星降る夜のセレナーデ 第21話 言い訳
畑に植えた野菜の苗は成長し、いくつか収穫が出来た。食卓に出て来た野菜を食べて思う。スーパーで買う野菜より味が濃くて美味しい。里山の暮らしに馴染み始めて嬉しくなった。
「今年も間も無く終わりだね」私は美夜子に何気なく言葉を漏らす。
「そうね、今年は色んな事があって目まぐるしかったわ」テーブルに頬杖をついて色々と思い出しているようだ。
「志音は喘息が出なくなって嬉しいよ」ニッコリと微笑む。
「そうだね、これからも注意しながらしっかり治そうね」私は志音の頭を撫でる。
「こんにちは!」玄関で声が響く。
「あっ!モヒくんが来た」志音は嬉しそうに玄関へ走って行く。
「こんにちはモヒくん、上がって」スリッパを出した。
「あのう…………もし嫌じゃなかったらどうぞって……」真人くんはスーパーの袋をそっと差し出す。
「何かしら」受け取った美夜子は中身を確かめる。
「お肉?」首を傾げた。
「はい、新鮮な猪の肉です」
「猪?」志音が中を覗き込んだ。
「ほう、猪か」私も覗き込んだ。
「今朝捕獲されたばかりの新鮮なやつです、でも嫌だったら持って帰りますけど」心配そうに私たちを見ている。
「猪さん捕まって殺されちゃたの?」志音は少し寂しそうに聞いた。
「うん、畑を荒らしてたからね」真人くんは頷く。
「そうなんだ…………どうして危険な畑にやってくるの?」
「多分、山に食べ物が少なくなったからだと思うよ」
「猪さんかわいそう………」
「志音、人はみんな沢山の命をいただいて生きてるんだよ。スーパーに並んでるお肉だって皆んな命があったんだよ」
「そうだよね……………」しばらく志音は考えている。
「じゃあ大切に頂かなくちゃあいけないね」そう言って頷く。
「じゃあ、早速ボタン鍋にしていただこうよ」私は提案した。
「また鍋を囲んで一杯飲もうと思ってるんでしょう?」美夜子が笑っている。
「とーたんはお酒飲むことばっかり考えるね」志音も呆れた。
「真人くんは何か用事があるのかい?」
「いえ、特別には無いですけど………いつもご馳走になってるんでなんか申し訳ない気がして………」
「そんな事はないよ、志音の遊び相手になってもらってるんだからこっちが申し訳ないくらいさ」
「とーたんは志音を言い訳に使ってる」頬を膨らす。
「で志音も真人くんが来てくれると嬉しいんでしょう?」美夜子が志音を横目で見た。
「うん………嬉しいけど………」志音は恥ずかしそうに俯く。
「じゃあ決定だ、今日はボタン鍋で忘年会にしよう!」
「「は〜い」」美夜子と志音は頷いた。
真人くんは少し恥ずかしそうに会釈した。
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