「救急車体験記」番外編 〜抜糸〜
2018.6.30
一週間が経過し、木曜の朝。
患部のガーゼを剥がすべきか剥がさざるべきか、結局そのままで一週間水に濡らさないように守り続けた親指の抜糸の日。
お風呂の時にサランラップを巻く手つきもずいぶん慣れた。でももう終わりだ。
最寄駅から歩道橋を渡って病院を見上げると、思いのほか大きかった。
2階の入口らしきところから中に入ると、広々としたロビーが広がっていた。こんなに大きな病院だったのか。
9時前なのに、患者さんも老若男女結構いる。
「次に来るときは2階の受付に来てください」と言われたものの、2階が広すぎて一瞬焦った。
ここかと思って質問すると、2番へ行ってくださいという。
2番へ行くと「番号札を取ってお待ちください」という貼り紙がしてある。
番号札はどれですかと聞くと、座ってお待ちくださいという。
広すぎる病院はどうも落ち着かない。
初診受付らしき椅子の後ろに、次の人が並んで立っている。
あれに並ばないといけないのかな、と思っていると、さっきの人が「お待たせしました」といって受付してくれた。
3階。
半透明のこじゃれた階段を上ると、指定された受付はさらに奥にある。広い。広いぞこの病院。
夜に救急車で来たときは全然分からなかった。
受付で用紙を渡し、椅子で待機。
液晶テレビに待ち時間が掲示される。5人待ちか。
9:10の受付を予約してくれたけれど、お医者さんは「8:50くらいからいるようにします」と言っていた。どうも患者はそれよりも早く待機しているらしい。
しかし、2人目に呼ばれた。
館内アナウンスで名前を呼ばれ、正面のスライドドアを開ける。
「おはようございます」
前回と少し見違えて、髪もまとめてこざっぱりしたお医者さんがいた。
やっぱり前回は当直で寝ていたところだったらしい。本当にごめんなさいでした。
「今日は抜糸ですねー」
包帯をはずし、いよいよガーゼを取る。
お医者さんが割と軽い感じで引っ張ろうとする。
「ちょっと引っかかるかもしれません」
スポッ
割と簡単に取れた。
ガーゼが切れた皮膚に貼りついているのかと思ったらそうでもなかった。
一週間ぶりに見る自分の親指は、血で汚れつつも傷口がしっかりとくっついていた。
こびりついた血の中に、小さな黒い結び目が二つ。
「うん、大丈夫ですね」
はさみを使って取ろうとしたが、血があちこちで固まっている。
「先にちょっと洗いましょうか」
部屋の窓際へ誘導され、そこにあった水道で洗う。
看護師さんが隣で「石鹸つけてゴシゴシと洗ってください」と言う。
石鹸で?
ゴシゴシと?
昨日まで水に濡れないよう徹底してガードしていた指を、今朝は石鹸でゴシゴシこすると言う。
くっついた皮膚をもしかして自分でめくってしまうのでは、という恐怖から、どうしても強くこすれない。
患部に関係ないところの血の跡は強くこすった。
それぐらいこすらないと落ちなかった。勉強になった。
再び先生のところに戻る。
パチン。パチン。抜糸終了。
「治ってますねー。とりあえず今回で終わりにしておくので、何かあったらまた来てください」
「え、これでもう大丈夫なんですか」
看護師さんが横から大きな絆創膏みたいなものを貼ってくれながら言う。
「一応貼ってますけど、夜には取ってもらって良いです」
「え、そんなレベルでもう大丈夫なんですか」
昨日との落差が激しい。いや、治るならそれで良い。
何度もお礼を言って診察室を後にし、窓口で精算。
明細を見ると「夜間休日救急搬送医学管理料」という点数がある。
ええ、払います。その節はごめんなさい。むしろ人件費を考えたら安いくらいだ。
会社では「指が小さくなった」と言われたが、傷口はその後も順調に回復している。