追いかけっこ
時計の針は重なり また別々になって追いかけっこを始めた。
今夜は甘えられないので朝までお酒を飲むつもりも無いし、カーテンの隙間から光が入ってきたら、丁寧に右と左の布を合わせて明るい世界から遮断してくれる人もいない。禰豆子。と呟く君の隣には、禰豆子には到底似ても似つかない私がいた事を思い出して目を閉じる。
君の半袖から出ている、腕の温もりを感じたいが為に、私は半袖を着ていた。いつもは長袖の袖を指先まで通して布団にくるまって寝るくせに。無意識に右を向いて、腕に絡みつく。寝れないよね、ごめんね。と君に声を掛けると、女の人って抱き枕とか好きだよね。という言葉が帰ってきた。すぐに夢の中に入ってしまうなんて、名残惜しいと思っている私とは裏腹に、君はすぐに寝てしまう。おやすみなさい。寝ぼけてるフリをして私は足を絡ませた。
いつもは感じない自分の体温の高さが愛しくて 目なんて覚めなければいいのにと思う反面、君の楽しい話が聞きたくて早く目が覚めてしまえばいいのにという気持ちが、寝ている君の横で戦っていた。さっき、好きなあの人しか見てないなんて、咄嗟に出た嘘があった。そんな事なんてある訳ないのに。
今日、1人の私は静かに目を閉じて、大きく息を吸う。女の人って抱き枕、好きだよね。と言った言葉が過り、ふと君の使っていた枕を抱きしめて寝ることにした。おやすみなさい。時計の針と同じ、追いかけっこ。