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「それってあなたの感想ですよね(実に素晴らしい感想です)」

もはやミームと化した「それってあなたの感想ですよね」という言葉。

残念ながらほとんど相手をバカにするような文脈でしか使われてなさそうなこの言葉ですが、ちゃんとこれを文字通りに受け取ってみると実はなかなか含蓄深いものがある気がしています。

一般的に、この「それってあなたの感想ですよね」が用いられる状況というのは、誰かが「自身の感想」をあたかも確たる「客観的事実」や「一般法則」かのように語ってることに対して批判する時ですよね。すなわち「感想をまるで感想でないかのように語るな」と指摘しているわけです。

いわゆる「エビデンスベースド」の実践において重要なことは、基になってるエビデンスの確度に合った主張をすることです。それゆえ、感想を感想でないかのように装って語るのは確かによろしくないわけです。

ただ、これは必ずしも「感想を言ってはいけない」という意味でもないはずなんですよね。

この「それってあなたの感想ですよね」のミームには、いつの間にか「感想なんて無価値だ」という意味が含まれてしまっている感じがあります。「エビデンスレベルの高いRCTなどの統計解析結果でないと聞く価値なんてないんだよ」と言わんばかりに。

しかし、よくよく言葉を文字通り見てみると、「それってあなたの感想ですよね」の中にはどこにも「感想の価値」そのものを卑下する内容は含まれていません。あくまで「それ(感想でないかのように装ってるあなたの説明)って(本当は)あなたの感想ですよね」と指摘しているだけの言葉です。

だから、妙な誇張や一般化を施さずに、自身の感想をちゃんと「これは感想である」として堂々と語る分には、それは価値がないものとして扱われるいわれはないのです(少なくともこのミームの含意の範疇からすれば)。

すると、こういう展開も可能になるでしょう。

A「それってあなたの感想ですよね」(相手が一般論として言ってるのか感想として言ってるのか分からないので確認)

B「はい、あくまで私の感想です」

A「なるほど、やはり感想でしたか……ブラボー、実に素晴らしい感想です」(感激のあまり涙を流して崩れ落ちる)

まあ、最後はちょっと冗談込みな展開ですけれど、でもほんとそれが感想だからといって肯定してはいけないわけではないはずなんですね。

感想かどうかを確認してるのも正確に発言者の意図を把握したいということであって、「それが感想である」と確定し、その意図が十全に把握できたならば、それによってあらわになった総体をもって「素晴らしい」と賞賛しても何も不思議ではないのです。

感想が感想として語られているならば、それは全然無下にされることではないですし、エビデンスをエビデンスとして語っている発言と等しく、リスペクトを払われるべき人間的行為であると思います。

なお、「リスペクトを払う」というのは別に「その内容に賛同する」という意味ではありません。内容にかかわらず「それが感想である」というだけで、「感想なんて何の価値もない」などとバカにすることが、リスペクトを欠いた態度です。「感想であること」に対してリスペクトをしつつ、その具体的内容に反対したり反論することは、「リスペクトを払うこと」に矛盾するものではありません。

例えるなら、スポーツマンシップみたいなものです。スポーツにおいては相手選手とそれこそ真剣に戦うことがあるけれど、それは相手選手にリスペクトを払うことと矛盾しないですし、むしろリスペクトを払うべきところでしょう。

というわけで、「それってあなたの感想ですよね」は、本来の文字通りに解釈すれば、相手に対して「感想を感想でないものに装う不正ではないよね」と釘を刺す意味でしかなく、感想自体の価値を疑うものではないし、感想に対するリスペクトを払わないでいいかのように用いられるべきではないと、そのように江草は思うのです。


以上、江草の感想でした。

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