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不登校は子どもたちのストライキ説
不登校児童が増えているということが社会問題となっています。
江草の知人や親戚の子にも、不登校や、それに準じてる状態の子どもたちが複数いて、統計上の数値だけでなく現実的な身近な問題となっていることを実感します。
しかし、どうして不登校は増えているのでしょうか。
文部科学省は「不登校の理由は様々なので一概には言えない」としつつも、「コロナ禍の長期化で生活環境が変化したことや、学校生活でのさまざまな制限で交友関係が築きにくくなったことなどが背景にある」と分析しています。
文科省は「不登校の理由は様々」と曖昧にしながら、こっそりコロナ禍のせいにしてる、正直言って「逃げ」の姿勢の印象です。
もちろん、難しく複雑な問題なのは確かにそうでしょうから、歯切れが悪くなる気持ちは分からないでもありません。でも、コロナ禍みたいな一時要因のせいにしてしまって済むとするのは楽観的すぎる気もします。「しばらく経ったら勝手に落ち着くだろう」と自然終息を期待している感じがしちゃうんですよね。
実際、文科省の資料においても不登校は「10年連続で増加」とコロナ禍以前からのトレンドであることを認めています。
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コロナ禍がここ数年間の急増を促した可能性はあるにしても、それ以前から増加トレンドが存在していたのであれば、それ以外の背景要因があるはずだと考えるのが自然なところでしょう。つまり、コロナ禍はあくまで「ダメ押しの火花」であって、コロナ禍以前にすでに「大爆発するためのガスが部屋に充満していた」と考えられるのです。
で、この不登校が増加している要因を考える上で、江草が興味深いと思っているのは「不登校は子どもたちのストライキ説」です。
(本当は「サボタージュ」と称すべきかもしれませんが、「サボタージュ」の本来の意味は日本ではあまり受け入れられてなさそうなので、響きのいい「ストライキ」を用いてみました)
山口周さんが先日まさにそういう説を紹介されています。
この状況については、一般に「生徒をどうやって学校に来させるか」という論点で議論されがちですが、根本的にアプローチが間違っていると思います。
システムを改変させるためには「発言」と「離脱」の二つが重要だ、という指摘はすでに何度もしていますが、子供達はまさに「離脱」というオプションを選択することでシステムの不備・欺瞞を告発しているのですから、本来的に議論されるべきなのは「学校教育をどう改変して、子供達が行きたくなるような場にできるか」という論点でしょう。
カリフォルニア大学バークレー校の東アジア研究者、マイケル・ジーレンガーは、日本の、いわゆる「引きこもり」に関して、この行為が「体制に対するクソ喰らえの表明」であり、「日本社会に対するまったく理にかなった告発であり、官僚や政治家よりも遥かに日本の精神的危機の本質を把握している」と著書で述べていますが、私もまったく同意見です。
このように考えてみると、不登校児たちは、学校教育システムからの「離脱」という選択によって社会に変革の圧力をかける社会運動のアクティヴィストなのだと考えることもできるでしょう。
ご承知の通り、子どもたちはやはり言語化能力は未熟ですから「発言」での不満の表明は難しいです。だから不満を表明したい時には「行かない」という「離脱行為」しか選択肢がない。そして、まさにその「離脱行為」の具体的現れが「不登校」という現象なのだというわけです。
つまり、不登校とは現在の学校システムに対する子どもたちの不満表明である、そういう仮説ですね。
実際、ありえる説だと思うんです。
たとえば、コロナ禍においては大人でも同様の現象が言われたことが記憶に新しいところでしょう。コロナ禍のステイホーム推進をきっかけに大人たちが大量に仕事を辞めてしまった「Great Resignation(大退職時代)」です。
2021年に記録的な数の労働者が仕事を辞めたのは事実ではある。
とはいえ、図表「平均月間離職率の推移」に示したように、過去10年間の雇用総数に照らして見てみると、現在の状況はコロナ禍によって引き起こされた短期的混乱ではなく、長期的トレンドが続いてきた結果であることがわかる。
この記事でも、「離職増加」が長期トレンドとして既に存在していたのが、コロナ禍で拍車がかかったという解釈をされています。
まさにこれは、もともと仕事への不満が潜在的に溜まっていた大人たちが、コロナ禍というきっかけ(火花)を得たことで、積もりに積もっていた不満を実際の行為として表明した現象であったと言えるでしょう。
だから大人たちと同じように、学校システムへの不満が積もりに積もっていた子どもたちも、既に長期トレンドとしてその傾向はありながら、コロナ禍というきっかけで一気に「大不登校時代」に突入したと考えるのはさほど変な話ではないはずです。
つまり、コロナ禍以前から学校システムに対する不満があったこと、これが不登校の最大の背景要因であるということになります。
もしそうであるなら、ここできっかけに過ぎない「コロナ禍」にばかり注目してしまうのは、根本的な解決につながらない浅慮な仕草であると言えるでしょう。
で、そうなると、次に重要な問いとなるのは「では学校に対して子どもたちは一体何が不満なのか」でしょう。
これぞまさに不登校問題にかかるクリティカルクエスチョンであり、重要かつ深遠な問いとなります。
ただ、あまりに重要すぎて本稿で語り尽くす余力がなさそうなので、今回はひとまずこの問いを考える上での「補助線的な話」を書いてみます。
子どもたちの不登校が増えているという話題に際して、とある江草の親世代の人が語っていた意見があります。
「学校が嫌って言ってもねえ、私たちが子どもの頃なんて先生から殴られるわ怒鳴られるわが日常茶飯事だったのに、それでも学校には毎日行ってたものだよ」
つまり、「昔に比べて今の学校はだいぶ居心地が良くなってるはずなのに何が不満なんだ」という意見です。
実際、最近では随分と学校に対して「体罰は厳禁だ、子どもを無下に叱りつけずちゃんと向き合おう」という空気は広まってきており、ある意味「野蛮で乱暴」であった一昔前の学校より環境は改善されてるという考え方は一理あるかと思われます。
環境が改善されてきてるのにそれでもなお不満を言うのは「甘え」なんじゃないか、これはこれで一つの立場として発生するのは自然なところでしょう。
なのですが、この「甘え」の立場の考え方には死角があると思うんですよね。
それは、学校外部の社会文化の変化との横の比較です。
「昔に比べて今の学校はマシ」という視点で論じている時、それはあくまで学校という場についての時系列的な縦の比較しかしていません。
もちろん「学校」が子どもたちにとって最重要の場であることは間違いないでしょう。ところが、社会はご存知の通り「学校」だけでできているわけではありませんし、子どもたちも「学校」だけで過ごしているわけではありません。だから、学校以外の「社会」からも子どもたちは自然と日々メッセージを受け取っているわけです。
そこでもし、「学校」の実際と、「社会」から受け取ってるメッセージに差異があるとどうなるか。認知的不協和に陥って心的ジレンマに苦しむことになるわけです。
つまり、いかに学校の環境が過去に比べて改善されているとしても、社会がそれ以上に変化してしまっていて、社会との文化的差が広がっていたら、学校に対して不満を抱くことは十分にあるわけです。
ここまでの説明ではいささか抽象的すぎるかと思うので、もう少し具体的に言いましょう。
今や「個人の多様性を尊重し、自由に自分らしく生きよう」というメッセージをNHK教育番組ですらガンガンに発出している時代です。子どもたちも当然、そういうメッセージを吸収しています。(子どもゆえに言語的理解がまだおぼつかなくとも、それぞれの番組自体が完全にそういう思想に基づいて構成されてるので非言語的に子どもたちも理解するはずです)
しかしながら、たとえ昔に比べれば緩やかになったと言っても、学校はまだまだ集団で教室に座って一律の授業を固定された時間割に沿って受けるシステムが基軸です。
こうした「定時に定められたことを集団で一斉に行う」という学校システム。これは「個人の多様性を尊重し、自由に自分らしく生きよう」という社会が日々流し込んでくるリベラル的なメッセージと、どうしても相性が悪いわけです。
しかも、(本人たちも定時出勤を控えた)親たちが「もう時間だから早く学校に行きなさい」とイライラしながら急かしてくる。さらに言えば「昔に比べたら学校もだいぶ平和な場所になったんだから」という目線で見てくる。
「言われてることと現実がまるで違う」。この認知的不協和に子どもたちは悩んだ末に、ついに「不登校」という不満表明に至るのではないか、そういう可能性が考えられるわけです。
もちろん、これはあくまで江草の仮説に過ぎないので妥当かどうかはより深い議論が必要です。
でも少なくとも、不登校問題は「学校」という個別の場だけで問題を見るのではなく、「社会」を含めた外部環境の影響も考慮しないといけない可能性を示すことはできたのではないかと思います。
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![江草 令](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/159442884/profile_6a38fb1225eabbdb89e8f63612818e5b.png?width=600&crop=1:1,smart)