Private Knowledge Companyとしての株式会社COTEN
先日、株式会社COTEN代表の深井氏がそのビジョンを語る更新をされてました。
以前、ファイナンスの方針についての記事も書かれてたことがあり、その続き的な立ち位置でしょうか。
ここnoteでもちょくちょく触れてますが、江草は有料会員COTEN CREWとなるなど株式会社COTEN推しなんですね。
で、今回の、人文知の意義をビジネスパーソンに訴えかける記事を見て、いやあやっぱり面白い会社だなあと改めて思ったわけです。深井氏はPodcast番組「COTEN RADIO」等々でもその人文知にかける熱い想いをこれまでも語ってらっしゃいましたが、こうやってまとまった文章になると紹介しやすくて助かりますね。
結構な長文で丁寧に語られてる内容をここで江草が勝手に短くまとめるのは良くないと思うので、株式会社COTEN(厳密には代表深井氏の思想?)の具体的な考え方はぜひ上の記事を当たっていただくとして、本稿ではここから江草が感じる株式会社COTENの立ち位置の面白さを語っていこうと思います。
株式会社COTENの有り様はなかなか特異的で不思議なものがあるので、これを表す何かいい表現がないかなあとぼんやり考えていました。
それで、勝手に思いついたのがPrivate Knowledge Company(PKC)という概念です。
語源はちょっときなくさい方面の用語になっちゃってアレなのですが、Private Military Company(PMC)からのもじりです。いわゆる民間軍事会社です。
要するにこれは民間の会社が軍事事業を担うビジネスモデルなわけですね。(傭兵と何が違うのという感はありますが一応は傭兵ではないという立て付けになってるようです)
PMCが提供してる事業が諸手を挙げて賛同しにくい「軍事」であることはここでは置いておいて、本来その主要な担い手であったはずの国家の正規軍でなくあえて民間会社がそれを請け負ってるという点が今回注目したい箇所です。
株式会社COTENも、本来は大学や文科省のような公共的な立ち位置の機関が担うと思われていたはずの人文知の拡大、普及という事業をあえて民間会社という立ち位置から担おうとしている。そういうミッションがうかがえます。だから、Private Knowledge Company、いわば民間知識会社と呼べそうだと江草は考えたわけです。
(なお、Knowledgeの部分はWisdomでもいいかなとも思いましたがKnowledgeの方がPrivate Knowledge Managementとかも流行ってる時代なのでトレンドに乗ってるかなと思いチョイスしました)
これは大学が怠けてるとかダメになったとかそういう話ではありません。大学は大学でその立場として精一杯頑張っている。けれども、それでは手が回らなくなったり、立場上フットワーク軽く動きにくい側面が出てきた(公共的性格ゆえに規則や書類やマナーでがんじがらめですからね)。それで、その隙間の社会的ニーズを埋めるべく出てきたのが民間知識会社たるCOTENというわけです。
民間軍事会社だって、国家のような公的セクターが担うとどうにも都合が悪かったり間に合わなかったりする場面があるからこそ民間に託すニーズが出てるのでしょう。だから同様のことが人文知というジャンルであってもありえると思うんですね。
江草は以前「知のビッグリップ」の問題を語った記事を書きました。急速に拡大する各専門知が互いに離れ離れになりすぎて、人類知が隙間だらけの「ビッグリップ」に至ろうとしているのではないかと警鐘を鳴らす内容です。
人類知を健全な姿に保つためには、この隙間をどうにかしないとまずいわけです。しかし、大学や学者(専門家)はどちらかというと「人類知の拡大」すなわち「新たな研究成果を生み出すこと」を求められてる立場で、知識の普及や共有といった活動に専念することが難しいという構造的ハードルを抱えています。
もちろん、この「知のビッグリップ」の問題は少なくない人たちが危機感をすでに覚えていて、特に専門家自身が個別に出版やSNS等々を通して知の共有活動をする姿は広く見られるようになってきました。しかし、それはあくまで本業としてるわけではない(人がほとんどである)ことと、個人単位での活動であるために、まだまだ限界があって社会に広がってる知の隙間を十分に埋めるにまでは追いつけてない印象があります。
だから、それ(人文知の普及)を本業として、しかも企業という組織体として担うとしている株式会社COTENの出現は、現状の問題に対し満を持して発生したと言える非常に興味深い現象だなと江草は感じるわけです。
COTEN RADIOのコンテンツが面白いのもさることながら、それ以上に、この資本主義社会において、そのシステムに乗っかった上で「世界史データベース」という野心的な事業をぶち上げてるのが、本当に面白すぎます。
これにあまりに感心して、江草は「Private Knowledge Company」と勝手な造語を作るにまで至ったという次第です。
もちろん、理想を語るだけなら誰でもできるのですが、冒頭で挙げたファイナンス記事で分かるように、これでいてCOTENは実際に資金集めも着々と進めてらっしゃるようなのが、ほんと興味深いんですよね。
このてんでお金にならなさそうな事業に投資資金が集まること自体もある種エポックメーキングな現象かと思います。インパクト投資やESG投資にありがちな、内容の分かりやすさに流れたり結局はリターンを計算高く確保してる感じもない。しかも、そのことを深井氏自身もちゃんと言っているにも関わらず資金が集まるという。
かといって利益度外視の慈善事業という評もキッパリと否定されている。あえて株式会社という民間営利組織で活動を担うことで世の中を変えようとしているわけです。
なんなら、こんな野心的なビジョンでさえあります。
こうした特徴的なファイナンスやマネタイズの方針も、時代の変化を予感させる実に興味深い戦略なのですが、これについては何度か江草も過去に書いた気もするので今回は割愛します。(というか、ぶっちゃけ本当は一度この説明もここで改めて書き始めたのですが記事がスーパー長くなって収拾がつかなくなりそうになったので止めました笑)
↓というわけで、過去に書いた記事発掘してきました。ご参考まで。
ともかくも、以上、人文知を広げていこうという株式会社COTENの試みは、Private Knowledge Companyとも呼びうる新たな地平を開くものであり、江草はめっちゃ期待してるというお話でした。
COTENが担当している人文知(歴史)ジャンルだけでなく、もしかすると広くKnowledgeと呼べるものなら他分野でも同じような事業が展開できるかもしれないので、COTENをパイオニアとして他にもPKCがいっぱいできると楽しそうですね。
なお、最後に注意点を。
江草は別にCOTENの中の人でもなんでもないので、今回の説明や解釈はあくまで外野のいちファンに過ぎない江草が勝手に個人的に言ってるだけで、実際の同社の考えや体制と異なる誤解や勘違いが多々あるかもしれない点は何卒ご留意のほどお願いいたします。