「救急車体験記」#4
2018.6.25
続いてホテルに電話。
今晩一泊の予定だったんですが、ちょっと怪我をして病院におりまして。到着時間が少し遅れます。申し訳ありません。
電話に出てくれたスタッフさんは心底心配そうに言ってくれた。
「お大事になさってください。当ホテルはご連絡を頂けました場合にはお客様をいつでもお待ちしております」
多分そう言ってくれたと思うのだけれど、先ほどの事務方をしてくれた男性が部屋に戻ってきて「ダッシュで!」というので、話半分で聞いてしまった。
慌てて電話を切りながら病院の外へ誘導される。
男性は電車の時間をわざわざ調べてくれていたのだった。感謝。あと10分。
向こうの方にある歩道橋の階段を指差しながら、
「あの歩道橋をあがってずーっとまっすぐ行ったら駅やからね」
と教えてくれた。何度も礼を告げて病院を後にした。
階段に向かうと、すぐ駅直結のホテルが見えた。
こんな駅近に病院があったのか。なんならさっきのお店より駅に近い。
徒歩圏内を救急車で移動したのか。もしかして歩けたんじゃないのか。改めて申し訳ない。
梅田で下車し、ホテルでチェックイン。
左手の包帯のせいか、フロントの方に「書けますか?」と少し驚かれながら聞かれた。
あ、はい、大丈夫です。今日は少し広めのお部屋をご用意しました。あ、本当ですか、ありがとうございます。
コンビニで朝ごはんを調達してから部屋に入る。
前回のツインと違い、すこぶるコンパクトな部屋にベッドを2つ入れた部屋だった。
まずシャワーを浴びよう。
お風呂は入ってもいいって言ってたしな。でも濡れないようにしないとな。
先ほどのコンビニの袋を左手にかぶせ、髪をくくっていたゴムで止める。よし完了。
鏡を見たとき、左手首の裏側に血がこびりついているのに気づいた。
だからさっきのフロントの人がちょっと怯えていたのか。
血を拭き取っていざ、と考えると、顔が右手でしか洗えない。不自由だ。
基本的に、左利き。
鉛筆とお箸は直されたから右。
右手で櫛を持つと、左側の髪が櫛で梳かしづらい。ただでさえ乾燥ぎみの髪の毛はよりひっかかる。
当たり前だが、右手が右手で洗えない。
仕方なく浴用タオルをコンビニ袋カバーの左手で押さえるようにして、しゃこしゃこと擦る。
歯ブラシが右手で使えない。全然磨けない。
我ながらなんと不器用なことか。
これほどまでに、持ち方と力の入れ加減を自由自在に操って行う日常生活は他にはないと思う。
「両方の手を使うと脳の活性化に良い」と思われる方は、ぜひ歯磨きに挑戦してほしい。
間違いなく数秒でフラストレーションがたまる。歯ぐきにブラシが刺さりまくる。
ペットボトルのフタが開けられない。右手の握力も平均同年代女性より断然あるはずなのに、力の入れ方が分からない。
結局、左手の手の平と3本の指を使って開けた。
スマホの指紋認証ができない。これは仕方ない。
ん?治った後も認証してくれるのか?
指紋が変わってるんじゃないだろうか。
小さなことができない不自由さを感じつつ、就寝。
続く。