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ACFA_NEVER FALLEN LIONHEART:EP4-1

EP4-1:囚われのレオン

仮想空間の煌びやかな街並みがホログラフィックに投影され、人々はレールで移動するようなスムーズさで往来していた。建物の壁面には企業の広告が眩いネオンで彩られ、空にはエネルギーラインが幾重にも走っている。ここがクレイドルの一般市民が暮らす“明るい世界”だ。だが、レオンが目覚めた場所は、その表通りとは無縁の、薄暗く静かな区画だった。

重苦しい空気に満ちた独房、あるいは研究施設の一角と見まがうほどに無機質なコンクリートの壁。照明は最低限しか灯されず、ターミナルパネルや監視カメラが冷たい光を放っている。ベッドというより拘束椅子に近い寝台が部屋の中央に置かれ、彼はそこで簡易的な拘束具をはめられた状態で横になっていた。

「……ここは、どこだ……?」

目をゆっくり開き、天井の蛍光灯を眩しそうに見つめながら、レオンは自問する。つい先日までは地上の荒野でアームズ・フォートの砲撃をかいくぐり、ネクスト同士の激突に身を投じていた。敗北して連行されたことはぼんやりと覚えているが、その後意識を失い、次に目覚めたらこの“檻”だった。

うっすらと頭痛が走り、こめかみを押さえながら上体を起こそうとする。しかし、両腕と胴体を固定するベルトが動きを制限する。呻きつつも強引に力を込めるが、ロックは外れない。どうやら拘束具を外すには外部から解除が必要らしい。

「くそ……完全に捕らわれの身か。ここが、クレイドルの監獄……?」

嫌悪感と諦めが混じった声が囁くように独房に響く。地上の過酷な環境で長らく生き延びてきた彼にとって、清潔に保たれた空間はかえって不気味であり、企業の管理という名の息苦しさを象徴しているように感じられた。

耳を澄ますと、かすかに人工的な空調の音と、機械類の微かな作動音が聞こえる。外部の音はほぼ遮断され、時間の流れすら曖昧に感じられるほど静寂が支配していた。

(このまま一生、ここに閉じ込められるのか……。)

ふと胸にこみ上げる徒労感。その一方で、レオンはあの戦場で向き合った“娘”の存在を思い出す。エリカ・ヴァイスナー。オーメルの指揮官として彼を敗北に追い込み、捕縛へ導いた張本人。しかし、血のつながりを知ってなお、企業の任務を完遂した彼女の瞳に映った苦悩が忘れられない。

「娘……か。」

声に出してみると、奇妙な感触がある。本人ですら、まだ実感が湧かない。いつか“家族”だったかもしれない存在が、対峙の末に自分を捕える側に回ったのだ。それが運命の皮肉というにはあまりにも痛切だった。


扉が静かに開くと、白衣の技術者と軍服を着た数名の兵士が入ってきた。技術者の男はタブレット端末を持ち、レオンの顔を見下ろすように検査を始める。軍人たちは無言のまま銃を構え、警戒の目を向けている。

「ふむ、AMS適性の値はやはり高いですね。さすが、かつて“孤高のリンクス”と呼ばれただけありますよ。」

嘲笑混じりの声。レオンは黙って相手を睨み返す。だが拘束具を外せない以上、物理的な抵抗などできはしない。技術者は慣れた手つきでバイタルモニターを読み取り、端末にデータを打ち込む。

「ねえ、こいつがあのヴァルザードのパイロットか……地上でベヒモスすら沈めたって噂だが、見たところただの男にしか見えねえな。」

傍にいた兵士の一人が小馬鹿にするような声をあげる。他の仲間も笑みを浮かべて同調するが、技術者は鼻を鳴らして言う。

「そういう油断は禁物ですよ。ネクスト乗りというのは機体があってこそ、ですから。今こうして縛り付けていれば、ただの人間にすぎない。そういう意味ではあなた方と同じです。もっとも、上層部の意向でいろいろ調べさせてもらう価値は大いにありますがね。」

「調べる……?」

レオンが思わず口を開くと、技術者は顔を近づけ、冷たい光を宿した瞳で囁く。

「そう。我々オーメルとしては、あなたのAMS適性、それからネクストの操縦技術をどう応用できるか非常に興味があるんですよ。今後、あなたには“協力”してもらう可能性がある。さもなくば……廃棄処分になるだけでしょうね。」

「…………。」

ぴくりとも動けず、レオンは唇を噛む。オーメルが求めるのはネクスト技術の研究と、リンクスの能力を兵器開発に転用することだろう。企業戦争の道具として利用される可能性は高い。その事実に憤りを感じても、反論する術はない。もっとも、地上で自由を得る方法も、この檻の中には存在しない。

兵士が銃を突きつけるように構えて合図すると、技術者はタブレット端末を閉じ、最後に脈拍を確認してから、「これから連れて行くぞ」と淡々と告げた。拘束具を一時的に外し、腕を後ろで縛り直す形に変えて、立ち上がるように指示する。やや強引に腕を引かれたレオンはバランスを崩しそうになるが、踏みとどまる。

(まったく、扱いが露骨だな。まあ仕方ない……。)

表情に苛立ちを見せることなく、指示に従うしかない。兵士たちは彼の両脇を固め、部屋の外へ連れ出す。技術者は後ろをついて歩きながら、必要なデータを追加で撮り続けているようだ。


廊下を抜け、重厚なセキュリティゲートをいくつも経由した先にあったのは、巨大なアトリウム状の区画だった。高い天井には透明なドームが備わり、外の景色が遠くに見える。クレイドル外部の雲海のような風景が広がり、地上の荒廃した空気とは打って変わって青い光を帯びている。

だが、そこは決して開放的な空間ではなかった。あちこちにゲートや警備装置が配置され、職員や兵士が行き交う。パネルには「拘束者移送エリア」「研究棟へのアクセス制限」といった文字が並び、この場所が表向きの華やかなクレイドルとは隔絶した“裏側”であることを示唆していた。

「言葉もないか? ああ、黙っているほうが利口かもな。お前に与えられた選択肢なんて、しょせん二つか三つだ。」

兵士が冷たく笑う。レオンは微塵も応じず、肩越しに後ろを振り向くこともなく足を進める。考えても仕方ない。今は逃れられない現実を受け止めるしかない。

(エリカは、どこにいるんだろう……。)

ふと胸が苦しくなる。この大きなクレイドルのどこかに、娘は企業の指揮官として滞在しているのか。あるいは本部へ戻って報告をしているのか。状況を聞けば手厚い警備で隔離されている可能性もある。
彼女と再び対話できる機会があるのか、正直わからない。そして、企業が自分に興味を示している限りは“生かされる”かもしれないが、それが望むべき未来なのかは疑問が尽きない。

やがて、一行は白いタイルの床を進んで大きなエレベーターホールに到着した。扉が開き、地下の研究施設へ向かう特別な搬送機らしい。技術者がカードキーをかざすと、警報音が短く鳴り、内部へのアクセスが許可された。

「進め。」

兵士がライフルで示す。レオンは小さく息を吐き、エレベーターへ足を運んだ。扉が閉まる前に、ほんの一瞬だけ透けて見えた外界の光——クレイドル上部の明るい景色に対する名残りとも呼べる視界が消えていく。自分がこれから潜り込むのは、もっとも地上に近いような“暗黒の底”かもしれない、と直感する。

エレベーターは静かに下降し始める。その間、無言の緊張が空気を支配していた。技術者は端末を何度か確認し、「被検体到着」と打ち込む。監視の兵士が再度レオンを睨む。

「ここでいろいろ検査を受けてもらう。反抗すれば撃ち殺されるぞ。お前のネクストも没収済みだ。いいな?」

「……ああ。」

レオンは短く答えるが、それ以上何も言う気力はない。ここで騒いだところで何も変わらないだろう。むしろ自分に都合の悪い未来を早めるだけだ、と理解している。


やがてエレベーターが止まり、扉が開くと眩しいほどの白い光がレオンを包んだ。壁から床まで純白のタイルで統一され、消毒薬のような臭いが鼻をつく。いくつものドアが並び、それぞれに検査室や研究室の表示がある。人影は少なく、代わりに監視カメラが至る所に設置されているのがわかる。

「着いた。お前はまず身体検査を受けろ。その後、AMS適性の測定や脳波インターフェースのチェックを行う。……逆らうなよ。」

兵士の一人がそう言ってレオンを後ろ手に掴み、別のドアへ連れ込む。そこは小型の医療ベッドと各種検査機材が並び、人間を診察するには充分すぎる設備が整えられていた。技術者が端末を再び起動し、検査用のアームやセンサーをセットする。

「ふうん、あなた、ベヒモスさえ沈めたんですって? でも、結局は企業に逆らった代償は大きいわよ。……はい、そこに横たわって。」

無表情な女性スタッフが淡々と指示を出す。レオンは黙って従うが、両手足に特殊な金属バンドを着けられ、ベッドへ固定される形になる。少し強く締められて痛みを感じるが、抵抗すれば暴力的に押さえつけられるだけだ。

「じゃあ、検査アームを作動。脳波スキャンから始めましょう。これでリンクス特有の神経伝達特性を測定します。ネクスト操縦者としての潜在能力を再確認するためです。」

技術者が淡々と操作を行うと、ベッドの横から細いアームが伸び、レオンの頭部に取り付けられるセンサーがピタリと貼り付く。微かな電流が走る感覚がこめかみに広がると同時に、頭がわずかにクラクラする。

(くそ、まるで実験動物だな……。)

嘲笑しか浮かばない。自由を奪われたばかりか、自分の身体までも企業の研究材料として扱われている。軍靴を鳴らした兵士が見下ろしながら、監視のためにその場を離れない。

「脳波正常反応、AMS適性反応も高レベルで確認。さすがですね。……これは上層部も喜ぶでしょう。」

技術者が半分うれしそうに言うのを聞き、レオンは苛立ちを抑え込んでいる。自分が運良く生き延びても、今度は企業の奴隷か……その無力感が腹の底を重くする。
次に、腕と足に注射器のような器具が刺され、採血が始まる。苦痛を伴うが、医療スタッフは容赦なく作業を続ける。レオンの顔色はさらに悪くなるが、彼は唇を噛みしめながら我慢した。


検査が一通り終わるころ、廊下の向こうで足音が響く。何やら複数の人物が近づいてくる気配があった。兵士が小さく合図を交わし、研究スタッフらが身なりを整えるように動く。
やがて、自動ドアが開き、複数の軍人の姿が見えた。一際目を引くのは、冷徹な表情を宿した若い男——イグナーツ・ファーレンハイト。オーメルの若き幹部であり、“完全管理された戦争”を標榜する人物だ。

イグナーツはレオンを固定しているベッドに近づくと、しばし観察するように沈黙。周囲の者が黙って道を譲る。彼は下瞼をわずかに下げ、無感情に口を開いた。

「これがレオン・ヴァイスナーか。……ずいぶんと小汚れた男だな。」

「……てめえは……。」

レオンが低く呟く。以前噂に聞いたことがある名だ。“ネクスト不要論”を振りかざす天才技術者であり、オーメル軍事部門を牛耳る若き策士。その存在を、地上で耳にしていなかったわけではない。
イグナーツは軽く顎を引き、技術者に向かって質問する。

「検査結果は?」

「はい、脳波スキャン・AMSスコアは非常に高い数値を示しています。ネクスト操縦者として一級品と言えますね。まだ身体各所に古い傷やコールドスリープの痕跡が見えますが、重大な後遺症はありません。本人の意思次第で再びネクストに搭乗可能でしょう。」

「なるほど。つまり“使える”ということか。」

イグナーツが微かに笑みを浮かべるが、その瞳は冷ややかだ。自分の計画にとって興味深いサンプルが得られたとでも言いたげで、レオンを人として見るというより、単なる道具として見ているようにも感じられる。
レオンは視線を合わせず、唇を噛み締めた。ここで怒鳴ろうが何をしようが、拘束された立場では何もできない。イグナーツはそんなレオンの態度を見下ろしながら、薄く呟く。

「孤高のリンクス……笑わせる。企業の大軍勢を相手に暴れ回ったところで、結局はこうして捕まる。それなら初めから“管理”されていれば無駄な損失は出なかっただろうに。」

「……好き勝手言いやがって。」

こぼれた言葉を聞きとがめた兵士がライフルの銃床でレオンの肩を押さえつける。やや強い衝撃が走るが、彼はぎりぎり耐えた。イグナーツはそれを見ても何も言わず、そっけなく付け加える。

「お前には今後、“選択”を与えてやるつもりだ。企業に協力するか、それとも“不要”として廃棄されるか……。答えは見えていると思うがね。」

「……ふん。」

レオンは歯を食いしばるだけで応じない。どちらも地獄だと感じながら、あえて沈黙を選んでいる。イグナーツは興味を失ったように身を翻し、技術者と短く言葉を交わす。

「引き続き検査と隔離を続けろ。私のほうで必要なタイミングで呼び出す。こいつのネクストについても解析を進めておけ。……ああ、エリカ・ヴァイスナー隊長には報告したのか?」

「はい、指揮官には連絡済みです。彼女は今しばらく別の任務で拘束されていますが、近いうちにこの被検体——もとい、捕虜を確認しに来る可能性があります。」

イグナーツはつまらなそうに眉をひそめる。エリカが父との再会をどう扱うか、若干面倒だと感じているのだろう。ネクスト不要論を進めるためには彼女の協力も不可欠だが、余計な感情が入り込むのは好ましくない。

「ま、いいだろう。彼女に任せておけば問題はない。では私のほうは部屋に戻る。……あとは頼んだぞ。」

そしてイグナーツは踵を返して去っていく。冷たい足音が遠ざかると、室内に再び静けさが戻った。レオンは拘束具を嵌められたまま、虚空を睨む。

(エリカ……また会うのか。いや、そもそもこうして拘束されてる時点で、俺に選択肢などないに等しい。)

彼の胸中では娘の姿と、企業に囚われた自分の現実が交互に重なり、やり場のない憤りだけが増幅していく。しかし、いまさら暴れても何も変わらない。緊張を緩めた身体から、自然とため息が漏れた。


さらに数日が経った。レオンは地下区画の奥深くにある一室に移され、検査や尋問を繰り返し受けていた。毎日のように血液サンプルを取られ、脳波テストをされ、AMS適性の細かい測定が行われる。ときにはメディカルポッドのような装置で全身をスキャンされることもあった。

独房から数メートル先には警備兵が24時間常駐し、少しでも怪しい動きを見せれば麻酔銃や電撃棒で制圧される。ここは表のクレイドルとは無縁の隔離空間。一般市民はこの場所の存在すら知らないだろう。
レオンは何度か情報を得ようと技術者たちに話しかけるが、まともに応じてもらえない。彼が知ったのは、ネクストヴァルザードがすでにクレイドル内で分解調査されているという事実くらいだ。

「お前の機体にはAIサポートが積まれていたようだな。興味深い連携プログラムだった。だが、もう全部こちらで解析しているよ。」

ある日、技術者の一人が嗤うように告げたとき、レオンは拳を固めて耐えた。ヴァルザードはただの戦闘道具ではなく、長年共にした“相棒”だったからだ。それを強制的に解体される屈辱は、計り知れない。
それでも彼は反発することなく、黙して検査を受け入れる。抵抗すれば死が待っているだけでなく、もはやネクストが手元にない以上、暴力的な手段は限界がある。どれほど悔しくとも、機を待つ以外に道はなかった。


ある日の昼下がり、独房の扉がまた開く。現れたのは再びイグナーツ・ファーレンハイトだった。冷ややかな表情に変化はなく、彼は監視兵を手振りで下がらせ、独りでレオンと向き合った。

「ずいぶんと大人しくなったようだな。……身体検査の結果、お前はまだ“使える”と判断している。喜ぶがいい。企業にとって“使い道”があるということは、生きながらえる可能性があるということだ。」

レオンは何も言わない。イグナーツは続ける。

「近いうちに、ある計画を試みる。AI制御下のネクスト、あるいはアームズ・フォートとの比較試験を行いたいんだよ。お前には、そのデータ収集に協力してもらう可能性がある。ネクスト不要論を証明するうえで、“古きリンクス”の技量はいいサンプルになるからな。」

「要は……お前の実験台、ってことか?」

渇いた声が返されると、イグナーツは薄く笑った。

「言い方はどうあれ、同じだ。お前はオーメルと交渉することもできるだろう。たとえば、“エリカ・ヴァイスナーとの面会”や“緑化研究の継続”など、望むものがあるなら、我々と合意すれば多少の譲歩は得られるかもしれない。」

「ふざけるな……。」

レオンは怒りを抑えきれず、声を震わせる。わが子の名を取引材料にされることに対する嫌悪感と、しかし圧倒的に不利な立場ゆえに反論もできない己への苛立ちが複雑に混ざり合う。

「そう取り乱すな。私は好意で言っている。協力すれば、お前の生存は保証される。さもなくば、このクレイドルで老いさらばえ、何の成果も得られず……最悪、廃棄処分になるだけだ。」

イグナーツの声には一片の感情も感じられない。彼にとって人間はチェスの駒であり、レオンというコマは今まさに捨てるか利用するかの瀬戸際にあるにすぎないのだ。
レオンは舌打ちをこらえ、顔を背ける。自分を取り巻く絶望感がさらに深まるだけだった。せめてエリカと直接話せれば、まだ何か希望があると信じたいが、それも企業に都合良く利用されるだけかもしれない。

「お前に用があるのは私だけじゃない。上層部、そしてエリカ・ヴァイスナーも含めて、何らかの行動を起こす可能性がある。……まあ、好きに考えるがいいさ。時間はまだある。だが、いつまでも強情を張れると思うな。」

そう締めくくると、イグナーツは踵を返した。監視兵たちが再び扉を閉じ、レオンは暗い独房に一人取り残される。
彼の心中では、企業に協力など論外という感情と、現実問題として生き延びるためには何か手を打つ必要があるという理性が葛藤していた。


拘束具を嵌められ、狭いベッドの上で天井を見上げる日々が続く中、レオンの思考はしばし停止しそうになる。だが、何度も頭をよぎるのはエリカとの直接の対話だ。砂漠の戦場で初めて言葉を交わしたあの瞬間――彼女は明らかに動揺を抱えていた。
もし彼女が面会に来るのなら、何かを伝えたい。あるいは聞きたい。しかし、今のままではその機会が与えられるかは不明だ。企業から見れば、彼女こそがオーメルの「顔」の一人であり、感情的に父と接触させるのはリスクが大きいかもしれない。

(娘を前に、俺は何が言える。何ができる? ……すべて失った俺が、今さら。)

埃の漂う冷たい空気の中、レオンは小さく目を閉じる。ネクストにすべてを託してきた人生を思うと、自由を失った自身の姿が虚しく映る。かつて企業に属していた頃は、まだ研究者としての誇りもあったが、今は彼を縛るものが何もなく、ただの“被検体”に成り下がっている。

「それでも……俺は、死にたくはない。娘を置いて、ここで消えるわけには……」

初めて“家族”の存在を真剣に考える。今まで機械だけを信じ、人間関係を捨てた自分が、負け犬の状態で気付くとは皮肉だ。けれど、その事実が一条の希望になり得るかもしれない。


ある夜、独房の静寂を破って警報が鳴り響いた。遠くから非常放送のような音がし、兵士たちが慌ただしく走る足音が聞こえる。レオンは拘束具を嵌められたまま、何が起きたのかと耳を澄ました。
声の断片から推測するに、どうやらクレイドル内部で何者かがセキュリティを破ったらしい。もしかすると、地上のレジスタンスやラインアークの工作員か、あるいはオーメル内部の内紛か——いずれにせよ施設が揺れるほどの騒ぎだ。

「なんだ……こんな堅固なクレイドルの檻が、揺らいでいるのか?」

重い扉の外には警備兵が数名待機しているはずだが、警報の鳴り止まない様子を見て、レオンは妙な胸騒ぎを覚える。もし内部からの工作によってセキュリティが一部停止すれば、脱出のチャンスもあり得るかもしれない。
しかしながら、動こうにも手足を拘束されているし、この独房のロックは相変わらず固い。兵士たちがドアを開ける様子もない。むしろ警戒が強化されるだけだろう。

(くそ……何が起きてる? この檻の中でできることなんて、ほとんどないじゃないか。)

苛立ちを噛み殺していると、外で鋭い銃声が響いた。断続的な発砲音が近づいてくる気配にレオンが息を飲む。内部の誰かと交戦しているらしい。
次いで低い爆発音。独房の壁が微かに揺れ、埃が舞う。あの重苦しいコンクリート壁を揺らすほどの衝撃なら、かなりの火力が使われたはずだ。まさかネクストが内部へ侵入しているのか……? 想像しようとするだけで現実味が薄いが、何らかの乱が起きているのは確実だった。

(このタイミングで、まさかエリカが来てるわけでもないだろう……。誰が何を狙っている?)

思考を巡らせるうちに、外の騒ぎは次第に遠のいていった。どうやら警備部隊が鎮圧に向かったのか、あるいは犯人が別ルートへ逃げ込んだのか。その真相を知るすべはレオンにはない。
結局、警報も数分後には鳴り止み、独房へは兵士も戻ってこなかった。その夜、彼は浅い眠りの中で「地上より安全であるはずのクレイドル」ですら混沌を孕んでいることを再認識する。一枚岩にはほど遠い企業連合、そしてオーメルの暗部を思い知らされるのだ。


翌朝、いつもどおり技術者が検査にやってきたが、その表情はどこか落ち着かない。おそらく昨夜の騒動で精神的に動揺しているのだろう。彼らは作業をそそくさと済ませると、会話もなく立ち去る。代わりに、軍服姿の人物が独房に入ってきた。
ライトグレーの軍服を纏い、帽子を深く被った青年将校だ。レオンは初見の顔だが、その背中に刺すような威圧感を感じる。将校は小さく舌打ちしてから、部下に命じてレオンの拘束具を緩めさせる。

「来い。上層部が呼んでる。」

有無を言わさぬ口調で命じるや、レオンの腕を引っ張って立たせる。足の拘束具はまだ残ったままだが、移動できる程度には緩めているらしい。
(上層部……イグナーツか、それとも他の幹部か? まさか、エリカが?)

心中で疑問が湧くが、もちろん答えは得られない。将校は無言でレオンを連れ出し、再びあの白い廊下を歩かせる。監視カメラの球体がうごめき、兵士がライフルを構えて並ぶ中、彼はただ従うしかなかった。
ふと、廊下の先で誰かが談笑する声が聞こえる。それが女性の声のように感じられ、レオンの心臓が高鳴る。もしやエリカ……? だが、扉が開くとそこにいたのは白衣の技術者たちと、高級そうなスーツを着た役員風の男たちだけだった。彼らはレオンにちらりと視線をやり、興味深そうに囁き合う。

「これが……例の捕虜ですか。ネクスト乗りとして、一度は父娘で……」
「ええ、でももう使い道はイグナーツが全部掌握してますよ。あとは“あの企画”に回されるかもしれませんね。」

あからさまに物のように扱われている事実に、レオンは内心で怒りをこらえる。しかし、その表面にはそれ以上の屈辱を訴えるすべもない。自分が完全に企業の手の中にある以上、どうしようもない現実が突きつけられるだけだ。
将校に背を押され、レオンは別室に通される。そこで待っていたのは、先の騒動の後始末を行っているらしき軍事部門の幹部の一人だった。彼は無遠慮にレオンを座らせ、テーブルを挟んで向き合う形を取る。隣にはモニターがあり、警備記録や地上での戦闘映像が流れている。

「……お前は今後、イグナーツ様のプロジェクトに参加する可能性が高い。だが、その前に私どもが“意思確認”を行う。オーメルに協力するか、それとも廃棄されるか、はっきりさせろ。」

「意思確認、だと? ここで俺が“いやだ”と言えば、即座に処分ってわけか。」

レオンが皮肉を込めて言うと、幹部は鼻で笑う。

「その通り。とはいえ、無理強いするわけじゃない。協力すれば、ある程度は暮らしやすい環境も与えられるかもしれんぞ。実験台としてネクストを操り、我々のAI兵器のテスト対象になるだけだ。……悪い話ではないだろう。」

「悪い話に決まってるだろうが……。」

幹部の言葉には、どこか妙に親切そうな響きが混じっているが、それが虚飾に満ちた誘いだとレオンは感じ取る。地上で思う存分暴れたネクスト乗りを手中に収め、企業の研究材料にするのは、彼らにとって最高のシナリオだ。

(だが、このまま抵抗すれば、問答無用で廃棄か。中間の道などないんだろうな。)

苦々しい思いが胸を締めつける。せめてエリカと話を——という衝動が湧くが、ここで口にしても無意味だろう。幹部はただ笑って「必要なら呼ぶかもしれない」と軽く流すだけだとわかっている。
黙り込むレオンに、幹部は形だけの溜息をつき、ショルダーをすくめてみせる。

「ほかに道はないぞ。ここはクレイドル。お前の自由など存在しない。……答えを急げ、時間はあまりない。」

彼が時計を見て呟いた時、遠くの廊下でまた緊急放送が小さく鳴り始めた。先日のような乱が再び起きているのか、幹部が眉をひそめる。どうやら企業内部の情勢は相当に不安定なようだ。
結局、レオンははっきりと拒否も承諾もせず、幹部は半ば呆れ顔で「もう少し考えさせてやる」と言い放ち退室していく。兵士がレオンを立たせ、再び独房へ送り返そうとするが、途中で廊下の見張りが駆け寄ってくる。

「隊長……エリカ・ヴァイスナー隊長がこちらに向かっているとの連絡が。彼女が捕虜に面会する許可を出すかもしれない……どうされますか?」

聞こえる声に、レオンの心が大きく揺れる。エリカが来る? 本当に会えるのか? しかし兵士たちは幹部の承諾を得る必要があると揉めているようで、すぐには結論が出ない。
結局、レオンはまた独房に戻され、扉が閉じられる。だが、先ほどとは違う微かな希望が生まれていた。少なくともエリカは自分を一度見に来るかもしれない。オーメル軍の上官としてであれ、娘としてであれ、その面会が許されるなら——。


このクレイドルという檻の中にも、何らかの裂け目がある。企業が完全管理を謳う社会においても、矛盾や陰謀、内なる争いが続いているらしい。地上の荒れ果てた環境とは別種の険しさが、この空中都市を覆っているのをレオンは感じていた。

自分がそれを打ち破れるかはわからない。ネクストを失い、命すら企業に握られた状態に変わりない。しかし、わずかにでもエリカと会話できるなら、そこに縋るしかなかった。
夜が更けても外套のような静寂が続き、遠くから警備の足音が聞こえるだけ。レオンはいつもどおり拘束具にはめられたまま横になるが、今夜は心に妙な高揚感が混じっている。娘が訪れるという可能性が広がっただけで、胸がざわつくのだ。

(エリカ……俺の娘。砂漠で対峙したあの瞳に、確かに俺に似た何かを感じた。だが、彼女は企業の指揮官で、俺を捕えた張本人。俺をどんな言葉で迎えるのか……。)

想像しても答えは出ない。ただ、絶望の中で少しでも希望を感じ取れる瞬間を待ちたいという弱い欲求がレオンの中に芽生えていた。
クレイドルの夜は外界の暗闇とは異質な静けさがある。外壁を流れる風は人工的に制御され、ビル群の間を行き交う市民たちは仮想空間と現実を切り替える。だが、レオンには関係ない。彼はこの地下の研究施設で管理され続ける。まるで地上よりもずっと閉鎖的な“真の檻”だ。

ふと彼は目を閉じ、微かな風を感じた。空調が回るだけの場所なのに、どこからか人の気配——あるいはエリカの存在を想起させる香りを感じたのかもしれない。確証はないが、心が落ち着いていくのを感じる。

「もし会えたら……話すことがたくさんある。いや、もう遅いかもしれないが……。」

言葉には出さない呟き。こうして囚われたまま自分が死ぬなら、せめて娘と向き合って何かを伝えたい。そんな切なる願いだけが、レオンの胸を支えていた。


夜明けが近づくにつれ、独房の小さな窓から僅かな青白い光が差し込んでいた。クレイドルの外側から届くその光は、地上の荒廃と対照的に透明感のある淡いもの。レオンはベッドで拘束されたまま、その光を見つめる。
この場所での生活が当たり前になりつつある自分が怖い。もしかすると、企業によって調教され、協力を強いられていく将来が待っているのかもしれない。それでも、まだ抗いたい気持ちがある。ネクスト乗りとして、いや、一人の父として。

(檻は閉まっている。けど、娘もまた何かの檻に囚われているんじゃないのか? もし、あの子を救える手段があるなら……俺は動かなきゃならない。)

そんな考えが頭を巡る中、外の廊下から足音が近づき、扉が開く。この冷たい研究施設で、レオンを連れ出すためにやって来る足音は決まって荒々しいものだったが、今回は違う。もう少し柔らかく、迷いを含んだような足取り。
そう、彼が胸の奥で待ち望んでいた人物の予感がする。背筋が震え上がるような感覚に包まれ、レオンは小さく息を呑む。

「開けてちょうだい。」

聞こえた声。それは確かに地上の戦場で耳にしたものに重なる。少し強がっていても、どこか幼さが残る響きを帯びている。レオンははじめて安堵と不安を同時に覚えながら、かすかに唇を震わせた。

(……エリカ……!)

扉が開き、白い光が独房の陰を切り裂くように差し込む。その中から出現したのは、軍服を纏いながらもどこか迷いの宿る瞳を持つ女指揮官、エリカ・ヴァイスナー。
彼女は一瞬だけためらうように立ち止まり、レオンの姿を見つめて言葉を失う。兵士が「隊長……」と呼びかけるが、エリカはそれを制するように片手を挙げ、独房の中へゆっくりと足を進める。

レオンは黙っている。何を言えばいいのか、自分でもわからない。ただ、拘束された身体を少し動かして、彼女を視界に捉える。
エリカの口が震える。視線をそらさずに、しかし声を出すまでに数秒かかる。兵士たちの存在を意識しながら、ようやくか細い声が部屋に落ちた。

「……どうして、何も言わないの?」

その問いが象徴するのは、まるで親子が長いブランクを経て再会したときの一言のよう。けれど、ここは“クレイドルの檻”であり、彼らは敵対関係を強いられた存在だ。
レオンは乾いた笑いを零し、かすれ声で答える。

「そっちこそ……ずいぶん苦しそうだな。俺を捕まえたのは、お前じゃないか……。」

エリカは動揺をこらえるように唇を噛み、兵士を振り返って「下がっていて」と言う。周囲の兵士は少し困惑するが、最終的に独房の外へ出て行く。二人きりになった空間に、わずかながら親子としての空気が流れ始める。

「私は……オーメルの指揮官として、あなたを捕縛したわ。父と知らなかったとはいえ、今さらどう言い訳すればいいの?」

「いいんだ、そんなのは。娘だろうが何だろうが、戦場じゃ関係ない。お前は仕事を果たしただけ……。」

レオンの言葉に、エリカは黙って首を振る。彼女の瞳は苦しげに潤んでいるが、涙はこぼれ落ちない。
数秒の沈黙が互いを縛る中、エリカは意を決したように問いかける。

「あなたは、どうするつもり……企業に協力する? それとも、死ぬ気で抵抗する?」

「――さあな。俺に選べる道があるのか?」

素っ気なく返す声。そこにこそレオンの苦悩が凝縮されていた。オーメルの上層部はネクスト不要論を標榜するイグナーツらによって事実上牛耳られ、彼をただの実験材料として扱っている。
エリカは歯を食いしばり、何度か口を開きかけては閉じる。いま彼女が言葉をかけることで、自分の立場が危うくなるかもしれない。それでも、娘として“父”に何かを言わずにいられない感情が溢れていた。

「……私は、あなたに死んでほしくない。けど、企業が……オーメルがあなたをどう扱うか、私には決められない。」

「そうか。そりゃそうだろうさ……。」

会話が途切れがちになる。あまりにも傷が深く、関係が複雑だ。再会にはあまりに遅すぎ、状況が過酷すぎた。
だが、それでもレオンにとって、エリカが来てくれたことは大きかった。せめて自分の存在を“父”として認めてもらえたのなら、まだ生きる意義があるのかもしれない。

エリカは苦しげな表情のまま、ふと小さく声を絞り出す。

「もし……私が上層部に働きかけたら、あなたが地上で研究を続けられるよう取り計らえるかもしれない。あるいは、ネクストを……あなたが自由に扱う権限を得ることも。だけど、そのためには……あなたがオーメルに協力する形になるわ。そうすれば、少なくとも廃棄されずに済む。」

「企業に屈するのが生きる道……か。」

レオンは苦い笑みを浮かべる。今の状況では、それが唯一の生き延び方かもしれない。しかし、それはこれまで否定してきた“機械よりも人を信じない”生き方に反していないだろうか。それ以前に、父としてのプライドはどうなる?
何もかもが中途半端で、自分と娘の間に横たわる溝はあまりに深い。レオンは目を伏せ、静かに呟く。

「考えておくさ……。いまはまだ、その言葉にすがれるほど素直にはなれない。けど、来てくれて……少しは、ありがとう。」

思わず本音が零れ、エリカの瞳に動揺が走る。涙を浮かべたまま、それを落とさないよう必死にこらえているように見えた。

「あなたが……父だって、ちゃんと思えるのはいつになるのか、私にもわからない。でも、私は……。」

そこまで言いかけて、独房の扉が再び開く。兵士が困惑した顔で「隊長、時間です。あまり長くは……」と割り込んできた。エリカは息を呑み、振り返って毅然とした表情を作る。

「わかったわ。……少し待って。」

かすかに振り向き、レオンにもう一度だけ視線を送る。彼女の瞳には言い尽くせない思いが宿りながら、「ごめんなさい」と唇が動いた。声には出ないが、間違いなくそう言っていた。
そして、彼女は踵を返し、独房の外へ出て行く。扉が静かに閉まるまで、レオンはただその背中を見つめ続けることしかできなかった。


面会が終わり、独房に静寂が戻る。レオンは拘束された身体をわずかに動かし、ベッドの脇に転がる配給食のパックをぼんやりと眺める。
エリカと交わした短い対話は、彼に微かな希望と、さらに大きな哀しみをもたらした。親子としての絆を今さら再構築できるのか、企業の一員となるしか生き残る道はないのか――疑問は尽きない。

だが、もう逃げられない。地上に戻って自由に生きる未来は遠い夢のようなものだ。仮にこのクレイドルの檻から抜け出せても、行き場はない。周囲は企業の空、中央は繋がれた自分……どうしようもない行き詰まりだった。

(それでも、あの娘が謝罪した。あれは娘としての感情なのか? 上官としての同情か? 分からない。……だが、まだ俺は死んでいない。)

ネクストに乗る未来があるなら、そこで娘と再び剣を交えるかもしれない。イグナーツの狙う“完全管理された戦争”の歯車の一部として扱われるかもしれない。それでも、ほんのわずかでも自分の意思を示す場面があるなら、そこに賭ける意味はあるのかもしれない。
そう思い定めたとき、遠くでまた非常事態を示す警報が鳴り始めた。日常化しつつある騒音の一つだが、もしかするとクレイドルの内紛か、イグナーツの計画が動き出しているのか——どちらにせよ、レオンが自由を取り戻すには、さらなる混乱が必要かもしれない。

(この檻が何らかの形で破れるとき、俺はどう動けばいい……?)

答えの出ない問いを抱きしめながら、レオンは拘束具の冷たい感触を指でたどる。まだ数日か、あるいはさらに先のことであれ、決断を迫られる日は近いと感じていた。やがて音が落ち着き、独房の扉は閉じられたまま。
青白い蛍光灯が天井で揺れずに淡々と光を灯している。バイタルモニターの赤い数字だけが彼の脈拍を監視し、企業の管理下に置かれた事実を突きつける。これが“クレイドルの檻”だ。人々が安寧を求めたはずの空中都市には、こんな陰惨な一面が確かに存在するのだ。

「……待ってろ。俺は、まだ……終わらない。」

独房の空気を震わすほどの大きな声ではなかったが、レオンのつぶやきは力強い決意を含んでいた。たとえ捕虜の立場でも、エリカへの思いが自分を立ち上がらせるのだ。企業の暗部がいかに深くとも、ネクスト乗りとしての魂はまだ折れていない。
これからどう転ぶかはわからない。彼が選ぶ道は企業への屈服か、あるいは――。しかし、物語の次なるステージは確実に動き始めている。クレイドルという名の檻で、レオン・ヴァイスナーが再び運命の歯車を回す日は、そう遠くないのかもしれない。

外の仮想空間で暮らす市民には知る由もない、この地下研究施設の深淵。同時に、彼の囚われた悲哀を知る者は少ない。空調の流れがわずかに空気を撫でるたび、レオンは視線を閉じて思いを巡らせる。
ここが終着点なら、もう何もできない。だが、もしほんの一瞬でも奇跡が生まれるなら——それに懸けるしかない。ネクストにすべてを託し、人間関係を捨ててきた男が、今さら娘を思う奇妙な旅路。仮に「檻」を破れるのなら、それは最後の賭けになるだろう。

かくして、クレイドルの檻で孤独に囚われたレオン・ヴァイスナーの長い夜が続いていく。遠くから聞こえる警報と、小さく軋むコンクリートの音だけが、彼をこの世界に繋ぎ止める。絶望の狭間で微かに燃える意志と、娘を案じる父の心。その行き先を決定するのは、彼自身の選択と、この企業都市を渦巻くさらなる運命だ。

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