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ACFA_NEVER FALLEN LIONHEART:EP2-3

EP2-3:イグナーツの思惑

廃墟と化した地上世界の一角、まだ夜も深い時間帯だというのに、巨大なクレイドル群が宙を覆うあたりからは薄い灯りが漏れている。そこは企業連合(リーグ)の心臓部を支える主要企業のひとつ、オーメル・サイエンステクノロジーの管理拠点に近いエリアだ。もともと人が住める環境ではなく、汚染と戦火の影響で大気は重苦しい鉛色を帯びている。空は低く曇り、荒れ果てたビルの間を風が吹き抜けるたび、金属片が不気味な音を立てながら転がっていく。

その荒野の只中に、厳重なセキュリティシステムを張り巡らせた巨大な複合施設が建っている。企業都市クラスの防壁とバイオメトリクス認証ゲートを備え、人の往来は最小限に絞られていた。まるで要塞のような高い外壁と、無数の監視カメラが夜闇を監視している。施設の中心には、オーメルが誇る軍事部門の中枢があり、そのさらに奥にある一室――そこに、“若き策士”と呼ばれる男がいた。

イグナーツ・ファーレンハイト。
27歳という若さにしてオーメル・サイエンステクノロジーの軍事戦略を取り仕切る立場まで上り詰めた天才。冷徹な合理主義を身上とし、ネクストよりもアームズ・フォートとAI制御による完全管理戦争の到来を確信している人物だ。彼がいるのは、大きな円形テーブルを中心とした指令室。多面ディスプレイには地上の各地域から集まる戦況データが映し出されており、オーメルが支配下に置こうとしている広大なエリアのマップが青白い光で浮かび上がっている。

その場には、彼の部下らしき数名の幹部や研究者が顔を揃えていた。皆、イグナーツに対して一目置いているようで、誰ひとり無駄口を叩くことなく端末を操作し、必要な情報をまとめている。やがてイグナーツが軽く手を挙げると、室内がしんと静まり返った。

「報告を。」

短い一言。だが、その声には揺るぎない支配の響きがある。彼にとって、部下たちの働きは駒の動きに等しく、無駄な時間を嫌う。

「はっ。」
白髪まじりの男性研究員が一歩前に出て、タブレット状の端末を掲げる。
「昨夜、我々が投入したアームズ・フォート群および偵察ドローン部隊は、例の“未確認ネクスト”――ヴァルザードの捕捉を試みましたが、惜しくも取り逃がしました。バラ撒いた偵察機の何機かがECM攻撃を受けてダウンし、別の一部は何者かに破壊された模様です。残った部隊も地形崩落などの影響で包囲作戦が機能せず……。」

研究員の声には明らかな歯切れの悪さが混じっている。実際、オーメルとしてはネクスト単機に対して大規模な兵力を投入したにもかかわらず、仕留められなかったという結果は痛手だ。
イグナーツは端末を指先で弾きながら淡々と聞いている。彼の瞳には怒りらしき感情の色はなく、むしろ深い興味が見え隠れする。

「……ヴァルザード、そしてレオン・ヴァイスナー。私に言わせれば、もはや時代遅れのリンクスに過ぎないはずだが、それでもこの程度の物量に耐えられるのか。興味深い。」

彼は椅子を少し引いて立ち上がり、室内中央に浮かぶホログラムの地図を眺める。それは昨夜の戦闘領域を示したもので、アームズ・フォートとネクストの移動経路が幾重にも交差している。赤いラインが敵方(レオン)の動きを示し、青いラインはオーメルのフォート群だった。

「報道やリーグへの報告では、ブラッドテンペスト隊――エリカ・ヴァイスナーの部隊がネクストとの交戦に成功し、あと一歩で拿捕できたとされている。だが、結果は“取り逃がし”か。彼女の指揮能力には期待していたが、感情が邪魔をしたのかもしれないな。」

部下のひとりが低い声で口を開く。
「エリカ・ヴァイスナー隊長も、ネクスト操縦を兼任し、かなりの戦闘をこなしました。実際、敵ネクストをあと少しのところまで追い詰めたようですが……どうやら“何か”が、彼女の決断を鈍らせたようです。詳細は本人も報告を濁しておりました。」

「フフ……なるほど。“何か”とは、血縁ゆえの躊躇か。確か、レオン・ヴァイスナーはエリカの父親に当たる存在だったか。」

イグナーツは薄く笑う。その表情には嘲りが混じっており、「人間など、所詮こんなものか」という意識が見え隠れする。戦場において感情を持ち込めば、最適解を逃す――彼の合理主義はそれを揺るぎない真理とみなしているのだ。

「まあいい。“一度の失敗”なら見逃してやろう。エリカ・ヴァイスナーにはまだ利用価値がある。彼女はアームズ・フォート部隊を率いる才能があるし、企業連合(リーグ)からの評価も高い。ネクスト不要論を広めるためには、あの若き指揮官が表向きの“アイコン”となってくれるだろう。」

イグナーツはそう言うと、タブレットを指で弾いて画面を切り替えた。そこには、オーメルが進める極秘プロジェクトの一部――「ドラゴンベイン量産計画」や「アポカリプス・ナイト」の開発プランが表示されている。
AI統制型の超巨大兵器“ドラゴンベイン”を10機以上同時運用し、戦争の主導権を完全に握る。さらに、ネクスト技術をもAI制御で凌駕してしまおうという壮大な戦略だ。

「私の最終目標は、“ネクスト不要論”の証明。レオン・ヴァイスナーのような優秀なリンクスであろうと、AI連携兵器の前では無力だということを示す。それが完成すれば、もうリンクスなどという時代遅れの存在は要らなくなる。」

言い切るイグナーツの瞳には、微塵の迷いもない。彼にとって、人間の操縦技量や血縁の感情などは“誤差”にすぎないのだ。完璧にプログラムされたAI統制があれば、戦場は理想的な形で管理・制御されると信じている。

「もっとも、すぐに完成形ができるわけでもない。今はまだ、そのための“実験”が必要だ。……そうだな、ユーリ・ノイマン。」

呼びかけられたのは、少し離れたところで端末を操作していた青年研究者だった。通称“戦場の数学者”とも呼ばれる彼は、論理と数値分析を駆使してAI戦術を組み立てている。
ユーリは振り返り、イグナーツへ向かって礼をとるように首を下げる。

「はい。アームズ・フォートやネクスト用のAI制御プログラム“ヴァルキュリアシステム”は、まだ実戦データが不足しております。ヴァイスナー氏のような高AMS適性のリンクスとの交戦から得られる情報は、われわれにとって貴重な学習材料となるでしょう。」

「その通り。だからこそ、レオン・ヴァイスナーを排除する前に、徹底的に“解析”したい。彼がヴァルザードを駆使してどんな戦い方をするのか、データを集めれば、AIプログラムはより高度に進化できる。」

イグナーツは満足げに頷く。今や彼の頭の中では、レオン・ヴァイスナーは“最後のリンクスのサンプル”にすぎない。大きな計画の歯車のひとつとして、徹底的に利用した後で始末すればいいという考えが透けて見える。
さらに彼は続ける。

「とはいえ、むやみに手をこまねいているわけにはいかない。企業連合には、ローゼンタールや他の企業がいる。我々オーメルが“ネクスト不要論”を押し進めるためには、今のうちに地上の重要拠点を制圧し、ドラゴンベイン量産のための生産施設を確保する必要がある。」

言葉に即応する形で、別の部下が地図をズームインし、いくつかの戦略ポイントを示す。アルテリア施設や重要な輸送路、未だに独立を続けるラインアークなどが表示され、それぞれにオーメルの侵攻計画が絡んでいるらしい。
イグナーツはそれを横目で見ながら、考えを巡らせる。

「地上への大規模侵攻を決定して、フォート部隊を展開する。エリカ・ヴァイスナーにはその指揮を任せ、ネクスト同士の戦闘ではなく、アームズ・フォートでの“数と統率”こそが戦争を支配できると証明させる。結果として、ラインアークやローゼンタールも我々の手中に落ちていく……。ふん、悪くない。」

その青写真が示す先は、“完全管理された戦争”の世界だ。イグナーツにとっては、個人の力に頼るリンクスなど排除されるべき存在であり、エリカのように企業が認める「指揮型ネクスト使い」であっても、いずれはフォートやAIに取って代わられる運命にあると確信している。
そうして一通り方針を示したところで、彼は部下たちに向かって手を振り下ろす。

「諸君、私が求めるのは合理的な結果だ。ネクストとの交戦で新たなデータを得るため、ある程度の“猶予”はあってもいい。しかし、最終的にはレオン・ヴァイスナーを潰すことになる。そのときまでに“ヴァルキュリアシステム”を完成度の高いものに仕上げておいてくれ。」

部下たちは「はっ」と声を揃え、速やかに動き始める。指令室の照明が少し落とされ、大スクリーンにはドラゴンベインの開発スケジュールやアポカリプス・ナイトの設計図が再び投影される。
アポカリプス・ナイト――イグナーツ自身が搭乗する予定のAI支援型ネクスト。AMS適性をも必要としないように設計されており、あくまで“リンクス不要”の思想を突き詰めた機体だという。彼はその試作機を最後の切り札とみなし、必要とあらば自分で操縦してみせるという考えらしい。

「私の役目は、戦争を数学的に管理すること。個人の力や感情に左右される戦場など、無駄の極みだよ。」

誰にともなく呟き、イグナーツは静かに指令室を出て行く。その後ろ姿を見送る部下たちには、一様に安堵と警戒が入り混じった表情が浮かんでいた。彼らはイグナーツの才覚を畏怖しているがゆえに、下手な提案や反論はしない。結果的に、彼一人のビジョンが組織の戦略を形作っていく構図となっている。


イグナーツが足を踏み入れた先は、オーメル軍事施設の地下区画だ。そこはコンクリートと鋼鉄の壁に囲まれた長い廊下が伸びており、セキュリティゲートを数度通り抜けなければ立ち入ることができない。研究室や試験場が並ぶこのエリアこそ、彼が“完全管理された戦争”の要と位置づけるAI制御システムや新型兵器の開発拠点である。

暗い廊下を進み、大きな防音扉をくぐると、中は広大なメカニカルドックのような空間が広がっていた。巨大なエンジンやフレームがラックに固定され、技術者やメカニックたちが忙しなく行き来している。
中央には、やや細身の人型機体が立ち上がるシルエットが見えた。まるでネクストの原型機のような体躯だが、その装甲は曲線と鋭利なパーツが組み合わさっており、精密なセンサー群が胸部から肩にかけて散りばめられている。人型兵器にしては小ぶりに見えるが、そこに秘められた潜在力は相当なものらしい。

「アポカリプス・ナイト……試作段階はどうか?」

イグナーツは傍にいた主任技術者らしき男性に声をかける。男性は額に汗をにじませながら端末を確認し、緊張した面持ちで答えた。

「はい、機体フレームは予定通り組み上がっています。AI制御モジュールの統合率も順調で、AMS無しでも基本動作が可能です。ただ……テストパイロットの負荷がまだ大きいですね。脳波インターフェースの同期に少し問題があり、意思伝達が一瞬遅れる傾向が……。」

「甘いな。ネクスト乗りに対抗するなら、“一瞬の遅れ”は命取りだ。私が望むのは、感情を排除した完璧なAI制御だぞ。早急に改善しろ。」

技術者は平身低頭するように「は、はい……」と答えるだけだ。イグナーツは機体に近づき、その鋭いラインを眺めながら薄く笑う。
ネクストの操縦には本来AMS適性が必要だが、アポカリプス・ナイトはそれを完全にAIで補完し、リンクスの意志を最小限に留める設計になっている。最終的には、AIが戦闘判断を一手に引き受けることで、パイロットはあくまで“非常時のバックアップ”に過ぎない位置づけとなる。そうなれば、人間の気まぐれや感情に左右されない“完全な兵器”が誕生するわけだ。

「もっとも、今は過渡期だ。ドラゴンベインを量産するまで、我々はネクストの技術を捨てるわけにはいかない。ふん……レオン・ヴァイスナーを始末する前に、この機体の調整を済ませておきたいものだ。」

彼が呟くと、技術者は恐る恐る口を開く。

「イグナーツ様、レオン・ヴァイスナーをすぐにでも捕らえるおつもりでしょうか? ですが、先ほどの報告にもありましたように、彼はかなりの腕前を持つうえ、娘のエリカ・ヴァイスナー隊長との関係が気になります。もしブラッドテンペストと衝突が激化すれば……。」

言いかけた瞬間、イグナーツの目が鋭く光る。背後に漂う空気が一気に張り詰めた。

「“もし”がどうした。エリカが躊躇うなら、それは彼女の問題だ。私はネクスト不要論を進めるため、そしてAI戦術を完成させるために動いている。感情を交えた推測など邪魔にすぎん。」

技術者は青ざめながら黙りこむ。やがて、イグナーツは少し穏やかに声を落とす。

「……ま、いい。すぐには潰さない。データを取る余地はまだあるからな。レオン・ヴァイスナーを泳がせておき、戦闘データを蓄積させよう。エリカとの交戦が続けば、より多くの実験結果を得られる。私のドラゴンベイン計画とアポカリプス・ナイトにとって、それは何よりも有益だ。」

その発言には冷酷な光が宿っていた。レオンやエリカの人間関係を、まるで性能テストのための駒に使おうという魂胆だ。
イグナーツは心の底から、レオンの存在など“小さな研究対象”としか見ていない。むしろ、彼が娘と再び対峙し、苦悩し、そして最終的に敗れるまでが“シナリオ”だと思っているようでもある。

「今後の方針は、あくまで地上制圧を加速させることだ。アームズ・フォート群とAI制御兵器を組み合わせ、リーグ内部でもオーメルが抜きん出た戦果を示す。その一環として、エリカにはさらなる指揮を任せる。連合全体に、ネクストではなくフォートが覇権を握る時代を見せつけてやるのさ。」

主任技術者や周囲のスタッフは、イグナーツの言葉に戦慄しつつも従うしかない。彼の天才的な戦略眼と強力なリーダーシップ、そしてオーメル上層部の後ろ盾が、イグナーツを誰も逆らえない存在へと押し上げているからだ。
次なる戦場で大量のアームズ・フォートを展開し、ネクスト不要論を証明する。それを認めさせることで、企業連合のトップに君臨し、完全管理戦争の到来を現実のものとする――それこそがイグナーツの思惑。そこには、血も涙も通わぬほどの冷徹な計算があるだけだった。


やがて、イグナーツは研究区画を後にし、私室への通路を歩き始める。途中で何人かのオーメル将校や整備兵が敬礼を送るが、彼は素っ気なく頷き返すだけだ。長い通路の先、厳重な扉が開くと、中は彼専用の戦術プランニングルームのようになっていた。
壁一面がディスプレイになっており、さまざまな数式や戦闘シミュレーションが浮かんでいる。中央には一つのデスクがあり、その上にはAI制御ユニットが球体状に収められた容器が設置されていた。

「ヴァルキュリアシステム――私の構想を具現化するための戦術AI。まだまだ未完成だが、今夜のデータで一段と成長したはずだ。」

彼は容器に手を触れ、まるで愛おしむように目を細める。ヴァルキュリアシステムはイグナーツが独自に推し進めるAI戦術プログラムであり、ドラゴンベインやアポカリプス・ナイトの中枢を担う予定とされている。
AIが戦場データをリアルタイム解析し、最適な戦術を即時に組み立てて各兵器に指令を送る。その結果、ネクストに頼ることなく戦局を支配する――イグナーツはその未来図を確信していた。

「レオン・ヴァイスナーも、エリカ・ヴァイスナーも、“人間”という不確定要素に囚われているからこそ誤算を生む。戦争は計算だ。感情的な揺らぎなど、効率を下げるだけで無意味。……私にとっては、彼らの衝突すらデータ収集の材料だ。」

その独白を、静まり返った室内が虚しく反響する。誰もいない場所であるがゆえに、彼は声に出して自らの信念を再確認するかのようだった。時にイグナーツが口にする言葉は、戦場における“人生経験の不足”を指摘する者たちへの無言の反発でもある。
彼は己を疑わない。いずれ、この世界の戦争はすべて管理され、人間の意志など介在しない完璧な統計と計算のもとで進行する。それが人類にとって最善の形だと信じて疑わないのだ。

「人生経験……バカらしい。私はそんな不確定な要素に頼らずとも、完全な戦争の形を作り上げてみせるさ。エリカが父を討とうが討つまいが、結果的に私のAIに糧を与えてくれるだけだ。」

ディスプレイに新たな数式が流れ込み、シミュレーションが次々と走る。ネクストとの交戦で得られたデータを活用することで、ヴァルキュリアシステムはさらに学習を深め、ドラゴンベインのAI連携精度を高めていくだろう。
イグナーツは目を閉じ、満足げに息を吐く。地上で繰り広げられる戦いの騒音は、ここまで届かない。しかし、その雑多なノイズこそがAIを鍛え、彼の野望を実現するための足掛かりになると信じている。

「そう、次は地上の要所を一つずつ制圧していくだけだ。私の思惑を邪魔する者は排除し、利用できる者は徹底的に利用する。血脈や情など、私の計画を阻むものにはならない。」

独りごちるように言い放ち、イグナーツは室内のディスプレイを一巡するように見渡した。その先には、エリカ・ヴァイスナーとレオン・ヴァイスナーの情報ファイル、そして“アポカリプス・ナイト”の進捗状況が並ぶ。彼が心の奥で計画している次なるステップでは、確実にこの三者が衝突する運命にある。
だが、彼の中には恐れもためらいもない。イグナーツ・ファーレンハイトにとって、すべては理論と計算で片付けられる世界。敗北や破局は存在しないと確信しているかのように、その唇は薄く笑みを刻んでいた。

「さて……次の“戦場”を用意するとしよう。AIが完成すれば、ネクストなど時代遅れ――証明してやる。」

施設の外には、まだ暗く沈む地平線が広がっている。遠くには砲火の明かりがちらつき、地上の戦闘が激化していることを知らせているが、ここではまるで別世界の出来事のように静かだ。
イグナーツは最後にもう一度ヴァルキュリアシステムの容器を撫でるように見つめ、踵を返して部屋を出る。背筋を伸ばしたその姿からは、若さ故の傲慢さと確信がにじみ出ていた。
そして、彼の思惑どおりに戦局が動くかどうかは、まだ誰にもわからない――レオン、エリカ、そしてその他多くの人間の意志や感情が複雑に絡み合う限り、戦場は一筋縄ではいかない。けれど、イグナーツはそれさえも“数学的に制御可能な揺らぎ”だと考えているのだ。

今宵、オーメルの指令室では新たな出撃命令が続々と下され、地上への侵攻作戦がさらに加速していく。AI制御型アームズ・フォートの増援が編成され、ネクストとの交戦データはリアルタイムで集積される。
“若き策士”イグナーツ・ファーレンハイトは、まさに自分の設計図どおりに世界を動かそうとしている。その果てに訪れるのが悲劇か、それとも彼の望む合理的な秩序か――。いずれ歴史が証明するまで、彼は決して歩みを止めない。

そんな夜の闇を切り裂くように、再び遠くでアームズ・フォートの砲声がこだまする。爆発の閃光が地表を照らし、一瞬だけ灰色の空が白く染まる。そこには、人の感情など露ほども関係ないかのような、冷たい火力の信条があった。
イグナーツが呼び寄せる“完全管理の時代”は、果たして人々にとって何をもたらすのか。その答えすら、彼の計算に組み込まれた単なる変数にすぎない――そう言わんばかりに、彼の思惑は闇の中でさらに深化し、動き出している。

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