謎のブローカー、不審なエリート、怪しい商材屋…父と3人の“やばい人”たち
ここ3回ほど、星読みの練習をしてみて、意外なことに気づいた。
わたしは人の「お悩み」を聞くのが好きらしいぞ。
特に、すぐに答えが出ないような、アイデンティティやあり方に関わるテーマが好みだ。
自分自身がこういった領域に葛藤や苦手意識があった(今もある)からだろう。
さらに、お悩みを聞いて相手に共感することで、相手の思考や感情に自分が飲み込まれる不安があったのだけど、案外と耐性があるみたいだ。
これを適性と呼ぶのかは、まだ分からない。
ただ、この「お悩み聞く耐性」って、父の影響があるなあと思った。
父は87才、ぽわぽわとしたおじいちゃんだ。
80才で現役を退くまで、色々な人を家に招き入れては、トラブルや悩み事の相談に乗っていた。
親戚のおばさん、来日したてで日本語が不自由な外国人留学生、さらにはチンピラ風の人物まで、家に来る人々の人種や国籍、年齢、職業はバラバラだった。
私の記憶では、1年に一度はそんな訪問者がいたように思う。
9割がたはいい人なんだけど、トンデモない人もいて……。
その中でも特に「やばい」と感じた人物が3人いる。
やばい人1「N」
Nは、ブローカーっぽいことを生業としている人だった。
色白でオールバック、見た目は若い頃のビートたけしに似ていた。
Nの登場は私が小学校の中学年頃だったので、Nと父がどんな話をしていたのかはよくわからない。
ただ、強烈に「この人、こわそうな人だなあ」という印象だけが残っている。
なぜ父が彼の相談に乗っていたのか、今でも謎だ。
やばい人2「M」
Mは、父の知人の紹介で我が家に上がり込むようになった。
K應G塾の幼稚舎から大学まで進み、M井物産に勤務しているそうな。
小林よしのりの『おぼっちゃまくん』を腹話術の人形になったような風貌。
Mの話は、「ボクの友達はエリート」という話題が中心だった。
しばらくして、その知人と彼との間にすったもんだが起きたらしい。
その知人がMの素性を興信所を使って調べたところ、名前も学歴も職場も全くのデタラメだったことが判明。
当時、わたしは高校3年。
大学受験を控え神経を尖らせていた時期なのに、父はお構い無しで客人をもてなす。
「ホハホハホハホハ!」というMの高い笑い声が、家中に響き渡っていた。
やばい人3「A」
Aは、戦国時代よりも前から続く旧家の出身だと匂わせていた。
バーコードヘアに黒縁メガネが特徴で、お堅そうな印象。
彼が持ち込んだのは、エコな洗濯洗剤やサプリメントを販売するビジネスへの投資話だ。
ふだん洗濯なんて母に丸投げ、病気になっても医者にかからないくらい健康に無頓着な父が、洗濯洗剤やサプリを人にオススメできるほどの知識も熱意もあるわけないじゃん!
ぜったいに怪しい!
と、母も子どもたちも注意したけれど、父は聞く耳を持たず……。
結果、我が家には謎の洗剤(そこそこの量)だけが残り、Aとの連絡は途絶えた。
しばらくしてからよくわからない会社から我が家にA宛ての電話が頻繁にかかってくるように。
その電話は10年近く続いた。
家族はつらいよ(笑)
この「やばい3人」に共通していたのは、皆、父の
・「NO」と言えない
・サービス精神旺盛で、お人好し
・自分がリスクに賭けることを「かっこいい」と感じている
という性格を瞬時に見抜き、言葉巧みに話を進めるスキルが高かったという点だ。
もちろん、父が彼らと付き合う理由も少しは理解できる。
父は人を疑うことを好まなかったし、「もしかしたら本当に良い話かもしれない」と期待していたのだろう。
だが現実は……。
一家離散しなかったのは、運が良かったとしかいいようがない。
母はよく、「そんなインチキにお金を使うくらいなら、このボロ家をどうにかしてくれ!」と嘆いていた。
聞こえないふりをする父。
どこにでもあるような家族の風景
「やばい3人」の置き土産
いま思えば、父はその独特な人付き合いの中で、父なりに自分の価値観や生き方を貫いていたのだろう。
もちろん、彼の選択が家族にとって必ずしも良い結果をもたらすことばかりではなかったのだけど……。
ただ、あの経験が「人の悩みを聞くことの面白さ」の土台になっていることは間違いない。
答えのない問題への興味や、人間の業の深さを覗くことができたのは、まさにあの「やばい3人」や父のおかげだなあ。
回り回って、「ありがとう」ということにしよう。
あの人たち、生きているかなあ?