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もう思い出せない朝の風景


朝起きて窓の外を眺める。

海を超えて国を超えていろんな窓から見てきた朝の風景。

ここがどこかも思い出せない。

確固たるアイデンティティを持とうとしないから、恋しくなる朝の風景や香りが無いのだ。
そういうことを考えてると、自分が何度も生死を繰り返した存在のような気がしてくる。
エンディングが分かってるから、こだわりを持たないのだ。

流れるように生きる。好きも嫌いも、その隙間からいろんな可能性が見えて定義できない。

毎回何かを失うのが怖かった過去は、いつのまにか遠い記憶の隅に。

私だって躊躇うことなく一瞬で去ったんだもの。あの世界から。あの人のもとから。

仲良く手を繋いでる老夫婦や、友人たち、ずっと変わらない趣味や嗜好。

そういうものを見かけると、どこか心細くなる。

憧れと、失望と、疎外感とが一気に押し寄せる。

でもね、だからこそ私はどこにでも行けるの。
どこへだって生きていけるの。

もう一人の自分が、緑の見える窓辺に腰掛けて話しかけてくる。

私がそれを知っていればいいの。
どんな在り方でも、よかったはずじゃない?


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