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【映画】ハウス・ジャック・ビルド【感想】
※この記事はネタバレを含みます※
●あらすじ
1970年代のワシントン州。建築家志望の独身技師ジャック(マット・ディロン)が車で人けのない雪道を通り掛かると、女性(ユマ・サーマン)が車が故障したと助けを求めてくる。ジャックは彼女を車に乗せ修理工場まで送るが、彼女は急に態度を変えて無神経で挑発的な発言を繰り返し、ジャックは彼女に怒りを募らせる。
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●『 ハウス・ジャック・ビルド 』を観た感想(※ネタバレ注意)
『カンヌ国際映画祭公式上映で途中退出者続出!』
R18+という年齢制限と、上記の謳い文句から、とんでもなくグロテスクな映画なのだと思い、覚悟をして視聴した。
本作は殺人鬼のジャックが行った5つの事件の描写が短編集のように繰り広げられ、そしてその短編の合間に、ヴァージという男性との会話が挟まるといった構成になっている。
5つの事件のうち、1つ目と2つ目の事件においては、そこまでグロテスクではない。
しかし、3つ目と4つ目の事件はかなりえげつない内容だった。
ただ、映画という媒体の表現として常識の範囲内のグロテスクさではある。
では、何がえげつないのかというと、ジャックの行動や不気味さ、漂う雰囲気、気持ち悪さなどがえげつない。想定し得ることの中で最も胸糞悪いことをジャックは行うのだ。
このえげつなさを文章で表すのは難しい。たとえジャックの行為を文章で表したところで、不気味さが伝わらないように思える。そのため、えげつなさについては是非実際に作品を見て体感してほしい。
次に、ヴァージとの会話シーンについて述べたい。
ジャックはヴァージに対し、自分が何故殺人を犯すのか、どのような精神状態で殺人を犯しているのかといったことを話す。ただ自分語りをしているわけではなく、戦争や宗教を交えたり、映像として様々な種類の絵画を写すといった表現技法を使っており、物語というよりも、ノンフィクション映画やドキュメンタリー映画を見ているかのような印象を受けた。
ジャックは殺人を芸術で、戦争で行われた大量虐殺と関連して考えている。そして彼は明らかにサイコパスで、障碍者だ。哲学や美術に造詣があり、自身もそのような人種だと思っている。
作品を見ている間、彼の精神状態から生まれる殺人衝動について考えたり、芸術とはといったようなことを思ったりなど、深く思案していた。しかし、エンディング曲で『彼の言葉に耳を貸すな』といった言葉が用いられており、そこでようやく気付かされた。
彼は薄っぺらなただの殺人鬼である。哲学や戦争のことを持ち出しているだけで、殺人や自分の行いの正当化にすらなっていない。芸術や精神障害、それがどうした。殺人は殺人だといった意図を感じた。
ジャックが捕まるかといったところで、死体の保存をしていた冷凍庫の開かずの扉から、ヴァージが現れる。そこからは今までの雰囲気がガラッと変わり、ファンタジー的な描写が続く。
ヴァージは1つ目の事件から最後までジャックのことを見ており、作中にもこっそり映り込んでいた。
そして彼はジャックを地獄へ連れて行く。単純な考えとすると、ヴァージは死神なのではないかと想像することができる。
彼は冷凍庫の中で死体を用いた家を作り、ヴァージに付いていくことになる。そのため、一見すると、ヴァージとのシーンは必要なのか?といった疑問がわくことになるだろう。この点は賛否両論存在すると思う。
私は本シーンを食後のデザートだと思っている。今までに食べたステーキだけ胃の中に入るのでは胃もたれをしてしまう。ステーキで味を終わらせたいという気持ちもわかるが、本シーンは、食後のデザートを欲している人のために用意した展開なのではないかと思う。
ジャックは地上へと戻る道を進むために無謀な挑戦をするが、結局地獄へ落ちてしまう。彼は作中でむしろ警察に捕まりたいといったような振る舞いをすることがあった。彼のこの無謀な行いも、このような緊張感や背徳感を味わうためにしたことなのではないかと思う。
彼はサイコパスで正真正銘残虐な殺人鬼だ。しかし、それ以前に人間なのだということを感じ取ることができた。
本作はかなり人を選ぶ作品である。私にとって忘れられない作品になったのは事実だ。
今後、殺人事件のドキュメンタリー番組を見る際、加害者に対しての見る目が変わるのではないかと思う。
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●今回レビューした映画の詳細
題名:ハウス・ジャック・ビルド
監督:ラース・フォン・トリアー
2018年公開