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ACFA_NEVER FALLEN LIONHEART:EP8-3

EP8-3:イグナーツの布石

ローゼンタールが正式にオーメルと決裂を宣言し、ラインアークとの協力関係を築き始めたという報が広まり始めると、荒れ果てた地上はさらに動揺に揺れた。これまで企業連合(リーグ)の一角としてオーメルと併存していたローゼンタールが完全に独自の道を歩むとなれば、戦争の形勢は大きく変わる。
しかし、その動きこそがイグナーツ・ファーレンハイトの望む “完全管理戦争” を促進する可能性もあった。なぜなら、彼にとっては大義名分がさらに明確になるからだ――「裏切り者を粛清する」という大義だ。いずれにせよ、何もしなくても企業間の衝突が拡大し、イグナーツにとって都合のいい混乱が訪れる。

夜の闇が深まるなか、オーメルの広大な支配地域の一角。そこには半ば地下化した司令施設があり、緻密な電子機器と無数のモニターが並んでいた。ドアには「最高警戒区画」とだけ書かれ、許された者だけが立ち入れる厳重なセキュリティ下にある。
そこで、暗く長いテーブルを挟んでイグナーツ・ファーレンハイトと、その補佐を務める数名の開発者、そして軍事部門の将校らが顔をそろえていた。室内は蒼白い照明があちこちに灯り、やけに冷ややかな空気が漂っている。

イグナーツはすらりとした体躯を椅子に預け、目の前に投影されたホログラム地図をじっと見つめていた。そこにはローゼンタールの拠点とラインアークの推定配置が色分けされ、両者が水面下で手を結ぶ可能性が示唆されている。
彼の声は静かだが、内に秘めるものは徹底した合理性と冷酷さを感じさせる。

「……ローゼンタールが遂に独立を宣言したか。ふん、良いだろう。わたしはもともと“企業すら淘汰する”と考えていたのだから。この騒動を利用して、ネクスト不要論をさらに進められる」

将校の一人がたじろぐように姿勢を変えて、「しかしイグナーツ様、ローゼンタールは侮れません。貴族企業としての伝統もあり、独自のアームズ・フォートやネクストを保有しております。徹底的に潰すには大規模な兵力が必要かと……」と進言する。
イグナーツはその言葉を制するように手を上げる。かすかに唇が歪み、冷たい笑みを浮かべている。

「兵力は必要でしょう。だが、わたしの“完全管理”が完成しつつある今、個人の意思や才能など何の意味もない。アポカリプス・ナイトを中心に、AI統制されたドラゴンベインの群れを動かせば、一国の企業など容易く沈められる。……問題は、“お膳立て”をどう整えるかだ」

その声には、計算ずくの狡猾さが滲む。ローゼンタールを即座に総攻撃してもよいが、企業連合全体の反発を招きかねない。むしろ、まずは“正当性”をアピールしつつ、連合内の他企業が黙認または協力する構図を作り上げたいのだ。イグナーツにとって、すべての動きは合目的的に進めるべき戦術にすぎない。

「……ローゼンタールがラインアークとも連携を始めたという話があります」

別の部下が報告書を広げる。「ラインアークは独立勢力ではありますが、ホワイトグリントを象徴に相応の戦力を保持し、オーメルにたてつく恐れがあります。すでにローゼンタールの『リュミエール』計画も進んでいるとか……」

「なるほどな。ラインアークとローゼンタールが合流すれば、わたしの計画を脅かす存在になりうるというわけか。だが、それがどうした。わたしはすべてをAI管理下に収めるのが目的。ローゼンタールだろうがラインアークだろうが、“情に流された”連中は例外なく排除されるべきだ」

イグナーツの言葉はあまりにも冷淡だった。理想論を語るでもなく、ただ粛々と合理性を追及する姿は、周囲の将校にある種の恐れを抱かせる。それでも彼には揺るぎない自信があるのだ――ネクスト不要論とAI制御戦争の完成が近いと。

「では、どう動かれるおつもりですか。主力を一挙に動員すれば、他の企業から反発を買うリスクも大きい。イグナーツ様が目指す“完全管理”は、時間さえかければ確実に成就するはず……」

開発者の一人が遠慮がちに口を挟む。だがイグナーツは返す言葉をわずかに笑み混じりに放つ。

「時間をかけていれば、ローゼンタールがネクストを完成させ、ラインアークが動くだけ。わたしは怠慢を嫌う。敵を出し抜くなら、早いほうがいい。……そこで提案がある。『布石』を打ってやろう。わたしはクレイドルから再度“アポカリプス・ナイト”を送るわけではない。もっと静かに、だが確実に奴らを崩壊へ導く方法があるんだ」

部下たちが不思議そうに顔を見合わせる。イグナーツが穏やかな口調で言うときこそ、裏にあるのは恐ろしい策略だと知っているからだ。彼は指先でテーブルの小型キーボードを叩き、スクリーンに複数のファイルを並べる。

「――“フォートレス計画”……。ドラゴンベインの一部を、AIハッキングを利用して暴走させる。あえて暴走事故を演出するのだ。そしてその矛先を“裏切り者”であるローゼンタールへ向けてやる」

「暴走……? そんな大規模なリスクを……」

「構わないさ。人々には“ローゼンタールがリーグを裏切り、ドラゴンベインをハッキングした”とでも報じればいい。こちらの都合が悪ければ、情報を改竄してでも正当化する。AIはわたしの思うとおりに動いてくれるし、連合内の大半は“企業倫理”なんて気にしない。いかに数字を合わせるかだけが鍵だ」

ゾッとするような沈黙が室内を包む。無人のアームズ・フォート群をあえて制御不能に追い込み、ローゼンタールのせいにする――それは正気の沙汰ではないが、イグナーツの洗練された計算力は、それを可能にするプランをいとも簡単に描いている。

「……万が一、破壊が過度に広がれば、こちらもダメージを被るかもしれませんが……」

「多少の犠牲は甘受する。むしろ、わたしの理想に懐疑的な企業や民間人が消えてくれれば都合がいい。完全管理への障害はひとつでも少ないほうがいいからな」

この冷酷な言葉に、部下たちの背筋が凍る。イグナーツは自分の勝利だけでなく、世界を“統合”するビジョンを持っており、その過程で生じる犠牲にまったく頓着していない。
そして彼は続ける。

「――そして、次に“レオン・ヴァイスナー”を始末する。奴はAMS適性が高く、かつ技術者としても優秀だ。今度は確実に息の根を止める必要がある。さもなくば、ローゼンタールが奴を利用してネクストを完成させるかもしれん。それだけは阻止せねばならない」

話題がレオンに移ると、部下の何人かが書類を取り出し、その経歴やAMS適性データを読み上げる。かつて「孤高のリンクス」として名を馳せ、現在は自律進化AIのオフェリアと行動を共にし、ローゼンタールに庇護されているという。一度クレイドルに捕らえられたものの、オフェリアの介入で脱出したのはイグナーツにとって忌々しい失敗だった。

「……わたしのAIヴァルキュリアシステムさえ本格稼働すれば、奴のAMSなど問題にならないが、彼が“覚醒AI”と組むことで予測外の結果が生まれる可能性がある。リスクは潰しておくに限る」

その声のトーンはかすかに憤りを含んでいるようにも思えた。イグナーツの計画を狂わせた存在として、レオンとオフェリアは明確に“排除対象”となっているのだ。
部下の一人が慎重に口を開く。「イグナーツ様、具体的にはどのような手段でレオン・ヴァイスナーを狙いますか? ローゼンタール拠点は固く守られていると報告を受けており、正面からの攻撃では消耗が大きいかと……」

「だから“布石”を打つと言ったのだ。まずはドラゴンベインの暴走事件を起こし、世界にローゼンタールの悪評を広める。彼らを“テロリスト”扱いする下地を作るのが先決。世論を誘導して戦火を拡大すれば、ネクストがどれほど強かろうと、数で圧倒できる段階が来る」

まるでチェスの駒を動かすような口ぶりだ。部下たちは畏怖の念を抱きながら、それを受け止めるしかない。オーメルの他の幹部がこれを知れば一大事だが、すでにイグナーツは内部で強力な地盤を築いており、反対意見を封殺するのも容易なのだろう。
アポカリプス・ナイトはその切り札として控え、いつでも出撃可能な状態にある。次の一手としてAIハッキングを用いたドラゴンベイン暴走計画を進め、ローゼンタールを“裏切り者”として断罪する……。それこそがイグナーツの描いたシナリオだ。

「わたしはここから数日以内に“事件”を起こす。準備は急げ。企業連合の残りの企業も、わたし側に引き込みやすい環境を整える。余計な言葉は要らない、全て最適に配置しろ」

鋭い命令が飛び、将校や開発者が一斉に席を立って敬礼する。冷淡なイグナーツの姿は、もはや“企業の幹部”というより“専制者”に近い。彼の瞳には一切の感情がなく、ただ完璧な論理の支配を目指す意志があるだけだ。

「これで“孤高のリンクス”も“ローゼンタールの貴族”も、“AIと徒党を組む愚か者”も――まとめて葬れるだろう。……フフ、さあ、わたしの完全管理下にひれ伏してもらおうではないか」


一方、夜の地上では怪しげな動きが早速始まっていた。イグナーツの指令を受けた数名の特殊部隊が、無人のドラゴンベイン群を集結させる施設へと潜入し、AIハッキングの仕掛けを進めている。もともとアームズ・フォートには独自の制御プロトコルが組まれているが、イグナーツのために最新のヴァルキュリアシステムを中枢にインストールし、意図的に“エラー”を起こすプログラムを組み込んでいるのだ。
数十機のドラゴンベインが同時に暴走すれば、迎撃態勢の整わない地域はあっという間に破壊され、そこにローゼンタールの仕業という偽情報を流せば、人々の怒りや不信はローゼンタールに向く。イグナーツはその混乱を“鎮圧”する形でアポカリプス・ナイトを投入し、自らの正当性を内外に示す算段である。
深夜の施設で機械音を響かせながら、特殊部隊員たちは監視カメラやセンサーを掻い潜り、ドラゴンベインの指揮中枢に潜り込んでいく。大型のメインコンピュータへパネルを取り付け、そこからAIユニットを強引に書き換え、自動制御モジュールを“暴走状態”に近づける。

「……この書き換えが終われば、数日後には大規模エラーが発生し、ドラゴンベイン群がパラメータ異常を起こすはずだ。後はスイッチを入れるだけ……」

暗闇で点灯するキーライトに照らされ、隊員同士が小声で確認し合う。誰もが合理的な手順を淡々と実行しているが、その先に待つ惨状を思えば背筋が寒くなる思いだ。しかし命令に従うのが彼らの役目であり、イグナーツの計画に疑問を抱く余地はない。
こうして、オーメル内部ですでに“布石”が打たれていることを、ローゼンタールもラインアークもまだ把握していない。イグナーツの冷酷な筋書きは、着々と形を整えていくのだ。


その翌朝、ローゼンタールの前線拠点では、カトリーヌが忙しく連絡網を確認し、レオンとオフェリアも工廠で作業を続けながら合間に「新しい動きがないか」耳をそばだてていた。ラインアークからは定期的に「異常なし」との報告が入っているが、イグナーツが静かなのは逆に不気味だ。
レオンは試作ネクスト“リュミエール”のコア部分を眺め、「あいつは何か手を打つだろうな……。ただ待っていてもいいのか? こっちから仕掛ける手はないのか?」と気が急く。オフェリアは静かに肩に手を置き、「あまり焦らないで」と声をかける。

「焦って無理に突っ込めば、イグナーツの罠に嵌る可能性が高いわ。あちらは巨大な戦力を持っているし、企業の権力基盤も掌握している。むしろ、ラインアークとの連携を強化し、わたしたちの備えを万全にして待つのが得策ね」

「うーん……分かってる。俺も、いま突っ込んだら返り討ちに遭うことぐらい分かる。ネクストが完成すれば、話は変わってくるのかな」

レオンは大きく息をつき、コア周りの部品を手に取って眺める。自分にとって再び操縦桿を握る日は近いが、その先に何が待っているのかは誰にもわからない。やり場のない不安と闘う日々が続いている。
すると、施設の通信端末が急に警告音を鳴らし、兵士があわただしく駆け込んできた。「大変です! オーメル所属のドラゴンベインが、地上の都市を蹂躙しているとの報告が――詳細はまだ不明ですが、ローゼンタールがハッキングを仕掛けたとの情報が飛び交っていて……!」

兵士の言葉に周囲は騒然となる。まさにイグナーツが計画していた“暴走”が起きたのだろう。しかも、それが“ローゼンタールの仕業”と偽装されているという噂があっという間に拡散しているらしい。
レオンは眉をひそめ、オフェリアも険しい表情で応じる。「まさか、本当にこんな形で来るなんて……わたしたちは無関係だと証明しないと。けれど、イグナーツが情報操作している可能性が高いわね」

「くそっ……奴らが布石を打ちやがったか。ラインアークや他の企業がどう反応するか分からないぞ。まさに“ローゼンタールが裏切り者”というシナリオじゃないか」

胸を不安にかきむしる思いで、レオンは兵士たちの報告を待つ。オーメルはドラゴンベインの暴走を“ローゼンタールによるテロ”と糾弾し、リーグ全体にその情報を流し始めたという。一部の企業はこれを鵜呑みにしてローゼンタールへの非難声明を出す可能性がある。
そして、混乱に乗じてイグナーツがさらなる軍事行動を起こす流れが目前に迫っている。

「……カトリーヌに報せないと。すぐに対応策を講じるんだ」

オフェリアが耳元で強く言う。レオンは頷き、急ぎ走り出す。施設奥の司令室には、すでにカトリーヌと幹部たちが集結しているだろう。この非常事態に、ローゼンタールがどう切り返すのか――勝負の時だ。
道すがら、彼の脳裏にイグナーツの嘲笑が浮かんだ。AI戦術の前で、情報操作まで手玉に取って戦局を有利に進めるその冷酷さ。しかしレオンは拳を握り、足を止めない。仮に相手がどんな策を張り巡らそうと、家族や仲間を守るため戦うと決めた以上、もはや迷う必要はない。

走る先から声が聞こえる。カトリーヌの怒声が司令室に響き、幹部がそれに応じながら「ここで大々的に弁明しても疑いを晴らすのは容易ではない。ラインアークはまだ協力を表明してくれているが、他の企業にどう説明するか……」と動揺を見せているようだ。
レオンは息を切らせながらドアを開け、室内へ飛び込む。そこには予想どおりカトリーヌ、そして数名の幹部が大きなスクリーンを前に立ち尽くしている。スクリーンに映るのは破壊された都市の映像。崩れ落ちるビルと、無数のドラゴンベインが放つ光条の雨。街が一瞬にして炎の海と化すシーンだ。
まるで悪夢を映しているように凄惨な光景だが、右下のテロップには“ローゼンタールによるハッキング”というテロを示唆する声明が流れている。さらにオーメル高官の映像が挿入され、「裏切り者を容赦なく処断すべきだ」と激昂した様子を示していた。

「こんな馬鹿な……! わたしたちにそんな時間も余力もあるはずないのに……!」

カトリーヌが叫ぶ。周囲の貴族たちも拳を固め、一様に憤りを露わにする。明らかに捏造された情報なのは分かっていても、世間がすべてを信じてしまえばローゼンタールは世界の敵となり得る。これこそイグナーツの狙い――混乱と憎悪の拡散だ。
レオンが詰め寄り、「カトリーヌ、どう動く? このままじゃ、俺たちも戦端を開くしかない」と問いかける。カトリーヌは唇を噛み、目を伏せる。

「ええ……反撃を始めるしかない。わたしたちローゼンタールは無実を証明するためにも、ドラゴンベインの暴走を鎮圧しなくてはならない。でも、オーメルが裏でさらに罠を仕掛けてくる可能性もあるわ。ラインアークにも助力を要請するわよ」

オフェリアが低く唸る。「イグナーツの手のひらで踊らされてるに等しいわね。でも、座していては滅ぼされるだけ……。わたしたちがドラゴンベインを止めて、“ローゼンタールがテロ行為をするはずがない”と示せれば、一矢報いるかもしれない」

カトリーヌは即座に部下たちへ指示を飛ばし、緊急出撃態勢を整えるよう命じる。「ローゼンタールのアームズ・フォート部隊の一部を編成し、ネクストも随行させなさい。リュミエールはまだ完成しないけれど、間に合うならレオンにも準備してもらう」

「分かりました、カトリーヌ様!」

幹部たちが散り、全軍に警報を発する。すぐに拠点内は赤い警告灯が回り出し、滑走路や格納庫が戦争のために動き始める。イグナーツの布石によってローゼンタールは激昂し、防衛と反撃を強いられるのだ。
レオンはオフェリアと視線を交わし合う。彼らに残された時間は短い。アポカリプス・ナイトと戦う以前に、暴走したドラゴンベインの猛威にさらされる恐れがある。その状況を打破するには、こちらも総力を結集するしかない。
カトリーヌは深く息をつき、レオンへ面を向ける。その瞳にあるのは憤りと使命感。かつての夫婦という枠を超え、今は同じ戦線に立つ仲間として、彼女は言葉を放った。

「レオン、わたしはあなたにあまり無茶をさせたくないけれど、状況が逼迫してるわ。リュミエールが完成するまで、アームズ・フォートの補助が必要になるかもしれない。あなたの技術力や指揮、そしてオフェリアのAI制御があれば、ドラゴンベインの一部を切り崩せる可能性がある」

「やるしかないんだろ? 分かった……。できることをやるさ。お前に“利用”されるって言葉、もう慣れたからな」

カトリーヌはかすかに口元を緩め、しかしすぐ真剣な面持ちに戻る。「ありがとう。ローゼンタールは本当にあなたを必要としてるわ。エリカがいてくれたらもっといいのに……」

エリカ・ヴァイスナーはまだ別の場所でオーメル内部の反対派を取りまとめ、イグナーツの暴走を内部から食い止めるよう動いているらしい。それでも時間はかかりそうだ。いまはローゼンタール単独でイグナーツの仕掛けた“テロ騒動”を覆すしかない。


こうしてイグナーツの布石が、決裂したばかりのローゼンタールを一気に危機へと追い込みつつあった。暴走するドラゴンベインの群れが無実の街を蹂躙し、世界にローゼンタールの悪名を広める。その陰でイグナーツはアポカリプス・ナイトをさらに完成度の高い形へ調整し、最終的な制圧の時を待っている――。

「オフェリア、行こう。ドッグへ急ぐんだ。奴らの“仕込み”が来る前に、こっちも手を打つ」

「ええ、分かってる。あなたの技術とわたしの覚醒で、必ず止めてみせる」

暗い拠点内を駆け出す二人の背中には、焦燥と責任が重く圧し掛かる。カトリーヌを始めとする多くの人々がローゼンタールに命運を預け、ラインアークも様子を窺っている。すべては“人間の意志を捨てない”ための戦いだ。もしここで大敗北を喫すれば、イグナーツの時代が到来するだけでなく、家族ともども絶望に沈む。
イグナーツの布石――暴走したアームズ・フォートと捏造された情報――に対して、どんな反撃ができるのか。レオンたちの運命は、その数日後に訪れる大嵐のなかで決まることになる。彼らはまだ、その衝撃を完全には理解できていない。それでも、引き下がる道は選ばない。孤高ではなく、仲間と家族を背負って前へ進む決意を抱き、夜の廊下を駆け抜けるのだった。

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