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読解力をつける(8) 14歳からの読解力教室

「生きる力を身につける 14歳からの読解力教室」(犬塚美輪 笠間書院2020年4月)を読んだ。
 14歳だから中学生向け,と考えるとわかりやすく書かれているが,内容は高度だ。「読解力」についての認知心理学からのアプローチといえるだろう。

 まず,本の概略を知るために,目次に添ってポイントを示しておこう。章のタイトルが疑問形になっているので,それに対応した形にしておく。

I 「読む」とはどういうことか
 第1章 読解力は必要か

     説明文と物語文では文の特徴が異なり,読み方も違うものになる。
     よりよく「生きていく」ためには,説明文ジャンルの読解力がある
     方がよい。
 第2章 なんで「読めないの」
     読み方には,細かい情報を積み上げていく「ボトムアップ」と,
     全体の枠組みから入る「トップダウン」がある。トップダウンが
     できないと理解が難しくなる。
 第3章 暗記と理解はどう違う?
     記憶には「短期記憶」と「長期記憶」があり,長期記憶は
     ネットワークになっている。語彙のネットワークが読解力につながる。
 第4章 忘れてしまうのはなぜ?
     忘却曲線の話。
II 読解力を高めよう
 第5章 読解力向上のためには「たくさん読む」しかないの?

     OECD(PISA)の調査では「読書への熱中度」と読解力に相関が
     あることを示している。
     読んでわかるためには読むための「方略」が必要だ。詳細は後述。
 第6章 マンガはやっぱりダメですか?
     マンガは題材を「物語化」「視覚化」することによって,
     トップダウンの読み方に好影響を与える。
 第7章 図とかイラストを増やしてほしい?
     文章が「連続テキスト」であるのに対し,図は「非連続テキスト」
     である。図は情報を把握しやすいなどの利点があるが,
     図を理解するのに必要な知識がないといけない。
 第8章 読解力はひとりで鍛えるモノ?
     自分の知的行活動をいちだん上から把握する「メタ認知」が
     読解力向上に役立つ。
III 「読む」だけが読解じゃない
 第9章 書いてあることは本当?
     読むためには「批判的読解」ができるようにしたい。
     そのための方略がある。(後述)
 第10章 先入観はなくせる?
     先入観が理解に影響する。ステレオタイプなスキーマ
    (既存の知識)に要注意。
 第11章 主観は排して読まねばならない!?
     読解の基本は客観的・分析的に読むことだが,主観や直感も
     ヒントになる。
 第12章 結局のところ読解力ってなあに?
     「読解力」の捉え方としてPISAの読解力調査に言及。

 以上,内容を見ていくと,この本での読解力の捉え方が「認知心理学」や「教育心理学」に立脚していることがわかる。文の特徴によって読み方が変わること,「トップダウン」と「ボトムアップ」,記憶のメカニズムと「語彙と読解力の関係」,「メタ認知」。これらは,国語教育や読書教育の観点から書かれた本にはあまりない内容だ。今までに紹介した本では「国語教育とは(5)」で取り上げた,「わかったつもり 読解力がつかない本当の理由 西林克彦 (光文社新書:2005)」がこの系統の本である。ほかに,「「読み」の整理学:外山滋比古 ちくま文庫」がある。これについては別稿で言及する。

 さて,上で 後述 と書いたところについて,少し詳しく見てみよう。

まず,「第5章 読解力向上のためには「たくさん読む」しかないの?」の,「方略」について

 心理学では,意図的にやることや考えることを「方略(Strategy)」と呼んでいる。読むための「方略」については,読書指導の本や実践報告書などに書かれている。たとえば,パリンサーとブラウンの研究では,「要約」「質問」「明確化」「予測」の4つの方略によって読解力が向上したとしている。本書ではこれ以外にも方略があるとして,次の6つを示している。

基本的な読み方コントロール
明確化
要点把握
理解チェック
構造注目
知識の活用

 これについては,セタロさんの「読むための方略を整理しよう」で,この本と「「読む力」はこうしてつける」(吉田新一郎 新評論 2017 : 読解力をつける(3) で紹介した本の改訂版)を対応させて,「方略」を整理している。一読されるとよいだろう。

では,その方略をどう使うか。本書には次の記述がある。

 学校での方略の練習という点についてもう一つ言うと,国語以外の授業の時間に方略を使って読むという機会があまりないということも本当は問題なんです。方略をきちんと身につけるためには,「本当に意味がある場面」での練習が大事だからです。

 これは,国語以外の教師が知っておくべきことだろう。「国語で読み方は習っているのだから教科書くらいは読めるだろう」という思い込みはないだろうか。生徒が教科書をちゃんと読めているかどうかをチェックする必要があるだろう。

次に,「 第9章 書いてあることは本当?」の「批判的読解」について。
「批判的読解」は「クリティカル・リーディング」として,読解力に関する本ではよく出てくる。
本書では,「批判的読解」の方略として,次の4つを挙げている。

言葉の使われ方に気をつける。
省略や論理に飛躍はないか
複数の情報源を比べる
テキストに書かれていない知識との矛盾点はないかを考える

これらは,国語教育でなされている「要約」作業ではあまり着目されないだろう。小説で登場人物の心情を考えるのとも違う。論説文の読解には使われているだろうが,テスト問題ではほとんど要請されていないのではないだろうか。
この点を見ても,「国語で読み方は習っている」という考えは改めた方がよさそうである。

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今までの流れは「読解力を追って」にまとめてあります。