ムエタイなどの知識と技術を有するアクション振付師、武術家、そして俳優という多彩な方だ。家族が武術家、さらにかのイップ・マンに師事し、ブルース・リーに指導を行ったといわれる武術の大家、ウォン・シュンリョン氏の指導を受けていたという、まさに武術のスーパーエリートともいう彼が、その鍛えられた肉体だけでなく、振り切った演技で2時間観客を翻弄し続ける。その他面々もあらゆる技、小道具を駆使してアクションに華を添えている。これだけの人数がほぼすべての時間どこかしらでアクションをする映画、見ているこちらまで息切れ気味になるからすごい。
ちなみに映画中盤で登場するナタ両刀使いのお兄さんがキャラが濃くてとても好きだ。映画鑑賞時にぜひ見つけてほしい。
人々の絆に胸を打たれる
この映画には、仲間の絆、人々の温かさの表現が豊かで心が熱くなるシーンが数々存在する。ロックが人々に受け入れられていく様、誰かが誰かを想う気持ちが連鎖していく様、血のつながらない”兄弟”、”家族”の絆。敵も味方も、なぜか不思議な縁と絆で結ばれている。そんな雰囲気が心をあったかくしてくれる、そんな映画だ。実際に九龍城で暮らした人々が助け合い、寄り添って生きたその有様の再現具合が胸に響く。アクションや任侠映画が苦手な人にこそ見てほしい、思いやりと愛にあふれたこの映画だからこそ、人々に愛され、何度も劇場に足を運ぶ人が多くいるのだろうと思う。
かくいう私も、実際に映画を観るまではただ”九龍城塞のセットが見たい”くらいの気持ちだったが、観終わってからというもの、1週間たった今でもまだ魔法が解けないでいる。冒頭にも書いたが、ついに日本での上映も決定した。楽しみに待っていた人はもう少しの辛抱、今までこの映画を知らなかった人も、このレビューを読んで少しでも興味を持って下さったらこの上ない幸せである。
「九龍城寨之圍城」は3部作構成となる事がすでに発表されている。また中国では原作本、漫画ともに大人気とのことだ。日本でも映画公開に合わせて書籍の販売があることを願う。
さあ、みんなでいざ九龍城へ!