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【マネジメント連載企画vol.15】マネジメントできないマネージャーたち~介護経営の陥穽(おとしあな)~」

第3章 介護現場マネジメントの方法③



「根」からの見識・知見が「葉」を活性化させる


それは職員が吸い上げたくなる情報か


 葉の活動が樹木全体に多大な影響を与えるように、職員の活動が事業所運営を大きく左右する。ケア品質の維持・向上においても、安定的な経営においても、職員の活性化がカギになる。
 樹木の場合、葉の活動を支えているのは、葉が根から吸い上げるミネラルと水分だ。では、介護事業所の場合、その養分はいったい何にあたるのか。それは、根(管理者)の「見識と知見」ということになるだろう。また、以前述べたように、その内容は、上意下達で押し付けるのではなく、職員が吸い上げたくなる情報、でなければならない。質が問われるのだ。
 前回、管理者に求められる誠実さの正体は「手間」だと述べた。あらゆることについて、自分を勘定に入れず、人のために行動する面倒臭さにこそ、誠実さは宿る。そういう意味でいうと、見識と知見の供給は、まさにこれにあたる。
 なぜなら、現場の職員が望む見識と知見を供給するにはまず管理者自身が学ばなければならないからだ。見識とは、物事の本質を捉える能力を指す。知見とは、自分で物事を見聞きして得た情報を意味する。これらは短期集中で学べる類のものではない。日常的に情報収集を継続しなければ得られないだろう。多忙な日々の中でこれを続けるのは簡単ではない。とりわけ見識の方はそう易々と身につくものではなく、一生かけて磨き上げるしかない。



現場を活性化させる情報とは


 管理者自体に情報を事業所全体に送り出す力はない、というのは極論だろうか。通達や会議・研修を通じてそれなりの見識や知見は伝わっているのではないか。そう思われるかもしれない。
 確かに、業務連絡や注意喚起レベルの情報なら伝わっているだろう。だが、その程度のものを見識や知見とは呼ばない。たとえば、以下のような、職員を強く刺激し、活性化するような情報は、ほんとうに現場に届いているだろうか。

 ①慢性的な人材不足を踏まえた業務効率化の知見
 ②ケアの質をより高めるための業務改善の知見
 ③エビデンスに基づくケアを目指すLIFEの知見


 ①は、令和6年度改正で示された「生産性向上に先進的に取り組む特定施設に係る人員配置基準の特例的な柔軟化」や「介護ロボット・ICT等のテクノロジーの活用促進」に関する介護業務ICT化という課題である。②は、同改定における「利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の設置の義務付け」に代表される生産性向上という課題だ。③は、文字通り「科学的介護推進体制加算見直し」の課題である。いずれも、介護事業所の今後の方向性を占う重要な知見ばかりだ。


苦手な情報はより伝わりにくい


 この春にこれらの改正内容が示されて以降、現場のカンファレンスで、自主的に①~③のテーマが取り上げられたことはあっただろうか。主任やリーダーが、書籍やWEB、社外の研修会で情報を集め、社内研修を行ったことはあっただろうか。①~③は多くの現場が苦手とするテーマばかりである。管理者が情報収集しなければ、事業所内に入ってくることはほぼないだろう。
 しかも、こういった情報を管理者から一方的に発信したとしても、とにかく目の前の仕事で手一杯な現場には受け入れられないことがほとんどだ。いずれも現場の重要課題であるにも関わらず、現場は手をつけない、あるいは手をつける余裕がないのではないだろうか。
 これが、管理者自体に情報を事業所全体に送り出す力はない、と述べた理由である。いくら管理者が有益な情報を集めて発信しても、それを現場の職員が自律的に吸い上げようとしなければ単なる押し付けになってしまう。結局活かされない情報は発信しても意味がない。
 誰も使わない業務マニュアルやOJTマニュアル、いつまでも活用されないICT機器、号令ばかりで成果の上がらない業務改善プロジェクト…私たちは同じ過ちを繰り返してきたのではなかったか。その原因が、現場の自律性の軽視であることは明らかだ。吸収する気がない職場にいくら情報を供給しても何も変わらないことに、私たちはそろそろ気づくべきなのではないだろうか。






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