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不思議の合格、不思議の不合格、慶應SFC入試
慶應義塾大学合格の日からちょうど1年が経過しました。Xのタイムラインには慶應合格の文字が踊り、1つ後輩たちが入学してきます。
プロ野球の野村克也は「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」という格言を残しています。なぜか勝つことはあっても、負けるのは何らかの理由があるということです。
しかし、慶應SFC入試は私を筆頭に不思議の合格者がおり、そして不思議の不合格者もいます。英語160点取ったのに落ちたみたいな投稿も多数ありました。65%で受かる入試で英語80%ということは、小論文が50%以下だったということです。慶應を受けるような受験生で、英語で8割取れるほどの人が、小論文で5割切るようなことが当たり前のようにあるなんてそれだけで不思議なことです。
一方、受験BBSでは英語80点(4割)で合格したという書き込みもありました。これを虚偽だと思う人はいるかもしれませんが、私は信じています。SFCの英語は記述式がないので得点のブレが出ないことと、私自身も英語94点で合格しているからです。
「SFCは小論文ゲー」などとも言われていますが、不思議の負けを喫した受験生はどんな不合格をしたのでしょうか。
英語7割以上の受験生に聞くと決まって「いや、小論文は普通に書いたし、字数もちゃんと埋めたよ」と言います。慶應クラスの受験生なら当然にこの程度の芸当はできるはずです。私もそれなら受かっただろうと思いつつ、実際には落ちているケースもあります。
ここからが考察ですが、小論文の自称・字数埋めた人は典型的な「~について論じる。第一に~、第二に~、だが~という論もある。ゆえに私はこう考える」みたいな構成をしているのではないかと推測しています。多少中身は薄っぺらだけど、構成点も起承転結もバッチリだし、7割とは言わなくても、いくらなんでも6割は来るだろうと考えているわけです。SFC採点でいうと122点(11点刻み説)なので、英語7割あればまず合格です。しかし、実際には不合格になっているのです。
多分、SFCが求めているのはそういう典型的大学受験生の小論文ではない。
脱線は比較的自由だし、書くべき要素をバランスよく埋めたかもそこまで重要ではなさそうです。小論文テクニックの一つである、数パターンを作っておいて我田引水的に持ち込むのもOKそうです。
たとえば、教育畑の私が「10年後のアメリカと中国がどうなっているか。そしてその中で日本はどうなっているかを論ぜよ。また日本が存在感を表すにはどうすればよいかも記せ」みたいなお題があったとして、強引に教育系に引っ張ることは可能だということです。
「アメリカと中国が覇権を握っていることは確かだが、他方で環境問題など悪影響にもなり、クリーンなイメージ、環境先進国の日本が教育の力で超大国にはない力を有して、世界で一定の地位を得る。そのためにも、教育は重要だ。もちろん若者だけではなく、産業を支える中高年のリカレント・リスキリング教育ガー」、このようにいつも私が紀要に書いている論文のテーマまで持ち込むことに成功しました。ここまでくれば文科省の答申が云々、これまでの政策がこんな感じで、方策案がこれこれでと、いつも書いている内容を論ずればいいだけ。そこには査読付き論文に執筆しているほどの、圧倒的な知識量、ソフィスティケート・・・洗練された論理展開で、高校生には到底書けない圧倒的な小論文になります。
多分、SFCが求めているのはこういう小論文なんだと考えます。
私のFFが言いましたが「SFCの入試って高校生に院試を課している感じだよね。英語と小論文なんて院試そのものだし、問うている内容も院試っぽい」という鋭い指摘でした。そりゃ、院卒の私は有利だわ!正直もっと早くから受けておけばよかったと後悔しています。
小論文の中に圧倒的知識や奇想天外な発想がある、院試あるいは美大の小論文みたいなのがウケるのではないでしょうか。小論文講師も長らく努めてきた私、自分でも書き終わったときに全然名文だと思っていなくて、バランスを欠いた構成だったかなと自己批判していました。
文科省の答申を挙げ、政策の現況を論じ、方策案を記し、補強データにも触れ、解答用紙ちょうどピッタリで分量も最高だったけど、書くべき4要素の2分野ぐらいが分厚くて、残り2分野が薄目だったので大減点があるかもと予測していました。
ごく普通の「要素別採点」(内容点・構成点・論理点・レトリック点・その他)をしているような小論文入試ならば、6割平均で7割強ぐらいの点数しかつかなかったように思います。私の予測は122点以上155点以下(SFCの小論文は11点刻みの採点と言われている)。具体的には133点か144点かなと考えました。英語が94点とわかっていたので、小論文が最高点来ても249点ですから例年の合格最低点に及びません。実際には94+133=227点で40点足らずに不合格だろうなと予測していました。
ここからは余談です。
入試の予測を当てることでは定評のある私がいい意味で外してしまいました。期せずして合格、まさに不思議の合格です。
最初は大学スタンプラリーでふざけて出願しただけだったのに、慶應受験の直前に現代文1科目のほぼ運でMARCHに受かってしまいました。今まで記念で受験していた早稲田あたりとは違って、オリンピックでいえば準決勝を運で勝ち抜いてギリギリ決勝に進んだ感じでした。慶應では勝てないだろうというある種の開き直り、MARCHを合格して慶應に来られた誇り、それまでの不遇極まりない人生と、複雑な感情で日吉の駅に降り立ちました。
慶應を滑り止めにするような日本最高峰の受験生、慶應に順当に受かったハイレベル受験生、不合格に終わったけれど慶應に望みをかけて十分に戦った受験生、とにかく慶應の入試まで来られた人なんて同世代でも本当に一握りです。あの舞台で戦ったというだけでも十分スゴい人たちなんです。そんな受験生と同じ日に同じ入試問題で戦えただけでも光栄ですし、残念ながら不合格になった人もほとんどが偏差値で言えば私なんかより遥かに上位の猛者たちです。心から受験生の皆さんを讃えたい気持ちでいっぱいです。
そして、「不思議の不合格」をした私は、せっかく人生盛り返して慶應まで来たのですから、いろいろな人の想いを胸に、学業をやり遂げて卒業に至りたい所存です。