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星降る夜のセレナーデ 第14話 探検
「志音ちゃん、随分楽になったみたいだからそろそろ学校に行かなくちゃあね」ママが志音に諭している。
「やっぱり行かなくちゃあダメ?」唇を尖らせた。
「志音、義務教育だからね」私も諭す。
「分かった…………」志音は項垂れた。
「じゃあ来週から行けるようにしましょうね」ママが頷く。
「モヒくんが送ってくれたら行けるよ」志音は私をじっと見ている。
「それじゃあ慣れてバスに乗れるようになるまで、真人くんにお願いしようかな」私は真人くんに伺った。
「俺は問題ないですけど」ニッコリと頷いてくれる。
「やったあ!志音は頑張って学校に行くよ」急に機嫌が良くなった。
「なんでしょうね、その現金さは」美夜子は呆れて笑っている。
翌週から真人くんは軽トラックで志音を学校まで送ってくれた。夕方電話がかかるとまた学校まで迎えに行ってくれる。志音は元気に学校へ通うようになった。
「志音、学校はどうだった」私は聞いてみる。
「うん、喘息は出ないから大丈夫だよ、友達はまだ出来ないけどね」そう言いながらおやつをママにねだっている。
出て来たクッキーを食べながら「モヒくん今日も忙しいの?」聞いてくる。
真人くんは私を見た。
「そうだね、今のところは順調に進んでるし、真人くんが色々と覚えてくれて作業が早くなったから、志音の相手をしてもらっても良いかな」私は真人くんの顔色を伺う。
「良いですよ、じゃあ志音ちゃん探検に行こうか?」
「えっ!探検?」志音は目を輝かせる。
「あら良かったわね、でも寒くないようにしていくのよ」ママも微笑んだ。
「実はこの山の奥に美味しい湧水が出てるんですよ」
「おっ、それは良いねえ、その湧水を汲んできてもらって今夜は一杯飲もうよ、真人くんは何か予定があるのかい?」
「いえ、別に予定はないです」
「そう、じゃあママ美味しいつまみをお願いしたいなあ」私は満面の笑みでママを見た。
「はいはい、良かったわねパパ、飲む口実が出来て」呆れ顔で私を見ている。
志音と真人くんはペットボトルをトートバッグに入れ、軽トラックで探検へ出発した。
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湧水の出る場所へ近づくと軽トラを止める。
「志音ちゃん、こっちにきてごらん」俺は岩陰に隠れて森の奥を指差した。
「あっ鹿だ、でもこの前見たのと違うよ」志音ちゃんは不思議そうに俺を見た。
「あれは日本カモシカって言って牛さんの仲間なんだよ」
「牛さんの仲間なんだ」何度も頷く。
やがて日本カモシカはゆっくり森の奥へ消えていった。
湧水が出ている場所へやってきた。大きな岩の下から水が湧き出ている。
志音ちゃんは手で水をすくった。
「きれいな水だね……冷たい………」ニッコリ俺を見ている。
「生まれたばっかりの水だよ」俺は志音ちゃんに優しく言った。
二人で湧水をペットボトルに汲んで軽トラに戻るとログハウスへ帰ってきた。
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「ママ、とーたん!今、日本カモシカを見たんだよ」志音が興奮気味に帰ってきた。
「日本カモシカって牛さんの仲間なんだって」そういうと部屋に行き動物図鑑を持ってくる。
「これだよ、日本カモシカは」図鑑を広げて見せてくれた。
真人くんは微笑みながら汲んできた湧水のボトルをママに渡している。
「志音ちゃんは運が良いですね、この辺りだと滅多に日本カモシカは見れないんですよ」微笑んでいる。
リビングのテーブルはいつの間にか座る場所が決まっていた。私とママが並んで座ると志音は真人くんと並んで座った。すっかり志音は真人くんに懐いている。兄弟がいない志音には兄が出来たようで嬉しいのだろうと私は思った。
その夜は湧水でウイスキーを割って飲んだ。ママの作ってくれたつまみはとても美味しくて、真人くんは驚いている。志音も嬉しそうに学校の話を真人くんに話した。里山の夜は和やか更けて行った。