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3.48章 ひまわり

手術台というより、それは大きなカプセルだった。
「これに入ればいいの?」

「そう、そこで横になってくれればいい」
「君が寝ている間に施術を行う」
ここは、ピースの山小屋地下1F 研究スペース
意識体やdappsの体を調整する為のカプセルがあった。
そこにノノとアトムが横になる。
ノノとアトムのカプセルは隣り合う形となっており、それぞれのコアの交換が容易な作りになっていた。

(まるで、この時の為に作られたような施設ね)

「コアの移植は以前から、僕の研究テーマだったからね。装置が幾分未完成だったから、急いで完成させた」
「急造品とは言え、僕の技術を結集したものだ。安心してもらおう」

「ねぇ、なら、なんでそんな『急造』なんて不安になるようなことをいうの?」
エブモスのもっともなツッコミにピースは答える。

「一応、今、設備がどういう状態か患者にはそれを知る権利があるだろう。だからだよ」
「シークレットくんは、引き続き助手を頼む」

「わかりました」

「ねぇねぇ、わたしは?」

「エブ子ちゃんには、重要な仕事をお願いするよ」
「出来るかい?」

「うん!」

エブモスは、ピースの指示に従い地下の研究室を出ていった、
手にはいくつかの栄養剤、そして、機器を持って。
一階のdYdXのベッドにつくと準備を始める。

「エブ子ちゃんには、こちらに記載した検査を行って欲しい」
「それで、もし数値に異常がある場合は、ここに表示される作りになっているから、その場合は、速やかに僕に知らせる事」
「あと、これが最も重要なのだが」
「dYdXが目を覚ましたら、話し相手をしてやってほしい」
「患者のメンタルケア、一番大切な仕事だよ」
「頼めるかい?」

「うん!まかせて!」

「いい返事だ。任せたよ」

そして、今に至るのだが。
dYdXは、未だに目を覚まさない。
そんな彼女の検査を行っていく。
「コアと意識体の同期値、正常範囲内っと」
「経路のシグナルも乱れていないみたい」
「あとは、食事!でも、これは目を覚ましてからね!」

「ん、うん、うん?」

「おはよー」

「おはよ、う?」

「dYdXさん、はじめまして。わたしは、エブモス、エブ子っていいます」
「よろしくね」

「よろし、く?」

「まだ、意識がしっかりしてないみたいだね。これを飲んで」
そういって、エブモスはピースから受け取った薬を渡す。

「ありがとう」
そういって、薬を飲み、君地を落ち着かせるように暫くぼーっとした後、dYdXが話始めた。

「私、あの人にひどいことをしてしまったわ」
「自分の気持ちを伝えることができないから、薬に頼ったばっかりに」
「最初は、自分の気持ちが素直に言えることが気持ちよくて」
「いつもいつも、彼に言おうと思っていた言葉が、止めることなく溢れてきたの」
「でも、その結果が、獣化」
「本当は、こんな風に助けてもらう価値なんて私には無いのに」
そういって、泣き始めてしまったdYdX

「何があったかしらないけど」
「わたしは、それは違うと思うな」

「なんで?」
「だって、私があのとき薬を飲んで。自分の中の弱い心に負けていなければ、あの人は、傷つかなくてすんだもの」
「下手をしたら、私、あの人を手にかけていたかもしれないのに」

「それは、それよ」
「今、ピースは無事でしょ?」
「それに、あなたが獣化したときも、ピースはあなたを助けようとした。だから、その気持ちの方を大切にすればいいんじゃない?」

「ピースが私を助けようとした?」

「そうだよ!シークレットくんから聞いたけど、凄い動き回ったって聞いたんだから!」
「『dYdXに無関係の職員の命を奪わせない』奪うならこの僕のだけにしろって、崩れる庁舎内で職員さんを避難させていたんだから」

「ピースがそんなことを」
「私の為に」
ぽろぽろと涙を流すdYdX、彼女は、点滴の刺さった左腕を引きせるようにここにはいないピースを思い、自らの体を抱きしめた。

「だから、ね!今は、治すことだけ考えようよ」
「ピースの気持ちは、後で、ピースが来たら聞けばいいし」
「もし、不安だったら、私も一緒に聞いてあげる!」

「あなた、やさしいのね」
「親御さんによく言われない?」

「うん!Juno姉ぇにはよく、言われるよー」
「でも、アバランチ姉ぇには、くびつっこみすぎ!って怒られてる」

「ふぅ、ふふふ。それも、あなたの個性なのよ」
「私は、その個性に救われたかな。今」
「ありがとう、エブモスさん」

「エブ子ちゃんでいいよ」

「エブ子ちゃん、ありがとう」

「どういたしまして」
手を後ろに組みにっかりと笑顔を浮かべるエブモス
それを見て、dYdXはひまわりを思い浮かべた。

「ひまわりの様な子ね」

「どういう意味?」

「笑顔が素敵な子って意味よ」
「ピースには、私一人でお話ししてみるわ」
「少し怖いけど、でも、これは自分がやったことに対するけじめだから」
「って、あなたに押してもらったから決心がついたわ」
「だから、ありがとう」

「いいってことよ!」

「ふふ、調子に乗ってしまうのね」

「ええ、元気が取り柄のエブ子ちゃんですから!」

「ふぅ、おかげで少し調子が戻ってきたわ。お腹がすいちゃった。何か食べるものはあるかしら?」

「それならちょっと、待っててね。今、作るから!」
そう言って、エブモスは、部屋を出て台所へと向かっていった。
それを見送り、再び目を瞑り考えに耽るdYdX

(ふぅ、急がしい子。でも、嫌いじゃないわ。なんだか、悲しんでいるのが馬鹿らしくなっちゃった)
(あの人が繋いでくれた命、しっかりと受け止めなきゃ)
(ところで、コアはどうなったのかしら?現存するコアで私にあったものなんて)
(これは!?)
dYdXは、自分の内側に意識を向けコアの状態を把握する。
dPoS仕様に切り替えられた真っ白なコアが存在していた。
それは、コスモスの仕様のコア。
移植したてのそれは、まっさらな状態で彼女自身の能力もまっさらにしてしまった。
今は、彼女の命を繋ぐことしかしていない。
しかし
(これ、凄いわ。事実上の『転生』じゃない!)
(もし、ラノベ作家に見つかったら、死んで気が付いたら、dappsから意識体に転生しましたってタイトルになってしまうわ)
ピースが良く読んでいた本を貸してもらい読んでいた為か、妙な知識に詳しいdYdX
まだ、寝起きなのか、自らが思いついた珍妙な例えで納得してしまった。
だが、的は得ていた。
もともと、一つのチェーン上のdappsとしては取引量が多く、処理も追いつかなくなっていたdYdX
その特性上、自身の専用チェーンがあればよいことはわかっていた。
しかし、彼女はdappsとして生まれた身、その生まれを後から変えることは出来なかった。
仕方なく、自身を分割しStarkEXというイーサリアムの処理を巻き取るソリューションに繋げるゲートにすることで処理をさばいていたのだった。
それが、自身のチェーンを得たのだ。
これは、彼女にとって大きな意味を持っていた。

(大きなちからだわ)
(とはいえ、今のままでは何もできない)
(はやく元気になって、コア周りに機能を実装させて充実させていかなきゃ)
(みんなに迷惑をかけた分、とりもどすのよ!)

そう決意を胸にするdYdX

「うどんできたよー!!』
丁度、エブモスが元気よく食べ物を運んできた。

「ありがとう!」
dYdXも元気よく返事を返し、まずは体力を回復させることに集中するのだった。

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