営利国家の中の非営利組織の中の営利個人
こと医療界において「営利」とか「市場原理」への忌避感はとても強いものがあります。
何か主流医療関係者の気にそぐわない活動を見ると「お金儲け目的だ」と批判されますし、医療への市場原理の導入は否定されます。
医療機関のオーナーが営利企業であってはならないし、理事長も医師でなくてはなりません。
研究だっていちいち「利益相反はありません」と宣言する儀式が始まりました。
医療に「営利」がそぐわない理由としてポピュラーなのは「市場の失敗」です。医療において市場原理はうまく機能しないと。
細かい点で議論はあるにせよ、実際これは的を射てる見解と思いますし、正しいだろうと思います。
ただそれと同時に、医療界の組織だけが形式的に「営利」を避けてもあまり意味はないとも思うのですよね。
御存知の通り、そもそも日本は自由資本主義の国ですので、基本的な設計は資本主義や市場原理に基づいてます。
それゆえ、徹底して非営利な組織であるべく設計された「病院」という組織に務める職員の面々も、院内にある(資本主義の象徴たる)スタバで飲み食いをしますし、(資本主義の王)GAFAの一角を担うappleのmacbookで華麗にプレゼンを決めてます。
あるいは病院運営には欠かせない製薬企業や医療機器メーカーも余裕で営利企業です。清掃の業者さんや医療事務の人材派遣会社も営利企業でしょう。
つまるところ、あからさまに医療界も医療従事者も資本主義の営利システムの中で生きています。
その上、最近では株主資本主義としか言いようがない資産所得倍増計画を政府が打ち出すなど、日本はいわば「営利国家」としての道を明らかにしています。
ただでさえ人間というものは利己的な側面も持っているのに、そんな営利国家の中で生きていくならば、なおさら個人も営利で動くしかありません。
高い報酬を求めるし、しんどい仕事は避けるし、キャリアの糧にならない活動は断るし、僻地の病院に強制的に束縛されるなんてもってのほかとなります。
医療界が頑として「非営利」を打ち出していても、「営利国家」の中で孤軍奮闘してるだけな上、しかも内部で務める職員も実のところ「営利個人」として動いているという皮肉な状況と化してるわけです。
残念ながら、いくら医療関係の組織を非営利にしたところで、国家や個人まで非営利にはできないのです。
このように国家や個人という最も重要なステークホルダーたちが営利の姿勢を色濃くしてる現状で、医療界だけが妙に「非営利」にこだわることに「市場の失敗」を防ぐ十分な効果はあるのか疑問に思います。
こうなると、医療も営利化に舵を切るか、国家や個人の非営利化に向けるか、どちらかが必要な可能性はあるのではないでしょうか。
お察しの通り、これはまさに経済右派と経済左派が永遠に喧嘩してるテーマなので、めちゃんこ難しい議論ではあります。(江草もどちらがいいかわかりません)
ただ、少なくとも、国全体の仕組みや個人のマインドセットの動向を無視して、医療界だけ我関せずと「私たちは非営利です」と言い張っていても、それは単に自分たちの既得権益を守ろうとしてるだけとしか見えない気がしてなりません。
また、この姿勢は、専門医制度とか地域枠とか、医療界のことしか考えてない視野の狭い施策ばかり打つことにもつながってるように感じます。
社会の中の営みである以上、医療も社会と不可分であり、医療界だけ隔絶された聖域かのように過ごすわけにはいかないと、江草は思うのです。
江草の発信を応援してくださる方、よろしければサポートをお願いします。なんなら江草以外の人に対してでもいいです。今後の社会は直接的な見返り抜きに個々の活動を支援するパトロン型投資が重要になる時代になると思っています。皆で活動をサポートし合う文化を築いていきましょう。