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北海道一周秘境駅めぐり⑨ 根室駅~西女満別駅~旭川駅(終)

こちらの記事の続きです。いよいよ最後の記事になります(少し長くなってしまいました)。

初回はこちら。


根室駅から釧路駅へ

この日は実質的な最終日ですが、移動の多い日です。なにしろ根室から旭川まで鉄道で戻らないといけません。

早朝05:31発の花咲線で、まずは釧路に戻ります。

朝は当然のように霧深い根室駅

朝8時に釧路に着き、次の列車まで50分ほどあったので駅周辺を歩くと市場があったのでぶらぶら見て回りました。

釧路和商市場

朝早いにも関わらず、市場にはたくさんの観光客が。知っていれば海鮮丼を朝ご飯にしたのになあ。

代わりに、名物「シャケ焼き」をいただくことにしました。

イクラが1個だけはみ出しちゃってます

焼いた生地の中にあんこやクリームが入っていて要はたい焼きなのですが、お腹に赤く着色された白玉が入っていました。「シャケの卵」を表現しているようです。粋な演出ですね。

ただ、シャケの細長さまで再現されているのでたい焼きの半分くらいのボリュームしかないのが玉に瑕です。

さて、シャケ焼きを持ったまま釧網本線「しれとこ摩周号」に乗り込み、網走を目指します。

「しれとこ摩周号」はラッピングされたDECMOでした

釧路駅から網走駅へ

釧路を出発すると、最初は釧路湿原を走ります。

ずっと霧の中

昨日訪問した釧路湿原駅を通り過ぎてさらに進むと、斜里駅あたりで綺麗な青空が見えてきました。このあたりは広大な畑作地帯です。北海道ですね。

じゃがいも畑のように見えます

やがて景色から畑が減ると、今度は海が見えてきました。オホーツク海を目にするのは人生で初めてです。

こんなに青々としてる海は見たこと無いです

夏らしい青々とした海で、海水浴に来ている人もちらほらと見られました。海の向こうに極寒のシベリアが広がっているなんてとても思えません。

写真では伝わりにくいのですが、このあたりは緯度が高いので水平線から地球の丸みがはっきりと分かります。

「高緯度地域は水平線の曲率が大きい」なんて頭では分かっていても、実際に見るとやはり感動するものですね。

網走駅から石北本線へ乗車

オホーツク海を眺めているうち、網走駅へ到着しました。

「網走」のイメージと似つかわしくない風景

道中に車窓から見た北浜駅・藻琴駅・原生花園駅も良さそうな駅でした。いつかまた訪問したいですね。

網走駅では乗換時間が15分しかなかったため、駅周辺の撮影と飲み物の調達だけすませて急ぎ足でDECMOに乗車。

石北本線に乗ってこの旅で最後の秘境駅を目指します。

西女満別駅

網走駅から20分ほど乗車し、西女満別駅に到着しました。

西女満別駅

森に囲まれた窪地に人知れず存在するような立地で、秘境感は抜群です。当然下車したのは自分だけ。セミの声の中、たった一人取り残されました。

待合室

待合室は小さな小屋でした。

秘境駅の待合室というと、前日の昆布盛駅よろしく虫の死骸や大量のホコリが溜まっているのがお約束です。「ベンチに座ってゆっくり次の列車を待つ」なんて贅沢はもってのほか。雨風を凌げる場所があること自体に感謝するのが秘境駅の待合室なのです。吹きっさらしの駅なんていくらでもありますからね。

しかし、ここの待合室は二重扉になっていました。

隙を生じぬ二段構え

扉は気密性の高い作りになっていたため虫やホコリの侵入がガードされ、待合室の中は信じられないほど綺麗に保たれていました。

愛されていて綺麗な待合室

飾られている絵や設置された本棚から、この駅が地元の方に愛されていることが伺えます。もしかすると、ここは定期的に掃除されているのかもしれませんね。

しかし、秘境駅にしては非常に快適なこの待合室。ひとつだけ欠点がありました。気密性が高いせいで、蒸し風呂のように暑いのです。

サウナ好きの人ならいざ知らず、自分は5分ほどで限界が来て飛び出してしまいました。

待合室を飛び出した後15分ほどかけて駅の敷地内を探索しました。やはり切り拓いたような位置にあり、森以外はなにもありません。

森の中に昔から建ってる

この時点で次の列車まであと2時間ほど。待合室に2時間もいると暇と暑さで死んでしまうので、駅を飛び出し周辺のランドマークを訪ねてみることにしました。

そうです、女満別空港です。

女満別空港

これだけ秘境の雰囲気を漂わせておきながら、西女満別駅はなんと空港アクセス駅なのです。徒歩20分ほどなのでまあまあ離れているんですけどね。美々駅(廃駅)といい、北海道の空港アクセス駅には罠がいっぱいです。

さて、空港までの道程は耕作地になっていました。北海道らしい写真でしょう?

果てしない大空と広い大地のその中で

こんな風景を眺めながら、空港まで2kmの道程を歩きます。

しかし暑い。写真では涼しげに見えますが、実際の気温は30度を超えていたのです。ここをウィンドブレーカーにアウトドアパンツという通気性の「つ」の字もない服装で歩いたわけですから、例によって汗だくになってしまいました。

汗拭きタオルがしっとりしてきたところで、ようやく空港へ到着です。徒歩で空港に来るのは初めて。

オホーツクの空の玄関口

飲み物の調達とお手洗いを済ませた後、お昼がまだだったことを思い出しました。

女満別空港には2つレストランがあります。最初に行こうとしたのはスープカレーのお店でしたが行列ができていたため、寿司店を訪ねました。

熱中症対策でビールはオールフリー

昼からビール飲みながら握ってもらった寿司を食うのは最高ですね。アウトドア全開の服装が店内で明らかに浮いていましたが、そんなことは気にしない。別に悪いことはしてないんですから。

しかし、お会計のときに店員さんに「どちらに行かれるんですか?」と聞かれたときはさすがに焦りました。

しどろもどろになりながら「いや鉄道旅行でして……」と説明をすることになってしまいました。お姉さんが営業スマイルで対応してくれたのが余計に恥ずかしかった。

まあ、良い旅の思い出になりましたけどね。なるほど私は異常な旅行をしているのだった。

測定機器の謎に迫る

腹が膨れたところで駅に戻ります。

道中にX(Twitter)を見ると、友人の坂井さん(@sakaik )からある情報がもたらされていました。

実は空港に向かう前、駅構内を探索している折に謎の装置を見つけてX(Twitter)に写真を投稿していたのです。

幅は7-80cmほどです

短く切られた線路に、厚みを測るような機械が取り付けてあります。そしてその横には銀の筒。それぞれなんのための装置なんでしょうか。

謎の線路と銀の筒

空港から戻ってまだ30分ほど時間があったので、この謎に取り組むことにしました。

まずは線路です。

坂井さんが送ってくれたブログによると「膨張率を測定するための機械ではないか?」とのことですが確証はなし。メーカー名で検索してもなにもヒットしませんでした。

膨張率測定装置?

線路の方は一旦置いておいて、次は銀の筒について調べます。

こちらは型番を検索すると「雨量計」であることがすんなりとわかりました。2020年製造なので意外と新しいですね。

がっつり写り込んでいるのは見逃してください

銀の筒が雨量を測定しているということは、線路の方もなんらかの気象データを測定しているのでは?との仮説が浮かび上がってきました。

そういえば、待合室内のラックにそれらしき機械がありました。線路の装置から出たケーブルも待合室に繋がっているように見えるし、二重扉を開けて再度機械を確認してみます。

秘境駅に似つかわしくない最新機器

機械ありました。表示をよく見ると、上の機械には

  • レール +44.5℃

  • 大気 +30.9℃

と温度が書かれています。

やはり「気象データ」という仮説は正解のようで、線路の装置はレールの温度を測るためのものでした。「膨張率」というブログの情報は当たらずとも遠からずでしたね。温度から膨張率は計算できるので。

ちなみに、銀の筒もこの機械に繋がっているようでした。下の機械は「レインピュータ」という製品名で「短指標: 0mm」のような値が表示されていたのです。雨量計の測定結果をここから本社に送っているのでしょう。

滞在期間内に謎に一応の回答を得ることができました。真面目に調べてみるものですね。

さよなら西女満別駅

謎解きの余韻に浸りながら時計を見ると、あと10分。僕は秘境駅で列車を待つこの最後の10分が好きなのです。

北海道の短い夏も後半に差し掛かり、セミの声の必死さが心なしか増していたような気がしました。そんな中で、自分が砂利を踏みしめた音だけが構内に響きます。静かで穏やかな時間でした。

あっという間に10分が過ぎ、列車がやってきました。

お迎えもDECMO

こうしてこの旅で最後の秘境駅を後にしたのでした。

北見駅から旭川駅へ

さて、あとは特急に乗って帰るだけです。

特急の乗車駅は、お土産の購入も兼ねて北見駅を指定しました。西女満別駅からは40分ほどの旅ののち下車。滞在2時間のあいだにお土産を購入します。

北見駅は「たまねぎ列車」が有名なだけに、大きな貨物置き場がありました。ここから全国に玉ねぎが運ばれていくのですね。

北見から全国へ

駅前の百貨店で家族や同僚へのお土産を購入し、ついでにお酒とおつまみも購入して駅のテレビで甲子園を見ていると、あっという間に列車がやってきました。

オホーツクに消ゆ

さて、あとは石北本線で旭川まで戻って一泊し、朝の飛行機で東京に帰るだけです。

夕暮れの車窓を眺めながら、一人で打ち上げを行いました。

イカとホタテと玉ねぎと

石北本線もまた秘境駅の宝庫だった路線です。主要な秘境駅があらかた廃止になっているため今回の旅のルートからは外してしまいましたが、改めて時間をかけて訪問したいものです。

それでも窓に張り付いてなんとか秘境駅跡を確認しようと頑張りました。真っ暗だったためあまり見えなかったのですが、常紋仮乗降場跡・下白滝駅跡・奥白滝駅跡はなんとか見ることができました。

「白滝シリーズ」の話はまたいずれ。

旅の終わり

旭川で一夜を明かし、予定通り翌朝の飛行機で東京に戻りました。6日間、あっという間でしたね。

旭川空港は雪に強いらしい。夏は関係ないけどね

この旅で北海道で下車したかった駅にはだいたい下車することができました。あと残っているのは数駅だけですが、果たして行くチャンスはあるのかどうか……


今回の旅の感想は「北海道にすら、もう秘境駅はなくなっていくのかもしれない」ということでした。

この春に廃止になる抜海・雄信内・東根室に訪問したから、というのももちろんあります。しかし、それ以上に今回の道中に大量の秘境駅「跡」があったのです。

ここ10年で廃止されただけでも安牛・豊清水・北星・古瀬・初田牛・花咲・上白滝・下白滝・旧白滝……とハイレベルな秘境駅が名を連ねます。

これらの駅に訪問していれば、旅はもっと長くなっているはずでした。

そして今回降りた駅も「秘境駅」ではありながら横に道路が通っていたり近くが畑作地帯になっていたりと人の息吹を感じる場所が多かったのです。すべての駅が期待に沿うハイレベル秘境駅だというわけではなく、「こんなもんか」となる駅もあったのです。


JR北海道だって我々のような酔狂な人間に向けて商売をしているわけではないのですから、これは当然の流れです。そして合理化を嘆くような幼稚な真似はしません。むしろ、合理的に運用されるべき鉄道が時の流れによって非合理を内包してしまっている、そんな不条理さが秘境駅の魅力なのですから、合理化によって廃止される前に行くのが正しい楽しみ方だと僕は思っています。

でも、秘境駅の廃止はファンにとって目指すべき場所がなくなるという意味でもあるわけです。ここ10年の大量廃止には、寂しさに似た複雑な感情を覚えています。

この旅を通して「駅はあるうちに行け」との思いを新たにしたのでした。


30代、仕事や家族との兼ね合いもあって頻繁に出かけるのはなかなか難しいんですけどね。ローカル線に乗って田舎に行くのんびりとした趣味なので、のんびりとやっていくのが一番です。趣味でせかせかカリカリするなんて馬鹿らしいじゃないですか。

9月から3ヶ月半にわたって書いてきた旅行記もこれでおしまいです。読んでくださった皆さん、ありがとうございました。

次は四国に出かけられると良いなあ。

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