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「偶発的コミュニティ」から「計画的コミュニティ」の時代へ
江草は以前「不登校」についての記事を書いたことがあります。
このコメント欄でのやり取りでちょっと触れた話なのですけれど、「不登校」って何か単純に「集団生活が嫌だ」とか「怠け」みたいなことから起きてそうって一般には捉えられてると思うんです。でも、どうも実際の例を聞くと、学校以外の活動には精力的に取り組んでたりする雰囲気だったりして、なんかそのイメージと異なるんですよね。しかもそれもただ孤独にやってるというわけではなく、意外にも「少年野球」みたいな「学校ではない別の集団活動」だったりする。
あくまでこれは江草の観測範囲が狭くてたまたま珍しい例を聞いてるだけかなあと思ってたのですが、コメントいただいたケースでも不登校でも学校外の活動は生き生きとされてるという話のようで、もしかするとやっぱり本当にそういうものなのかもしれないという思いが湧いてきたのです。
もちろん、江草は全然不登校の専門家でもありませんし、見聞きしてるn数も足りなすぎる、あくまでアブダクションに基づく仮説レベルの話なのですが、その感じで以下の論考を聞いていただけると幸いです。
で、今回江草の中でどういう仮説が出てきたかと言いますと、「不登校」のような現象は、「割り当てられた人間関係」を嫌い「自ら設計した人間関係」を求める昨今の社会心理の反映ではないかというものです。
たとえば、学校のクラスって、自分で同級生を選ぶのではなく、勝手に割り当てられるじゃないですか。自分が「このクラスが良いな」と思って入るわけでもないし、「メンバーを厳選して自分の理想のクラスを作ったぞ」でもなく、ただ「あなたはこのクラスね」と割り当てられるわけです。
クラス内でよくあるグループ分けで言えば、「じゃあ好きに4人ずつのグループを作ってー」ではなくって「じゃあ出席番号順に4人ずつのグループになってもらうぞ」に近い仕組みです。自分の意思の介在なく、他者からの強制あるいは偶然性によって付き合う相手が決まります。
もっと言うと、通う学校自体も、学区等々で(少なくとも子ども目線では)強制的に割り当てられてるところがあるでしょう。
それでいて、学校やクラスというのは一度所属すると簡単にその関係を止めることはできません。少年野球クラブは極論やめようと思えばやめれますが(そもそも自分で「ここに入りたい」と希望を言う余地もあるのも重要です)、学校やクラスはそうではない。ここがおそらく重荷になってると思うんですよね。
これが「割り当てられた人間関係」を嫌い「自ら設計(選択)した人間関係」を求めるという心理になります。
そして、この心理がもはや子ども達の「不登校」に限らず、社会的に広がりつつあることも感じられるんですね。
その例の一つがこの「上司ガチャ」です。
就活時に「この部署が希望です!」と言って入社したら全然違う部署に配属されて「配属ガチャ失敗したわー」とすぐ辞職してしまう新入社員が問題になっていました。ただ、その「配属ガチャ」も、最近ではあらかじめ配属部署を確約するなどして会社も対応するようになってきたらしいんですね。
で、これで新入社員が不満を持たなくなったかと思ったら、今度は「上司ガチャ」という新たな問題が言われるようになってきたと。つまり、今度はたとえ配属先が希望通りでも「上司が嫌」だとぶち壊しってことになってるわけです。
もはやこうなってくると人事部の方々の苦労に同情を禁じ得ませんけれど、でもこれぞ「割り当てられた人間関係」を嫌う心理の典型例だと思うんですよね。
そもそも「ガチャ」というのが「偶然性による強制的な割り当て」の象徴的用語です。「ガチャ」という言葉がネガティブなイメージを持って昨今の世の中で語られてるのも「割り当て」に対する人々の忌避反応を示していると言えるでしょう。
もちろん、昔からそういう「割り当てられた人間関係」への不満というのは誰もが持っていたとは思うんです。やっぱりどうしたって自分の希望通りの理想のメンバーではないですからね。
しかし、最近では(特に若者が)そうした人間関係への拒絶心を隠さなくなってきた。または実際に辞職しちゃう(あるいは不登校しちゃう)という感じで、現実に拒否行動を取るようにもなってきたと。
おそらく、社会人ベテランの皆様からすると、「そんな甘っちょろいこと言って、これだから最近の若者は」と苦言を呈したくもなるのではないかと思うのですけれど、ただ、その良し悪しの判断はとりあえず抜きにして、ひとまず、そうした社会になりつつある気配自体は注目に値するのではないでしょうか。
以前、江草が感想文を書いた書籍『Z世代化する社会』でも、「若者達の態度や言動は社会を写す鏡である」という話がありました。
だから、この「割り当てられた人間関係」を忌避して、「自ら設計した人間関係」を望むというトレンドは、何も若者たちばかりでなく、大人たち全般も実は既に存分に浸かってる社会文化だと捉えるべきと思うんですね。
象徴的なのがSNSにおける「フォロー/ブロック」システムでしょう。
今や、大人達も盛んに活用してる各種SNSですけれど、この「フォロー/ブロック」システムがないものはほとんどないのではないでしょうか(なんならここnoteもこのシステムがありますよね)。
しかし、この「フォロー/ブロック」システムって、まさしく「人間関係を自ら設計しよう」という思想なわけです。「付き合いたい人間」をフォローして、「付き合いたくない人間」をブロックするわけですから。
そう、もはや日常当たり前に私たちはフォローしたり、されたり、ブロックしたり、されたりしてますけれど、これぞ「好みの人間関係の設計」の実践なのです。
また、「割り当てられた人間関係」の代表格であるのが血縁と地縁ですけれど、そうした人間関係を出来る限り遠ざけよう(少なくとも選択権は持とう)というのも、大人達の間でも普通に起きてる事象です。
昔は徹底して当たり前とされていた帰省や法事やお墓などの親族関係のイベントも、苦手な親族が居る場合は避ける動きが堂々と出てきていますし、町内会やPTAなどの地域でのコミュニティ活動は崩壊寸前です。
これらは全て「どんな人が所属してるかを選べない(もしくは大変選びにくい)割り当てられた人間関係」なので、そこにどうしても「嫌いなあの人」が含まれやすいというのがあるんですよね。
さて、色々言ってますけれど、江草は別にこのトレンドを批判しているわけではありません。むしろ、あまりに共感できるからこそ、どう扱うべきか悩ましいと頭を抱えてる感じです。
『嫌われる勇気』で一躍有名になった心理学者アドラーが「人間の悩みは全て人間関係の問題に帰着する」と言ったそうですけれど、確かに人間関係の悩みというのは人にとって非常に重大過ぎるんですよね。「嫌な相手とも付き合うべきです」というのはなかなか言い切るのは難しい。
実際、虐待する親とか、パワハラセクハラする上司とか、「そういう人たちとも付き合うべき」とは、昨今の私たちは言わなくなってきてるのではないでしょうか。「人間関係はもちろん大事だけれど、最終的にはやっぱり相手は選んでいい」と大人だって思ってるわけです。
しかし、こうなるともはや個々人の好みの問題になってくるので、「この人と付き合うのはいいけれどあの人と付き合うのはダメ」と外からつべこべ言うことが難しくなってきます。あんまりつべこべ言うと、つべこべ言う人自身が「ブロック」されかねないでしょう。ならばもう「本人の好きに人間関係を設計させるしかない」と、社会全体でこうなってきてるわけです。
そうすると、学校のような「割り当てられた人間関係」の性格が色濃い場で、そうした社会文化との矛盾が否応なしに高まってしまいます。
新入社員でさえ「上司ガチャ」に失敗したら、即座に職場を辞める自由を行使しかねない時代です。けれど、唯一その自由が行使できない立場に置かれてるのが子ども達です。
どうしたって学校を辞めることはできない。ならば、どうするかと言えば、「行かない」というストライキ行動を起こすしかないのでしょう。
そして、これがあくまで「割り当てられた人間関係」に対する忌避に過ぎないがために、自分で通う希望を行使できる「自分で設計する人間関係」の性格を持つ「学校以外のコミュニティ」には意外にも普通に参加したりするというわけです。
以上が、「不登校」がただの集団活動忌避ではなく、「割り当てられた人間関係」に対する忌避なのではないか、そしてそれは昨今の社会全体の文化を反映しているものなのでは、という仮説になります。
「割り当てられた人間関係」対「自ら設計する人間関係」という二者構図は、「偶発的コミュニティ」対「計画的コミュニティ」とも表現できそうです。
富裕層が治安や平穏を求めて同類のハイソサイエティな人々のみ集めて高級住宅街を作る「ゲーテッドコミュニティ」というのが以前からもありましたけれど、これぞ「計画的コミュニティ」の一例でしょう。富裕層のみならず、各人がそれぞれに多様な好みの「ゲーテッドコミュニティ」を求めるようになるのが「計画的コミュニティ」時代なのでしょう。
はてさて、これまでの「偶発的コミュニティ」の時代から、今後ますます「計画的コミュニティ」の時代に移るとしたならば、世の中は一体どうなってしまうのでしょうね。
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![江草 令](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/159442884/profile_6a38fb1225eabbdb89e8f63612818e5b.png?width=600&crop=1:1,smart)