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日常:シークレットバレンタイン-1
それは、学校からの帰り道で渡された。
ピンク色のフリルのリボンにラッピングされた小さなスカイブルー色の箱
「開けてみて」
「あーーー!これ、私が見たいなぁって言ってたやつじゃん!」
思い出される昼の会話
「これ見に行きたいんだけど、チケットもうないのー!」
シークレットのお弁当から卵焼きをひょいっと救い上げパクっと食べ愚痴るエブモス
「エブモス、それ僕の卵焼き」
「んんー!美味い!やっぱ、シークレットくんの卵焼きは美味しいね」
満面の笑みで返されて、シークレットとしては悪い気はしなかった。
「エブモスが気に入ってくれたなら、いいよ」
「で、さっきの話し。エブモスは、その映画がみたいんだよね」
「うん!すっごっく見たい」
「いつ頃見に行くつもりだったの?」
「えっと、今週の日曜日!その為に予定も開けてたの!でも、チケットを取れなくって」
「まさか、あんなに早くなくなるなんて思わなかった」
「なるほど」
「じゃあ、僕が用意しておこう。それで見に行こうか」
「シークレットくん、聞いてた?チケットなかったんだよ!ネット上も確認したけど、席も全部埋まってたし」
「まぁまぁ、何とかするから任せて」
「わかった!シークレットくんに任せる」
「おいおい、自分でいっておいてなんだけど。そんなにすぐに信用しちゃっていいのかい?」
「いいよ」
「だって、シークレットくんだったらどうにかしてくれるもの」
「もし、どうにかならなくたって、私はシークレットくんを信じたのだから、それでいいの」
「なるほどね、エブモスらしいね」
「信じられる人を全部信じて託す」
「そういう姿勢、僕は好きだよ」
「何も、誰だって信じるわけじゃないんだから。シークレットくんだから、、」
最後の方が尻すぼみになり聞こえないエブモス
そして、帰り際に渡されたのである。
約束のチケットを。
「ペアなら、譲り受けることができたから、これでいいかな?」
「えっ、嬉しいけど。どうしたの、これ?」
「それは」
「シークレットだよ」
「ちょっと、そのフレーズはズルいよ。シークレットくん!」
「でも、貰っちゃっていいの?」
「いいよ」
「だから、渡したんじゃないか」
「だだ、条件がある」
「条件?」
「僕とその映画を見に行くってところさ」
「ほら、それ、ペアだろ?」
「ほんとだ。でも、それって、デー」
とっさのことに、思考よりも言葉が出て、その意味を理解するやいなや、赤面するエブモス
シークレットからの告白があって、付き合うようになってから、二人で出かけるということを意識してしまう。
この前だって、付き合う前のつもりで二人アイスを食べに行ったのにふと見せる横顔に目が行ってしまったり、手をつないだ時に
中性的に見える癖にやっぱり男の子の手なんだって思えたときとか意識してしまい、何のアイスを食べたのかわからなかった程だ。
幼馴染から恋人なんて、そんなの熟年夫婦みたいなものなんだからと高を括っていたのにこのざまだ。
終始、ドキドキさせられっぱなし。
でも、理由は簡単だった。
シークレットがかっこよすぎたのだった。
見た目はもちろんなんだけど。
先回りして、さりげないところでエブモスにサプライズを仕込んでくるとか。
ときどき、強引なところもそう。
今回の件だって、そうだ。
でも、それはきっかけに過ぎなくて。
本当は、エブモス自身がずっと昔からシークレットのことが大好きだったことを改めて認識させられたからだった。
「そう、デートだよ」
「バレンタインデーだからね」
「えっ、それってホワイトデーじゃないの?ほら、そういうお返しって」
「ホワイトデーは、お返し。それとは別に僕があげたいんだよ」
「好きな人に思いを伝えるのがバレンタインデーじゃないか。だったら、僕からエブモスにあげてもいいよね」
別に男性から、女性にあげてはいけないって決まりはないはずだよ。と付け足して。
「すっすきな!」
「そうだよ。大好きなエブモスにバレンタインの贈り物」
「/////」
真っ赤になって頭から煙を吹く機関車エブ子となったエブモス
「でっでも、シークレットくんの好きな映画かはわからないよ!」
取り繕う様に、言い訳をするエブモス
「そういうことか」
「その心配ならいらないよ」
「僕もその映画について、興味があったからね」
「第一、エブモスが興味があるものに興味はあるだろ?」
「それにだ」
「もし仮に興味がなかったとしても、僕にとってはエブモスとともに特別な日を送れるというんだ」
「興味がないわけはないよ」
そういって、エブモスの額にキスをした。
「//// シークレットくん」
「じゃあ!今週末、楽しみにしているよ」
「待ち合わせは、そうだな。いつものところで」
そういって、シークレットは走り去っていった。
(勢いでやってしまったが、少し、いや、かなり恥ずかしい)
(エブモス、喜んでくれたかなぁ)
帰宅したシークレットは、自分がしたことを思い出しらしくなく壁に頭をぶつけたあと、机にうつ伏せになるようにふにゃーと溶けていた。
「どうしたのです?兄様?」
「どうもしないさ、シェード」
そいって、いつもの調子になりシェードの頭を撫でる。
「むぅ、兄様、何かごまかそうとしている」
「ごまかそうとはしていないさ」
「ただ、想像以上にだ。感情的になっているみたい」
「どうしたの?」
「いや、大丈夫だ」
「変な兄様」
「おーーーと!それはですね。きっと恋煩いですわよ!」
「乙女代表のわたくし、ソラナが感じ取りましたわ」
「うるさいよ。ソラナ」
「へー、兄様に恋の予感。いったい誰かしらね。場合によっては尋問しなけばいけないわね」
「兄様に変な虫がついたら困るもの」
「ナチュラルに危ないわね。あなた。やはりブラコンの気がかなり強かったようね」
「ええ!ブラコンで結構よ。たった一人の兄なのですから!」
「兄様のお嫁さんはこの私、そうでしょ?兄様」
すっと、目を細めて、シークレットにふーと息を吹きかけるシェード
「シェードちゃん!どこでそんな技覚えたの。お姉ちゃんはそんな子に育てた覚えはありませんよ!」
「だれがお姉ちゃんよ!オズモさんの癖でも移ったのかしら」
「癖?いえ、私が引き継いでいるのはオズモお姉様の全てよ」
「やっかいきわまる生き物だわ」
「あー、二人とも、仲がいいのは分かるが口喧嘩なら部屋の外でやってくれるかな」
「これから、僕は、宿題をしなくちゃいけないんだ」
「あぅ、兄様、ごめんなさい。つい、ヒートアップしてしまって」
「私も、ごめんね。勢いがついてしまったみたい」
(やけに今日は素直だな二人とも)
「「で、どなたが兄様/シークレットの思い人ですか?」」
(忘れてなかったか)
「『宿題』で誤魔化し切れると思わないことですわ」
ふーふー!とシークレットを引っ張るソラナ
まけじと反対側から引っ張るシェード
「ああ!もう!二人ともやめないか」
「シークレット/兄様が怒った」
「そりゃ、僕だって、静かにしてほしいときに騒がれたら怒るさ」
「で、誰を好きかだって」
「それは、シークレットだ」
「兄様!それはズルいですわ!」
「よくエブ子ちゃんからもズルいって言われませんか!」
「エっエブモスは、関係ないだろ」
(ぐっ)
(ふむふむ)
「決まりですわね」
そう、ソラナが言い放つ。
「あなたのお相手はエブ子ね!」
「こないだも、ひっそりとデートでアイスを食べに行ってましたわね」
「わたくし、僭越ながら、尾行させて頂きました」
「ストーカーだよ!それ。犯罪だよ」
「いえ、きっちりと妹様の了承を得ていたので問題はないかと」
「わたくしも、シェードちゃんにほだされまして。ええ、何かないかと見に行ったのですわ」
「で、本音は?」
そう言いながら、ソラナのオズモコレクションチェキに風のトランザクションを放とうと用意するシークレット
「まっまちなさい!それはわたくしのお宝コレクション。何てことしてくれやがるのですか」
「本当の理由を言ったら返してあげるよ」
「好奇心ですわ!!」
胸を張って、声を張り上げるソラナ
「まぁ、だと思ったよ」
「シェードは?」
「私は、兄様が心配で」
「うん」
「それに、兄様の将来のお嫁さんはこのシェード。例え、友とはいえエブ子にも譲るつもりはありません」
「もしかして、と思って覚悟していましたが」
「確認のために聞きました」
「私は、兄様。あなたを手に入れます!」
「いいですわ。シェードちゃん」
「恋のライバル出現ですわね」
「いえ、私は、今妹だから、一歩リードです!」
(妹だからリードってどんな原理だよ)
よこで聞かされていたシークレットの方が頭が痛くなる内容だった。
パンパンっと勢いのいい手を叩く音が聞こえる。
「オズモお姉様!」
「はぁーい。ソラナちゃん、ただいまー」
「シェードちゃんも、シークレットくんもお出かけの準備をしましょーう」
「?」
「今日は、いいレストランがとれたの。みんなでいきましょ」
「どうしたの?オズモさん」
「ふふ、いい感じに色々仕上がったからちょっとご褒美にね。ただ、自分にだけってのもよくないからみんなと一緒にと思ってね」
「ふーん」
「どうしたの、シークレットくん?」
「いや、オズモさんにも春の気配がしたんだなぁって」
「ごはっ!!」
「あー、また、クリティカルなこと言うから血を吐いてしまって」
そう言いながら、オズモの背中をさするノノ
「ノノちゃん、ありがとう。シークレットくんも春の予感がするわね」
「それは唐突ですよ。オズモさん」
「恋はいつだって唐突なんだから!」
「さぁ、シェードちゃんもソラナちゃんも準備が出来たみたいだし行きましょう!」
「「はーい」」
そうして、その夜はオズモさんのお疲れ会としてシークレット家は、みんなでレストランにいったのだった。
(結局、なんのお疲れ会だったのだろう?)
(ん?)
(あれは、ワイン。あの年代は、Junoさんの生まれた年)
エブモスに聞かされていた、Junoの誕生日を思い出したシークレット
それが、偶然、ワインの年代と同じだったのだ。
(なるほどね)
1人納得するシークレットなのであった。