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【映画】ダンサー・イン・ザ・ダーク【感想】

※この記事はネタバレを含みます※


●あらすじ


60年代のアメリカ。セルマは女手ひとつで息子のジーンを育てながら工場で働いている。彼女に対して理解と愛情を持つ人々に囲まれ満ち足りた生活を送っていた。ただ一つを除いて。彼女は遺伝性の病のため視力が失われつつあり、ジーンも手術を受けない限り同じ運命を辿ってしまうのだった。そのために、内職もしてジーンの手術費用を貯えていた。が、ある日工場を解雇されてしまい、貯めていたお金まで盗まれていた……。歌手ビョーク主演のドラマ。カンヌでパルムドールと女優賞を受賞。


ダンサーインザダーク



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●『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』の内容(※ネタバレ注意)


主人公のセルマは明るく純粋な人柄だが、どこか精神的に不安定な印象を受ける。

周りがよく見えていないような様子で、見ていてとても心配になってくるキャラクターだ。

しかし、息子(ジーン)のために懸命にお金を稼いでいたり、ミュージカルの習い事もこなしていたり、人として良くできている部分もあり、全くの世間知らずではないという部分が憎めない。

そんな中、隣人で大家のビルから相談を受ける。妻(リンダ)が浪費家で困っているという相談だ。

セルマは秘密を教えてくれたビルに対して、自らの秘密も打ち明ける。

遺伝で、年を取るにつれて盲目になっていく病気を患っており、ジーンに手術を受けさせるため、自分の目が見えなくなってしまう前に治療費を稼いでいるという秘密だ。

自殺を考えるまでに、借金にうなされていたビルは、ある日、セルマの貯金を盗んでしまう。

気づいたセルマは落ち着いた様子でビルに問い詰めようとするも、リンダからは「夫を誘惑している」とひどい言いがかりをされる。相談に乗っていただけなのに。

セルマはそれをしっかりと否定し、ビルの部屋を訪れる。

セルマはビルを説得し、お金を返してもらうと、ビルはセルマに銃を向ける。

挙句、ビルは一階にいるリンダに「お金を取られる!助けてくれ!」と訴える。

二人は取っ組み合いになり、不幸なことに銃が暴発。ビルは瀕死のダメージを受ける。

ビルはセルマを完全な悪人にしようと考え、リンダに警察への通報を促しつつ、「お金を返して欲しければ俺を殺せ!」と訴える。

パニックになったセルマはビルを殺害。その後、放心状態のまま病院へ向かう。

お金を医者に託し、偽名を使いながらジーンの手術費にあててもらうと、セルマに片思いをしているジェフに連れられ、ミュージカルの習い事へ向かう。

その場にいた監督が警察へ通報。セルマは警察に捕まってしまう。

セルマはチェコからの移民であったため差別的に見られ、盲目を隠して働いていたことや、貯金をしていた理由が嘘であることが発覚したこと(セルマはジーンが病気であることを知られないように、嘘の理由で貯金をしていた)が災いし、裁判の末、セルマは第一級殺人の疑いで有罪。絞首刑という判決を下されてしまう。

セルマの友人(キャシー)や優秀な弁護士の協力により、再審で減刑することができることになったが、それにはお金が必要になる。キャシーは、息子の目を治す治療費を使って、再審を受け入れて欲しいと訴えるが、セルマはそれを拒否。そして、死刑当日になってしまう。

セルマは死にたくないと訴えながら、死刑の場に進んでいく。

見かねた見届け人のキャシーが、ジーンの目が治ったことをセルマに報告する。

そしてセルマは、大好きなミュージカルの曲を歌いながら、息を引き取った。


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●『 ダンサー・イン・ザ・ダーク 』を観た感想(※ネタバレ注意)


胸糞悪い映画といえば、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を取り上げる人も多いだろう。


映画全体の色素が薄く、古い映画のようなセピア調の絵が続くので、全体的な映画の雰囲気としては良い。

内容としては、本作はとても救いがなく、悪い方向にしか話が進まないのでかなり重苦しい。


しかし、あくまで本作はミュージカル映画である。


そのため、登場人物が急に歌いだしたり踊りだしたりするので、重みが中和されている。


また、セルマの友人であるキャシーやジェフ、女性看守など、セルマに対して救いの手を差し伸べてくれる存在が尊く、セルマの心の拠り所であってくれたことがとても嬉く思えた。

特にジェフはセルマに好意を寄せており、牢屋のセルマとの会話では思わず涙が流れそうになった。


そして、彼はセルマの絞首刑の場に赴き、見届けるか迷っていた様子だった。しかし、結局絞首刑の場にジェフはいなかった。これは彼の良い部分であり、弱い部分でもあり、とても人間らしいなと思った。


セルマのキャラクター性は嫌いではないが、あまり合理的でないため、嫌いに思う人はいるのではないかと思う。

貯金の保管方法など、かなり危機管理能力が薄い部分。また、パニックになってビルを殺害してしまう部分。更に、ビルに貯金を取られた挙句に殺人犯にされたのにも関わらず、リンダが浪費家だという秘密を断固として守った部分などが挙げられるだろう。

お人よしが過ぎるというか、純粋すぎるというか、不器用というか……人間の黒い面を見たことがあまりなかったように思う。

目が悪くなる病気は遺伝なので、もしかしたら、親や友人からとても親切に育てられたのではないだろうか。

セルマの過去はわからないが、周囲に悪い人間がいない環境で生きて来たのだろうなといった想像ができる。


本作で一番卑怯な人間は明らかにビルだ。

セルマに付け込み、セルマの努力の結晶である貯金を奪い、セルマを殺人犯にした挙句、自分は死に逃げる。

貯金を奪われ、ビルと取っ組み合いになる一連のシーンは本当に胸糞悪く、嫌な気分にしかならない。


従来の物語なら、セルマの減刑が実現し、少しでも幸せが残る結末を描くが、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は違う。

嫌な気分は晴れず、そのままセルマは絞首刑になり、エンドロールが流れる。主人公が首を吊って終演する映画が今までにあっただろうか?私は本作が初めてだ。

自らの減刑よりも、ジーンの目の治療を優先した意志は敬意に値する。遺伝病とわかっていながらエゴで産んだことに多少嫌な感情は抱いたものの、彼女は母親として貫いている姿は悲しくも美しい。

ジーンのために自らが命を落とすことを決心している様子ではあるが、死刑寸前まで暴れ抵抗していたりなど、絶望が隠しきれていないのがとても見ていて辛かった。


絞首刑の前に『最後から2番目の歌』という歌をセルマは歌う。その途中で刑が実行されるので、音が途切れ、首を吊ったセルマを映しながら、静かなままエンドロールが流れる。そこがとても鳥肌もので最高に気分が下がる。だがそこが良い。

『最後から2番目の歌』は作中にセルマが大好きなミュージカル映画の話をしていたときに述べていたもので、セルマは毎回その映画を見る際、『最後から2番目の歌』が流れたら席を立ち、映画を見るのをやめると言っていた。

そうすることで、そのミュージカル映画は自分の中で永遠に続くことになるから。と。


そのため、セルマが絞首刑の場で『最後から2番目の歌』を歌い出したときは思わず息を吞んだ。そして、私もここで映画を見るのをやめようかと少し思ってしまった。そうすれば、この映画は自分の中で永遠に続く。

しかし、私は最後までこの映画を、セルマの最後を見届けた。

この話は、この映画は永遠に続いてはいけない。

終わらせなければいけない物語だと思ったからだ。


キャシーは最後に、警備員に止められながらセルマの元へ向かい、ジーンの眼鏡を渡し、手術は成功したと伝える。しかし、それが事実かどうかわからないのが辛い。

本当に成功したのか。それとも、失敗し、キャシーが気を使って成功と言ったのか…それは視聴者の想像にお任せする形になっている。


私はミュージカル映画というものを本作で初めて見た。

本作のミュージカル要素は、セルマの妄想のような、白昼夢のような形で繰り広げられていた。

工場での勤務中、ジェフに盲目がバレそうになったとき、殺人を犯したとき、裁判中、牢屋の中、死刑前。

セルマが現実を見たくないと思った時に音楽が流れる。ミュージカルはセルマの逃げ場所だ。

先ほどまで言い争ったりしていたのに急に歌いだしたり踊りだしたりするので、少し拍子抜けする部分もあったが、最後まで見ると、本作はミュージカル映画として公開されるべき作品だったと思うようになった。

セルマの存在に深みがでて、より一層物語に引き込まれたし、単純に音楽がとてもよかった。


『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は人を選ぶ作品ではあるが、私以外の人が本作に受けた感想を見てみたいと思った。そして、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』私の中で一生忘れられない作品となった。見なきゃよかったと思ってしまいそうだが、本当に見てよかったと思う。

しかし、視聴後は必ず暗い気分になり、最低でも1日は引きずるので注意が必要である。


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●今回レビューした映画の詳細


題名:ダンサー・イン・ザ・ダーク

監督:ラース・フォン・トリアー

2000年公開

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